出来ることなら叶って欲しかった。
私も彼女と同じ、恋をしてる女の子だから。

アクマだから、とか、人間だから、とか

そういうの関係なしに、幸せになって欲しかった。

























灰色メランコリア 18





















「愛してる愛してる愛してる愛してる……なぁオレらイタくねぇ?」

「で、でもほら花が噛み付いてこなくなりましたよ!」


相変わらず花に愛を囁き続けていたラビ達3人。
いい加減うんざりしていたが此処でそれを悟られては振り出しに戻るとばかり、ひたすら花に愛を囁いていた。


「……?雨?」


ぽつり、との頬に落ちた雫。
それは雨となり、3人の頭上に降り注ぐ。


「!ちべてっ!」

「え…っ雨?!城の中なのに?!」


いきなり降ってきた雨に3人は驚きを隠せない。
此処は室内だから、雨など降るわけがなかったからだ。


「……!見て、花が……」


花は3人を解放し、おとなしくなった。
水に弱かったのか、花の上へと降りた3人は遠目に蹲るクロウリーの姿を見つけた。


「……クロウリー……」


歩き出したに続いて、アレンとラビも歩き出す。












***












「クロウリーさん?」


未だ降り続く雨の中、アレン達はクロウリーのいた花の上まで辿りついた。
クロウリーは無表情のまま、何処か判らない虚空を見つめていた。


「(…エリアーデが、いない……?まさか……)」


がそれに気付くのが早いか、クロウリーは口を開いた。


「このアホ花……ブス花クソ花グロ花ウンコ花ーーーーー!!!!!」


クロウリーのその暴言に怒ったのか、今までおとなしかったはずの食人花がぐわっぱと怒りを露に4人を飲み込んだ。


「きゃああああああ!!!!!」

「うわあああああああ!!!!」

「クロちゃん何やってんだーーーーーー!!!!」


「うるさいである!!!!」


ひときわ大きなクロウリーの叫びに、3人は思わず硬直する。


「私はエリアーデを壊した……もう…生きる気力もないである……」


ぼろぼろと涙を流しながらそう言うクロウリーに、3人は嫌な結論に行き着いた。


「「「(自殺かいーーーー?!しかも巻き添え!!!)」」」

「さぁ私を殺せであるドアホ花ーーーー!!!!!」

「「「ぎゃああああやめろボケーっ!!!!」」」


尚も花に暴言を吐き続けるクロウリーに、3人は声の限り怒りの声を上げた。
一番近かったアレンが左手でクロウリーの口をふさぐ。ぐきっという嫌な音は聞こえないふりをした。


「落ち着いてください!!右腕…負傷してるじゃないですか…!」

「こんなもの……またアクマの血を飲めば治るであろう……
 はは……とんだ化け物になったものだ私は………

 愛していた者を、手に掛けてしまった……死にたい……」


クロウリーのその言葉に、アレンの目に涙が浮かぶ。
アレンの過去と彼の今の姿がダブったのか、アレンは涙を流しながらクロウリーの襟首を掴みあげた。


「そんなに辛いなら、エクソシストになればいい
 エクソシストはアクマを壊すんですよ。貴方はエリアーデという“アクマ”を壊したんです。
 そしてこれからもアクマを壊し続ければ、それがエリアーデを壊した“理由”になる」


強い声で諭すように言うアレンに、ラビもも言葉が出なかった。
クロウリーは涙を拭う事もせず、ただアレンの言葉に聞き入っていた。


「理由があれば生きられる……理由のために生きればいいじゃないですか。
 貴方もまた、神の使徒なんだ………」


その言葉に堰を切ったように泣き出すクロウリー。
もラビも、誰もそれきり言葉を紡ぐ事はしなかった。

















***

















「でさ、こんな人なんだけど」


暫くして漸く雨も止み、クロウリーも平常心を取り戻した。
4人は辛うじて崩れていないテラスに座り込んでいた。


「あぁ…その男なら確かに此処に来たである」

「おーう?!」


ラビがクロウリーに見せたのは、村長が書いたクロスの似顔絵。
来た、と言うその一言にラビとは目を輝かせ、アレンは心底嫌そうな顔をした。


「何しに来たんです?この人」

「御祖父様の訃報を聞いてきた友人とかで…預かっていたものを返しに来たと…。」

「預かってたものって?」

「花である。食人花の赤ちゃん」


そのクロウリーの一言にアレンは思い出したくもない過去を思い出してしまう。
一人柵に寄りかかり、虚ろな目で遠くを見つめながら食人花の赤ちゃん--ロザンナという名の凶暴な--を思い出していた。


「?」

「気にせんで、辛い過去思い出してるだけだから」


頭上に「?」を浮かべたクロウリーに、ラビは苦笑い交じりに言う。
遠くを見つめているアレンはとりあえず放置して、3人は再び会話を始めた。


「でも花返しにきたって……そんだけ?」

「うむ。ただその花ちょっとおかしくて……突然私に噛み付いたと思ったらみるみる枯れてしまったんである」

「……?それってもしかして」


クロウリーが言うには、花に咬まれた後に途轍もない痛みと暑さが襲ってきて
歯が全て抜け落ちたと思ったらすぐに新しい歯--つまりは現在彼に生えている歯--が生えてきたという。


「今思えば…あれがキミたちの言うイノセンスだったのかもしれない。
 それ以来私はアクマを襲うようになり……エリアーデと……」


クロウリーの目に再び涙が浮かぶ。
はそんなクロウリーを心痛な面持ちで見つめながら、優しく言葉を掛けた。


「私たち、その人を探しているんです。何か知りませんか?」

「そういえば……東国へ行きたいから友人の孫のよしみで金を貸せと……」


「「「(ここでもかーーーーー!!!)」」」


やっぱりね、と溜息をつくと、クロウリーが不意に立ち上がった。


「先に…城の外で待っていてくれないか…?旅支度をしてくるである」


苦笑い交じりに言うクロウリーに3人は笑顔を浮かべ、一足先に城の外へと出て行った。
は城を出た時に、悲しそうな顔で城を振り返って。



(エリアーデ……どうか安らかに……)



その声は風に浚われて闇へと消えた。


















***













「なんか散々な夜だったさぁー」

「ほんとに……疲れたわ……」

「でも師匠の手がかりがつかめました。
 あれだけの金額を借りてるなら中国大陸までいけますよ」


そう言って悲しそうな目で空を見上げるアレンに、ラビとは顔を見合わせて頷く。


「そんな悪い事したみたいな顔すんなって」

「そうだよ。確かに前向きな方法じゃないけどさ、今のクロウリーには“理由”が必要だったと思うよ?」

「いつか楽になれるさ」


そう言って笑うラビとを見たアレン。
口を開こうとした瞬間、爆音を立てて城が崩れ落ちた。


「な……ッ?!」

「城が…っまさか…!」


アレンの脳裏を、クロウリーの言葉が掠める。
絶望に近い表情を浮かべた3人は、遠くから聞こえてくる足音に耳を澄ませた。


「はは……何であるかその顔は。死んだかと思ったであるか?」


苦笑いを浮かべたクロウリーが炎の向こうから姿を現す。
その姿に3人は顔を見合わせ安堵の溜息をついた。





(エリアーデ。私はアクマを壊し続ける)

(でなければ何の為に私はお前を壊したのだ)























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吸血鬼編終了!ちゃんの出番少なすぎ…ッ次回で挽回!




2007/04/12 カルア