「はーい、いらっしゃいいらっしゃーい!」

「ピーテル劇場のホラー演劇、カボチャと魔女は本日公演〜ん♪」

「チケットいかがですか〜?」


ジャック・オ・ランタンに扮したアレン、魔女に扮したミランダ、そしてマリオネットに扮したは町の大通りにいた。
大道芸でアレンが客寄せをし、が歌と踊りで寄ってきた観客を喜ばせる。
ミランダはバスケットに詰めたチラシを配っている。

は趣味でやっていた歌とダンスが役に立ってよかったと思っていた。























灰色メランコリア Ver.P-Type 14
















「ごくろーさんごくろーさん!休憩していいよ!」


そんな3人に上機嫌で声を掛けてきたのは、劇団の団長。
どうやらチケットの売れ行きは好調らしい。は心の中でガッツポーズを決め、ヘッドドレスを取った。


「アレンくん、

「リナリー」


丁度タイミングよく、ケープで団服を隠したリナリーが声を掛ける。
はミランダを残して離れていいものかと一瞬戸惑ったが、リナリーが手を引くので仕方なく路地裏へ向かった。


「どう?この仕事は」

「うまくいったら正社員にしてくれるそうですよ」

「ホント?!」


結局のところ、時計が奇怪を引き起こすのはミランダのネガティブ思考の影響をモロに受けているからなのでは。
そういう結論に行き着き、ミランダの気持ちを前向きに変えるためにも彼女の就職を手伝おう!と提案し今に至る。
が、ミランダが自覚しているのはさすがというか、3日間で5件、仕事をクビになってしまっていた。
そんなところで見つけたこの仕事。
アレンの大道芸との歌、そして妙にマッチしすぎているミランダの魔女姿。
もしかしたら上手く行くかもしれない、と3人は内心期待でいっぱいだった。


さんって歌うまいんですね」

「あー、アレンには言ってなかったね。私、楽団にいたんだよ。踊りもその時覚えたの」


実際は中学高校と合唱部に所属していたからなのだが。
はっきりとした身元を明かしていない以上、迂闊な事は言えない。
楽団、と言って差し支えないであろうという結論からの発言だ。


「それにしてもアレンくんって大道芸上手だね」

「僕、小さいころピエロやってたんですよ」


アレンはカボチャの被り物をしたまま、大きなボールの上に逆立ちをする。
はそんなアレンに感心の拍手を送った。


「育て親が旅芸人だったんで食べる為に色々な芸を叩き込まれました。
 エクソシストになってそれが活かせるとは思ってませんでしたけど」

「じゃあ色んな国で生活してたんだ…いいなぁ」

「聞こえは良いけどジリ貧生活でしたよ〜……
 リナリーはいつ教団に入ったんですか?」


その後リナリーの口から語られた事は、今の彼女の明るさからは想像もつかない過酷な過去だった。
もしもコムイさんが教団に来なかったら、きっと彼女の笑顔はなかったんだろうな。
はリナリーの話を聞きながら、そんな事を考えていた。


「あっ!ねー、そこのカボチャと人形ぉー」


路地裏にいた3人に声を掛けてきたのは、ロード。
は人形、と呼ばれた事に表情を消した。
仕事中は表情を出さず喋らず、人形になりきれと団長に言われていたからだ。


「カボチャと魔女のチケット、どこで買えばいーのぉー?」


キャンディー片手にロードが言う。
アレンは嬉々とした表情でロードの肩を押し、案内していく。
も二人の後を追って立ち上がり、引きずるほど長いドレスの裾を持ってゆっくりと大通りへ戻っていった。


「じゃあ、行ってくるね、リナリー」

「うん、がんばって」











***












「何だと?!売上金をスリに取られただと?!」


大通り--さっきまでチケットを売っていた場所--へ戻ると、団長が険しい表情でミランダを攻め立てていた。
アレンはロードにちょっと待ってて、と言い残し、慌ててミランダに駆け寄る。
もスカートの裾を持ったまま小走りで二人の許へと走る。


「ミランダさん」

「ア、アレンくんごめんなさい…他のお客さんにチケット売ってる隙に……」

「スリの姿は見たの?ミランダ」

「茶色い上着の長髪の男……あっちへ逃げたわ……」


ミランダの指差す方向に、リナリーは走っていく。
アレンもカボチャの被り物を脱ぎ、捕まえてきます、と言い残して走っていった。
はどうしたものかと思ったが、方向音痴なアレンではスリを見つけることは難しいだろうとアレンの後を追って走っていった。


「アレンくん…ちゃん…」


泣き顔のミランダが二人の名を呼ぶ。
団長は冷たい目でミランダを見下ろし、役立たずと吐き捨てた。


「やっぱりね……結局私は何をやってもダメなのよ……
 なのに頑張っちゃってバカみたい……もう、イヤ…
 なんで私ばっかりこうなのよ……なんで私の時計がイノセンスなのよ……っ!!」


ロードはそのミランダの呟きに、イノセンスという単語に反応する。
ミランダの前にしゃがみ込み、首を傾げて


「あんたの時計がイノセンスなんだぁ」


そう、言った。











***













アレンとリナリー、そしてはスリを追いかけ路地裏へ来ていた。
追い詰められたスリの異変を、アレンの左目が察知する。
ヴ、と小さく音を立てて、スリの身体が崩れていく。


「しまった……罠だ!!」


スリはアクマへと姿を変換し、不気味な笑いを浮かべて3人に告げる。


「あのメスいただいた。お前らが守ってたメスいただいた。ロード様がいただいた」

「……ロード……?」


ミランダの部屋。柱時計はロードの姿を映す。
浅黒い肌に、額に刻まれた7つの聖痕。
彼女の指先には、真っ赤な血。

そして残された、血文字。
















***

















『アイスファイア!!』


3人はアクマと対峙していた。
ひときわ巨大なアクマが吐いた息は、一瞬で周囲を凍らせた。


「凍っちゃった」

「さ、寒っ!!」

「…アレン君、コートはどうしたのさ」

「バイト先に置いて来ちゃった……」


ガタガタと凍えながら苦笑い交じりに言うアレンに、は思わず溜息を吐く。


「とにかく。今はこのアクマをどうにかしてミランダさんの所に行かないとだよね」

「……ですね。
 哀れなアクマに、魂の救済を」


イノセンスを発動し、は右手を大剣に、左手を盾に転換する。


「……かかってらっしゃい、アクマ達」


アクマのカマイタチのような攻撃がアレンに向かう。
それをリナリーが止め、そのアクマを引き付ける。
アレンはその隙に武器を転換し、十字架ノ墓で2体へ攻撃を加える。


「下がってアレン!“ショックスタン”!」


そのアレンの攻撃に追い討ちを掛けるように、の大剣から放たれた衝撃波がアクマを襲う。
が、アレンがいた為に手加減したからか、アクマを仕留める事は出来なかった。


「いてーなチクショウ!パンクヴォイス!!」


強烈な超音波には思わず耳をふさぐ。
それは凍りついた周辺を崩す程強烈な超音波で。
その砕けた床をもう一度繋ぐかのように、巨大なアクマがアレンの足を凍りつかせる。


「(この間より連携した攻撃…ッ!)」


アイスファイアをモロに食らったアレンはその場に気を失い倒れこむ。


「「アレン君!!」」


とリナリーの叫びが被る。
アレンを気遣うのに夢中で、2人は背後のアクマの影に気付けなかった。

振り返ったときにはもう遅く、とリナリーの意識は超音波に飲まれて消えた。

















***














カーン、カーンと何かを打ち付けるような金属音に、アレンの意識は引き戻される。
まだはっきりとしない意識の中に聞こえたのはミランダの弱弱しい声。
声の方に目を向ければ、柱時計に両手を打ちつけられたミランダの姿。
そしてその向こうには先ほどの3体のアクマと、自分のコートを羽織ったロードの姿。


「アレンくん……」

「…ミランダ…」


ぐ、っと身体を起こそうとすれば左腕に走る痛み。
左腕を見れば、壁に何本もの杭で打ちつけられている。
アレンの腕を壁に打ち付けていたカボチャ頭のアクマが、アレンを見て歪んだ笑みを浮かべた。


「うん、やっぱ黒が似合うじゃ〜ん。こっちの金髪は白だなぁ〜?」

「ロード様、こんなやつ綺麗にしてどうされるのですか?」

「お前らみたいな兵器にはわかんねェだろうねェ。
 エクソシストの人形なんて、レアだろぉ?」


ロードのその言葉にアレンは目を見開く。
フーセンガムを膨らましながら間延びした声で起きた?と聞くロードの後ろに並んだ、リナリーと
黒いドレス姿のリナリーと、白いドレス姿の。二人のドレスは色違いだ。
二人の目は虚ろで、意識がない事だけは見て取れた。


「リナリー!さん!!」

「気安く呼ぶなよ。ロード様のお人形だぞ」

「リナリーにかぁー。可愛い名前ぇ♪
 こっちの黒髪がリナリー?金髪は?」


リナリーに抱きつきながらハートマークを飛ばしてロードが言う。
アレンは眉間に皺を寄せ、ロードを睨んだ。


「キミはさっきチケットを買いにきた……?!キミが、『ロード』…?
 どうしてアクマと一緒にいる……?」


ロードの背後に、アクマの魂は映らなかった。
それが余計、アレンを混乱させる。アクマの魂が映らないという事は、彼女は間違いなく自分と同じ人間なのだから。


「アクマじゃない………キミは、何なんだ?」

「僕は人間だよぉ。何その顔?人間がアクマと仲良くしちゃいけないぃ?」

「アクマは…人間を殺す為に伯爵が造った兵器だ……人間を、狙ってるんだよ……?」


未だ混乱したままの頭でアレンはロードに言う。
ロードはそんなアレンに何か反応を示すわけでもなく、歪んだ笑みをアレンに向けた。


「兵器は人間が人間を殺す為にあるものでしょ?
 千年公は僕の兄弟。僕達は選ばれた人間なの」


そう言うロードの肌が、段々と浅黒く変色していく。
額に現れたのは7つの聖痕。ノアであるその証。


「何も知らないんだね、エクソシストぉ。
 お前らは偽りの神に選ばれた人間なんだよ」


アレンの目に映るロードの姿は、今までとは全く別人のような姿。
ノア、という種族を始めてその目に写した瞬間だった。


「僕達こそ神に選ばれた本当の使徒なのさ。
 僕達ノアの一族がね」

「ノアの、一族………?人間……?!」


余りに突拍子なロードのその言葉にアレンは放心する。
とリナリーは相変わらず意識を失ったままで、ロードはただアレンに向かって笑みを浮かべていた。


『シーーーーーーー!!!!!ろーとタマ、シーーーーー!!!!!!
 知らない人にウチのことしゃべっちゃダメレロ!!!!!』

「えーなんでぇ?」


ロードが片手に持っていたカボチャ頭の傘--と言っていいのだろうか--が焦って口を開く。
物がしゃべるなんてありえない。アレンは更に混乱したが目の前の一人と一匹(?)は構わず会話を続けている。


『ダメレロ!今回こいつらとろーとタマの接触は伯爵タマのシナリオにはないんレロロ?!
 レロを勝手に持ち出した上にこれ以上勝手な事すると伯爵タマにペンペンされるレロ!!』

「千年公は僕にそんな事しないもん」


泣き叫ぶレロ--自分で言った以上これがあの傘の名前であろう--とは間逆に冷めた表情のロード。
リナリーの座る椅子に近寄り、口を開いた。


「物語を面白くする為のちょっとした脚色だよぉ。
 こんなんくらいで千年公のシナリオは変わらないってぇ」


その言葉に、アレンの瞳に怒りが宿る。
力任せに左腕を動かせば、杭は吹き飛び左腕にはいくつもの風穴が開いた。
アレンのその行動にロードは一瞬驚くものの、ゆっくりとアレンに近づき目の前にしゃがみこんだ。


「僕が人間なのが信じらんない?」


そう言って、ロードはアレンに抱きついた。


「あったかいでしょぉ?人間と人間が触れ合う感触でしょぉ?」


そう言うロードに、アレンは歯を噛み締めて左手を構えた。
そうして苦々しく口を開く。


「同じ人間なのに、どうして……ッ」

「『同じ』?それはちょっと違うなぁ」


ロードは歪んだ表情でそう言うと、自らアレンの左腕に手を掛け、頭に直撃させた。
その行動にアレンは驚くものの、ロードはアレンの襟首を掴みながら起き上がる。
その顔は未だ崩れたまま、しかし彼女の声色は先ほどと変わらない。


「僕らはさぁ、人類最古の使徒、ノアの遺伝子を受け継ぐ『超人』なんだよねェ。
 お前らヘボとは違うんだよぉ」


そういうロードの顔は未だアレンのイノセンスによって破壊されたまま。
目の前の非現実的な光景に絶句したままのアレンの左目を、ロードは杭で突き刺す。
痛みに叫びを上げるアレンにロードは楽しそうに笑う。
その顔は先ほどと変わらず--何も負傷などしていない状態に再生され--ロードはアレンの目の前に立つ。


「僕はヘボい人間を殺す事なんてなんとも思わない。ヘボヘボだらけのこの世界なんてだーいキライ♪
 お前らなんてみんな死んじまえばいいんだ。神だってこの世界の終焉を望んでる。
 だから千年公と僕らに兵器を与えてくれたんだしぃ」


そう言って笑うロード。
アレンは傷ついた左腕を銃器へ転換した。


「そんなの神じゃない……本当の、悪魔だ!!」


そのままロードに向かって走り出すが、目の前に出てきた3体のアクマにアレンはあっけなく吹っ飛ばされた。
ロードはアレンのコートを脱ぎ捨てると、リナリーの座る椅子のハンドレストに足組をして座った。


「その身体でアクマ3体はキツいかぁ」


そしてロードの視線は柱時計から動けないミランダへと向かう。
ミランダはただ恐怖に震えた声で、『助けて』と繰り返す。


「お前もそろそろ解放してやるよぉ」


そういいながら手を上げるロードの背後に、先端がまるで針のように鋭くなった無数のキャンドル。
それは一瞬でミランダへと向かうが、アレンがその身を挺してミランダを庇った。
そしてミランダを繋ぎとめていた両手の杭を抜き取ると、ミランダは柱時計から這うようにして離れた。


「アレンくん……?」


アレンは柱時計の前にうなだれたまま、動こうとしない。
ミランダは震える声でアレンの名を呼び、必死で自身を奮い立たせる。


「しな…死なないで……アレン君、死なないで……!」

「だ…大丈夫……」


ミランダを振り返りそういうアレンの顔からは血の気が失せ、今にも意識を失いそうで。
ミランダは拳を握り締めると、アレンの許へと行きアクマから庇うように抱き寄せた。


「なんだ、メス?何やってんだ?」

「は…はは……ホント、何やってんの私……っでも、でも……」


アレンを抱きしめるミランダを光が包む。
それは柱時計から放たれた光。


『……あら……?何かしら…何かの存在を感じる……』


ミランダが振り向けば、其処には宝物の柱時計。


「イノセンス……?」


ミランダのその言葉に反応するかのように、柱時計は大きな文字盤へと姿を変えた。
ミランダの膝に頭を預けていたアレンの身体から、『時間』が吸い出されていく。
怪我は消え、洋服もすっかり元通りになったアレンは身を起こす。


「ア、アレン君動けるの……?」

「ミランダさん……」


振り返ると、心配そうな表情のミランダがいた。
アレンは安心させるように微笑むと、優しい声色で独り言のように言った。


「そっか、やっぱり適合者だったんですね」


一方、アレンとミランダがいる半球状のドームの外には3体のアクマ。
しきりにそのドームを気にしている様子で。


「何だぁ、これ?」

「ロード様、これ触ってみていいですかね?」


そういうアクマの間を縫って飛び出したアレンの左手。
まっすぐにとリナリーの座る二つの椅子へ向かっていく。
レロの叫びと、目の前に迫るアレンの左腕にロードは飛びのく。
二つの椅子はアレンの左手につかまれ、そのままドームの中へと引き込まれていった。


「あいつの手……ケガが治ってた……」


レロの上に立ったロードは低い声でそう言った。












***











「リナリー…さん…」


二人が座る椅子の丁度中間、少し距離を開けた前にアレンがかがむ。
脈を取れば、二人とも確かに鼓動を刻んでいた。
生きている。アレンは安堵の溜息を吐いた。


「(外傷はあまりない……)」


二人の様子を観察したアレンは、音波系アクマの攻撃を深く受けた為神経が麻痺しているという結論を出した。
そしてリナリーが何かを握り締めている事に気付き、その手を見る。


「アレンくん…リナリーちゃんと、ちゃんは……?」

「大丈夫。」


心配そうに--身体を小刻みに震わせたまま--聞くミランダに、アレンは笑顔で答える。


「この空間にいれば……」


その声が早いか、二人の身体から『時間』が吸い出されていく。
二人の瞳に、光が戻った。


「……あ、れ?え、何、ここは…?」

「あれ……私……?」

「リナリー!さん!」


意識を取り戻したリナリーが手を開けば、アレンの顔面に向かって飛び出すティムキャンピー。
それは見事にアレンの顔面にめり込み、に続いてリナリーも混乱を始める。


「っていうか何この服ー?!なんで?!なんでドレスなんて着てるの私?!」


の叫びにアレンは苦笑いを零す。いつものさんだ、と心底安心して。


「僕達、ミランダさんのイノセンスに助けられたんですよ」

「え?わ、私…?私が……??」

「貴方が発動したこのイノセンスが、攻撃を受けた僕らの時間を吸い出してくれたんです。……ありがとう、ミランダさん」


ミランダはアレンのその言葉に一筋の涙を流す。
はそんなミランダに微笑みを向け、有難う、おかげで助かったわ、と告げた。


「このヤロぉ出てきやがれぇっ!」


アクマの攻撃がドームに向かう。
リナリーがいち早くそれに反応し、霧風でその攻撃を打ち消した。


「この風はさっき戦ったエクソシストのメスの……!
 ちくしょう何も見えねぇ!」


巻き起こる風を片手で防ぎながら、ロードは無表情のままそれを見つめる。


「どこだエクソシスト!」


カボチャ頭のアクマが叫ぶ。
その直後、アレンはアクマの頭上に乗り、そのまま頭を打ち抜き破壊した。
そうしてロードを見上げれば、相変わらず飄々とした笑顔を浮かべていて。


「へぇ〜…エクソシストって面白いねェ」


そう言うロードに、3人は背を合わせて宣言する。勝負だ、と。




















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だらだら長くなりすぎなので一回切る。名前変換が少ない…ッ!



2007/05/03 カルア