もし私がエクソシストなんかじゃなかったら
このまま貴方と溶け合う事も出来たかもね

私が何も背負わない普通の女の子だったら、きっと。

きっと、貴方とこのまま生きて行く事だってできたのにね。
でも私は神の使徒だから


貴方と一緒にいる事は、出来ないんだ。
























灰色メランコリア Ver.P-Type 08


























「ティキ?」


無言のまま連れて来られたティキの自室。
相変わらず口を噤んだまま背を向けるティキに痺れを切らしたが声を掛けた。
ティキはのその声にゆっくりと振り向くと、の頬を撫でた。


「……なぁ」


その声は少し悲しそうで、は頬を撫でる手の感触に肩を竦めた。
メガネに隠されたティキの瞳からは表情は伺えず、はただ戸惑い気味に身を任せていた。


「オレ、本当にが好きなんだわ」

「……ティキ?」

「だから、正直言っちまえば帰したくねぇ。ずっと傍に置いときたい。」

「………私は、」

「判ってんよ。どうしても捨てられない事なんだろ?」

「うん……」


ティキの手はの頬を撫でたまま。
は気恥ずかしさから視線を床に落としたまま、ティキの優しい声に耳を傾けていた。


「オレにはそれを止める権利、ねぇし。が決めた事なら仕方ねぇけど」

「……」

「………それでもやっぱ離したくねーのよ、オレは」


ティキは切ない声でそう言いながら、の体を抱き寄せた。
の身体は長身のティキにすっぽりと覆われ、視界は薄暗く反転した。


「ティ、キ」

「……が何を背負ってんのか、オレにはわかんねーけど」

「……っ」

が選んだ道なら、オレは口出しできねーし、な」


そう言いながら強められた腕から抜け出す事は出来なかった。
ティキは頷くに笑みを零し、触れていた手を顎に掛ける。
そのまま優しく上を向かされれば噛み合う視線。メガネの奥に優しい瞳が見えた。


「……ティキ」


弱弱しく名を呼んだ事を合図にするかのように重なる唇。
いつものような、触れるだけのキスではなくて全てを奪われるような深く熱いキスだった。


、顔真っ赤」

「っうる、さ……っ」

「かーわいー…」


口付けの合間に交わされる短い会話。
歯列をなぞり口内を侵すティキの舌にの熱は加速して行く。
唇を離せば名残惜しそうに銀糸が二人を繋いでいた。


「は……っ」

「キスだけで力抜けちゃった?」


かくん、と倒れそうになるの腰を抱きとめたティキがふざけ半分で言う。
そのまま横抱きに抱えると、ティキはゆっくりとベッドへ向かう。
ぎし、と小さくスプリングが鳴き、の背はシーツに沈む。


「なぁ、初めて?」

「………っ」

「マジか」


自分を見下ろしながらそう尋ねるティキの言葉には息を詰まらせた。
驚き、嬉しげなティキの声には気恥ずかしくなってティキから視線を外したが、それもすぐに戻されて


「……怖い?」

「……っう、ん」

「そっか。………ま、無理にヤる事じゃねーし、今日はキスだけな。」


そう言いながらティキは小さく音を立てての首筋にキスを落とす。
時折強く吸い上げれば、白い肌に紅い華が散った。
はその感触にくすぐったそうに身を捩り、ティキを見上げた。


「……ティキ、メガネ……取って……?」

「ん?あぁ、悪ィ」

「目、見えないのやだ……」


ティキはメガネを外し、ベッドサイドの小さな机の上に置いた。
これでいいっしょ?と笑顔で言うティキには見惚れ、顔をより一層紅く染めた。
シーツに力なく投げ出されたの両手を、ティキの大きな手が覆う。
手を繋ぎ合ったまま、相変わらずティキは優しい笑顔を浮かべていた。


「はは。マジ可愛い」

「……っバカ……ぁ…っ」


肌をなぞるティキの唇と、それに少し遅れて感じる髭のくすぐったい様な甘い感覚。
は小さく声を上げながら、繋いだ手に力を込めた。


「…っくすぐ、ったいぃ…」

「ん?気持ちよくね?」

「違……っひげ、くすぐったい……」

「あぁ……」


そう訴えるにティキは小さく笑みを零す。
そういえば今日はせわしなく起こされたから髭剃ってなかったな、と今更気付く。
が、の反応が余りにも可愛いので何か得をしたような満足感があった。


「ティキ……っ」

「んな目で見んなって。歯止め掛けてんだから煽るなよ」

「……っ」

「…ま、オレってば大人だし?嫌がってんのに無理矢理したりしねーよ。」


大事にしてぇの、と言いながらティキはの首筋に何度もキスを落とす。
シーツに散ったの長い金糸の髪が視界に入る。
シーツの白に溶けてしまいそうな、明るい色合いのの髪。


「……なぁ、この髪って地毛?って日本人だろ?」

「あ……これ、染めて、るだけ……っ」

「へぇー…どーやってやんのこれ?」

「ん…オキシドール使って、色抜くの……」


ティキはの髪を手に取りながら聞く。
は脱色剤とは言わず、オキシドールを使って脱色したと答えた。
現にこちらに来てから一度、オキシドールで脱色していたのだから嘘は言っていない。


「へー…元は黒?茶?」

「茶色交じりの黒、かな……元々、明るい髪色だったし…」

「マジか。見てみてぇなー」

「無理、だよ…?抜いた色素、戻らないし…伸びないと」

「あーそっか、染めるんじゃなくて色抜くのか」

「うん」


ティキはの髪を眺めながら時折キスを落としている。
見上げたティキのその表情はとても妖艶で、の頬はまた赤く染まる。
ティキは更に紅くなったの顔を見ると、苦笑い交じりに言う。


「だーかーらー。んな顔して煽るなっつーの。マジ止まれなくなっから」

「う……ごめん」

「冗談だって。さっきも言ったろ、キスだけって」


の後頭部に手を添えてゆっくりとの身体を起こすと、ティキはまたに口付ける。
何度も何度も、啄ばむだけの優しいキスをした。


「……ティキ、好き」

「おー。オレは愛してっけど?」

「………っ」


少しくらい驚いてくれるとばかり思っていたは、想いも寄らぬティキのその返事に言葉を詰まらせた。
ティキはそんなに笑いかけると、の身体を引き寄せて抱き込んだ。


「マジな、しかいらねぇ位愛してんの。」

「ティキ……っ」

「嬉しい事言うな。本気で襲うぞ」

「だ、って……」


耳元で言われた言葉にはティキのシャツを強く握って俯く。
7つも年上のティキには到底勝てそうもないな、と回らない頭で思った。


「……っと、もうこんな時間か」


ふと枕元の時計に目をやったティキが独り言のように呟く。
もその時計を覗き込めば、指針は午後11時を指していた。


「明日も早ぇし、寝るか?一緒に」

「え……」

「だから何もしねぇって言ってんだろ。一緒に寝るだけ」

「あ、うん……」


が小声で承諾すると、ティキはを抱え込んだままベッドに倒れこんだ。
丁度腕枕をされるような格好で、二人は横になる。


「……寝付くまでこーしててやっから」

「………うん、おやすみなさい……」


ティキは腕枕をしたままを優しく抱きこみ、片手での髪を撫でる。
ティキの煙草の香りと暖かな体温に包まれて、程なくは夢の世界へ誘われて行った。
すぅすぅと小さく寝息を立てて熟睡したを見下ろしながら、ティキはぽつりと呟く。


「………早く来いよ、“こっち側”に。」


意味深な言葉を残して、ティキも目を閉じた。















失った記憶は戻る事なく
植えられた“種”は芽生え育つ。
育ちゆくその“種”が大輪の華を咲かせるその時は、きっと。

きっと彼女は、オレの許に。











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踏みとどまったのは何故でしょう、という問題の答えは次回で!(ぇ?)
本当なら裏だったんですよこの回。
でもティキに言わせたいセリフがあったんで、大幅に修正してみました。
きっとティキは頭の中で理性と本能が大戦争だったんでしょうね(笑





2007/05/02 カルア