However It's becomes last, thank you very much.
Leaving word which I could not say, I pass away.

























灰色メランコリア 26

















巨大なアクマに向かって行ったクロウリーとブックマンだったが、あまりの巨大さに攻撃は届かなかった。
再び屋根へと叩きつけられ、二人は屋根を突き破って家の中へと落ちた。


「動けるか……アレイスター……!」

「あぁ…っくそ!デカブツめ!
 世界は広いな……私の牙が届かん……っ」

「まったく……硬いのぉ……」


瓦礫にぐったりとうなだれたままの二人のいる部屋に、何かが勢い良く飛び込んできた。
それはクロウリーの近くの壁を破壊し、土煙が晴れたそこにはラビがいた。


「ラビ?!」

「うっす……」

「何やっとるアホ!奴をボコボコにするんじゃないのか!お前がボコボコになってどーすんじゃい!
 しっかりせぇ、ボケ!」

「くそじじい…っそのセリフそのまま返すさ…」

「わしゃ年なんじゃ!」


ラビは槌を支えに体を起こすとバンダナを直した。


「反則みてェに強いなチクショー……ケガに浸みる……」


「エクソシスト様!!」


ラビ達の耳にあせった叫び声が聞こえる。恐らくチャオジーのものであろう。
ラビは慌てて空を見上げた。


「まずい…っあのヤロ…リナリー達のところに……っ!!」




***




「ミランダ!」

「…体力切れ?」


倒れこむミランダをリナリーが支える。その背後から、ティキの冷たい声が耳に届いた。
逃げる間を与えずにティキはリナリーの首を掴む。


「女のエクソシスト、ね……に次いで3人目だよ、見たの。」

……ッ?!」

「そっちの貧弱そうな彼女大丈夫か?無理しすぎちゃった?」


口から血を流しぐったりと屋根に倒れこむミランダ。
ティキは冷たい表情を浮かべ、指を鳴らした。


「女は無理しないで綺麗に死ねよ」


ドス、っとティキの左胸--正確には背中から--を腕が貫く。
それはチャオジーの拳で、その有り得ない現象に戸惑いながらもチャオジーは毅然とした態度でティキに言う。


「エクソシスト様を放せ、化物!」

「チャオジーさん…だめ……」


マオサとキエも武器をティキに向かって構える。
ティキは表情一つ変えないまま、冷たい声で言う。


「シラけんなぁ。ティーズ、喰っちまえ」


ティキの背中からティーズの羽がチャオジーに襲い掛かる。
その羽はチャオジーには届かず、ティキは足元から来る殺気を感じるとリナリーを抱えたまま飛び上がった。


「危ねっ」


その衝撃でセットしていた髪が崩れ、ティキは僅かに表情を歪ませた。


「今日は客が多いな」


チャオジーの前に立ち武器を構えたのは神田。
無表情のままティキに向かい切り込んでくる。
ティキはティーズを盾に神田の攻撃を防ぐが、その動きは素早く片手で防ぐのは困難。


(コイツめっさ速っ!?)


ティキは何かを思いついたようで、口角を上げるだけの笑みを浮かべるとリナリーを神田に向かって突き飛ばす。
神田がリナリーを受け止めた隙を突いて攻撃を加えるもそれはラビの槌によって防がれた。


「ちっ」

「よっ大将。こんな修羅場で奇遇さね!」

「何やってんだお前ら」


のほほんとした顔で言うラビに神田は舌打ちを返すとそのまま近くの屋根に降りた。
空を見上げればティキの姿は見当たらない。


「いやなんかウチの元帥が江戸で仕事があるとかで……そっちは?」

「似たようなモンだ」


その二人の頭上に、巨大アクマの顔が迫る。
思わず見上げるも、何か様子がおかしい。ビリビリと空気を振るわせるほどの叫びを上げて、何かに捕らえられているようだ。


「何さ?どしたんこいつ」

「あ?マリの弦に捕まったんだろ。あいつの奏でる旋律はアクマには毒だぜ」


神田は動きが止まった事を確認すると、六幻を発動させて弦を伝いアクマの頭上へ飛び上がった。
下からでは隠れて見えなかったが、その巨大なアクマのうなじの部分に人影が見えた。


「…………ッユウ?!」

「………?!」


神田を見上げるの肌は浅黒く、額には7つの聖痕が見て取れた。
は神田を見て一瞬泣きそうな顔を見せたが、逃げるようにアクマから離れ屋根を伝って走っていく。
神田は目の前のアクマを力任せに斬りつけ破壊すると、の後を追いかけた。






***





(どうなってやがる……!のあの姿…まるで……!)


段々と距離が詰まる。神田は今自分の目の前に移るの姿に困惑していた。
ベルリーニで別れた時とは真逆の肌の色、そして額に刻まれた“ノア”の証。


(ノアみてーじゃねェか……ッ!)


神田は歯を食いしばると走る速度を上げ、の腕を掴んだ。
は小さく悲鳴を上げたが振り向く事はせずにただ俯いていた。


「……、だろ?」

「………」

「お前、その姿は何だ………」


から答えは返ってこない。
ただ小さく震える肩と、零れた雫で泣いている事だけが見て取れた。


「俺を…騙してのか?」

「違う…違う!!!!私だって知らなかった!!!!」


神田の手を振り払い、後ろに飛びのく
その瞳からは涙が零れ、の悲痛な叫びが戦場に木霊する。
神田はただを見据え、低い声で問う。


「お前は…ノアなのか?」

「ユウ!!!話を聞いて!!!!!」

「俺を好きだつったのも、俺に抱かれたのも、全部ウソか」

「違う!!!!!!」

「そうやって、騙して。欺いて。楽しかったか?なぁ!!!!!」

「ユウ…ッ!!!!!!!」


神田の六幻がを捉える。
その斬撃はの肩を掠め、の肩からは鮮血が滴った。
その傷はすぐに癒え、切り裂かれたドレスから見えた肌には傷一つなかった
肩を抑え、神田を見据える
その目は悲しみに満ちていた。


「………ッ俺は騙されねぇぞ」

「……ユウ……」


神田の目に映るは、神田の知るの姿とは全く正反対。
浅黒い肌に、額に刻まれた7つの聖痕。
琥珀の様に澄んだ瞳は金色を帯び、金糸の髪はくすんだ色になって。


「………もう、だめなんだね………?」


そう呟くの瞳から、また大粒の涙が零れる。
神田は六幻を構えたまま、一瞬瞳を見開いた。
だが、今目の前にいるのは「敵」だと言い聞かせ、再びに向かい剣を構える。


「………お前はノア、俺はエクソシストだ。」

「……そう、だね……」


は俯き、大粒の涙を幾粒も零す。
神田は胸が締め付けられるような奇妙な感覚を味わったが、その感情を振り切って。


。俺はお前を許せねぇ」

「…………そっか…………」


は自嘲気味に笑い、すっと左手を神田に向けた。
ノアは一人につき一つ、何かしらの能力を持っている。それを警戒してか、神田はとっさに六幻を構える。
彼女の、呟くような詠唱は神田の耳には届かなかった。


「……時司る精霊達よ…今一時汝らの力を我に与えよ……ストップ」


の指先から光が神田に向かう。
その光はとても早く、神田の反射神経を以ってしても避ける事は出来なかった。
瞬時に身体の自由が奪われた事を悟った神田はを睨む


!てめぇ……!」

「……ユウ。こんな私を愛してくれてありがとう……さようなら」


は悲しく笑うと、指輪を抜いた。耳につけていたピアス--神田から贈られた物だけ--も外し、神田に向かって放り投げた。
それは小さな弧を描き、シャランという音を立てて神田の足元に転がる。
神田は嫌な予感が頭を過ぎり必死での名を呼ぶも、彼女は目を伏せ神田に応えようとはしなかった。
ただ、は涙を流したまま神田に笑顔を向けて。


「…ユウが私をきらいでも、私は、貴方を愛してるよ……」


ただそれだけ告げると、高く高く空へと舞い上がる。
屋根の上で二人の戦いを見守っていたティキに、は近づく。


「ティキ」

「………どした?」

「……記憶を、消して」

「…………決心したか」


ティキはタバコを屋根でもみ消すと、の腰を抱き立ち上がる。
神田は遠目に見たその光景に、ティキを睨むがティキはを抱きかかえたまま涼しい顔をして神田に近づく。
は神田を見ないまま、ただ虚空に視線を落としていた。


「……を離せ」

「イヤだね。」

「……どうするつもりだ……」

「記憶を消すのがの望みならオレはそれを叶えるだけだ」


記憶を消す、という言葉に、神田の目に焦りの色が浮かぶ。
はティキのシャツをきつく握り締めて、ただ目を閉じていた。


「………

「………ティキ…早く」

ッ!!!!!!」


神田の悲痛な声を聞かぬように、はきつく瞳を閉じる。
ティキはの髪を撫でると、今一度神田に向き直る。


「最初に突き放したのはお前。せいぜい後悔するんだな」


そう言いながら、ティキはの額に手を掛ける。
は額に触れたティキの手に一瞬肩を震わせるものの、大丈夫という優しい声を聞いてティキに身体を預けた。


「……ッ!!!!!!!ふざけんな!!!!!」

「今更、だろー?自分から突き放しといてそれはねーぞ、少年」


ティキの手がの額から脳へと入っていく。
はきつく目を閉じたまま、脳を触られる奇妙な感触に意識を失った。


「オレの手が抜かれたら…もう少年が知るじゃない。
 少年だけじゃない…エクソシストだった事も、他の仲間だったヤツらの事も、キレイさっぱり忘れてる。
 オレはな、を泣かせたお前を許せないんだよ。」


ティキはそう言いながら、神田に歪んだ笑みを向ける。
神田は未だにの術にかかったまま、動けずにいた。
ただ、目の前で自分を忘れようとする愛する女を見ているしか出来なかった。
ティキの手がの額から引き抜かれる。
は力なくティキに身体を預けていたが、ティキの声に段々と意識は戻る。




「……ティ、キ……?」


は焦点の合わぬ目でティキを見上げる。
ティキはに視線で「終わったぜ」と言い、はそれに疑問交じりの笑顔で答える。


「…………?」

「……軽々しく呼ばないで、エクソシスト」


冷たいのその声に、神田は目を見開きティキを睨む。
ティキは楽しそうに笑いながらの身体を引き寄せ、髪を一房掴むとその髪にキスを落とした。


「………忘れ、ちまったのか……?本当に……」

「は?忘れるも何も、私とあんたは初対面よ。何気持ち悪い事言ってんの?」

「言ったろ、少年。お前らの知るじゃねぇって」


くっくと笑うティキには疑問の視線を投げる。
その視線に、ティキは「気にするな」と頭を撫でる。
はただ神田を見据えて拳を握る。


「…エクソシストなんて大嫌いよ。人間も、この世界も、何もかも。
 ……私の家族を壊そうとするヤツらはみんな嫌い。
 だから、アクマを壊すあんたも大嫌い。」

「………………」

「はははっオレの言った通りだろ、少年!」


ティキは楽しそうに笑い空を見上げる。
千年公が傘を構えるのがかすかに見えた。
ティキはに耳打ちすると、を抱えたまま上空へ飛び上がった。
その直後、神田は身体の自由を取り戻す。


「……ッ畜生ォ…ッ!」


千年公の傘から放たれた光は巨大な黒い球体となり、江戸の町を押しつぶす。
はそんな光景を見て嬉しそうに笑う。
エクソシストの少女だったの面影は、もうなかった。













***















「うわ〜…惚れるね、千年公…怖ぇ〜。江戸がスッカラカンだよ」

「あはは、千年公凄い凄い♪」


ティキは冷や汗を流し言う。
そのティキとは対照的に、楽しそうに笑いながら手を叩くのは


「ハックショイv!!ふゥー……vハックショイv!!」

「あ、エクソシストめっけ」

「まだ生きてるの?しぶといねぇ」


ティキの指差す方を見れば、確かにエクソシストの影が見える。
は溜息交じりに言い、杖に座ったまま宙に浮く。


「倒れっかよボケ…!!」


神田は六幻を支えに立ち上がる。
ラビやマリも立ち上がるが、その姿は弱弱しい。


「ねぇ千年公、あれ何かしら?」

「……オヤ?おかしいですねェあのイノセンス……v」


が見つけたのはリナリーのイノセンス。
千年公は低い声で言うと、そのイノセンスに向かって下降した。


はロードんとこ行ってな」

「…独り占めする気?」

「心配しねーでも殺しゃしねぇって」


ティキも続いて降りていく。
はぶぅ、と頬を膨らませると、その場から飛び去った。













***



















「ロードぉー」

「あれ?じゃん、ティッキー達はぁ?」

「追い返された。エクソシスト、一人でいいから仕留めたかったなー」

「(…ティッキー、の記憶いじったなぁ?)そっかぁ。じゃあ僕とお茶でもしてよぉー?」

「うん」


ロードは先ほどとは違うの様子に確信を得ると、の分も紅茶を淹れ始めた。
はぼんやりと窓の外を眺めている。


「ねぇ」

「何ぃー?」

「エクソシストの男にね、妙な事言われたよ」

「妙な事ぉ?」

「忘れちまったのかとかなんとか。初対面だっつーの」


けっ、と悪態を吐くにロードは笑う。
こっちのの方が僕は好きだなぁ、と思いながら。


「キャハハハ」

「アイツ、絶対私のこの手で殺してやるわ。気色悪い」


カップに視線を落とすの目には、悲しみとも狂気ともつかない光が宿っていた。












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一番書きたかったシーンですこれ。
相変わらず歪んでるなぁ私。
神田とちゃんの初夜(あ)はいつか番外編で。本編に入れると話が以下略だったので省いちゃいました。




2007/04/14 カルア