生きていれば傷は癒える。
痕は残るけれど----………
灰色メランコリア Ver.P-Type 16
「ラビ、誰も入ってこないように見張っててよ」
「ヘーイ」
アレンの意識が引き戻される。
聞こえた声は確かにコムイの声。そして聞きなれないラビ、という名。
ぼんやりと見えたそこにはやはりコムイがいた。
恐怖のドリルを片手に。
「コムイさん?!え?!ここどこ?!」
目の前になぜかコムイが--しかもドリルを片手に--いて、アレンは混乱する。
ベッドに勢い良く半身を起こし、叫ぶように言った。
「ここ?病院だよ。
街の外で待機してた捜索部隊から街が正常化したとの連絡を受けたんだ。
任務遂行ご苦労様だったね」
「街が……?」
「ミス・ミランダもさっきまでここにいたんだけどスレ違っちゃったね」
「ていうかコムイさんは何で此処に……?」
「もちろんアレンくんを修理しにv!」
おちゃらけた表情で言うコムイはヘルメットを脱ぎながら苦笑いを零す。
それはとても申し訳なさそうに。
「実はね、これから君達には本部に戻らずこのまま長期任務についてもらわなきゃいけなくなったんだよ。
詳しい話はリナリーとちゃんが目覚めた時一緒にする」
「!リナリーとさんはまだ目覚めて…?!」
「神経へのダメージだからね……でも」
「大丈夫っしょー、今ウチのジジィが診てっから。すぐ元に戻るよ」
扉の方から聞こえた聞き慣れない声。
その声の主は人懐っこい笑顔をアレンに向けた。
「ラビっす。ハジメマシテ」
「………はじめまして」
にこ、とラビが微笑む。
コムイは何かを思い出したようにアレンに声をかけた。
「そうそうアレンくん。ミス・ミランダから伝言を預かったよ」
そう言って手渡された手紙には、ミランダが残した伝言。
今度はエクソシストとしてお役に立ちます、と記された言葉にアレンは微笑んだ
***
「…………ぅ……」
は小さく呻いて目を覚ます。
見上げているのは白い天井。周りの光景から察するに、病院のようだ。
団服は着ておらず、アンダーウェアのベアトップとショートパンツという格好だった。
首に下げていた水晶が無い事に一瞬慌てたが、それはベッドサイドの椅子の上、綺麗に畳まれた団服の上に乗っていた。
「……よか、った……」
は手を伸ばして水晶を手に取ると、両手で包むようにして握り締めた。
「……護ってくれたね……ティキ」
そう言って微笑むと、水晶を握り締めたままはベッドに沈む。
暫く--10分程--して、ドアが開いた。
視線を投げれば、安心したように笑みを浮かべるコムイの姿。
「ちゃん」
「……コムイ、さん?」
「よかった、意識が戻ったんだね。アレンくんとリナリーも、大丈夫だよ」
「二人とも、無事なんですか」
「うん……起きれるかな?話があるんだ」
「大丈夫です……もう、大丈夫」
水晶をもう一度握り締めると、はベッドから立ち上がり団服を羽織った。
微笑んで扉を開くコムイにも微笑を返し、水晶を首に下げた。
***
ドルッ ドルッ ドルッ ドルッ
雨の振る夜道を馬車が駆ける。
中には5人のエクソシストとコムイの姿。
アレンとラビは先ほど何かをしでかしたらしく、ブックマンに正座をさせられていた。
「先日、元帥の一人が殺されました。
殺されたのはケビン・イエーガー元帥。5人の元帥の中で最も高齢ながら常に第一線で戦っておられた人だった」
「あのイエーガー元帥が……?」
冷や汗を流しながら言うリナリー。恐らくは面識があったのだろう。
はコムイの顔を見たまま、黙ってコムイの言葉に耳を傾けていた。
「ベルギーで発見された彼は教会の十字架に裏向きに吊るされ、背中に『神狩り』と彫られていた。」
「神狩り……!?」
「イノセンスのことだな、コムイ?!」
ラビが的確な答えを返す。
コムイは神妙な面持ちで頷くと、また言葉を続けた。
「瀕死の重傷を負い十字架に吊るされてもなおかろうじて生きていた元帥は、息を引き取るまでずっと歌を歌っていた」
「歌……ですか……?」
せんねんこうは さがしてるぅ
だいじなハートと てんびんを
わたしはハズレ… つぎはダレ……?
「天秤………ッ」
「そう…ちゃんは確か、へブラスカからそんな預言を受けていたね」
「黒白の天秤、って……千年公がどうしてそれを……?」
は混乱する。天秤、とは確かにヘブラスカから受けた預言にあった彼女を示す言葉。
そういえばロードにも同じ事を言われた。
冷や汗が流れるのが判る。
コムイは苦しそうな目でを見つめた。
「あの……『大事なハート』、って……?」
「我々が捜し求めてる109個のイノセンスの中にひとつ……
心臓とも呼ぶべき核のイノセンスがあるんだよ。
それは全てのイノセンスの力の根源であり全てのイノセンスを無に帰す存在。
それを手に入れて初めて我々は終焉を止める力を得る事が出来る」
「そのイノセンスはどこに?」
「わかんない」
「へ?」
コムイの間の抜けた声にアレンが間の抜けた声で返す。
コムイは眼鏡を押し上げながら、溜息混じりに言った。
「実はぶっちゃけるとサ、それがどんなイノセンスで何を目印にそれだと判別するのか石箱に記いてないんだよ〜……
もしかしたらもう回収してるかもしんないし、誰かが適合者になってるかもしんない」
コムイは真剣な表情に戻ると、アレンをまっすぐに見詰めて言葉を続けた。
「ただ最初の犠牲者となったのは元帥だった。
もしかしたら伯爵はイノセンス適合者の中で特に力のある者にハートの可能性を見たのかもしれない。
アクマに次ぎノアの一族が出現したのもおそらくそのための戦力増強……
エクソシスト元帥が、そして『天秤』と預言を受けたちゃんが彼らの標的となった。
伝言はそういう意味だろう。恐らく各地の仲間達にも同様の伝言が送られているハズ」
「確かに……そんなスゲェイノセンスに適合者がいたら、元帥くらい強いかもな」
「だがノアの一族とアクマ、両方に攻められてはさすがに元帥だけでは不利だ。
各地の仲間を集結させ4つに分ける。元帥の護衛が今回の任務だよ。
………キミたちはクロス元帥の元へ!」
馬車はなお夜道を駆ける。
これからの運命を示唆するかのように、ただ暗い道を往く。
は団服の上から水晶を握り締め、祈るように目を閉じた。
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ここらへんは本編であまり加筆してない部分ですね。
しいて言うなら神田とのやりとりが追加されてるくらいで。
完全ティキ寄りで書いてましたから。
2007/05/03 カルア