「え、もう行っちゃったの?」

「うん。……あの二人うまくやれるのかしら」

「…しょっぱなから仲悪かったもんねー……」


出来ることなら私も行きたかった、とはため息を吐く。
リナリーはそんなを励ましながら、二人は科学班の手伝いをしていた。


ーちょっとー」

「あい?何ですかリーバーさん」

「これ、訳せるか?」


リーバーが差し出した本は日本語で書かれていた。
それはどうやら古文のようで、あまり使い慣れない文法が並んでいる。


「あーはいはい。えーっとですね……
 玉の緒よたえなばたえねながらへば忍ぶることの弱りもぞする……ああこれ日本古来の詩ですよ。」

「で、意味は?」

「私の命よ、絶えるなら絶えてほしい。
 このまま生きながらえていたら、胸の思いをこらえて、耐えている力が弱まって、
 秘めている思いが世間に知られてしまうかもしれないから。
 ……って感じだと思いますけど。」

「おう!サンキュ!」

「どういたしましてー。」


しかし何故に百人一首、と思ったが深いツッコミは避けることにした。
はその後も日本語--殆どが古文だったが--の翻訳や雑用に追われ、3日を過ごした。
























灰色メランコリア Ver.P-Type 12
























アレンが神田と任務へ向かって一週間。
はリナリーと一緒に今日も科学班のお手伝いをしていた。
夜中の差し入れと称しコーヒーを科学班へ届けに行った時、事件は起こったのだ。


「おーいみんな起きてるー?」


妙にテンションハイなコムイの声。
がその声に振り向けば、コムイの後ろに巨大なロボットが見えた。


「ジャーン!我が科学班の救世主こと『コムリンII』でーす!」

「室長ぉ…何すかそのムダにごっついロボは…」

「だからコムリンだってば。たった今やっと完成したんだよぉー」


相変わらずテンションが収まることのないコムイ。
は何か嫌な予感がしてこの場から逃げたい衝動に駆られていたが、出口はコムリンに塞がれている。
どうしようかなぁ、と考えていた矢先に、リナリーの声が上がった。


「兄さん、コムリンてコーヒー飲めるの?」


リナリーのその一言には振り返る。
コムリンはなにやら嫌な音を立て、頭部から煙を噴いている。
なんかやばい、と思ったときには時既に遅し、リナリーはコムリンの麻酔によって眠らされてしまった。


「リナリー!!!!!」

『私…は…コム…リン……エクソシスト強く…する…この女はエクソシスト……
 この女をマッチョに改良手術すべし!!!!』


「「「「「「なにぃー!!!!」」」」」


科学班一同の悲痛な叫びが上がる。
は思わずイノセンスを発動するも、間に合わずコムリンの射撃に巻き込まれてしまった。
その衝撃で大剣に転換した右手は元に戻ってしまった。


「く…ッリーバーさん!リナリー連れて逃げて!!!!!」

「おう!!そいつ壊せよおおお!!!!!」

「任せといて!!!ともかくリナリーを安全な場所へっ!!!!!」


はリーバーがリナリーを背負い走り出すのを見送ると、コムリンに向き合う。
コムリンはの存在も感知し、今度はに向かい突進してくる。


『ピピ……エクソシスト…発見……マッチョに改良手術すべし!!!!!』

「ッ冗談やめてよねっ!!!!イノセンス発動!“メガトンハンマー”!!!!」


は右手を大きなハンマーに転換させると、飛び上がりコムリンの頭上へそれを振り下ろす。
後ろでコムイが喚いていたが、そんな事はお構いなしだ。


「潰れとけっ!!!!!!」


メゴッ、と大きな鈍い音を立てて、のハンマーがコムリンの頭上に振り落とされた。
その衝撃でコムリンはショートしたようで、コムリンの動きが止まった。


「………止まったか?」


バチバチと火花を散らすコムリンに、科学班の面々は安堵の溜息を吐く。
は一呼吸置いてコムリンが停止した事を確認すると、発動を解いた。
そのの背後から、涙を流したコムイが走り寄って来た。


「イヤァアアァァアア!!!!!酷いよちゃん!!!コムリンになんてことをおおおお!!!!」

「コムイさんが悪い!今のうちにぶっ壊してくれるわ!」


は肩を揺さぶるコムイの手を叩き落とすと、再びコムリンに向き直った。
コムイは科学班の面々に数人がかりで押さえつけられていた。

今室長を離せばこの人は確実にに吹き矢を撃つ!

その思考の元、一致団結した科学班は強かった。


「……“モーニングスター”……」


ヴン、と音を立てたの右手は巨大な鎖となる。そしてその先端には鋭い棘の付いたこれまた巨大な鉄球。
直径3メートル程はあるだろう。どうやらはかなり腹を立てているようだ。


「いけー!ー!」

「ぶっ壊せぇぇええええ!」

「室長はオレらが抑えてるから安心してやれーーーーー!!!!!」


と、そんな科学班の応援を聞きながら、はゆっくりと振りかぶる。
反動を付けて、右手をコムリンに落とそうとしたその瞬間。


『ガガ…ピピピ……エ、エクソシスト…発見……ピピ……』

「え」

『捕獲ゥーーーーー!!!!!!』


ショートしていたはずのコムリンが、に向けて麻酔を打った。
不意を突かれた事ではそれを避けきれず、その場に崩れる様にして眠り込んでしまった。


「ッーーーー!!!!!!」


科学班の一人--うっすらと見えた包帯から察するにタップ・ドップのようだ--が慌ててを抱えて逃げ出す。
コムリンは後を追おうとしたが、から受けた攻撃の反動がまだ残っていたのだろう。
うまく動けずに、まるで酔っ払いが千鳥足で歩くようにふらふらと歩いては壁に激突していた。
そうこうする内に、ぼむ、っと煙を上げてコムリンはまた停止した。













***













「……ぅ……」

「あ、気付いた!」

「……タップさん?」

「コムリンの麻酔銃にやられたんだよ。動ける?」

「…なんとか……コムリンは……?」


はゆっくりと身を起こす。
周囲を見回すと、そこはどうやら廊下のようだった。
タップの白衣の上には寝ていた。


「多分、叫び声とかが吹き抜けあたりから聞こえてくるからそっちだと思うよ」

「……んにゃろ……今度こそぶち壊してくれる……」


麻酔銃のおかげで朦朧とする意識を戻すように頭を振ると、は立ち上がる。
足取りは覚束ないものの、いくらか戻ってきてはいたのでこの分なら大丈夫だろう。
寄生型なので、アクマの毒ではないとはいえいくらか浄化が早いようだ。
タップが心配そうな目で見ているが、あれを破壊できるのはだけなのだ。


「大丈夫?」

「私が壊んなきゃ誰が壊るんですか。」

「……頼もしいね、

「エクソシストですから」


はにっこりと笑うと、どこか安全なところに隠れていて下さいね、とタップに言い残し、廊下を駆けて行った。







***






「リナリー!この中にアレンがいるんだ!!!!」


吹き抜けに着いてみれば、リーバーの声が聞こえる。
声の方向に目を向ければ、黒い靴で空を舞うリナリーの姿。


「リナリー……アレンは…あの中か……」


は吹き抜けで暴れまわるコムリンと、それに攻撃を加えるリナリーの姿を見ると状況を把握した。
恐らく、アレンは任務から戻って早々にコムリンに捕まったのだろう。
そしてリナリーが麻酔から目覚めて、今に至る。心なしかリナリーの表情がキレていたのは気のせいではない。


「……イノセンス発動。“攻ノ型”、“バリスタ”」


が小さくそう言うと、の右手は巨大な弓に変わる。
そのままは柵に足を掛けると、エレベーターに飛び乗った。


!無事だったかー!」

「生きてますよ勝手に殺さないで下さい!」

「アレンがコムリンに捕まった!!!早く出さないと大変な事に…!」

「判りましたっ!リナリー少し離れて!!!!!!!!!」

!!!!!!無事だったのね!!!!!」


リナリーはの右手を見ると、コムリンから距離を取った。
の右手は5メートル程もある巨大な連弩に姿を変えていたからだ。


「…さっきの恨み…っ晴らしてくれるわ!!!!!“アローシャワー”!!!!!」


の右腕から無数の矢が撃たれた。その矢はコムリンに直撃し、コムリンはその衝撃で一時的に動きを止めた。
その隙を見逃さずにリナリーはコムリンの頭部を見事に蹴り落とす。


「いいぞリナリー!ー!!!」

「ぶっ壊せー!」

「かっこいー!」


そんな科学班の面々から飛び交う声の中、は横目でアレンが救出されたことを確認する。
そうして響き渡るぶっ壊せコールの中、リナリーがコムリンを破壊しようと片足を上げた。


「待つんだリナリー!
 コムリンは悪くない!悪いのはコーヒーだよ!!」

「ゲ!室長!」

「いつの間にあんなところにー!」


「罪を憎んで人を憎まず。コーヒーを憎んでコムリンを憎まずだ」

「兄さん……」「コムイ……」


そんな訳の判らない理屈が通るはずもなく、最終的にコムリンはコムイと共に吹き抜けの一番下へと叩き落されたのだった。




















***



















「あー疲れた……」

「お疲れ様……」

「無駄にイノセンス使ったら腹減った……」


は現在科学班研究室にいる。
もちろんリナリーと、未だ気絶したままのアレンも一緒に。
リナリーはアレンの額に乗せているタオルを冷水に浸し、絞りながら苦笑いを浮かべた。

リナリーがアレンの額に新しいタオルを乗せた瞬間、アレンがバっと飛び起きる。
リナリーは思わず持っていたタオルを落し、びっくりしたと声を出す。


「……リナリー……」

「ごめんね、兄さんの発明のせいで…」

「ここは…?」

「科学班研究室だよ。今は修理でみんな出払ってるけど」

「……さん……」

「おかえりなさい、アレンくん」

「た、ただいま……」


(おーおー、なんかいい雰囲気じゃーん)


がくすくすと笑っていると、ドアの向こうから聞きなれたにぎやかな声が響く。
あ、帰ってきた。
そう思うが早いか、扉は勢いよく開かれて。


「おーアレン目が覚めたか」

「一体夜に何があったのアレンちゃん。もー城内ボロボロよ」


みな疲れていながらも笑顔を浮かべ、アレンにおかえりと告げる。
アレンは照れたように微笑んで、ただいま、と返した。















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まぁ要は最強ヒロインってことです(いつもやんけ




2007/05/03 カルア