教団に着いたのは深夜2時を回った所だった。
神田は私に報告書を渡すとさっさと部屋へ戻ってしまった(薄情者め!)。

私は仕方なしに、深夜の多少薄気味悪い教団の廊下を歩いている訳です。
























灰色メランコリア 05




















「ただいま帰りましたー。コムイさんいますかー?」


コンコンと軽快なノックの音が響く。
コムイは書類から顔を上げ、どうぞと返事をした。
その返事を聞いたはドアに手を掛け、相変わらず書類で散乱しっぱなしの机へと近づいた。


「おかえり、ちゃん。……収穫はあったかい?」

「はい。イノセンス、回収してきました。それとこれ、報告書です」

「うん……じゃあヘブラスカのところへ行ってイノセンスを預けておいてくれるかな。
 そしたら4日程休暇だから……まだ此処に不慣れだろうし、ゆっくりするといいよ」

「はい。有難うございます。コムイさん、あんまり無理しないで下さいねー」

「うん。ご苦労様」


苦笑い交じりに手を振るコムイにも笑顔で返すと、ヘブラスカの許へ向かう。
吹き抜けを行き来するエレベーターは現在使用中。どうやら機材の運搬をしているらしい。
それならば邪魔は出来ないな、とは科学班の人に頭を下げ、イノセンスを構えた。


「……慈愛の大地よ。我が身を繋ぐ重力の鎖を一時緩め、我に自由を。レビテト」


そのままゆっくりと下降していくの視界に、上昇してくるエレベーターが映る。
其処にいたのはリーバーで、梱包された大きな箱がエレベーターに乗っていた。


「あ?じゃねーか。帰ったのか……つかお前、なんで飛んでんの?」

「私のイノセンスの力ですよ。リーバーさんエレベーター使ってたみたいだから」

「そっかそっか。疲れてるとこわりーな」

「いえいえ。リーバーさんも頑張って!」

「おう」


そんなやり取りをしながらすれ違う。
は微笑を浮かべエレベーターを見送り、ヘブラスカの間へと降りていった。


「ヘブ君、ただいま」

「おかえり………さぁ、イノセンスをこちらへ……」

「うん。保護よろしくお願いします」

「あぁ………」


しゅる、とイノセンスがヘブラスカの体内に取り込まれる。
はそれを見守るとヘブラスカに別れを告げ、もう一度吹き抜けを上昇して行った。























***





























「ふぁー…眠……」


翌朝。はリナリーと共に食堂にいた。
目の前にはきつねうどん。の好物の一つだ。


「任務お疲れ様。どうだった?」

「んあー拍子抜け」

「アクマいなかったの?」

「いたにはいたよ。レベル2が2体」

「あー神田が全部壊しちゃったのね」

「いや、違くて私が全部壊したんだけど」

「えぇ?!」


はうどんをずるずると啜りながらリナリーに応える。
の全部壊した、という言葉にリナリーは驚きの声を上げて
はそれに苦笑いを返す。


「あまりにあっさりと行き過ぎてちょっと拍子抜けかなー、って」

「……、初任務よね?」

「うん」

「…強いのねー……」


感心の目で自分を見るリナリーにまたも苦笑いを零しながらはうどんを口に運ぶ。
そんなの目に入ったのは見慣れたポニーテール。


「あ、神田」

「本当だ」


神田は蕎麦を片手に席を探している最中らしい。
座るところ空いてないしな、とは自分のとなりが空いている事を確認し、声を上げる。


「かーんだぁー!此処空いてるよー?!」

「………」


その声に神田は思いっきり不機嫌な顔でを睨む。
が、はひるむ事なく「他のところ空いてないでしょ」とにっこりと言う。
神田はしぶしぶながら、の隣--と言っても大げさに距離を開けて--座った。


「チッ……なんだよ」

「だって空いてないから。のびるでしょ、蕎麦」

「………あぁ」


リナリーはの言う事をしぶしぶながら聞く神田に驚いた物の、表情に出す事はしなかった。
なんだかんだで任務中に仲良くなってるじゃない、と内心嬉しかった事も。


「っていうかさ、初任務だってのに後処理全部私に押し付けるとかひどくない?
 書類出すのもイノセンスをヘブ君に届けるのもさー」

「知るか。俺は疲れてたんだ」

「戦ってもないくせにー」

「テメーが勝手に壊っちまったんだろーが」

「捜索も殆ど私の力だよ?!ちょっと!」

「うるせぇ、メシくらい静かに食わせろ」


減らず口の減らない男だな!
はそう思ったものの、六幻で斬り付けられそうな勢いだったのでやめておいた。
神田はそんなを無視して蕎麦を啜る。
リナリーは微笑ましい(と言えるのか)この光景に笑いを堪えるので精一杯だった。


「ユーウー!リナリー!」


其処へやってきたのは赤毛の男。ラビだ。


「ラビ!いつ帰ってきたの?!」

「…俺のファーストネームを軽々しく呼ぶんじゃねーよクソウサギ」

「ついさっきさぁー……ん?この子誰さ?」


ラビは神田の横にいるを指差しリナリーに聞く。
は何も指差さなくても、と思ったが其処はあえてスルーした。


です。つい先日エクソシストになりました。よろしく」

「お、おう……俺、ラビな。」

「よろしく、ラビ」


にっこりと笑いながら手を差し出したの手をラビはいくらか照れた面持ちで握る。
ラビは相変わらずの顔を見つめたまま視線を逸らそうとしない。


「……?あの、ラビ?」

「………ッストライクさ……!めっちゃ可愛い!」


両手での手を握るラビのその一言に、神田は思わず箸を握り折る。
ベキッという音が響き、リナリーが神田を見れば額に青筋が浮かんでいて。

(……神田ってのこと好きなのかしら?)

などと推測してみるものの、あながち間違いでもないようで。


「や、あの、ラビ?離し…て?」

「なぁなぁ、っていくつ?!あ、俺18ね!出身は?」

「え、あ……19歳で…日本人……」


ラビのハイテンションについていけないは戸惑いながらも丁寧に返答を返す。
神田の額に浮かぶ青筋はますます増える。が、ラビとの二人はそれに気付かない。
リナリーは少し面倒な事になりそうね、と小さくため息を吐いた。


「マジ?!てか日本人?」

「うん」

「それにしちゃきれいな金髪さー……これ地毛?」

「え、染めてるだけ……あの、ラビ、離して…」


ラビはの金髪にさらさらと指を通して観察している。
腰まで伸びた長い髪は、少しの距離があっても簡単に手に取られてしまう。


「いいにおいさー……」

「ちょ…」


の髪の匂いを嗅ぐ(少しばかり変態入った)ラビに、神田の怒りはとうとう爆発する。


「ッてめぇら人がメシ食ってる横でうるせぇんだよ!!!!!!テメーもイヤなら張っ倒すなり何なりしやがれ!!!!」

「神田……?」

「(はぁーん、さてはユウちゃんってばこの子の事好きなんさ?)はいはい」


は漸くラビから開放され、椅子に座りなおす。
が、リナリーと同じく妙な確信を得てしまったラビの暴走は止まらない。
神田の逆側、の隣に座り、にあれこれと質問を始めたのだ。
当然神田は不機嫌になるが、はラビに気を取られ気付かない。


(ラビ、完全に楽しんでるわね……)


リナリーはため息を吐いた。
その間にも神田はどんどんと不機嫌になっていく。


「チッ…」


神田は小さく舌打ちすると、トレイを下げる事もせずテーブルを勢いよく叩いて立ち上がる。
その音には当然食堂にいる皆が驚くが、一番驚いたのはだった。


「っ神田?どうし…」

「うるせぇ」


の声を途中で遮り、の顔も見ないまま神田は食堂を後にする。
ただおろおろと戸惑うを見てリナリーはラビを睨み、一言。


「ラビ、あんまりからかっちゃだめ」

「だぁってユウ判りやすすぎさぁー」


そんなリナリーの叱咤にラビは楽しそうな笑顔で返す。
は頭上に「?」を浮かべ、ラビとリナリーの顔を交互に見た。


「……どーいう事?」

「(気付いてないのね、)」

「(……前途多難だな、ユウ)」


は二人の思っていること等微塵も気付かずただ困惑するばかりだった。


























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神田との恋の行方やいかに(ぁ



2007/04/07 カルア