When it counted happiness,
       the finger became insufficient

The wind which it keeps going away
           holds the flower and thinks.
                "It was possible to be able to meet to you,"






















灰色メランコリア Ver.P-Type 20















ラビと対峙していたクロウリーは、突然頭を押さえて蹲った。
ラビは一瞬その様子に気を取られ、間の抜けた声でクロウリーに聞く。


「はれっ?おぅい、どうしたぁ?」

「ふぎぎぎぎぎぎぎ……がはっ、はぁああああ…!ぐっそぉ…燃料切れかぁぁあ!!!」


頭を抱えて震えるクロウリーに、は二人の方へゆっくりと近づく。


「…ラビ、クロウリーどしたの?」

「や、オレにもわっかんねぇ」


(エリアーデの血をもっと吸っとけば……!)

「ダメである!!!」


いきなり言葉遣いの変わったクロウリーに、とラビは目を見合わせて冷や汗を流した。


「『ある』?!」

「なんか、今…表情が……」


「まぁ、いいか。事情は全く知らねェけどこっちにとっちゃチャンスさ」


にっこりと満面の笑みで言うラビに、は少し恐怖を覚えた。
こいつ絶対サドだ、と。全く緊張感のない辺り彼女らしいと言えばそれで終わりなのだが…。


「恨まないでね。
 イノセンス第二開放…“判”、火!」


ラビのイノセンスが、ラビの周りに浮かんでいた「火」という文字を打ち付ける。
槌の側面には、そのまま火という文字が浮かんでいる。
ラビがそのまま勢いよく地面を叩けば、辺りは丸で囲まれた「火」という文字がそのまま地面に浮き出る。


「劫火灰燼」


ラビがそう呟くように言うと、クロウリーの足元から火柱が立ち上る。


「火判!」


その叫びと同時に、クロウリーは大蛇を模した火柱に飲み込まれ、城壁へ衝突した。
恐らくは城壁を突き破り城の中へ入ったのだろう。


「安心せい。火加減はしといたさ」


ふぅ、と溜息をつきながらラビが言った。


、平気か?」

「なんとかね……っていうか早く追いかけないと」

「あぁ、そうさな…」


ラビは槌の柄を掴み、にも掴むように促した。
が柄を掴んだことを確認すると、クロウリーが衝突した城壁へと飛び立った。
ほぼ同時にホールへ飛び込んで来たのか、アレイスターの姿を見つけたエリアーデは人間の姿へと転換し、降りていった。


「……!!」


アレンはその光景を不思議そうに見ていたが、がしっと襟首をつかまれた感覚に上を見上げれば槌の柄に座るラビの姿。
隣には笑みを浮かべるがいた。


「ようアレン」

「ラビ!さん!無事だったんですね」

「あれ?お前左目治ったんか」


ラビがクロウリーを抱きかかえるエリアーデに気付く。小さい声でアレンに言うと、が下に下りるように促す。
音を立てないように、気付かれないようにゆっくりと床に降りて二人に近づいていった。










***







『アレイスターはイノセンスに寄生されている人間。
 それもアクマの血を飲む事で超人的な身体能力を発揮する……』



エリアーデは心配そうな面持ちでクロウリーを見つめている。
彼女の脳内では、彼と始めて出会った時のことが克明に思い出されていた。


『お前のその牙は、とても嫌な感じがする』


ふ、とクロウリーが目を覚ます。
エリアーデは心配そうな顔のまま、小さくクロウリーの名を呼ぶ。
が、エリアーデの肩越しに見えたモノにクロウリーは息を詰まらせた。


「エエ、エリアーデ……何であるかそれは………」


震える声で言う。エリアーデはえ?と聞き返す。質問の意図がわからなかったからだ。


「おおお前のその…体から出ているものは……何なのだ……?」


その一言にエリアーデは肩越しに自分の魂を見る。
ラビとは顔を引きつらせ、始めてみるアクマの魂を見つめていた。


「冥界から呼び戻され…兵器として拘束された“アクマの魂”か……?」

「アレン……どうして、私にも見えるの……?」

「お前のその左目のせいか……?」


(より黒白の世界へ、堕ちて行け)


その言葉がアレンの脳裏を掠める。

『マナの呪いが……強くなった……?
 この左目が写し取ったアクマの魂が、僕以外の人間にも見えるようになったのか?!』


そう確信したアレンは、左目を抑え目を伏せた。
ラビは放心状態のクロウリーに向かって叫ぶ。


「クロちゃん!その姉ちゃんはアクマさ!!
 あんたとオレらの敵さ!!」


「(アクマ……)エリアーデ……?お前は、何か、知っているのか……?」


途切れ途切れに言うクロウリーを、悲痛な表情で見つめるエリアーデ。
その胸元の傷口から、クロウリーの手へと彼女の血か滴った。


「あーあ。ブチ壊しよ、もう」


そう言うエリアーデはアクマの姿へと身体を転換させ、クロウリーを蹴り飛ばした。


「うまく飼い馴らして利用してやるつもりだったがもういいわ!!
 お前をエクソシストにさせるわけにはいかないんだ!殺してやる!!」


目の前にいるモノは異形のもの。
しかしその声は、間違いなくクロウリーが愛したエリアーデのもの。
クロウリーは放心し、異形となった愛しい人を見つめた。


「ヤベェさ!クロちゃんさっきオレとバトってへろへろだった!」

((クロちゃん?!))

「助けねェと……ッ!!」


そう言って走り出そうとするラビ達3人の足元をぶち破って、先ほど全て爆発したはずの食人花が顔を出す。
油断していた為か3人は即座に触手に捕まり、クロウリーの許へ行く事はできなくなってしまった。


「花が床をブチ破って来なさった?!」

「まだあったんかーーー!クソ花ー!!!!」

「もういやだあぁああああ!気色悪いーーーーーっ!!!!!」


それは次から次へと沸いて出て、あっという間にクロウリーとエリアーデから引き離されてしまう。
アレンとラビは花に向かってあらん限りの暴言を吐く。


「ばかぁぁあああ!離せってばぁああああああ!!!!!」

「チクショー何なんだお前ら!!クロちゃんとこに行けねェェ!!!」



その叫びはエリアーデとクロウリーの耳へも届く。
クロウリーは涙を流し、変わり果てた恋人を見つめていた。


「フン。じーさんの形見がエサが欲しいって泣いてるわよ。
 あんたの血肉でも与えといてあげましょーか?」

「愛してたのに……初めて会った時から、ずっと……。
 お前に見惚れていた私を…敵ならばどうしてあの時殺さず今まで側にいたのだ」

「………だから利用したって言ってんでしょ。
 やってみたいことがあったのよ。そのために、正直ずっとあんたを殺すのを我慢してたの……」


絶望に打ちひしがれるクロウリー。感情の篭らぬ声で言うエリアーデ。
涙を流しながらも、自分の手に付いたエリアーデの血を舐め取ってクロウリーはエリアーデに向き直る。


「そうか……お前は本当にアクマなのだな……」


クロウリーは再びイノセンスを発動する。
涙を流し、エリアーデを見据えながら、彼は言う


「私もずっとお前を殺したかった!!!」










***









「もー!!!いい加減離せよおおおお!!!!」

「チクショーめこれじゃクロちゃんが見えないさ!!!!」

「バカラビ!なんで槌落とすのよおおおお!!!!」

「んな…ッだったらがなんとかしろさー!」


言い争うとラビ、そして傍観するアレンの耳に爆音が響く。
それは間違いなく食人花の向こう、エリアーデとクロウリーがいた場所から響いている物だった。


「……音がする」

「戦ってるさ……?」

「……恋人同士、なのに……どうして……っ?」


一瞬その音に気を取られたラビに食人花が食いつく。


「ウギャァァアアアアアア!!!!!」

「ラビー!落ち着いて僕の言う通りにしてください!」

「アホか!落ち着いたら食われる!!」


じたばたと花の中で暴れるラビに、アレンは半ばあきれたように言葉を続けた。


「最初に花に襲われたとき思い出したんですけど!
 師匠といた頃、僕これと同種の花を世話してた事があるんです!」

「マジで?!じゃあこいつら止められるん?!」

「はい。この花は好意を持つ人間には噛み付きません。
 だから心を込めて花たちに愛情表現して下さい」


花の中でアレンのその言葉を聴いたラビは、あらん限りの声で叫んだ。


「I Love YOU−−−−−−−!!!!!!!」

「うっわぁラビ痛い……」

さん今はそんな事言ってる状況じゃないですよ」













***















クロウリーは凄まじいスピードでエリアーデの身体を駆け上がりながら打撃を加えていく。
顔の辺りまで飛び上がると、噛み付こうと口を開く。
が、自分を取り巻くシャボン玉のような物を見てクロウリーは後退する。


「フフ…鋭いわね。離れたのは正解よ。このボールはアタシの能力」


スタン、と着地したクロウリーはエリアーデに聞き返す。
避けきれるかという言葉と共に向かってくる大量のボールを素早い動きで全て避ける。
ボールの一つが食人花に触れたと思えば、次の瞬間花は枯れて崩れ落ちた。


(花がしおれた?!)


その花に一瞬気をとられた隙に、ボールが右腕を掠める。
次の瞬間、右腕はまるでミイラのように干からび、クロウリーは痛みに眉を顰めた。


「ぐっ……おのれがぁ!」


左手でそのボールを薙ぎ払えば、中から出て来たのは水。
枯れた花、ミイラのようになった右腕、そしてボールに閉じ込められた水。


「なるほど」


クロウリーはエリアーデの能力を把握したのか、右腕を押さえ崩れ落ちる寸前の通路に降り立った。


「この玉は固体の水分を蒸発させ封じ込めるものか。……くだらんな。
 エリアーデ。お祖父様の花を傷つけた罪は重いぞ」


まっすぐな瞳で自分を見つめるクロウリーに、エリアーデは皮肉を込めて口を開く。
アクマの姿となった彼女の表情は、うかがい知れない。


「フン。発動してハイになってもみみっちぃところは変わんないんだから。この引きこもり。
 こんな花ホントはどうでもいいんじゃないの?!
 外界へ行けないのを全部じじぃのせいにしてさ!!自分が城を出て傷つくのが怖いだけでしょーが!!ブァーカ!!」


叫ぶように暴言を吐くエリアーデを、クロウリーは無表情のまま見つめていた。
未だに事実を受け入れ切れていないのか、それとも受け入れた上でなお彼女を愛しているのかは、判らないが。


「臆病者!!お前なんかこの城で朽ち果てんのがお似合いよ!!」


そう叫ぶエリアーデに、クロウリーはゆっくりと、視線を外さないまま低い声で言う。


「あぁ…。お前となら、そんな生涯を送る事になってもいいと思っていた。
 ……エリアーデ……」


(兵器でも、やはり……エリアーデが好きだ。)


「だが、醜いお前は、見たくない。」


(お前となら………)


「跡形もなく、消えろ」



クロウリーはそう呟く様に言うと、地を蹴りエリアーデに向かって走り出す。
エリアーデは拒絶の言葉と共に再び大量のボールをクロウリーに向かって吐き出す。
ボールがクロウリーを覆い尽くし、ボールとボールの隙間からクロウリーの悲痛な叫び声だけが漏れていた。


(さよなら、アレイスター)


水分を失い、ミイラと化したクロウリーは薔薇の形の食人花の上に落ちる。
エリアーデは悲しそうな表情を浮かべながら人間型へ戻り、ゆっくりとクロウリーに近づいた。


(あたしがずっとしてみたかった事はね、人間の女共が“一番キレイになる”方法。)
(どんなにあたしより劣っていた女でもそれをすると眩しいくらい“キレイ”になったから)
(でもどんなに望んでもあたしにそれはできなかった)



どこからか吹いた風が、エリアーデの金糸の髪を撫でていく。


(だってあたしはアクマだから)
(近づいた男を殺してしまうのよ)



エリアーデは動かなくなったクロウリーを見下ろす。
その表情は悲しみとも取れるが、無表情に近かった。


(もしもあたしに殺されない男がいるとしたら、それは)


ひゅ、っと風が鳴る。


(あたしを、壊す男)


目を見開いたエリアーデの首筋に、クロウリーの歯が食い込んでいた。
エリアーデは悲しみに満ちた表情で天井を見上げ、呟く様に最期の言葉を残した。


「なんだ……まだ、動けたの……?」


じゅるるると音を立ててエリアーデの血液がクロウリーの身体へと取り込まれていく。
エリアーデは抵抗する事もなく、ただ一言クロウリーの耳元で囁いて。


「ずっと……あたしだけの吸血鬼で……」


エリアーデの身体は、段々と力をなくしていく。
ノイズ交じりの彼女の最期の声は、しっかりとクロウリーの耳に届いていた。


「ア……レイ、スター……あなたを…愛しタかったのにナ……」


血の涙を残し、彼女の身体は蒸発して消えた。
後に残ったのは、クロウリーの涙と。彼女が残したボールから溢れた雨だった。














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クロエリ大好き。


2007/05/03 カルア