その日の内に、ユウとアレンはマテールへ向かった。
私はといえば、暇しているのをいい事にリナリーと一緒に科学班のお手伝い。
灰色メランコリア 09
「え、もう行っちゃったの?」
「うん。……あの二人うまくやれるのかしら」
「…しょっぱなから仲悪かったもんねー……」
出来ることなら私も行きたかった、とはため息を吐く。
リナリーはそんなを励ましながら、二人は科学班の手伝いをしていた。
「ーちょっとー」
「あい?何ですかリーバーさん」
「これ、訳せるか?」
リーバーが差し出した本は日本語で書かれていた。
それはどうやら古文のようで、あまり使い慣れない文法が並んでいる。
「あーはいはい。えーっとですね……
玉の緒よたえなばたえねながらへば忍ぶることの弱りもぞする……ああこれ日本古来の詩ですよ。」
「で、意味は?」
「私の命よ、絶えるなら絶えてほしい。
このまま生きながらえていたら、胸の思いをこらえて、耐えている力が弱まって、
秘めている思いが世間に知られてしまうかもしれないから。
……って感じだと思いますけど。」
「おう!サンキュ!」
「どういたしましてー。」
しかし何故に百人一首、と思ったが深いツッコミは避けることにした。
はその後も日本語--殆どが古文だったが--の翻訳や雑用に追われ、3日を過ごした。
***
アレンが神田と任務へ向かって一週間。
はリナリーと一緒に今日も科学班のお手伝いをしていた。
夜中の差し入れと称しコーヒーを科学班へ届けに行った時、事件は起こったのだ。
「おーいみんな起きてるー?」
妙にテンションハイなコムイの声。
は「コムリンが来る!」と内心怯えていた。
「ジャーン!我が科学班の救世主こと『コムリンII』でーす!」
「室長ぉ…何すかそのムダにごっついロボは…」
「だからコムリンだってば。たった今やっと完成したんだよぉー」
相変わらずテンションが収まることのないコムイ。
は思わずこの場から逃げ出したい衝動に駆られたものの、なんとかしてコムリンコーヒー誤飲事件を防ごうとしていた。
……していたのだが。
ほんの一瞬目を離したスキに、どうやらコムリンはコーヒーを飲んでしまったらしい。
「兄さん、コムリンてコーヒー飲めるの?」
リナリーのその一言には慌てて振り返る。
コムリンはなにやら嫌な音を立て、頭部から煙を噴いている。
やば、と思ったときには時既に遅し、リナリーはコムリンの麻酔によって眠らされてしまった。
「リナリー!!!!!」
『私…は…コム…リン……エクソシスト強く…する…この女はエクソシスト……
この女をマッチョに改良手術すべし!!!!』
「「「「「「なにぃー!!!!」」」」」
科学班一同の悲痛な叫びが上がる。
は思わずイノセンスを発動するも、間に合わずコムリンの射撃に巻き込まれてしまった。
「く…ッリーバーさん!リナリー連れて逃げて!!!!!」
「おう!!そいつ壊せよおおお!!!!!」
「任せといて!!!ともかくリナリーを安全な場所へっ!!!!!」
はリーバーがリナリーを背負い走り出すのを認め、コムリンに向き合う。
コムリンはの存在も感知し、今度はに向かい突進してくる。
『ピピ……エクソシスト…発見……マッチョに改良手術すべし!!!!!』
「ッ冗談やめてよねっ!!!!!イノセンスはつど……ッ?!」
ぷち、と首の後ろに痛みを感じる。
コムイが吹き矢を打ったのだ。
「ちゃあああん!!!!コムリン壊しちゃだめぇぇええええ!!!!!」
「コムイ、さ…ッばかやろおおおお…!!!!!」
痺れ薬だろう。は忽ち全身が痺れ、その場にうずくまってしまった。
此処で掴まったらおしまいだ。
はそう自分に言い聞かせ、イノセンスを握り締める。
「くっそ……!
森羅万象、この世に満ちる全ての元素よ…ッ今一時我が身を隠せ!バニシュ!!!!」
の姿がかき消され、コムリンは標的を見失う。
しばらく辺りをうろついた後、コムリンは何処かへ姿を消した。
コムリンが完全に視界から消えたのを確認すると、は姿を現した。
「っは…くそ、コムイさんめ…ッあとで覚えてろよ……ッ
兎に角…この痺れなんとかしなきゃだ……
天駆ける風よ、癒しの精霊よ、力の根源へ我を導き癒しの力を与えたまえ……エスナ!」
すぅ、と身体の痺れが取れていく。
回復もある程度なら出来るようだ、と不本意ながら判った。
は呼吸を整えると、コムリンが来るであろう吹き抜けへ向かってゆっくりと歩き出す。
あちこちから悲鳴が聞こえる所を見ると、コムリンがリナリーを探して教団内をうろついているようだ。
うかつに見つかれない、とは思い、杖を握り締めた。
***
「リナリー!この中にアレンがいるんだ!!!!」
吹き抜けに着いてみれば、リーバーの声が聞こえる。
声の方向に目を向ければ、黒い靴で空を舞うリナリーの姿。
「リナリー……アレンは…あの中か……」
は今一度イノセンスを握り締め、小さく詠唱を始めた。
「慈愛の大地よ。我が身を繋ぐ手を一時緩め、我に自由を。レビテト」
ふわりとの身体が浮かぶ。
はそのまま詠唱に入り、コムリンへ向かう。
「リナリー少し離れて!!!!!!!!!」
「!!!!!!無事だったのね!!!!!」
リナリーは光っているの杖を見ると素早くコムリンから離れた。
はその一瞬を見逃さず、コムリンに向かい杖を構えた。
「……天空を満たす光よ。天と地の精霊達よ。全ての怒りを我が杖に宿して形と成せ……!サンダーヴォルト!!!!!!!」
の杖から激しい雷鳴が轟き、凄まじい電圧を纏った雷がコムリンへ向かう。
その雷はコムリンの頭部に直撃し、コムリンはショートし一時的に動きを止めた。
その隙を見逃さずにリナリーはコムリンの頭部を見事に蹴り落とす。
「いいぞリナリー!ー!!!」
「ぶっ壊せー!」
「かっこいー!」
そんな科学班の面々から飛び交う声の中、は横目でアレンが救出されたことを確認する。
そうして響き渡るぶっ壊せコールの中、リナリーがコムリンを破壊しようと片足を上げた。
「待つんだリナリー!
コムリンは悪くない!悪いのはコーヒーだよ!!」
「ゲ!室長!」
「いつの間にあんなところにー!」
「罪を憎んで人を憎まず。コーヒーを憎んでコムリンを憎まずだ」
そんな訳の判らない理屈が通るはずもなく、最終的にコムリンはコムイと共に吹き抜けの一番下へと叩き落されたのだった。
***
「あー疲れた……」
「お疲れ様……」
「ってゆーかね、コムイさんひどいよ!痺れ薬打ったりしてさぁ!」
は現在科学班研究室にいる。
もちろんリナリーと、未だ気絶したままのアレンも一緒に。
は先ほどコムイから受けた理不尽な仕打ちが忘れられない様子。
リナリーはアレンの額に乗せているタオルを冷水に浸し、絞りながら苦笑いを浮かべた。
リナリーがアレンの額に新しいタオルを乗せた瞬間、アレンがバっと飛び起きる。
リナリーは思わず持っていたタオルを落し、びっくりしたと声を出す。
「……リナリー……」
「ごめんね、兄さんの発明のせいで…」
「ここは…?」
「科学班研究室だよ。今は修理でみんな出払ってるけど」
「……さん……」
「おかえりなさい、アレンくん」
「た、ただいま……」
(おーおー、なんかいい雰囲気じゃーん)
がくすくすと笑っていると、ドアの向こうから聞きなれたにぎやかな声が響く。
あ、帰ってきた。
そう思うが早いか、扉は勢いよく開かれて。
「おーアレン目が覚めたか」
「一体夜に何があったのアレンちゃん。もー城内ボロボロよ」
みな疲れていながらも笑顔を浮かべ、アレンにおかえりと告げる。
アレンは照れたように微笑んで、ただいま、と返した。
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まぁ要は最強ヒロインってことです(いつもやんけ
2007/04/04 カルア