幸せな時間はまるで光のように早く過ぎ去ってしまう
貴方と過ごした一ヶ月、まるで夢を見ているようだった
私が何も背負わない身であったなら、このまま貴方の隣にいる事だって出来たのに
私が背負う物は余りにも大きすぎて、貴方のその手を取る事は出来なくて

それでも貴方は笑うから
私も涙を堪えて笑うんだ

また、貴方の隣を歩ける日が来ることを祈って。




















灰色メランコリア Ver.P-Type 09
























「……、お迎えだよ」


ティキと一緒に眠ってから3日。
それまでとは違う日々はあっという間に過ぎ去った。
3日後、つまり1ヶ月の休暇が終わるその日の朝早く、教団からの使いがを迎えにやって来た。


「……ミラさん」

「寂しいねェ。華がなくなっちまうよ」


苦笑い交じりにの背を優しく押すミラに、は重い足取りで部屋を出る。
階段を降りてしまえば、広間に入ってしまえばもうここへは戻れないだろう。
理解し、受け入れるつもりでいた事が現実になるとこんなにも辛いのだ。


「………お久し振りです、エクソシスト様」

「ライさん……」

「お迎えにあがりました。新しい団服と、ゴーレムはこちらに」

「えぇ……有難う」


迎えに来たのはライ。差し出された荷物を受け取ったは、広間の隣の空き部屋で団服に着替える。
1ヶ月ぶりに袖を通したその服はとても重く感じた。
新しいゴーレムは銀色で、ぱタぱタとの周りを嬉しそうに飛び回っている。


「……お前にも名前をあげなきゃね」


は飛び回るゴーレムにそう言うと、深く深呼吸をして部屋を出た。


「………お待たせしました」

、元気でね」

「……ミラさん、一つお願いが……」


はミラに一通の手紙を差し出した。
それはティキに宛てた物で、白い封筒にはの少しばかり癖のある字で「Dear Tyki」と書かれていた。
ミラはそれを受け取るとにっこりと笑い、の肩を叩いた。


「渡しとくよ。」

「お世話に、なりました……」

「また近くに来たら絶対寄るんだよ」

「えぇ、絶対に……」


名残惜しむようにとミラは抱擁を交わし、は宿舎を出る。
もう戻る事はないのだ、と振り向いた建物は此処1ヶ月で見慣れた物。
遠く、鉱山からはカーン、カーンという金属音が響いていた。

(ティキ……)

鉱山を見つめながら心の中でティキの名を呼ぶと、はライに続いて歩き出した。
駅へ向かう道、歩く足取りは重かった。














***













「……

「っティキ?!どうして、今仕事中じゃ…っ!」


暫く歩いた頃、背後からかかったのは間違いなくティキの声。
驚き足を止めて振り向けば、の数メートル後ろにティキがいた。


「あと3日、つってたからな。」

「……っど、して……?」

「恋人、見送っちゃいけねぇ?」


ライは二人の間に流れた空気を察知したのか、私は先に行って汽車の切符を確保しております、とに言い残し駅へ向かった。
後に残されたのはとティキ。二人の距離は5メートル。


「っ決心、鈍らないように…っ…ティキの顔見ないで帰ろうとしてたのに…っ!」

「バカ。んな事したらオレが悲しくなるでしょーが」

「って……だって!」

「あのな、離れてたって気持ちは一緒じゃねぇの?」

「……っ」

「オレはどんだけ離れてたってが好き。は違ぇの?」

「…違わない……っ」


段々と距離が狭まって、の視界は涙で霞んで。
ティキはゆっくりとに向かって歩き、その涙を指で拭った。


「……泣くなって」

「だって………っ」

「また会える。」

「………ッ」


ティキはを抱き締めると、その首に何かを掛けた。
ひんやりとした感触には首に目を落とす。
水晶だろうか。採掘したそのままの形で革紐に繋がれているそれは僅かに紫を帯びていた。


「これ……」

「オレだと思って持ってて。一応、オレが掘ったヤツ。」

「………ティ、キ………」


は水晶を握り締めると、片方の手でティキの背にしがみ付いた。
ティキはを抱き締める腕に力を込めると、深い深いキスを落とす。
別れを惜しむような、悲しいキスだった。


「……っふ…ぅ……っ」

「………今度会ったら、を抱くよ」

「…っ?!」

「…だから、覚悟しとけな」


ティキはの耳元でそう言い残すと、ぱっと離れて踵を返した。
はティキのその言葉に半ば放心状態で、背を向け歩き出すティキを見つめていた。


「……また、な。


振り向いたティキの瞳はメガネに隠れて見えなかったけれど
その声には確かに哀しみが含まれていた。
はその場に蹲ったまま、声を殺して泣いていた。
















***











「ライさん」

「エクソシスト様!」


10分程あの場で泣いたはゆっくりと駅へ向かって歩き出した。
いつもならば15分ほどで到着した駅まで、30分かけて歩いて。
駅のホーム、待合室にいたライにが声を掛ければ、ライは驚き振り返る。


「ごめんなさい、ご迷惑おかけしました」

「いえ………あの、大丈夫だったんですか……?」

「………、えぇ」


遠慮がちに聞いたライには力ない笑顔で返した。
ライはその態度に疑問を持ったが、自分が聞いていい事ではないと口を噤んだ。


「……汽車は?」

「あ、はい。あと30分程で到着致します」

「そう……」


はベンチに腰を降ろすと、ゆっくりと目を閉じた。
繰り返されるのは先程のティキの言葉。

(……ティキ)

首に掛かった水晶を握り締めて、は心の中で愛しいその名を呼ぶ。

(……がんばる、からね)

見上げた空は青く晴れ渡り、白い雲がゆっくりと流れていた。



















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言わせたかったせりふはどーれだ(安易に予想がつきすぎます)




2007/05/02 カルア