私は、決めたんだ。

絶対生き抜くって。この戦争に絶対勝つんだ、って。

だから私は戦うの。貴方と二人、並んで歩けるその日を祈って。


















灰色メランコリア Ver.P-Type 15

















『レロロ〜?あいつら何がどうしてピンピンしてるレロ?』

「………ミランダって奴、適合者だったんじゃん?
 どうやったかは知んないけど、あの女あいつら元気にしちゃったみたいだしィ」


ロードは眉を吊り上げ、ポケットに両手を入れたままレロに言う。
ドームの中のミランダは震える身体を必死で押さえ込みながら、イノセンスの発動を続けている。


「……アレンくん、あの子…何?劇場で見かけた子よね…?」


ミランダがロードを見つめ、言う。
は知っていたから何も言わなかったが、疑問の篭った視線をロードに投げていた。


「アクマ?」

「いえ………人間です」

「……そう」


そう返事をしたリナリーは無表情だった。
も杖を握り締め、ロードを見つめる。


「A、LL、E、N……アレン・ウォーカー。『アクマの魂が見えるヤツ』」


ロードが空中に指を走らせると現れた「ALLEN」の文字。
ロードはアレンとを交互に見つめ、再び口を開く。


「実は僕、お前の事千年公から聞いてちょっと知ってるんだぁ。
 あんた、アクマの魂救う為にエクソシストやってんでしょぉ?大好きな親に呪われちゃったから。
 そっちの金髪も知ってるよォ。『天秤』」

「ッ?!」


ロードはアレンに向けていた視線をに移すと歪んだ笑みを浮かべた。
天秤。ヘブラスカの預言を何故ロードが知っている?私の事が千年公に勘付かれている?
は冷や汗を流すが、ロードはをそれ以上追求する事はせずに再びアレンに向き直る。


「だから僕、ちょっかい出すならお前って決めてたんだぁ」


そう言って微笑むロードは、歳相応の少女だった。額の、7つの傷さえなければ。
アレンは一瞬あっけに取られたが、次にロードが言った言葉は余りにも残酷で。


「おいオマエ」

「はい」


「自爆しろ」


「エ?!」


アレンはロードの冷たい声に一瞬驚く。
レロがカウントを始め、アクマはロードに抗議するもロードは聞く耳など持たずに完全無視を決め込みレロに座る。


「イノセンスに破壊されずに壊れるアクマってさぁ……。
 たとえば自爆とか?そういう場合アクマの魂ってダークマターごと消滅するって知ってたぁ?」

「!!」

「そしたら救済できないねーーーーー!!!!」


「2レロ」


「やめろ!!!!!」

「アレン!ダメだよ間に合わない!!!」


自爆しようとしているアクマに走っていくアレンを、リナリーとが大声で諌める。
その声は逆上しているアレンの耳には届かず、リナリーは黒い靴の脚力を以ってすんでのところでアレンを止めた。
アレンの目の前でアクマは自爆し、アレンにしか見えないアクマの魂はタスケテ、と言い残して跡形もなく消えた。


「キャハハハハハ!!!!」


楽しそうに笑うロード。
放心し座り込むアレンと、アレンを抑えるリナリー。
は慌てて二人に駆け寄り、アレンを覗き込む。
アレンの額の痣が一層濃くなり、それは傷となって血を流す。


「あ゛あ…ッ」


左目を押さえてうめき声を上げるアレンにリナリーは心配そうな声でアレンを呼ぶ。
アレンは普段とは違い感情の抑えきれない声色でリナリーに向かって叫ぶ。


「なんで止めた!!」


その言葉にリナリーは一瞬悲しそうな顔を浮かべ、渾身の力でアレンの頬を平手で打った。
はただ唇を噛み締めて俯いていた。


「仲間だからに決まってるでしょう…ッ?!」


頬を打たれた痛みにアレンは放心するものの、頭上から掛かったロードの声にすぐにそれは引き戻された。


「スゴイスゴイ!爆発に飛び込もうとするなんてアンタ予想以上の反応!」


ロードはレロに座ったまま、楽しそうに笑っている。
アレンはそんなロードに怒りを露にし、ロードを睨みつけた。


「でもいいのかなぁ?あっちの女の方は」


ロードが指差す先。ミランダがいるドームに向かっていく一匹のアクマ。
は素早くアクマに向かって連弩に転換した右手を構え、矢を放つ。
リナリーはそのアクマに向かっていき、アクマの攻撃を風の壁で防いだ後、頭を打ち抜いて破壊した。


「壊られちゃったか!今回はここまででいいやぁ。まぁ思った以上に楽しかったよ」


アレンの背後に降りたロードはそういいながら歩き出す。
そのロードの目の前に現れたのは、ハートを模した扉。
アレンはロードの後頭部にイノセンスの銃口を突きつけるが、ロードは動じない。


「優しいなぁ、アレンは。僕の事憎いんだね。撃ちなよ。
 アレンのその手も兵器なんだからさぁ」


アレンは歯を噛み締めロードから目を逸らす。
ロードはゆっくりと、足音を慣らしながら前へ進む。


「でもアクマが消えてエクソシストが泣いちゃダメっしょー…
 そんなんじゃいつか孤立しちゃうよぉ?」


扉へ入っていくロードをアレンも、も止めようとはしなかった。
否、止められなかった。


「また遊ぼぉ、アレン……
 『天秤』、キミもね……
 今度は千年公のシナリオの内容でねぇ」


ロードはそれだけ言い残して扉の向こうの闇へと消えていった。
その瞬間、足元は崩れ落ちる。


「何だ?!」


アレンはとっさにを引き寄せリナリーとミランダの方を見て手を伸ばす。


「崩れてる……ッ?!」

「リナリー!ミランダ!!」


伸ばした手は届かず、4人は崩壊に呑み込まれて闇に消えた。

























***




















「「……あれ?」」


アレンとはお互いの顔を見合わせる。


「ミランダさんの、アパートだよね……?」


其処は確かにミランダの部屋。その証拠に、壁にはロードの残した血文字がある。


「アレンくん!!ミランダの様子がおかしい!!」

「……ッ!」


リナリーの叫びに、二人は声のする方へ走った。
ミランダは冷や汗を流し、呼吸も荒い。
ただ頭上に浮かぶ文字盤だけは時を逆に刻んでいた。


「ミランダさん……?!」

「発動をとめて!これ以上はミランダの体力が危ないよ!」


はミランダの肩を掴んで言う。
けれどミランダは俯いたまま、震えた声で返事をする。


「ダメよ……停めようとしたら……」


ズズ、と文字盤がアレンに近寄る。
にも、リナリーにも、ミランダにも。


「吸い出した時間も、元に戻るみたいなの……また…あの傷を負ってしまうわ……!
 いやよぉ……初めて有難うって言ってもらえたのに……っこれじゃ意味ないじゃない……!」


涙を流すミランダに、アレンが近づく。
はミランダから離れ、リナリーの隣へ。
アレンはミランダの肩に手を置き、柔らかい声で言った。


「発動を停めて。停めましょ、ミランダさん」


ミランダは涙を流したままアレンを見る。
その後ろで、もにっこりと笑っていた。


「あなたがいたから今僕らはここにいられる。それだけで十分ですよ。
 自分の傷は自分で負います。生きてれば傷は癒えるんですし」

「そうよミランダ」

「私たちはこのままミランダが倒れちゃう方が悲しいの。だからお願い、停めて」


微笑みを浮かべてが言う。
ミランダがイノセンスを停止させると同時に、またの意識は闇に飲まれていった。























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巻き戻りの街編次回で終了!


2007/05/03 カルア