「…、任務か?」
「ああリーバー。西ドイツまでちょっとね…明日の夜には戻る」
「そうか……」

イノセンスに選ばれた、神の使徒。オレが惚れた女はそんな肩書きを持つ女だった。科学班班長という地位にいて、あのバカ室長の所為で毎日徹夜、休みなんてもちろんない。そんなオレがどうしてと付き合う事になったのかと聞かれればはっきりとしたきっかけがあった訳じゃない。ただ、気付いたら傍にいて愛しいと思う様になってた。それだけだ。はとても優秀なエクソシストだから、教団にいる時間よりも任務で世界中を飛び回っている事の方が多い。だからオレらは滅多に顔をあわせる事はない。…ただ、任務先からはいつもオレに連絡を寄越してくれるからオレはそれに救われていた。

「心配しなくても、私は死なないさ」
「…、」
「そんな顔をするな。リーバーが笑っていてくれないと私も安心して任務へ向かえないだろう?」
「…悪い…そう、だよな」

の手は剣士として剣を振るう姿なんて想像も出来ないくらい細くて綺麗だった。オレはエクソシストじゃないから、の戦場での姿は知らない。のイノセンスが淡い蒼を帯びた銀色の大剣だという事と、元帥達に勝るとも劣らない程の戦闘能力があるという事くらいしか知らなかった。探索部隊やエクソシスト達が女神と崇めるその姿を、オレは一度としてこの目で見た事はなかった。

「なぁリーバー」
「…なんだ?」
「私は、お前がいるから此処に帰って来れるんだよ」
「……?」
「リーバーが、此処で私を待っていてくれるから。だから私は此処に帰ってこれるんだ」

はいつもそう言って任務へ出て行った。オレがが此処に帰って来る為の標だと、はいつもそう言って笑うから、オレは此処での帰りを待たなくてはいけないんだと思った。オレがいる事でが此処へ帰ってきてくれるなら、オレはいつまでだって彼女を待つだろう。自分でも溺れていると思うくらい、オレはが好きで知らず知らずの内に依存していたんだ。



「………、」

オレはが此処に帰ってくる為の標じゃなかったのか。今オレの目の前にある黒い棺は何なんだ?の名前が刻まれたそれは空っぽで、のイノセンスすら此処には無くて、ただ主のない棺が無機質に並ぶ中にの名前があって、それはつまりが戦場で殉職したっていう最悪の事実を示していた。

「…オレは…標じゃなかったのか…っ?」

問いかけたって答えは返ってきやしない。はもう、此処にはいないのだ。ただ目の前にあるの名が刻まれた棺だけが非現実的で、まさかあのが殉職するなんてありえないとオレは何処かで高をくくっていたのかもしれない。女神と謳われ、次期元帥と噂されていた彼女がまさか戦闘で命を落すなんてありえないだろうと。はいつもいつも、オレがいるから帰って来れるんだと言っていた。だからきっと今回も、は笑ってオレの隣に帰ってくるんだと、そう、思ってた。こんな結末、誰も望んでやしなかった。

「………っ」

どれだけ呼んだってがもう帰って来ない事なんて判ってる。棺になって帰って来るって事は、戦場で誰かがの殉職を確認したって事。せめて楽に逝けただろうか。きれいなままの姿で、神の許へと帰れただろうか。ただ、はもう帰ってこないんだという現実はオレには痛すぎた。

「…言いたい事、あったんだぞ…」

任務を終えてが帰ってきたら。また、あの綺麗な笑顔でオレにただいまって言ってくれたら。オレはにプロポーズするつもりでいたんだ。渡すタイミングが掴めなくて、オレのポケットにはもう何週間も指輪が入ったままで、は変わらず世界を飛び回ってる中戦争だけが激しさを増して行った。そんな状況の中にいるからこそ、との関係をはっきりとした形にしたかった。もしオレが指輪を手渡したら、きっとはオレらしくないと笑うだろう。いつ命を落すかも判らないこんな状況じゃ、エクソシストであるには重荷になるだろう。それでもオレはが好きで、ただ待つしか出来ない自分が無力で仕方が無かったから、それならせめて、せめてと一生一緒に歩いて行けるっていう安心が欲しかったんだ。

「……なぁ、。」

きっと君以上の女性になんて出会えないだろうから。

「…もう、遅いけど」

神の許へ還ってしまった後だけど。

「…オレの嫁さんに、なってくれ」

オレはこの先、君だけを愛すると誓うから。だからせめて、せめてオレのこの想いだけは受け取って。どんだけ忙しくても、墓標に花を絶やす事はしないから。君が好きだったシオンの花に囲まれて、いつまでも安らかに眠れる様に。……それが残されたオレに出来る、精一杯の愛し方。










(どれだけ時が経っても、オレだけは)













ゆきの様よりリクエストいただきました!
リーバー班長お相手の切なく甘い夢、という事だったんですが……何故か悲恋に…すいません;
悲恋系がお好きだと書いてあったのでつい…!
へ、返品はいつでも承りますので宜しければ貰ってやって下さいませ!(逃
リクエスト有難う御座いましたー!