ああ、長かった。長かったさ、この1ヶ月。最初は1週間の予定だったのがアクマの妨害だの何だので伸びに伸びて1ヶ月、オレは愛してやまない可愛い可愛いの声すら聞けずに過ごした訳で。付き合いだして2ヶ月、ラブラブしたい盛りの時期にこの仕打ちは正直酷いと思ったさ。に電話しようとすりゃジジィが邪魔するし。…そんなこんなで1ヶ月。オレは正直悶々とした気持ちで任務を終えて教団への帰路についてる訳なんさ。この水路を抜ければに会える。会ったらまず抱き締めて1ヶ月分の愛をにあげるんさ。

「………ああもうすぐ会えるさ…!長かった、長かった…!」
「やかましい。少しは黙らんか」
「うっさいさジジィ!オレがどんだけ寂しかったか!」
「…嬢も災難じゃの」
「災難とか言うなさ!」

あぁ、もうじれったい。オレは今すぐにでもを抱き締めたいんさ。それなのにこの船と来たらさっきからちんたらちんたら水路を進んでる訳で、ねぇこれ何て焦らしプレイ?ってな心境。いても立ってもいられずにオレは槌を構えて発動した。だって早く会いたいんさ!

「ジジィ、オレ先に帰るさ!大槌小槌…伸伸伸伸しーん!の所までしーん!」
「あ、こら待たんかバカモノ!」

ジジィが後ろで喚いてたけどそんなモン愛の前にゃただの雑音さ。とにかくに会いたくて仕方ないオレは全速力で水路を進む。時々壁にぶつかりそうになったのは内緒。そんだけに早く会いたいってだけさ。

ー!」

ドガァン、とお決まりのように床に激突してオレは船着場に到着した。コムイが出迎えてくれたものの肝心のの姿はどこにもない。……なんで?

「お帰り、ラビ」
「コムイ!は?!オレの可愛いはどこさ!」
君なら部屋に「そっかサンキュ!」え、ちょっと報告書ぉ!」
「すまんさ後からジジィ来っからジジィに言って!」

出迎えてくれないなんて酷いさ!後ろでコムイが泣いてたけどそんなのオレの知ったこっちゃない。今のオレの頭の中は愛しいの事で一杯なんさ。階段を駆け上って目指すは愛しい愛しいの部屋。この時間ならきっとは部屋で本を読んでる最中のはずさ。


ー!帰ってきたさぁ!」

ばたん、と勢いよく扉を開けたらはびっくりした顔でオレを見た。どうもオレがいきなりドアを開けたから驚いて椅子から転げ落ちたらしくて、は大きなアーモンド型の目をぱちくりさせてオレを見た。

「ラ、ラビ?おかえ「ー!」うわちょっとイキナリ何す…!痛いから離れて!ちょっと!」
「いやさ!この1ヶ月オレがどんだけ寂しかった事か!はオレに会えなくて寂しくなかったんか?!」
「いやそうじゃなくて…!苦しい、から…っせめてちょっと力を緩めて…」
ー…オレ寂しかったんさぁー…」
「ラビ…ちょ、お願いだから離して…!」
「絶対いやさ!電話すら出来なくてオレ寂しかったんさ!なあはオレいなくても平気だったんか?オレはずーっとに会いたくて仕方なかったんだけど」

じたばたと暴れるをぎゅーっと抱き締めて言えばは諦めた様に暴れるのをやめた。そりゃ帰って早々抱き締めたオレも悪いっちゃぁ悪いけど、それでもやっぱり1ヶ月ぶりに彼氏に会ったんだからそれなりの反応は期待してたんさ。それなのにはそんな様子なんて微塵も見せやしないんさ……オレちょっと悲しいさ。

「…ラビ」
「何さ」
「…とりあえず離して…苦しい、」
「………っもういいさ……」

そんでもはオレにおかえりの一言も言ってくれないんさ。がクールでドライなのは前から知ってるしオレもそこに惚れたんだけどさ。だからって任務から帰ってきたんだからおかえりの一言くらいくれたってよくない?…なんだかオレ一人だけ空回りしてるみてーで情けなくて、オレはから離れた。

「…ラビ?どうし「もう、いいさ」…え?」
「おかえりって言って欲しかったさ」
「ラ、ビ?」
「オレはずーっとに会いたくて仕方なくて、でも任務だからって電話も出来ないで。この1ヶ月の事考えてたんさ。なのに帰ってきたらはなんかオレの事ウザがってるし。もういいさ…そんな迷惑ならオレ部屋に戻るから」
「ちょ…っラビ、待…っ!」

オレ一人で空回ってたんかな、ってほんとはオレのこと嫌いなんかなって考えたら、これ以上の部屋にはいられなくて、オレはの言葉も聞かず顔も見ないまま部屋に戻っちまった。あのままにあんな態度されてたら、オレもう立ち直れない。

「………ラビの、ばか」

オレが出てった後、が泣きそうな顔でそう呟いてたなんてオレは知らなかった。





「…、どうしたの元気ないわね」
「リナリー…どうしよう、私ラビに嫌われたかもしれない」
「…?ラビが?まさか、ありえないわよ。何があったの」

結局、ラビを追いかける事なんて出来なくて私は素直になれない自分の性格を恨んだ。考え込んでいたら眠れなくて、気付いたら朝になってて。悲しくてもどかしくて眠れなくて、それでもおなかはすく。気だるい体を無理矢理動かして食堂に足を運んで端っこでトーストを齧ってたらリナリーが朝食を手に私の向かいに腰掛けた。

「昨日ね、ラビが帰ってきたの」
「…ああ、兄さん泣いてたわ。報告書出してくれないって」
「1ヶ月ぶりじゃない?連絡も無くて…それで、いきなり抱き締められたもんだから私ちょっと驚いちゃって…おかえりも言えなくて、それで…」
「…一方的にラビが拗ねてるのね?」
「……そ」

リナリーはため息を吐いてコーヒーを飲んだ。私はまだ教団に来てから日が浅い。でもリナリーはラビが教団に来た時からラビの事を知っていて、私の知らないラビを沢山知ってる。だから、まだ片想いだった頃からリナリーは私のよき相談相手だ。

「……どうしたらいいと思う?」
「んー…謝るのが一番いいんだろうけど…」
「それが出来たら苦労しない…」
「なのよねぇ……じゃあ、こんなのどうかしら」
「へ?」

リナリーがこっそり耳打ちしたその言葉に私は固まってしまった。いくらブックマンが明日から任務でいないからって、ラビのベッドに隠れてみたら、なんてそんなこと私に出来る訳がない。その後の事が安易に予想つきすぎて怖いもの。

「む、むりむりむりむり!」
から謝らないとラビいつまでも拗ねたままよ。」
「そ、そりゃそうだけど…っでもいくらなんでもそんなこと!」
「大丈夫よ、いざとなったら半殺しにでもしてあげれば」
「リナリーさらっと怖い事言わないでよそんな事出来ないってば!」

いくら否定したところでリナリーの黒い笑顔は消えなかった訳で、それはつまりやらないとラビがリナリーにシバかれて大変な事になるっていうアレで…でもベッドになんて隠れたらあのバカは間違いなく暴走するのもまた目に見えて判っちゃう訳で、でもリナリーの黒い笑顔には逆らえない訳で……。

「仲直り、したいんでしょ?」
「………ハイ」

結局、リナリーの黒い笑顔に私は負けた。




(…うぅ、リナリーのばか…!)

そんなこんなで、現在地:ラビのベッド。シーツに包まって私はラビの帰りを待っている。正直な話、帰ってきて欲しくは無い訳なんだけど、ラビに任務予定がない以上絶対にこの部屋に帰ってくる訳で、さっきから私の心臓は煩い位大きく高鳴ってる。

(…ラビ、許してくれるかなぁ)

逃げるのは簡単だけどそれをしないのはラビに嫌われたくないからで、1ヶ月ぶりに会えたから緊張して素直になれなかったって事だけでも伝えないときっとラビは私を嫌いになっちゃうから、私の言葉でごめんなさいとおかえりなさいを言わなきゃいけない。普段素直になれないのは性格だからしょうがないけど、その性格のせいでラビに嫌われる事だけは絶対に嫌だ。

「はー……」
(!帰ってきた…!)

とか何とか考え込んでたら扉が開く音がして、ラビのため息が聞こえて私はシーツに包まったまま硬直した。どうやって声を掛けようかとか、何て言えばいいのかとか、慣れない考えを巡らせてみても結局いい答えは浮かばないまま、私はシーツに包まって息を殺してた。

「…昨日はマズったなー…せっかく1ヶ月ぶりに会ったのに…、怒ってんだろーなあ」
(……ラビ)
「あー…どうしよ…に嫌われたらオレ生きていけねぇさ……」

こつこつと足音が近づいて来て、止まる。ラビの気配は間違いなくベッドの前で止まってて、私はいよいよ固まったまま動けなくなった。どうしよう、どうしよう、どうしよう。今の思考回路はそればっかりだ。

「………?」
(……っ)
「何でこんな膨らんで……え?」

ばさ、とシーツが一気に剥ぎ取られて、眩しさに一瞬目を閉じた。恐る恐る目を開ければラビは驚いた顔で私を見下ろしてて、私はラビを見上げたまままた硬直した。

「………な、にしてんさ、
「…いや、その、えっとですね、あの…き、昨日はごめんなさい…」
「え、」
「私もラビに会いたかった。でもラビ、いきなりなんだもの…驚いちゃっておかえりなさいも言えなかったから…ラビのこと、怒らせちゃったかなって、」
「いやいやいや待ってさ謝るんはむしろオレのほうさ?!」
「…どうして?」
「だってそうだろ、オレが勝手に暴走したからは素直になれんくてそんでオレ勝手に怒って勝手に部屋に戻ったりして…」

ラビは本当に申し訳なさそうに私から目を逸らして頭を掻いた。困った時のラビのクセ。私はゆっくりベッドから立ち上がって、ラビの背中に抱きついた。久し振りに感じるラビの体温と匂いはとっても安心できる。

「ラビ」
「……?どうし「ごめんなさい」…へ?」
「ラビが好きなの。お願いだから嫌いになんてならないで」
「………、」
「私だってラビに嫌われたら生きて行けないよ……」
「聞いてたんか、」

ラビは腰に回った私の手を優しく包んで撫でてくれた。私が大好きなラビの体温は体温の低い私の手から全身へとゆっくりと伝わって、心まで暖かくなったような気がして、また思いっきりラビに抱きついた。そうしたら今度はラビの手が私の腰に回って、一瞬のうちに私はラビの腕の中に閉じ込められた。

「ラ、ビ?」
「嫌いになんてなんねーさ……」
「…ラビ」
「なぁ、おかえりって言って」
「……お帰りなさい、ラビ」
「……うん、ただいま、

ラビは私を抱き締めたままにっこりと笑って何度も何度もキスをくれた。1ヶ月ぶりのキスは少しだけ苦くって、コーヒーの味がした。







(愛情たっぷり、君限定の甘いキス)










瑠緒さまよりリクエストいただきました!
長期任務から帰ってきたちゃん大好き!なラビがラブラブモード全開で迫るもののツンデレなちゃんは素直に喜べなくてラビが拗ねる
というようなリクエスト頂きまして頑張った次第です。最近ほんとティキしか書いていないので新鮮でした。
こんなものでよろしければ貰ってやってくださいませー!