あの一件以来、私は露骨にあの変態…ティキを避けていた。
なんでだか判らないけれど、近くにいるだけでドキドキしておかしいんだ。
あんな事されて、あんだけ失礼な事言われたからだろうって思っても何か違うみたいで

正直、訳判らなくて嫌な訳。


























灰色メランコリア Ver.P-Type 06


























ちゃん」

「っ?!」


今日も同じ。声を掛けてきたティキの顔を見ないまま、は逃げる。
ここ1週間、それの繰り返し。繰り返しのはずだった、のだが。


「なぁ話聞いてよ。さすがにそこまで露骨に避けられるとオレでも傷つくよ?」


がっちりと捕まれた腕はの力では振りほどく事は出来ず、それに加えて背後からかかるティキの優しい声。
素直になれない自分が悪いのだと判ってはいたのだが、素直になれないのは生来のの性格なのだ。
は腕をつかまれたまま、床に視線を落とした。
今は昼で、皆仕事で鉱山へ行っていて、ミラも買出しに出ていて宿舎には一人。
当然今いる談話室にも一人で、そこに現れたのは一番会いたくない男で。


「……今度はどんな失礼な事言ってくれる訳」

「違ぇって。マジごめん、そんな傷つくとは思ってなかった」

「あんたは軽い気持ちで言ったんだろうけどね。」

「だからごめんって言おうとしてたのに、ちゃん露骨にオレのこと避けるんだもん。謝れねぇって」

「……で?」


相変わらず二人の視線は合わないまま。は腕を掴むティキの体温に困惑気味で。
強まる鼓動を気取られないように、わざと抑制のない声でティキに応えていた。


「マジで反省してますすいませんでした。だから許して」

「………今度やったら殺すよ」

「…胆に命じときます」


ティキは顔を紅くして俯いたに思わず微笑を漏らす。

(やっと出てきたね。効果が)

ティキはそんな意味深な言葉を心の中で呟くと、の肩に手を掛けた。
途端、の背が大きく跳ね、は身体を強張らせて弱弱しい声でティキを呼ぶ。


「なー、なんでオレがあんな事したかとか…気になんねぇ?」

「……欧米の男は手が早いっていうから」

「あー違ぇなーうん、惜しいっちゃー惜しいけど」

「どういう意味よ。ていうかさっき言ったこと忘れてない?」

「だから違うって。本当にわからない?」


ティキは声に怒りが篭りだしたをゆっくりと振り向かせると、視線を合わせて微笑んだ。
メガネの奥に見えたティキの瞳には一層頬を紅潮させて、露骨に視線を逸らす。


「そーいう反応されっとさぁ、オレも期待しちゃう訳よ」

「何が」

「オレね、ちゃんが好き。」

「………は?」


ティキのその一言に更に顔を紅くしたは目を見開いて驚きの声を上げた。
ティキはのそんな表情に嬉しそうに笑みをより一層深くすると、の頬を優しく撫でた。


「だから、ついあんな事しちまったの。オレって育ち悪ィからさ、大目に見てよ。」


な?との顔を覗き込みながら言うティキに、今度こそは息を詰まらせた。
そんな事にはお構いなしに、ティキはの頬を撫でる。


「………ティキ」

「ごめんなー。っていうかさ、その態度は肯定と受け取って構わねぇ?なんかさっきからすっげぇ嬉しいんだけどオレ」

「………っ」

「図星?」

「ば、かっ!」


はティキの胸を殴る。ティキは予想外のその衝撃に一瞬息を詰まらせたが、照れ隠しという事に気付くとをその腕に閉じ込めた。
は突然の事にじたばたともがくが、何せ身長差は20cmはゆうにある。その抵抗もほぼ意味を成さなかった。
167cmと女性にしては長身と言えるから見ても、188cmのティキはとても長身なのだ。


「はは。可愛いなーは♪」

「う゛ー………馬鹿。学ナシ。変態。セクハラ怪人。メガネ詐欺」

「何最後のメガネ詐欺って」

「反則だ。メガネ外したらかっこいいんだよこの馬鹿。学ナシ。変態。」

「ねぇそれって褒めてんの貶してんのどっちなの」

「褒めてんのよ気付けよ馬鹿」


顔を紅くして自分を見上げるに、ティキはまいったねと自嘲した。
最初は利用するつもりで記憶を消し、自分に惚れるように記憶を操作したはずなのだけれど。
いつの間にか、自分まで彼女に溺れていたらしい。掛けた暗示も思いのほか強く働いている。
黒い自分のことは綺麗さっぱり忘れている、というのは今日まで彼女を観察していても明らかで
それと同時に白い自分に彼女の気持ちが傾いているという事もまた明らかだった。
順調に事が運んでいる、と思っていた矢先の出来事だ。


「はは。サンキュ」

「メガネ外せばいーのに。そんなに目え悪いの?」

「いや?伊達だけど。」

「なんでメガネしてんの?」

「オレってばカッコイイから女の子がほっとかないでしょ♪」

「………は。死ねば」


おどけて言えば心底軽蔑しきった口調と視線で言われてしまう。
ティキがあらーと冷や汗混じりに呟くと、はその隙を付いてティキからぱっと離れた。


「あれ、何で離れちゃうの」

「ばーか。これからやる事一杯あんの。ティキもとっとと仕事戻んなさい!ミラさんに言いつけるよ!」

「げ。それはやめて」

「だったらとっとと帰れこの変態」


にっこりと満面の笑みで言い放つにティキはそれ以上何も言えず(右手にナイフを持っていることに気付いたからだ)
ティキは何かを考え付いたようにを見つめると、触れるだけのキスをして仕事場へ戻って行った。
のは突然の事に驚き、紅かった顔を更に紅くしてティキを殴る。
ティキはのその態度に嬉しそうに笑みを浮かべながら、足取り軽く炭鉱へ戻っていった。


「……心臓に悪いっつーのよもう……」


ティキが部屋を出てすぐに床にへたりこんだは顔を真っ赤に染めてそう呟いていた。


























***

























「おいティキ、てめぇと何かあっただろ」

「んぁ?何かって何が?」

「さっきのの態度明らかにおかしかったじゃねーかボケてんじゃねーぞ」


時は過ぎ、夕飯中。
キッチンでせわしなく動き回ると、目の前で食事を続けるティキを交互に見たクラックは僅かに怒りを含んだ声で言う。
先程、ティキ達4人に夕食を運んできたの態度がどこかおかしかったのだ。


「何かってなぁー察しろよお前らガキじゃねーんだから」

「………マジかお前ホント手ぇ早ェな軽蔑すんぞ」

「手ぇ早いって…1週間よ?よく我慢したもんだよオレも」

「で?」


フォークを片手に詰め寄るモモに、ティキは思わず苦笑いを零す。
男所帯の鉱山に突然現れたは、密かに男たちの間でアイドルのような存在になっていたのだ。
元々若い女性になじみのない鉱山という場所柄もあって、が働くようになった翌日には、だ。

そんなが、ティキとそういう関係になってしまった。

興味本位というのもあるが、半分は八つ当たりのような物で。


「で、ってなぁー……」

「まさか昼に抜け出した時に食っちまったとかねぇよな?」

「まだ食ってねーよ。告ってちゅーしてそんで終わり」

「「ハァ?!」」


さらっと言ったティキに、クラックとモモは驚きの声を上げる。
それは食堂一帯に響き、食事をしていた男たちは一斉にティキ達に視線を向ける。
キッチンでせわしなく動き回っていたも足を止めた。


「何だよ」

「お前………うわーマジ信じらんね」

「ありえねぇー……」

「え、ちょっと待って何オレだけが悪者みたいな言い方やめてくんね?ちゃんと合意の上でしたんだぞ?偉くね?」

「そういう問題でもねーだろ」


ティキはをちらりと横目で伺う。
笑顔の裏に怒りを宿して、彼女は包丁を手にしていた。これはマズい。
ティキは冷や汗が流れるのを感じたが、目の前の二人は止まらない。


「大体なぁ、まだ19だぞ?軽く犯罪だぞ?判ってるか?」

「26くらいだろお前。7歳差だぞ?ロリコンかお前」

「いやいやいやいやさりげなくそれにも失礼だから!」

のことは言ってねぇよ。今はお前の事言ってんの」


の耳にもそれは届いていたらしく、は包丁を握る手に一層力を込めて笑っている。
ティキと目が合うと、はより一層笑みを深くしてゆっくりとキッチンを出た。勿論、包丁片手に、だ。


「え、ちょ、お前らほんとやめろってが……」

「ティキ?」

「………


そうしてティキの目の前--クラックとモモの後ろ--に立ったの背後に修羅が見えたのは決して気のせいではないだろう。
ともかく、彼女の左手に握られた包丁は怪しく輝きその切っ先はティキに突きつけられている。


「………いっぺん死んでみる?」


まるでどこぞの某地獄少女のような冷たい声と表情で言い放ったは、その包丁をティキめがけて投げ飛ばす。
ティキは慌ててそれを避けると、ティキの背後の壁にどがす、っと音を立てて突き刺さった。
びぃいいん、と音を立てて揺れる包丁にティキは本気で命の危険を感じるのだった。


「「「……スイマセンデシタ」」」


冷や汗を流して謝る3人をは軽蔑を含んだ目で見ると、くるりと踵を返してキッチンへと戻っていった。
食堂にいた男達はいつもに増して恐ろしいのそのオーラに、また怒らせないようにしようと決意を固めるのだった。























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基本的にうちのヒロインちゃんはツンデレ/ヤンデレ傾向がありますね。
ちゃんは迷走ヒロインがモデルなので余計に出てます。
というか迷走ヒロインのミサキちゃん、実は灰色で使おうとして作った子だったりします。
結局、掲載しなかったのでハンターのほうの連載で使ったというオチで。








2007/05/01 加筆 カルア