探索部隊の人が置いていった通信機に、その夜通信が入った。
コムイさんからの連絡で、団服は4日くらいで出来るけどゴーレムは1ヶ月くらいかかってしまうらしい。
ゴーレムの構造はそれはそれは複雑なようで、設計図があるとはいえかなりの精密機械なのだから無理もない。
兎に角、初任務で負担を掛けたお詫びに1ヶ月の休暇だからゆっくりしておいで、とコムイに言われてしまい
強制的に1ヶ月の休暇を取る事になってしまった。
























灰色メランコリア Ver.P-Type 05




























「1ヶ月もかい?」

「らしいんです。なので此処で働かせてもらえませんか?さすがにタダ飯食らいってのはちょっと…」


翌日朝早く、食堂の奥のキッチンへ行ったは朝食の下ごしらえをしていたミラに声を掛けた。
電話が来て、迎えが来るまでには1月程掛かるのでその間此処で働かせて欲しい、と。


「おやおや。エクソシストさんはそんな事気にしなくてもいいのにねぇ」

「……?ご存知なんですか?」

「まぁね。2年くらい前だったかねぇ、あんたらがアクマって呼んでる化け物がこの町に現れてね。
 それを退治してくれたのが、が着てた服と似た服を着た男でねぇ。左胸の十字架、同じだったしね。
 彼から色々話を聞いたんだよ。だからを見た時にエクソシストだ、って確信したのさ」


ミラ曰く、彼女がエクソシストに出会ったのはで二人目との事。
アクマに親友を殺され、自分も殺されかけていたところを助けてくれたのがエクソシストだったらしい。
その後、伯爵の誘惑に乗らぬようきつく言われ、ミラはエクソシストと教団の事を聞いた様だ。
要は半分サポーターの様なものらしい。


「そーだったんですか……あの、でも私エクソシストって言ってもまだなって1週間の新米で」

「おやおや。そうだったのかい。まぁ人手が増えて助かる事はあっても困る事はないからね。
 がそういうなら1月の間お願いしようかねぇ」


ミラは笑いながらの頭を撫でる。
もそれに釣られて笑い、袖をまくって食事の支度を手伝い始めた。









***







「さって。これで朝食の準備は終わりだね。さ、もこれ持って!」


2時間程掛けて、50人分の朝食を用意した。
寄生型のは一人でも平気で平らげられる位の量だったが、ミラにとっては大量だ。
用意した朝食を満足げに眺めたミラから手渡されたのは、おたまとフライパン。


「えーっと、まさかこれで起こすとか?」

「そうでもしないと起きないからね。」


さぁ行くよー、と足取り軽く食堂を出たミラに苦笑いを零しながら、も後を追った。


「ほらほら朝だよー!とっとと起きてメシ食いなぁ!」


がんがんと盛大な金属音が廊下に響く。
正直耳を塞ぎたかったが、はそれを堪えておたまでフライパンを叩いていた。


「相変わらず過激な起こし方すんなぁ…女将ぃ」

「こうでもしないと起きないだろ。とっとと食って仕事行きな!」


頭を押さえて廊下に出てきた男を一喝しながら、ミラは尚も金属音を響かせ廊下を歩く。
は2階行ってきますーとミラに告げると、階段を上りながら金属音を響かせていた。
どうやらツボにハマってしまったらしく、それはそれは楽しげな表情で。


「あっさでっすよー!起きてくださぁーい!」


がんがんがががんががががんががん!
リズミカルな音が響く。の通った部屋の扉が開き、中から男たちが顔を出す。


「おじょーちゃん…女将と同じ起こし方かい…」

「こうでもしないと起きないって言ってました。ご飯できてますから早く食べちゃってくださいねー」


フライパンを叩くのを辞めないまま言うと、は楽しげな足取りで廊下を進んで行った。


「あ、」


ふとが足を止めた部屋。ルームプレートには乱雑な字で“Tyki”と書かれていた。
は何かたくらんだような笑みを浮かべると、ゆっくりとドアを開く。
鍵は掛かっておらず、安易に開いた扉から中を覗けばベッドが盛り上がっている。
ティキは熟睡しているようで、扉が開いた事に気付いていない。


「………ふっふっふっふ」


はティキにゆっくりと近づき、ティキの耳元でゆっくりとおたまとフライパンを構える。
心底楽しげな笑顔を浮かべて。


がんがんががががががががんがががん!!!


「うおぁっ?!」

「ぐっもーに……ん……」


その轟音にティキは飛び起き、は満面の笑顔でティキに言う。
ティキはイマイチ事態を把握し切れていない様子で、目を見開いてを見ていた。
で、メガネを外したティキの顔に見惚れていた。昨日と余りに違いすぎるからだ。


?」

「………あ、朝ですよ。とっととメシ食って仕事行け」


にっこりと満面の笑みで--見惚れていたのを気取られない様に--言い放つに、漸く目覚めたティキは眉を吊り上げた。
の腕を勢い良く掴むと、そのまま自分の方に引き寄せて。


「うわぁっ?!ちょ、何すんだ変態っ!」

「いやぁ、随分過激な愛情表現だと思って。なんかいいなー新婚さんみてェ」

「違…ッ離せえぇぇええええ!!!!!!!」


当然、はティキに抱き締められる格好になり。
素顔のティキに見惚れてしまったという事実もあって、は顔を真っ赤にして暴れている。
が、ティキにはそんな抵抗も意味はなく、容易に押さえ込まれてしまう。


「細ぇなー…もっと食わねーと出るとこ出ねーぞ?
 オレとしてはスレンダーな子でもいいけどやっぱ出るとこ出てる方がイイし?」


あろう事か胸を撫でながら耳元でそんな事を囁いたティキに、は照れ隠しも相まってフライパンを握り締める。
小刻みに震えだしたに気付いたティキは何を勘違いしたのか抱き締める力を更に強くした。


「ッ余計なお世話だぁぁぁあああぁぁあっ!!!!!!」


まず太ももに一撃。緩んだ腕から抜け出して脳天に一撃。オマケにおたまで顔面に一撃を加えたは怒り心頭にティキの部屋を出た。
その顔は真っ赤で、フライパンを持つ手は震えていた。


「はは。気ィ強ぇなぁやっぱ」


ティキは頬を抑えながら嬉しそうに言うと、顔を洗って部屋を出た。
が部屋を出てから15分後。

























***



























『信じられない何アイツいきなりあんな事してきた挙句あんな事言うなんて失礼極まりないっつーの
 そりゃ私は貧乳だしスタイルだってよくないし典型的日本人体型してるけどさ……っ!!!!
 だからってあれはないだろあんの変態……っ今度やってみろ、フライパンなんかじゃ済まさねぇぞ……』


は目の前に詰まれた大量の食事を次々と口に運びながら日本語で愚痴を零していた。
が寄生型で大食いだと言う事を知っているミラ以外は、呆然とその光景に見入っていた。
細身のが、軽く40人分はあろうかという食事を止まることなく食べ続けているのだから無理もない。


『思い出したら腹立ってきた……!大体なんであんな事言われなきゃなんない訳?まだ知り合って2日目だよ?
 欧米の男は手が早いってホントだなオイ。マジでヤれりゃ誰でもいいのかもう少し慎みってモンを持ちやがれってんだクソが
 そりゃボンキュボンのナイスバディな外人のねーちゃんに比べたら貧相な体してっけどあれはさすがにないわ……!!!!』


の鬼気迫る表情に、男たちは何も言えずにいた。
迂闊に声を掛ければ怒りの矛先は間違いなく自分に向いてくる事が明らかにわかったからだ。
そんな細い体の何処にそんだけの食い物が入るんだ、とか
なんでそんなに不機嫌なんだ、とか
聞きたい事はたくさんあったのだが聞けないままだった。


「お?何、なんで皆食ってる手ぇ止まってんの?」


そんな中能天気な声を上げて食堂に入って来たのはの怒りを買った張本人のティキだった。
は耳に届いたその声に一瞬食事をする手を止めると、手元にあったナイフを手に取った。


「……つかあれちゃん?すげぇ食うね。」

「………死んでしまえっ!」


ひゅっ がすっ
投げられたナイフはティキの頬を掠めて壁に突き刺さった。


「………へ?」

「ティキ……てめぇお嬢ちゃんに何したんだよ……」

「え?いや待ってなんでナイフ投げられてんのオレ?」

「知るか。食堂入るなりあれだ」


先程の出来事と、不機嫌な。そして飛んできたナイフ。
ティキは事態を把握すると、笑顔を浮かべてに近づく。


「………近づくな変態。半径10メートル以外に近づくな変態。死んでしまえ変態。」

「おーいそれって結構傷つくんですけど?」

「ッあんたに胸触られた挙句貧相な体とか言われた私の方が傷ついてんだよ変態!死ね!」


ティキを睨んだまま言うにティキは笑顔で声を掛けた。
が、それは余計にの怒りをあおり、は勢い良く椅子から立ち上がると近くにあったパイをティキの顔面に叩きつけながら叫んだ。


「………ティキ、お前なぁ」

「信じらんね…手ぇ早すぎ」


が放ったその一言に男達は呆れた声でティキに言う。
ティキは顔中に付いたパイを口に運びながら、へらっと笑った。


「ッ笑ってんじゃないわよ!!!」


その態度がまたもの怒りをあおり、今度は果物ナイフをティキに向かって投げつける。
其れはさすがにまずいんじゃ、と男たちは冷や汗を流したが、ティキはそれを簡単に避けた。
ナイフは鈍い音を立てて壁に突き刺さった。


「ごめんって。冗談ジョーダン♪許してちょ」


てへ、っと効果音が付かんばかりの笑顔で言ったティキに、今度こそはキレた。
肩を震わせながら何も乗っていないテーブルを掴むと、持ち上げた。


「え、ちょ、待って待ってマジごめんって!そんなんで叩かれたらオレ死んじゃう!」

「………死んで結構!天誅ッ!!!!」


めご、と鈍い音を立ててテーブルはティキを巻き込み床にめりこんだ。
はさかさまになったテーブルの上で数回飛び跳ねると一応気が晴れたのか
元いた場所に座りなおすと何もなかったかのように食事を続けた。


((((((お嬢ちゃんだけは怒らせないようにしよう……))))))


テーブルの下敷きになったままぴくりとも動かないティキを見て、男たちはを怒らせる事だけはしまいと固く心に決めるのだった。








































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白いティキはヘタレてていい。黒いティキはサド全開だったらいい。





2007/04/30 加筆 カルア