黒の教団。
新入りエクソシスト、

これが現在の私の肩書き。

そしてこの世界で生きていく為の、私の立場になった。











灰色メランコリア Ver.P-Type 03

















って日本人なんだ」

「うん。コムイさんから聞いたんだけど、日本人のエクソシストいるんだってね?」

「神田の事ね……神田は気難しいから…大変かも」

「同じ事言ってる…」


教団へ来て3日目。現在はリナリーと食堂で少し遅めの朝食を取っていた。
寄生型という事もあり、の目の前には大量の食料が積まれていた。

ちなみに今日はオムライス、ミートソース、マカロニサラダ、ナシゴレン、チンジャオロース、ホイコーロー、餡かけチャーハン
更に春巻き30本にシュウマイ50個、餃子20個に味噌汁、デザートはバケツ程はあろうかという器に目一杯盛られた杏仁豆腐。

リナリーは最初こそ驚いてはいたものの、私寄生型だからじゃない?というの言葉に納得した。
神田はどうやらフランスまで任務へ出ていて不在--私が教団に来る2日前、つまり今日から5日前に出発したらしい--だったが
今日の夕方には戻るはずだから戻ったら紹介するね
とリナリーが言ったので少しばかり気が重くなっていたのは言わないで置いた。
任務へはまだ向かう事はなく、リナリーに教団の案内をしてもらったり、一人で修練したりして過ごしていた。
が身に纏うのはエクソシストの団服ではあったが、リナリーのものとは多少デザインが異なる。
上着は足首まであるコートだが、腰から下--つまりは足の部分--は動きやすいように開いている。
リナリーのスカートとは違い、ホットパンツにオーバーニーのブーツカバーだ。
袖は腕の武器化がメイン、というの言葉を受け、先端が大きく開いた取り外しの出来るデザインになっている。


「……ねぇ、のイノセンス、後で見せてほしいな」

「別にいいよ?リナリーのも見せてね」

「ええ、もちろん。じゃあ食べたら修練場に行きましょう」


その後は話をしながらゆっくりと食事を続けた。
リナリーもも、歳が近く女性のエクソシストの友人が出来た事が嬉しいらしい。
出会って3日目とは思えない程親しい様子だった。
そんな二人を、周りの人間はほほえましく見守るのだった。














***











「……じゃあ、発動するね」

「うん。」

「……イノセンス、発動」


は胸元に手を当ててイノセンスを発動する。
の右腕は大剣、左手は盾へと変化した。
リナリーはその光景をまじまじと眺め、感心したように口を開いた。


「それがのイノセンス?」

「うん。【戦女神の武器倉庫(ラジカル・トランス)】っていうの」

「すごいね……」

「まだ不慣れだから、変化できる武器には限りがあるけど……今色々勉強中でね?」


はそう言いながら、右手を大剣から斧、斧から鎌、鎌から銃へと次々と転換していった。
イノセンスの力だという事がわかっているリナリーの目にも、それはとても幻想的に映った。


「……凄い……」

「…こんな感じ。これだけじゃないんだけどね」

「そうなの?」

「うん。まだ色々あるよ。」

「へぇー……ねぇ、全部見せてっていったら怒る?」

「んー別に怒らないよ。私も修練したいと思ってたし。」


リナリーは関心したようにの両手を見つめていた。
はこの際だから修練もかねて、とリナリーに今現在自分が使える限りの能力を見せる事にした。


「……ラジカルトランス……“守備の型”、“バリアントアーマー”」


の体が光に包まれたと思えば、彼女の身体は銀色の鎧で覆われていた。
おおよそ鎧と聞いて連想される厳つい物ではなく、言うなればRPGゲームに登場する女性キャラが着けているような薄手の鎧だ。


「それ、第一開放、よね?」

「…?うん、多分ね」

「それなのにこんな能力があるなんて…凄いね」

「そうなのかな?私、まだよく判らないや」


そう返しながら、はイノセンス発動を解除した。
体力の消耗がやや激しい、とキールに言われていた通り、軽くではあるが倦怠感に襲われた。
攻撃系の変化はそうでもないが、防御系の変化にはかなりの体力を削ってしまうようだった。


「ちょっと疲れたなー…休憩しよっか」

「うん」


リナリーとは二人並んで修練室の端へ腰を降ろす。
30分程話し込んで時計に目を遣れば既に午後6時を回っていた。


「ありゃ、リナリー、もうすぐ夕飯の時間だよ」

「え?あ、本当だわ…案外長い時間此処にいたね」

「だね…そういえばおなかすいたかも。食堂行こっか。リナリーのは今度見せて」

「そうね。」


早く行かないと席がなくなる、というに急かされ、何時もより少しばかり早足で二人は食堂へ向かった。


















***













「ハロー、ジェリーちゃん」

「あらん!ちゃんにリナリーちゃんじゃないの!」

「おなかすいちゃって…ライスと味噌スープとアジの干物20人前、春雨サラダと卵豆腐と茶碗蒸し15人前とー
 あとデザートにあんみつとシュークリーム20人前お願い」

「リナリーちゃんは?」

「私はBセットでいいわ」

「はぁーい。すぐできるから待っててねん!」


ジェリーはそう言うと素早く厨房へ姿を消した。
とリナリーは食事を待つ間会話をしていた。
それを暖かい目で見守るのは食堂にいる教団の男性陣達だ。

日本人でありながら金糸の髪を持つキレイな子が入団した、と。

物珍しさも手伝って、の噂は男所帯と言って差し支えない黒の教団に忽ちの内に浸透したのだ。
の髪が金色なのは彼女が髪を脱色しているからなのだが、この時代ではそういう習慣はまずないだろう。
透ける様な白い肌に琥珀色の瞳、そして金糸の髪。どこから見ても日本人とは程遠い外見だった。
の生きていた21世紀ではさほど珍しくはなかったのだが。


「おっまたせー!」

「ありがと、ジェリーちゃん」

「ごゆっくりんv」


語尾にハートマークをつけて食事を手渡すジェリーに礼を言い、二人は向かい合ってテーブルに着いた。
はカートを使って食事を運んでいたが(寄生型は大食いが多いため備え付けられている様だ)。
それから暫く--30分程--かけて二人は食事を終え、紅茶片手に雑談していた所に声がかけられた。


「あ、、あれが神田。ほら、あそこのポニーテールの…」

「…今注文してる子?」

「そう。あのね神田ってかなり気難しいって言うかとっつきにくいところあるけど根はいいヤツだから…」

「うん、仲良くなれるよーに努力します」


リナリーはのその答えに満足げに笑みを浮かべると、椅子から立ち上がり神田を呼んだ。
いきなり掛けられた声に神田は驚いたが、リナリーの向かいに座っていたを見ると新入りの紹介か、と納得した。


「……んだよ」

「神田、この子この間エクソシストになったちゃん。神田と同じ日本人よ」

「……なんでいちいちオレに紹介すんだよ」

「年の近い日本人よ?性別は違うけど」

「……訳判んねぇ」


神田は溜息を吐くと、リナリーの隣--と言っても椅子2つ分程距離を取って--に座った。
はいくらか緊張している様子で、俯き加減に紅茶を飲んでいたが、神田が六幻を置いたのを見計らって声を掛けた。


『初めまして、です。えっと…神田くん?』

『………あぁ』


神田はいきなり日本語で声を掛けられた事に驚き、に視線を向ける。
は相変わらず笑顔で--と言っても造り笑顔ではあるが--神田を見ていて、神田はのその表情に僅かに顔を赤くした。


『神田……名前は?なんていうの?』

『教えてやる義理はねェだろ。名前で呼ばれるのは嫌いなんだ』

『……あ、そ』


なんだこいつ最低だな私がせっかく仲良くなろうとして笑顔まで作って声かけてやってんのにシバキ倒すぞパッツンが。
は心の中で毒吐きながら頬杖を付き露骨に視線を逸らすと、深く溜息を吐いた。
そんな二人を見てリナリーは苦笑いを浮かべ、の耳元で--神田には聞こえぬように小声で--言った。


「神田のファーストネームはユウ、よ。あれは多分照れ隠しね。顔、赤いもの」

「ユウ……あーそれで名前で呼ばれるの嫌だって言ってたのか。」

「?どういう意味?」

「英語で“YOU”、つまりキミとかアナタとかオマエとか。そういう意味合いだから嫌なんじゃない?」

「……なるほど」

「漢字で書けば多分…“勇”か“雄”ね。“優”は絶対有り得ない」

「……そうね……」


漢字が判る中国人と日本人ならではの会話ではある。
は団服の内ポケットから取り出した万年筆で、備え付けのペーパーナプキンに漢字を書いていく。


「“Brave”ね。“Tender”は有り得ない」

「ねー」


さりげなく失礼な二人である。これに神田が気付いていれば恐らく食堂の半壊は免れなかっただろう。
幸いにして神田は食事に集中しているようで、気付いてはいなかったが。
そんな密談--少しばかり意味は違うが--をしていたところに、食堂の外から声が掛かる。
声の方に視線を向ければ、山のような書類を抱えたリーバーがいた。


「おーいたいた。ー!室長が呼んでんぞー!!!!」

「リーバーさんだ…任務かなぁ?」

「そうじゃない?、初任務だね」

「うん。ごめんね、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


にっこりと笑って手を振るリナリーにも笑顔で答え、大きな声で返事をしながらリーバーに駆け寄った。
神田は視線だけをに投げたが、またすぐに視線をテーブルへ戻した。
用事はやはり任務だったようで、は少し早足で室長室へと向かっていった。



















***
















「済まないね、ちゃん」

「いえいえ。で、任務ですか?」


相変わらず書類が散乱する室長室。は赤いベルベット地のソファに腰掛けていた。
目の前には資料片手のコムイの姿。
…もしかして一人で任務とか?
は最初からそれは勘弁して欲しいと願っていた。


「うん。ちょっとね、ドイツの方へ行って欲しいんだよね」

「ドイツですか。」

「西ドイツの小さな街でね、最近ちょっとおかしな事があるらしいんだ」

「おかしな事?」

「古い炭鉱があってね。どーもそこがおかしいらしくって。なんでも夜になると光ってるって話でさ」

「光ってる…?」

「そう。そして何故か、その炭鉱からは尽きることなく石炭が採れるんだってさ」


炭鉱かぁ、なんか嫌だなぁ絶対服汚れるし肌荒れるよ。
初任務が単独でしかも炭鉱ってなんだこれイジメ?つかイジメだろこれ?

はそう思っては居たが、口に出す事はしなかった。
先日科学班の一人がコムイに反論して怪しい薬の実験台にされていた事を思い出したからだ。


「そりゃ怪しいですねぇ」

「だろう?だから、行って欲しいんだ」

「……え、私単独?」

「うん」

「…初任務ですよ?」

「そうだね」


そうだね、ってオイ。
は心の中で恨みを込めてツッコミを入れた。


「……えぇええええ……」

「探索部隊が何人か同行するしアクマがいるって情報もないからダイジョーブ☆
 探索部隊の人が来るまでの間これ読んでてね」


初任務が単独任務ってどーなのよ、とは心の中で愚痴る。
リナリーの兄貴じゃなかったら絶対半殺しにしてる。
そう考えながら、コムイから手渡された資料に目を通していく。

資料には概ねの詳細が記されていた。
奇怪が起こり始めたのは2週間程前、炭鉱自体は100年近い歴史があるが鉱物はどれだけ採っても尽きる事がない。
光る炭鉱に誘われるように入っていた人間が8名程行方不明になっている。
アクマの目撃情報は今のところ確認できず。イノセンスの疑いあり。

(……アクマいなきゃまぁ…大丈夫そうだけどなぁ……うーん)

45分程で探索部隊が来て、結局は悩みながらもその日の内にドイツへ向かう事になるのだった。




















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タイムラインは原作よりも少し前。
そしてプロトタイプは話の流れが全く違う。
炭鉱なのはあの人と遭遇させる為☆(ぁ


2007/04/04
2007/04/30 加筆 カルア