黒白の天秤、、ね。
あの腕っ節といい気の強さといい、予想以上にオレの好み。
さて、どうやってキミを罠にかけようか……?
灰色メランコリア 20
「よぉティッキー。Hola.」
千年公に連れられて付いた三ツ星レストラン。
恐らくはVIPルームであろう絵画のたくさん飾られた個室には、本片手のロードの姿。
ティキは思わずうげ、と声を漏らし、シルクハットを従事に預けた。
「何してんのよ」
「見てわかんねェ?ベンキョォー」
「学校の宿題、明日までなんですっテv」
千年公とロードの間に座ったティキは呆れた様に溜息を吐く。
ロードはそんなティキにかわいらしい声で--ハートマークを飛ばしながら--言う。
「やべェのv手伝ってぇ」
「はぁ?学無ぇんだよオレは」
「字くらい書けんだろ」
そんな会話を交わす二人の横で、千年公はガリガリとノートに鉛筆を走らせている。
気合を入れる為なのか彼らしいオチャメなのかは定かではないが、頭には必勝と書かれたハチマキを締めて。
レロもそんな3人の後ろで口に鉛筆を咥えながら必死で鉛筆を走らせている。
ロードにも千年公にも頭が上がらない--まあ当然といえば当然であるが--為に、いいように使われているようである。
「今夜は徹夜でスv」
「ねぇチョット。まさかオレ呼んだのって宿題の為?」
ティキは仕方なく鉛筆を取り、教科書とにらめっこしながらノートに鉛筆を走らせ始めた。
そして暫く--およそ1時間程だろうか--して、千年公はティキにカードを差し出した。
「ひとつめのお仕事vここへ私の使いとして行ってきて欲しいんでスv」
「遠っ」
「まぁそう言わずニv」
ティキはカードに記された場所に、冷や汗混じりに言う。
千年公はそんな事関係ないとでも言わんばかりにいつものおちゃらけた口調でティキに返す。
そしてカードをスライドさせると、もう一枚カードが現れた。
「ふたつめのお仕事vここに記した人物を削除してくださイv」
ティキはそのカードを見て一瞬悲しそうな顔を浮かべたが、すぐに千年公に返事を返す。
ロードは一瞬のティキの変化に気付いたのか、ティキを訝しげな目で見上げた。
「了解っス」
「あぁ、それとティキぽんvという日本人で金髪の女エクソシストは殺さずに連れ帰ってくださいネv」
「………?彼女は“削除”しなくていいんスか?」
そういえば、と思い出したように千年公が発したの名に、先ほど汽車で出会った少女を思い浮かべる。
ティキは少しばかり歪んだ笑みを浮かべ、千年公に言葉を返した。
「えぇvイノセンスは壊しても構いませんが彼女は無傷で連れ帰ってくださイv」
「……了解」
にやりと口角を吊り上げたティキはいつもより低い声色で返事をする。
「そんじゃ宿題頑張ってね」
「ティッキィー」
そそくさと立ち去ろうとするティキの背中に、ロードは声を掛ける。
ティキはロードの声に足を止め、顔だけを振り返る。
「手伝ってくれてありがとぉ」
「………家族、だからな………」
言いながらシルクハットを深く被ると、ティキはレストランを後にした。
「ティキぽん……辛いのかナv」
「人間と仲いいレロもんねぇ」
「んー……辛いっていうかさぁ。怖いんじゃないのぉ」
2人と1匹の会話は、もちろんティキの耳には届かなかった。
***
一方、達は中国大陸へと入っていた。
小雨が降りしきる中、川を進んでいく小船のシートにもぐりながら--周囲から身を隠す為と雨よけの為に--。
アレンはシートから顔を出し、空を見上げた。
「どうしたの?アレンくん」
「なんか今…視線を感じた気がしたんですけど………パンダかな?」
「…アレンくん、中国だったらどこにでもパンダがいると思ってるでしょ?いないよ」
リナリーはアレンの突拍子も無い答えに呆れながらも答えを返した。
川を進んでいく小船を見つめる、険しい視線。
アレンの予感は間違ってはいなかった。
***
キュイン
アレンの左目がアクマの気配を察知する。
「(…6体)…伏せてください、ラビ」
「へ?」
ラビに注意を促すと同時に、アレンはイノセンスを発動させ弾丸を放つ。
「どわさ?!」
ラビは間一髪でのけぞり、弾丸を回避した。
アレンは表情を変えないまま、左目がスキャンした方角へ弾丸を放っていく。
それは正確にアクマを射抜き、確実に仕留めていた。
「5、4、3、2、1……」
アレンの背後からアクマが飛び出す。
恐らくは水に潜って近づいたのだろう。アレンはゆっくりとアクマに振り返る。
そのアクマを中心に、ラビの槌が文様を描く。
次の瞬間、アクマは炎の渦に飲まれて消えた。
「もぉーイヤさっ!!!お前怖ぇ!アクマよりお前が怖ぇ!!」
「えっ?どうしてですか、ラビ」
ラビの叫びを聞きながら、はクロウリーとブックマンに挟まれ茶を飲んでいた。
背後の壁が砕かれる直前--恐らく其処にアクマがいたのであろう--アレンの放った弾丸を避けるとまたベンチに座りなおしたのだ。
達のすぐ横で屋台を出していた店主は余りの出来事に腰を抜かし、はいずるように逃げていた。
「アレン君、すっげぇー……」
とクロウリーはアレンが打ち抜いた壁を見上げている。
ブックマンはその横で茶柱が立っているのを見つけ、顔を綻ばせていた。
「あ、じーちゃん茶柱立ってる」
はブックマンの湯のみを覗き込んで言う。
「何かいい事でも起こると良いな、嬢」
「だね〜」
「…茶柱、とは何であるか?」
聞いた事がないである、とクロウリーは言う。それもそうだ、とはクロウリーに向き直って。
「茶柱っていうのはね、こういうやつ。コレが立つといい事あるっていう、東洋の迷信だよ」
「そうなんであるか……」
「紅茶じゃ、立たないもんね〜。クロウリーはルーマニアの人だし、知らなくても無理ないか」
和やかな雰囲気が流れているすぐ傍ではラビとアレンが言い争いをしている。
そんな二人の頭上から甲高い音が響き、直後にリナリーの声が聞こえた。
反射的に空を見上げれば、猫を腕に抱えたリナリーの姿。
「「うわ?!」」
ドォン!と凄まじい音を立てて--石橋が抉れるほどの衝撃で--リナリーは着地する。
「…?何してるの二人とも」
その抉れた中心にきょとんとした顔で立っているリナリーを、ラビとアレンは腰を抜かして冷や汗を流しながら見た。
「おかえりリナ嬢、どうじゃった?」
どす、っとブックマンがラビの頭に着地しながら声を掛けた。
ラビの首が嫌な音を立て、一瞬白目を剥いたのは見ないフリをした。
「うん、捕まえてきたわ。
はい!まだ胃袋に入ってないわよ」
満面の笑みでずんぐりと太った猫を差し出すリナリー。
口からはティムキャンピーの羽が飛び出しているが、当の猫はぶるぶると震えている。
猫は慌ててティムキャンピーを吐き出すと、一目散に逃げていった。
「あーよかった、ティム」
「こいついねぇとどこ行きゃいいかわかんねぇもんなぁ」
「しかしよく食われるな」
「飼い主に似て迷子になるのはまだわかるけどね……」
上からリナリー、ラビ、ブックマン、。
ティムキャンピーはそんな4人の言葉が聞こえているのかいないのか、アレンの頭にちょこんと乗っかった。
「それにしても一体いつになったらクロス元帥にたどり着けるんであるか?」
「中国大陸に入ってもう四日。ティムの示す道を行けど一向に姿も手がかりもない」
ふぅ、と溜息混じりにブックマンとクロウリーが言う。
クロウリーは口元を押さえながら震えた声で--最悪の事態を予想したのであろう--口を開いた。
「まさか元帥はもう既に殺され……」
「あの人は殺されても死にませんよ」
「言ってっこと可笑しいぞ、アレン」
真っ青な顔で言うクロウリーにアレンが笑顔で返し、冷や汗混じりにラビがアレンにツッコミを入れる。
「でもこんな東の国まで……一体何の任務で元帥は動いているのかしら……」
そう呟くリナリーの目に、小刻みに震えるアレンの左手が見えた。
リナリーはアレンの左手を掴むと、問答無用で袖をめくった。
「うわ?!」
「う、腕!崩れてるよアレン君!!」
その左腕は所々崩れていた。
驚くラビとリナリー、そしてにアレンは冷や汗を流しながら弁解する。
「だ、大丈夫っ怪我じゃないですよ?ホラ!最近ずっとアクマと交戦続きだから……
ちょっと武器が疲れちゃったっていうか………」
「武器が疲れるなんて聞いた事ねぇぞ?」
「なんだろ、寄生型だからとか?」
「適当に言ってんだろ」
「……確かにおぬし、左目が開くようになってからわしらの倍は戦っているからな……」
必死で弁解するアレンに、リナリーは悲しそうな声で言う。
「前から思ってたんだけど………
アレンくんの左腕って…少し脆いよね……」
「……?リナリー……?」
それきり俯いたリナリーは涙を零す。
達4人は口々に泣かした、とアレンをからかうように責め立てた。
リナリーの脳裏には、いつか見た悪夢。
打ち消すように、きつく目を閉じた。
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ティキぽんはちゃんに顔面殴られた事でストライク入りました(単純)。
さてこれからどう転ぶか。
神田はあえて出していません。それはまた後々。
2007/04/13 カルア