「ダメだよ部外者いれちゃぁ〜〜。何で落とさなかったの?!」

「あ、コムイ室長。それが微妙に部外者っぽくないんすよね」


は現在、指令室にいた。
科学班の面々とリナリー、そしてコムイ。
部屋で読書をしていた所にゴーレムに通信が入り、呼び出されたのだ。
侵入者かもしれないからだけでいいので来て欲しい、と。


「此処見て兄さん。この子、クロス元帥のゴーレム連れてるのよ」


リナリーが指差す先にはティムキャンピー。
はリナリーの横でその様子を見ている。
コムイがその言葉に反応すると同時に、ゴーレムを通した声が司令室に響いた。






















灰色メランコリア Ver.P-Type 11




















『すいませーん、クロス・マリアン神父の紹介で来たアレン・ウォーカーです。教団の幹部の方に謁見したいのですが』


「……コムイさん、どーするの?この子」

「…紹介って言ってますけど室長何か聞いてます?」


コムイはコーヒーをすすりながら困惑の表情を浮かべる。


「知らない……後ろの門番の身体検査受けて」


そのコムイの声は拡声器を通じアレンへと届く。
振り向いたアレンに飛び込んできたのはアレスティーナ。
警戒心丸出しに、アレンの顔を覗き込む。
アレスティーナのその表情にアレンは驚き、引きつった表情を浮かべている。


「クロス元帥の紹介、って事は、手紙か何か来てたんじゃないですか?」

「来てないよ〜だってボクそんなの読んでないもん」


のその疑問にコムイはコーヒーをすすりながら答えた。
読んでない、というよりは掃除が面倒臭くてしないので書類の山に埋もれていると考えるのが妥当だろうか。
そのうちにアレスティーナの叫びが木霊する。「こいつアウトオオオオオ!」と、それはもう盛大に。


「こいつバグだ!額のペンタクルに呪われてやがる!アウトだアウト!!」


アレスティーナの泣き叫ぶ声に、教団全体に「スパイ進入」の警報が鳴り響く。


「え、ちょっとあの子呪われてるって……」

「神田がもう着いたわ」


それにいち早く反応したのはやはり神田で、その警報を聞きつけすぐに門へと駆けつけたのだ。


「一匹で来るとはいー度胸じゃねぇか……」


眼光鋭く、神田が言い放つ。アレンは飛び掛ってくる神田に必死で弁解するものの聞く耳を持つはずもない。
神田の一撃を、アレンもイノセンスを発動して止める。
神田はその左腕をいぶかしげな目で見ながらアレンに問う。


「お前…その腕は何だ?」

「……対アクマ武器ですよ。僕はエクソシストです」

「……何?」


対アクマ武器、という言葉に、神田はアレスティーナを睨みつけながら険しい声で叫ぶ。
中身がわからないからどうしようもない、というアレスティーナに詰め寄るアレンを軽くスルーして、神田は再び六幻を構える。


「中身を見れば判る事だ」


そうして勢いよくアレンに向かい駆ける神田に、アレンは慌てて弁解する。


「待って、ほんとに待って!!!僕はホントに敵じゃないですって!!!!
 クロス師匠から紹介状が送られているはずです!!!!」


その言葉に神田は寸でのところで刀を止める。あと一瞬遅ければ、恐らく六幻はアレンを切り裂いていただろう距離で。
そうして「コムイって人宛に」、とアレンが続ければ、司令室の面々はいっせいにコムイへ視線を投げる。


「…そこのキミ!ボクの机調べて!」


周囲の冷ややかな視線の中、机を必死で探してみれば、へろへろになったクロスからの手紙。
読んで、というコムイの声に、科学班の一員であろう白衣の彼は手紙の内容を読み上げた。


「コムイへ。近々アレンというガキをそっちに送るのでよろしくな。BYクロス、です」

「はい!そーいう事です。リーバー班長、神田くん止めて!」

「たまには机整理してくださいよ!!!!」


リーバーの悲痛な叫びは尤もであろう。
は苦笑いを零しながらため息を吐いた。























***

















『待って待って神田くん』

「……コムイか…どういう事だ」

『ごめんねー早トチリ!その子クロス元帥の弟子だった。ほら謝ってリーバー班長』

『オレのせいみたいな言い方ー!!!!!!!』


はリナリーと共にアレンの出迎えの為城門へと来ていた。
相変わらず神田はアレンに六幻の切っ先を突きつけたまま、隙あらば斬るといった険しい表情。
はそんな神田の様子に苦笑いを零し、リナリーと二人の許へ歩く。


「もー。やめなさいって言ってるでしょ!早く入らないと門閉めちゃうわよ!」

「はいはい神田も六幻しまって。とっとと入ろ」


ぱこっ、と軽快な音を立ててリナリーが持っていたバインダーで神田をどつく。
はアレンと神田の間に(無理矢理)入り、仲裁をする。
神田はそんな二人に何か言いたげな様子だったが、この二人相手に口喧嘩で勝てる見込みは全くない為黙っていた。


「私は室長助手のリナリー。こちらはエクソシストのちゃん。室長の所まで案内するわね」

「よろしく、アレンくん」

「はい、よろしく」


神田は城内に入るなり踵を返し何処かへ行こうとする。
そんな神田をアレンは呼び止めた。


「あ、カンダ」


瞬間、ものすごい殺気の篭った目で神田はアレンを睨む。
アレンはよろしく、と手を差し出すが神田はそれを無視しようとした。


「呪わ「れてるヤツと握手なんかするかよ、なんて言ったら殴るよ神田」」

「………てめぇ」


神田の言おうとしていたことをそっくりそのまま先に言い切るを神田は不機嫌な目で睨む。
だがはひるむ事もせず、握手!と言う。
神田はのその言葉を無視して、小さく舌打ちをするとその場を去った。


「あ、こら!バ神田!」


の叫びにも神田は反応せず、は今度見かけたら殴ってやると決意を固めた。


「……(差別…!)」

「……ごめんね、任務から戻ってきたばかりで気が立ってるの」

「……なんだアイツ、本当協調性ないなぁ……」


は腰に手を当ててうんざりした声で言う。
リナリーはのそんな様子に苦笑いを漏らしていた。


「…リナリーはアレン連れてコムイさんとこ?」

「あ、うん。はどうする?」

「私?本読みかけだから部屋戻って読書してるわ」

「判った」


じゃ、またねと言い残して歩き出した
アレンは背を向けたを不思議そうな目で見ていた。


「アレン君も気になる?の髪」

「あ、えぇ…彼女、日本人ですよね?」

「そうよ。染めてるんですって」

「それで金髪なんだ……」


疑問を解消したアレンは先導するリナリーに着いて教団内を案内される事になった。





















***























「ジェリーちゃん、おはよー」

「あらんちゃん♪おはよ」

「私いつものねー」

「はぁい♪ちょっと待っててねん」


翌日、午前8時。は朝食を採る為食堂へと来ていた。
ジェリーはのいういつもの、という言葉にそれだけ言うと厨房へ姿を消す。
はカウンターに凭れて、食事が出てくるのを待っていた。
15分程で出てきた料理をカートに積み、あいている席は無いかと探し回る。
端の方に、神田がいた。その周りは何時ものように人がいない。はカートを押して神田の座る席へと向かった。


「神田、おはよ」

「………あぁ」

「ここいい?空いてなくって」

「別に構わねぇが……お前それ一人で食うのか?」

「あ、そっか。神田は知らないんだっけね。私寄生型だから大食いなの」

「……そうかよ」


しぶしぶながらも了承した神田の向かいには腰を降ろす。
そうして運んできた大量の朝食--トースト5斤にクロワッサン20個、目玉焼き10個分に山盛りサラダ--をテーブルへ置いた。


「いっただきまーす」


は手を合わせてそう言うと、いつもの通りのスピードであっという間にそれを平らげた。
と、神田の後ろに探索部隊が数人座るのが見えた。
どうやら任務で死んだ仲間の追悼をしているようで、悲しげな声が聞こえていた。










***












「(あ、アレンだ)」


後ろで捜索部隊の面々がすすり泣くような声がするがはそれをスルーし、食堂に入ってきた白髪の少年を見つけた。
ジェリーが目を輝かせているのが遠目からでもすぐに判り、相変わらずジェリーちゃんって可愛い子好きだな、等と考えてみたり。
そしてアレンの注文した大量の料理に冷や汗をかいている様子に、は視線を神田に戻す。


「何だとコラァ!!!!もういっぺん言ってみやがれ!!あぁっ?!」

「うるせーな。メシ食ってるときに後ろでメソメソ死んだ奴らの追悼されちゃ味がマズくなんだよ」

「ちょっと神田、此処食堂だよ」

「テメェは黙ってろ」

「……もう」

「テメェ…それが殉職した同志に言うセリフか!!
 俺たち捜索部隊はお前らエクソシストの下で命がけでサポートしてやってるのに…
 それを…それを…ッメシがまずくなるだとー!!!!!」


バズ、と呼ばれた大柄の捜索部隊が神田に殴りかかる。
はさして気に止める様子もなく、ただ麦茶を飲んで傍観していた。
神田は拳を難なく避けると、バズの喉許を掴み片手で持ち上げる。


「サポートしてやってる、だって?
 ちげーだろ。サポートしかできねぇんだろ。お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ」

「(もー……)」

「死ぬのがイヤなら出てけよ。お前一人分の命くらいいくらでも代わりはいる」


はぁ、とが溜息を吐いたと同時に、アレンが神田の腕を掴む。


「ストップ。関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」

「…………離せよ、モヤシ」

「(モヤ……ッ?!)アレンです」

「はっ。一ヶ月でくたばらなかったら覚えてや「いい加減にしなさい、バ神田!」ぶっ」


見かねたはトレイ(しかも縦)を神田の頭に勢い良く振り下ろした。
その衝撃でバズは開放され、神田はを睨みつける。


「ッテメェいきなり何しやがる!」

「それは私のセリフよ。捜索部隊の人たちにもアレンにも失礼だよ」

「………チッ」


神田は舌打ちをして露骨にから視線を逸らした。
は肩を竦めると捜索部隊の面々へ向き直る。


「あの、ごめんなさい。神田、馬鹿だから言い回しが効かなくって。
 決して悪気がある訳じゃないのよ?ただ言葉のボキャブラリーがないだけで。
 それに貴方たちが悲しんでたら死んだ彼も死に切れない。笑っていてあげないと悲しむよ」

「……様……」

「バズさんも、皆さんも……私に免じて許してやって下さい」


そう言って深々と頭を下げるに、捜索部隊の面々は戸惑う。
エクソシストである彼女が、立場的に部下にあたる自分たちに頭を下げているのだから当然と言えば当然。


「ど、どうか頭を上げてください!!!我々は貴女に頭を下げて頂ける立場では…!!!!」

「……じゃあ、許してあげて?私からきつーく言っておくから」

「は、はい!!!!!」


その答えにはにっこりと微笑んだ。
神田は相変わらずアレンと睨みあったまま、を見ようともしなかった。
まぁ予想できてたけどね、とは溜息を吐き、アレンにも謝った。


「アレンも。ごめんなさいね」

「あ…いえ……(さんって凄いな……)」


アレンの訝しげな視線には「?」を浮かべる。
神田は相変わらずアレンを睨んだままだった。



「あ、いたいた。おーい!神田!アレン!
 10分でメシ食って司令室に来てくれ!任務だ!」



二人の険悪なオーラに、は内心リーバーのこの言葉を待っていた。
ナイスタイミングでリーバーの声が食堂に響き、はやっと胸をなでおろせたのだった。


「………チッ」

「神田、行ってらっしゃい」

「………あぁ」


相変わらず仏頂面だったが、返事を返してくれたので一応は許してくれたのだろうとは笑う。
言い合いをしながらも司令室へ向かった二人の背を見送って、も自室へと戻って行った。

















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この後は探索部隊内で女神様とか言われて崇拝されてたらしいよ。





2007/05/03 カルア