長かった夜が明けて。
私たちは、アレン君とはぐれたあのプラットフォームから汽車に乗った。

























灰色メランコリア 19






















「そんな落ち込むなって、クロちゃぁーん」

「しょうがないよ、いくら説明しても信じてくれなかったんだもの」

「だが……ッ」


クロウリーは椅子に座り込んだまま--いわゆる体育座りで--、どんよりとしたオーラを出している。
の脳裏に、昨夜の光景がよみがえる。
せっかくアクマを退治してきたというのに、村人からは4人揃って化け物扱いを受けた。
ショックを受けるクロウリーをラビとアレンが連れ出した後、はその怒りを村人にぶつけたのだ。


「大丈夫、ちゃぁーんとお仕置きはしておいたから。ね?クロウリー」

「お、お仕置きであるか……?」

「そ。私のイノセンスでちょこーっと、シビレてもらいました☆」


にっこりとそういうの笑顔は天使の笑顔そのものだったが、発言内容はそれとは真逆。
さすがに手加減はしたようだが、それでも彼女の攻撃は一般人にとっては三途の川を垣間見る程強烈なのだ。

それで村人の断末魔が聞こえて、はこんなに晴れ晴れとした表情なのか……!

アレンとラビはそれを悟ったが、冷や汗を流すだけで口には出さなかった。


「気晴らしに汽車ん中でも見てきたら?乗ったん初めてなんだろ?」

「う、うむ…そうであるな。ちょっと行ってくるである」


クロウリーは頬を紅く染めながらスキップ交じりに出て行った。
3人は笑顔で見送りながらも、心中は一致していた。

ほんと発動時とキャラ違うな、と………。










***











「……ねぇ、クロウリー遅くない?」

「そいえば…もう3時間経ってるさ」

「探しに行きましょう。」


3時間経っても戻らないクロウリーを探しに、3人は連れ立って汽車の中を探しはじめた。


「クロちゃんやーい…。
 てかこんな小せぇ汽車回んのにどうやったら3時間もかかるんさ」

「まさか迷子……?」

「アレン君じゃあるまいし、それはないでしょ……」


そんな事を言いながら、次の車両のドアを開ける。
其処にいたのはパンツ一丁で涙を流すクロウリーだった。


「うわぁっ?!」


は思わず顔を隠し後ろを向いた。
ボサボサ頭でビン底眼鏡を掛けた男がタバコを咥えたまま3人に言う


「悪いね、此処は今青少年立ち入り禁止だよ。」

「さーダンナ、もう一勝負行こうぜー」

「次は何賭ける?」


オカッパ頭の男と、帽子を被った男がクロウリーに詰め寄る。
クロウリーは涙を堪えたまま断ろうとしている。


「何やってんですかクロウリー」

「こ、この者達にポーカーという遊びに誘われて……そしたらみるみるこんなことに……」

「(カモられちゃったんだ……)」


アレンは溜息を吐くと3人に自分の団服を差し出す。
はクロウリーを見ないようにラビの後ろに隠れていた。


「このコートの装飾、全部銀で出来てるんです。
 これとクロウリーの身包み全部賭けて僕と勝負しませんか?」

「……それだけじゃなぁ」


ビン底眼鏡の男は、ラビの後ろに隠れたをちらりと見る。
その視線に気付いたのか、は肩を竦めてラビの後ろに完全に隠れた。


「其処のお嬢ちゃん可愛いねェ。彼女も賭けね?」

「ハァ?!」


素っ頓狂な叫びを上げたのはラビ。
は拳を握り締め、ラビの後ろから出た。


「……私を賭けの対象にする気?」

「不満かい?その少年が勝てばダンナの身包みは全部返す。負ければ君はオレと一晩。どーよ?」


にんまりとした笑みで言う男には殺意を覚えた。
思わず握り締めた拳を顔面に叩き込んで、一言。


「私は賭けの賞品で手に入るほど安い女じゃないんだよ。この低俗男」


ふん、とそっぽを向いたに、3人の男は笑う。


「あはははは!嬢ちゃん気ぃ強ぇなぁ!」

「お褒めの言葉をどぉーも」

「いいねぇ、気の強い女は嫌いじゃないぜ」


頭を押さえたまま言う眼鏡の男だったが、はそんな彼を冷たい視線だけで切り捨てた。
そして高らかにあはははは、と笑うの目は決して笑っていなかった。
アレンは冷や汗を流しながらを諌め、負けませんからと耳元で呟く。


「……で、どーする少年?この勝負受けるかい?」

「えぇ。僕が勝てばクロウリーの身包み全部返してもらいますよ」

「俺らが勝ったら、そのお嬢ちゃん一晩な」


「アレン。もし負けたらぶっ殺すよ。」


は男の言葉を無視すると、トランクの上に足を組んで座り込みそっぽを向いた。
僕は絶対負けませんから安心してください、と言うアレンの言葉に少しだけ微笑んで。












***











「コール」


にこにこと笑ってカードを差し出すアレン。
ラビとは放心状態でそれを見つめていた。
アレンの目の前にいる男3人は既に身包み剥がされた状態で、笑うアレンの後ろには彼らの荷物が積まれていた。


「ロイヤル…ストレートフラッシュ……」

「また僕の勝ちです」

「「「だぁぁあ!ちくしょー!」」」


3人はカードを放り投げ叫ぶ。


(どうなってんだクズカードしか回してねェはずなのに!)

(俺らがカモられてる……?!)

(ガキだと思って油断したぜ!こいつ只者じゃねぇ!手錬だ!)



男たちは冷や汗を流しながら小声で話し合う。
アレンは尚も笑顔を絶やさぬまま、華麗な動きでカードをシャッフルしていた。


(チョロいな)


笑顔の裏でそんな事を思ってるとは想像もつかない男3人。
半ばヤケになって再度アレンに勝負を申し込んだ。


「すごいである、アレン!」


(どゆことさ?!お前異様に強くない?)

(イカサマしてますもん)

(マジ?!)



笑顔のままのアレンに聞いたのはラビ。
アレンはさらっとイカサマしていると認めたうえで、更に黒い笑顔を黒くして言葉を続けた。


(先にクロウリーさんに仕掛けてきたのはあっちです。
 カードで負ける気はしませんね。修行時代、師匠の借金と生活費を稼ぐ為に命がけで技を磨きましたから)

(技、って……)

(博打なんて勝ってナンボ…容赦はしません。
 あっちだって3人グルでやってる上さんまで賭けの対象にしてるんですからね…!)

(アレンが黒ーい……)



「コール。」

「「「何ぃーーーー?!」」」


ラビはアレンの意外な一面を見た。(そしてそれに心底恐怖した。)







***





『キリレンコ鉱山前ー』


汽車が止まったその駅で3人組と子供は降りた。
アレンは車両の窓から3人の荷物を差し出した。


「はい。仲間の物が取り返せたからもういいですよ。
 この季節に裸はつらいでしょ?」


そう言うアレンに、眼鏡の男は情けをかけるなというが、その手は口とは逆にしっかりと荷物を掴んでいた。


「……その手は?」

「あれれ」


3人はしっかり荷物を受け取ると、その場で服を着込んだ(それはそうだ、今は真冬でとても寒いのだから)


「いやぁ助かった。実は今日からこの近くの鉱山で外働きでね」

「何処から来たんですか?」

「どこからも♪オレらは手癖の悪い孤児の流れモンさぁ♪」


発車を知らせるベルが鳴り響く中、マスクをした少年がアレンに手を差し出す。
その手は硬く握られていて、何かはわからなかったが「おれい」だと言う。


「イーズ!それお前の宝物だろ!待て待て礼ならオレがすっから!」


眼鏡の男はごそごそとポケットをあさるとトランプの束をアレンに投げた。
汽車はゆっくりとプラットフォームを離れていく。


「それで勘弁してちょー」


そう言った男は、汽車が過ぎ去るまでその場で汽車を見送っていた。
口元に、何か悪意の篭ったような笑顔を浮かべて。


「しかし品のよさそうな顔してエグイ奴だったなー」

「ありゃイカサマのプロだな」


そう言って笑いあうオカッパの男と帽子の男。
イーズ、と呼ばれた少年は握り締めた手に目を落とした。


「それは大事に仕舞っとけよ、イーズ」


ぽむ、とイーズの頭に手を置く眼鏡の男。
せっかくお前の為に取ってきた大物の銀なんだから、と続けて少年はその手に握られた“銀”を見る。
それは達エクソシストの団服についているボタンだった。


「ティキ!イーズ!行くぞっ。さっさと工場主に挨拶してメシにあやかろうぜ!」

「おー」


そう言って歩き出す4人の傍らにあった公衆電話がけたたましいベルを立てて鳴り出す。
眼鏡の男はその電話を躊躇なく取り、2,3言会話をするとおちゃらけた表情で3人に言う。


「ごっめーんv別の仕事入っちゃったぁ」

「また秘密のバイトかよ最近多いぞテメー!」

「しょうがねぇよ、じゃあオレらで行ってくんぜ」

「悪いな」


オカッパの男は眼鏡の男に怒り、帽子の男はオカッパの男を宥める。
イーズはオカッパの男に手を引かれながらも眼鏡の男を振り返り、小さな声で言った。


「ティキ…またぎんをとってかえってきてね…」


ティキ、と言うのが眼鏡の男の名前であろう。イーズのその言葉に答えは返さず、ただ口角を吊り上げた。
そして3人が見えなくなったと思うと、ティキはその場から姿を消した。















***










人気のないトンネル。
その向こうに見えるのはえらく恰幅のいい男性。ティキはタバコを大きく吸い込みながら、言う。


「先にメシ食わせてもらえます?」

「いいですヨv」

「よかった、腹ペコなんすよ」

「ただし正装してくださいネvその格好じゃ三ツ星に入れませんカラv」

「わお」


ティキがトンネルを歩く。かけていた眼鏡は煙となって消え、肌は段々と浅黒く染まっていく。


「そんなんばっか食ってるから太るんスよ」

「太ってませンv」

「ま、たらふく食えりゃブタのメシでもいいや」

「言葉遣いも直して下さいネv」


ひゅるり、とシルクハットがティキに向かって投げられる。
ティキはそれを受け取ると髪をかきあげながらそれを被った。


「ティキ・ミック卿v」

「はいはい。……千年公の、おおせのままに」


今まで着ていたみすぼらしい服ではなく、とても高価な燕尾服に身を包んだティキ。
先ほどまでの面影は既に消え、その額には7つの聖痕が刻まれていた-----























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やっと出てきたティキぽん!(感激
書きたかったのはちゃんを賭けの景品にしようとするティキと
そのティキをぐーで殴るちゃん(歪んでる

ちなみにティキぽんはちゃんが天秤だと言う事を知っています。
ロードから聞いていたんですね、日本人で金髪の、って子だよぉ、と。




2007/04/12 カルア