声がする
私を呼ぶ声が、遠くから。
ノイズを帯びて、それは次第にはっきりと耳へ届く
『…-我ニ答エヨ-……』
灰色メランコリア 01
『…--我ニ--答エヨ……』
「……な、に…?」
ふと目を覚ます。
視界に飛び込んできたのは一面の白。
金色の髪の少女はゆっくりと半身を起こし、辺りを見回す。
「ここは……どこ?」
少女は混乱していた。
それもそのはず、今まで確かに彼女は自分の部屋のベッドの上で安らかな眠りを貪っていたのだから。
それがどうしたことか、奇妙な声に気付き目を覚ませば目に飛び込んだのは見慣れた天井ではなく一面の白。
寝起きで回らぬ頭を抱え、少女は掠れた声を上げた。
『目覚めたか』
「……?何、この声」
拡声器を通したような無機質な声が辺りに響く。
少女は声の出所を突き止めようと必死で辺りを見回すも見えるのはただ白の世界だけ。
声の主は何処にも見当たらず、ただ少女は困惑するばかり。
『。そなたは選ばれた』
「……え?」
『世界を救え』
「……ちょ、え?」
『私にはそなたの力が必要だ』
突然告げられた言葉にと呼ばれた少女はさらに困惑する。
世界を救え?
何をいきなり言い出すんだと言い返したかったが、寝起きの頭はそう上手く働いてはくれなかった。
「…とりあえず…出てきてよ…」
『……これは、失礼』
ヴン、と空間の一部がノイズに歪む。
そこから現れたのは、この空間に溶け込みそうな程の白い衣服を纏った若い男。
年の頃は28といったところだろうか。白い衣服と対照的な漆黒の髪がこの白い空間にやけに目立った。
「……誰?」
『私は創造主。そなた達が言うところの神、という存在』
「……はぁ?」
『驚くのも無理はない。が、そなたに拒否権はない』
「いやいや、いきなり出てきて何言ってんのあんた」
、と呼ばれた少女は困惑する。
それもそうだ。
いきなりこんな訳の判らない場所へ呼ばれたかと思えば
目の前にいる男は自分を神だと言う。誰だって困惑するだろう。
『世界を救え』
「ッ訳判んねぇよ!!!!!!」
『そなたの力が必要なのだ』
「……ハァ。…じゃあさ、判りやすいように説明してくんない?」
は深くため息を吐き、男を見上げた。
彼は顎に手を当て、しばらく考え込む。
そうしてゆっくりと、口を開いた。
『…私は今そなたが生きている世界の創造主ではない』
「……どゆこと?」
『そなたの知っている世界ではあるがな』
「…はぁ」
『行ってみたいとは思わぬか?』
「その世界がわからないからなんとも言えません」
は半ばあきらめたように彼と会話している。
これは夢だと決め付けて、悪い夢なら早く覚めろと思いながら。
『D.Gray-man、と言えばそなたにも理解できるかな?』
「………は?」
は突然飛び出した単語に絶句した。
それもそうだ。
D.Gray-man、と言えばが数年前から愛読している漫画。
その世界の創造主というのだ。この目の前にいる男が。
『そなた達の世界ではそう呼ばれている世界を創り出したのが私なのだ』
「……つまりは、私にDグレの世界に行け、と?」
『そういう事になる。』
「……なんで?」
は混乱する頭で問いかける。
漫画の中へ行け、などといきなり言われては無理もない。
ただ目の前にいる男は顔色一つ変えずに、の目を見据えて続けた。
『そなたの力を貸してほしい。もちろん、私も最大限の協力は惜しまぬ』
「…イヤだつっても連れてくんでしょ?」
『まぁそうなるな』
「……腹括るしかないってことね」
『物分りのいい娘で助かる。』
は再び深くため息を吐き、男を見据えた。
男は口角をかすかに吊り上げるだけの笑みをこぼし、先ほどとは違う優しい視線でを見ていた。
「…いくつか質問、いい?」
『構わんぞ』
「まず1つ。私英語がしゃべれないんだけど」
『さっきも言っただろう。最大限の協力は惜しまぬ、と』
「英語をしゃべれるようにしてくれる、って解釈してもいいんだね?」
『あぁ。』
「そっか。じゃあ次。私はノア?エクソシスト?」
『……エクソシストだ』
「うん、それも判った。じゃあ私のイノセンスは?」
『そなたが決めればいい。私が無理矢理送り込むのだ。そなたの自由になる部分はそなたの自由にしてやりたい』
「有難う。」
はそういうと、座り込み思案を巡らせた。
どんな能力がいいか。私に尤も適した能力って何?
そう考え込んでいれば、目の前の男は『そなたの好きな物が一番能力を発揮できる』と助言した。
はなるほど、と頷き、再び思案を巡らせる。
そうしてひとつの結論に行き着き、顔を上げた。
「……魔法みたいなもの、って可能?たとえば、杖とかを媒介にして」
『出来ない事はないが…かなりの修練が必要になる』
「そっか…でも、最大限の協力は惜しまない、んでしょ?」
『あぁ』
「じゃあ、杖。能力は魔法。イメージはRPGゲームの魔法みたいな感じで」
『……それはまた随分と』
「いいじゃない」
『…無理矢理連れて行く訳だしな…判った。なんとかしよう』
「有難う」
はにっこりと微笑んだ。
男はただを優しい瞳で見つめるばかりだ。
「………ねぇ、私、元の世界へ還る事は出来る?」
『そなたが望むなら。』
「…そっか。判った。有難う」
はその言葉を聴き、微笑んだ。
そしてその場から立ち上がり、男を見据えた。
『……よいのだな』
「うん。決心鈍らない内に飛ばしてよ」
『幸運を祈る。……身勝手な私を許してくれ』
「Dグレの世界へ行かせてくれるんだもん、感謝するよ。」
『……あぁ。』
「そうだ。名前、聞いてなかったね」
『……キール』
「キール。ありがとう」
キールと名乗った男に手を振り、の身体は光に包まれ、消えた。
キールはが消えた虚空を眺め、搾り出すようにつぶやいた。
『…苦しい運命を背負わせる私を許してくれ、』
それが何を意味する言葉なのかは判らない。
つぶやいた言葉はただ広がる白に飲み込まれた。
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昔書いていてサイト未upだったDグレ原作沿い。
300000Hit記念感謝作品として掲載。
2007/04/07 カルア