「そんな落ち込むなって、クロちゃぁーん」
「しょうがないよ、いくら説明しても信じてくれなかったんだもの」
「だが……ッ」
クロウリーは椅子に座り込んだまま--いわゆる体育座りで--、どんよりとしたオーラを出している。
の脳裏に、昨夜の光景がよみがえる。
せっかくアクマを退治してきたというのに、村人からは化け物扱いを受けた。
ショックを受けるクロウリーをラビとアレンが連れ出した後、はその怒りを村人にぶつけたのだ。
「大丈夫、ちゃぁーんとお仕置きはしておいたから。ね?クロウリー」
「お、お仕置きであるか……?」
「そ。私のイノセンスでちょこーっと、ね?手加減はしたわよ?木槌でどついただけだもん」
にっこりとそういうの笑顔は天使の笑顔そのものだったが、発言内容はそれとは真逆。
それで叫び声が聞こえて、はこんなに晴れ晴れとした表情なのか……!
アレンとラビはそれを悟ったが、冷や汗を流すだけで口には出さなかった。
「気晴らしに汽車ん中でも見てきたら?乗ったん初めてなんだろ?」
「う、うむ…そうであるな。ちょっと行ってくるである」
クロウリーは頬を紅く染めながらスキップ交じりに出て行った。
3人は笑顔で見送りながらも、心中は一致していた。
ほんと発動時とキャラ違うな、と………。
灰色メランコリア Ver.P-Type 22
「……ねぇ、クロウリー遅くない?」
「そいえば…もう3時間経ってるさ」
「探し行こ。」
3時間経っても戻らないクロウリーを探しに、3人は連れ立って汽車の中を探しはじめた。
「クロちゃんやーい…。
てかこんな小せぇ汽車回んのにどうやったら3時間もかかるんさ」
「まさか迷子……?」
「アレンじゃあるまいし、それはないでしょ……」
そんな事を言いながら、次の車両のドアを開ける。
其処にいたのはパンツ一丁で涙を流すクロウリーだった。
「うわぁっ?!」
は思わず顔を隠し後ろを向いた。
ボサボサ頭でビン底眼鏡を掛けた男がタバコを咥えたまま3人に言う
「悪いね、此処は今青少年立ち入り禁止だよ。」
「さーダンナ、もう一勝負行こうぜー」
「次は何賭ける?」
オカッパ頭の男と、帽子を被った男がクロウリーに詰め寄る。
クロウリーは涙を堪えたまま断ろうとしている。
(…この声、まさか……)
は聞き覚えのあるその声に、恐る恐る顔を出した。
「………っティキ!?クラック、モモ、イーズも!!!」
「よ、。久し振り」
「な、なななななななんでこんなとこにいるの?!炭鉱は?!」
「契約終わり。次はこの先の炭鉱で仕事だよん」
驚くに反して、飄々と言うティキ。
クラックとモモはそんな二人をにやけた笑い混じりに見ていた。
イーズはに気付いていたが、クラックにとめられて近づけずにいた。
「……なぁ、知り合い?」
「知り合い、っていうか………」
こっそりと、遠慮がちに聞いてきたラビには言葉を濁した。
そういえば前にラビに恋人はいるかと聞かれていないと答えていたな、と言う事を思い出したからだ。
「はティキの女だぜ」
「クラック!」
相変わらずにやけたままのクラックがラビに向かって言う。
は慌てて叫ぶが、その言葉はしっかりとラビの耳に届いていて。
「は?!え、ちょお前彼氏いねぇって言ってなかった?!
っていうかマジでこいつなん?!なぁこんなビン底寝癖頭のどこがいいんさ?!」
「……う……」
詰め寄るラビには一歩引く。
と、その肩をティキに捕まれ、不意を突かれたはそのままティキの膝にしりもちを付いた。
つまり、後ろからティキに抱えられて座り込んでいるような格好。
「何、こいつらのツレ?」
「ツレっていうか………し、仕事仲間?」
「ふーん……」
ティキは少し低い声でそう言うと、ラビとアレンを交互に睨む。
は背後から感じるティキのオーラが心なしか怒りを含んでいた事に肩をすくめて俯いた。
「……何さ」
「少年、に手ぇ出したら承知しないよ?」
「ティキ!ラビ達はそんなんじゃないってば!」
「男ってのは何考えてっか判んねぇからな」
ティキはの腰を抱く手を一層強くすると、ラビを睨んで言う。
ラビはティキのメガネの奥に隠れた瞳が鋭い眼光を放っている事に気付き、眉間に皺を寄せた。
「ティキ、離して」
「え、何でよ久し振りに会えたんだからもーちょっとくらいーだろ?」
「……みんないるの!いいから離してっ!」
は強引にティキの腕から抜け出すと、出口近く--ティキから僅かな距離を取った場所--の椅子に座った。
「……で、何やってんですかクロウリー」
「こ、この者達にポーカーという遊びに誘われて……そしたらみるみるこんなことに……」
「(カモられちゃったんだ……)」
アレンは溜息を吐くと3人に自分の団服を差し出す。
はクロウリーを見ないようにラビの後ろに隠れていた。
「このコートの装飾、全部銀で出来てるんです。
これとクロウリーの身包み全部賭けて僕と勝負しませんか?」
「はは……いいよ」
ティキは一瞬に視線を向けると、そう言った。
***
「コール」
にこにこと笑ってカードを差し出すアレン。
ラビとは放心状態でそれを見つめていた。
ラビはアレンのその強さに、はティキ達3人がイカサマで負かされている事に驚いていた。
アレンの目の前にいる男3人は既に身包み剥がされた状態で、笑うアレンの後ろには彼らの荷物が積まれていた。
「ロイヤル…ストレートフラッシュ……」
「また僕の勝ちです」
「「「だぁぁあ!ちくしょー!」」」
3人はカードを放り投げ叫ぶ。
(どうなってんだクズカードしか回してねェはずなのに!)
(俺らがカモられてる……?!)
(ガキだと思って油断したぜ!こいつ只者じゃねぇ!手錬だ!)
男たちは冷や汗を流しながら小声で話し合う。
アレンは尚も笑顔を絶やさぬまま、華麗な動きでカードをシャッフルしていた。
(チョロいな)
笑顔の裏でそんな事を思ってるとは想像もつかない男3人。
半ばヤケになって再度アレンに勝負を申し込んだ。
「すごいである、アレン!」
(どゆことさ?!お前異様に強くない?)
(イカサマしてますもん)
(マジ?!)
笑顔のままのアレンに聞いたのはラビ。
アレンはさらっとイカサマしていると認めたうえで、更に黒い笑顔を黒くして言葉を続けた。
(先にクロウリーさんに仕掛けてきたのはあっちです。
カードで負ける気はしませんね。修行時代師匠の借金と生活費を稼ぐ為に命がけで技を磨きましたから)
(技、って……)
(博打なんて勝ってナンボ…容赦はしません。あっちだって3人グルでやってるんですからね……)
(アレンが黒ーい……)
「コール。」
「「「何ぃーーーー?!」」」
ラビはアレンの意外な一面を見た。(そしてそれに心底恐怖した。)
***
『キリレンコ鉱山前ー』
汽車が止まったその駅でティキ達は降りた。
アレンが仲間の物が取り戻せたから、とティキ達に荷物を返し、ティキ達は素早く服を着た。
「ティキ!」
ティキを呼びながら扉から顔を出したに、クラックとモモはイーズを連れてその場を離れた。
は扉に近づいてくるティキを見ると、ホームへ降りた。
「…どした?もうすぐ汽車出んぞ?」
「……私ね」
「ん?」
「長期で仕事で…暫く“ホーム”に帰れないから…連絡つかなくなっちゃう」
「マジ?」
「うん……だから、手紙も、多分読めない……」
「……そっか。ま、仕方ねェよな。でも手紙は出すからな?帰ってくりゃ、読めんだろ」
「………うん」
ティキは俯き、今にも泣きそうな声で言うの髪を撫でた。
は久し振りに感じたティキの体温にくすぐったそうに身を捩り、くすくすと笑う。
「離れてたって想っててくれんだろ?」
「……うん……っ」
「オレも一緒だし、に渡した水晶だってあるだろ。不安になる事ねェよ」
「………うん」
ティキはの顎に手を掛けると、上を向かせた。
自然と噛み合う二人の視線。ティキはそのままゆっくりとに口付けを落とす。
は抵抗せずに、ティキの背に手を回してそれを受け入れた。
「ティ、キ……っ」
「今度会ったら抱く、っつったけどこれじゃ無理だな」
「な……っ」
「この次こそは、な。覚悟決めとけよ」
汽車の発車を告げるベルが鳴る。
は耳元で告げられたティキの言葉に顔を紅く染め、ただ硬直していた。
「……これやるよ。大事に持ってな」
「え?ちょ、ティキ?!」
ティキは硬直したままのに小さな小箱を押し付けると、背を押して汽車の中に押し込んだ。
が立ち上がると同時に汽車の扉が閉まり、はその扉を叩く。
「ティキ!」
「またな、」
ゆっくりと、汽車は動き出す。
は扉の窓を開け、ホームから手を振るティキを見つめて涙を流した。
汽車がトンネルに入り、ティキの姿が完全に見えなくなったところではその場にへたり込んだ。
「ティ、キ……っ」
手渡された小箱を開ける。中には指輪が入っていた。
シンプルなシルバーのリングで、内側に小さなルビーが埋められている。
ルビーを囲むように、見慣れない単語が並んでいた。
ティキはポルトガル人だと言っていたから、恐らくはポルトガル語だろう。
けれどポルトガル語のわからないには、その言葉の意味は判らなかった。
『Para Meu mais Querido, A cadeia de gravatas de amor voce.』
意味は判らずとも、指輪に埋められたルビーを見てはその意味を理解する。
ルビーの宝石言葉は“情熱”、“愛の炎”。
「………っティキ……!!!」
は小箱を抱え、涙を流す。
汽車は汽笛を鳴らし、旅路を進む。
***
「しかし品のよさそうな顔してエグイ奴だったなー」
「ありゃイカサマのプロだな」
「もとんでもねぇ仲間持ったもんだ」
「違いねぇや」
一方、汽車が出たホーム。そう言って笑いあうクラックとモモ。
イーズは握り締めた手に目を落とした。
「それは大事に仕舞っとけよ、イーズ」
ぽむ、とイーズの頭に手を置くティキ。
せっかくお前の為に取ってきた大物の銀なんだから、と続けてイーズはその手に握られた“銀”を見る。
それは達エクソシストの団服についているボタンだった。
「ティキ!イーズ!行くぞっ。さっさと工場主に挨拶してメシにあやかろうぜ!」
「おー」
そう言って歩き出す4人の傍らにあった公衆電話がけたたましいベルを立てて鳴り出す。
眼鏡の男はその電話を躊躇なく取り、2,3言会話をするとおちゃらけた表情で3人に言う。
「ごっめーんv別の仕事入っちゃったぁ」
「また秘密のバイトかよ最近多いぞテメー!」
「しょうがねぇよ、じゃあオレらで行ってくんぜ」
「悪いな」
クラックはティキに怒り、モモはクラックを宥める。
イーズはクラックに手を引かれながらもティキを振り返り、小さな声で言った。
「ティキ…またぎんをとってかえってきてね…」
ティキはイーズのその言葉に答えは返さず、ただ口角を吊り上げた。
そして3人が見えなくなったと思うと、ティキはその場から姿を消した。
***
人気のないトンネル。
その向こうに見えるのはえらく恰幅のいい男性。ティキはタバコを大きく吸い込みながら、言う。
「先にメシ食わせてもらえます?」
「いいですヨv」
「よかった、腹ペコなんすよ」
「ただし正装してくださいネvその格好じゃ三ツ星に入れませんカラv」
「わお」
ティキがトンネルを歩く。かけていた眼鏡は煙となって消え、肌は段々と浅黒く染まっていく。
「そんなんばっか食ってるから太るんスよ」
「太ってませンv」
「ま、たらふく食えりゃブタのメシでもいいや」
「言葉遣いも直して下さいネv」
ひゅるり、とシルクハットがティキに向かって投げられる。
ティキはそれを受け取ると髪をかきあげながらそれを被った。
「ティキ・ミック卿v」
「はいはい。……千年公の、おおせのままに」
今まで着ていたみすぼらしい服ではなく、とても高価な燕尾服に身を包んだティキ。
先ほどまでの面影は既に消え、その額には7つの聖痕が刻まれていた-----
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指輪に刻まれた言葉の意味は「最愛の君へ。愛の鎖で君を繋ぐ」。
きっと秘密のバイト頑張って買ったんだよ、ティキは(笑
以下、シリアスぶち壊しになるので削った部分をオマケとして。
ホームでのティキとを汽車の窓にへばりついて見ていたアレンとラビの会話。
(ってマジであいつとそういう関係なん?!)
(っていうか僕、さんの美的感覚がよく判りません……)
(え、ちょぉアイツ何してんさの髪撫でてー!!!!もあんな嬉しそうな顔すんなー!!!!)
(ラビ、少しは落ち着いてくださいよ恋愛は自由でしょう)
(んな事言ったってアレンだっていくら何でも趣味悪すぎだと思うだろ?!)
(そりゃそうですけどね……)
(ってあーーーー!!!!!ちょ、え、何してんさあの二人あっこホームだぞ?!)
(え?)
(っお子様は見ちゃだめさ!!!)
(ちょっとラビ、確かに僕はまだ子供ですけどそれ言うなら貴方だってそうでしょう)
(も何背中に手ぇ回してんさ?!オレがふざけて抱きついたらシバくくせに!!!!!)
(それはさんがラビを嫌いだからでしょう。っていうかいい加減離してくださいよ僕だって気になります)
(だ・め・さ!って何顔赤くしてんさ?!あのビン底何言った?!)
(ラビ、いい加減僕も怒りますよ)
(何か渡してるし!)
(ラビ、離して下さい)
(泣いてた!泣いてた!!!!)
(だから離して下さいっていい加減僕キレますよいいんですかラビ)
どっちもお子様。
2007/05/03 カルア