目覚めろ、異質のノアの子よ
イノセンスをその身に宿しながらノアに目覚めた異質の子よ
偽りの神に愛され傀儡となった哀れな子よ
目覚めの時は来た。
世界を弔する天秤と成れ。
傾くは我らに、その力を以って世界を終焉へと導け。
灰色メランコリア Ver.P-Type 26
「……起きた?」
目を覚まし、無言でベッドに半身を起こしたに声を掛けたのはティキ。
ティキがいることから察するに、どうやら此処はティキの自室のようだった。
が横たわっていたベッドはとても大きく、キングサイズ程の大きさがあった。
「……ティキ?」
「そ。此処、オレの部屋。あ、着替えさせたのオレじゃなくてメイドアクマだからな。」
は手に目を落とす。肌は褐色のまま、金だった髪は漆黒に染まり額には7つの違和感があった。
それは目の前にいるティキと同じ物。
服に目を落とせば先程まで着ていたドレスではなく、シンプルな白いワンピースだった。
「どした?まだ整理つかね?」
「つかない、っていうか……何なの、これ。私、今まで知らなかった事、知ってる」
「そりゃ、オレらん中の“ノアの記憶”だろーな」
「ノアの、メモリー……?」
「そ。オレらはみんな前世の記憶を継いでる。ノアからな」
「……ティキも?」
「オレは“快楽”、ロードは“夢”。それぞれノアの“記憶”を持って生まれてる」
まるで無声映画のように流れて行く“ノアの記憶”。
何の予兆もなく“覚醒”してしまった自分、蘇った“前世の記憶”。
そして“イノセンスへの憎悪”もまた同じく。
「……私、は?」
「千年公が言うには“愛情”らしいぜ」
「……愛情……」
ティキは紫煙を燻らせながら天井を見上げる。
はティキの横顔を見つめたまま、先程見た夢を反芻していた。
「……ティキも、覚えてる?前世の記憶、ってやつ…」
「あぁ、そりゃもうばっちり」
「そっか……私が、忘れてただけか」
は自嘲気味に笑うと、シーツに視線を落とした。
ティキはの手をやんわりと包むと、顔を覗き込んで優しい声で言葉を紡ぐ。
「オレは嬉しいよ。がこうして此処にいてくれて」
「……ねぇ、私達が出会ったのは運命だったのかな」
「以外に何があんの。」
「…そうだね」
包まれた手を握り返す。ティキはその手を取ると優しく口付けた。
は擽ったそうに肩を竦め、小さく息を詰まらせた。
「ノアに覚醒して、前世の記憶取り戻して、の事も思い出して。
それなのにお前は何故か異世界に転生してた。…もう会えねぇって思ってた。
いくら“方舟”でも世界を超える事はできねェし、千年公も諦めてたから」
「………でも、私は、ここにいるよ?」
「あぁ、そうだな。そればっかりは偽りの神のお蔭だったとしても感謝しなきゃだな」
ティキはそう言うとの頬を撫でた。
はただ真摯な表情で自分を見るティキを見つめる事しか出来ずにいた。
硬直するに笑みを漏らすと、ティキは頬を撫でていた手を顎に掛ける。
「……ティキ?」
「…約束、守ってもらうぜ。」
「…………う、ん」
ティキが言う“約束”とは“次会った時に抱く”というあの言葉。
はいくらか躊躇いがちに頷くと、ティキのシャツを弱く握った。
「……」
「…ティキ?」
「今度こそオレはお前を護るよ。二度とオレの目の前で死なせたりしねェ」
「……うん……っ」
記憶が途切れる直前、見えたのは涙を流すティキの顔。
全身を貫く痛みの直後に感じた生温い粘着質に、全てを悟った。
私は、ティキの目の前で命を落としたんだ。
最期に見たのが愛しい人の泣き顔だなんて悲しすぎる。
私達は幸せなままでいられなかった。
「だからも誓って。オレの傍にいて、離れないって」
「…誓うよ。ティキをもう泣かせたりしない」
「あぁ……」
「私が、ティキを護るから」
それならば、幸せな未来を切り開けばいい。
もう二度とあんな悲しい別れをしないように。
「だからティキも、私を護って……?」
家族を護る為に
最愛の人との未来を切り開く為に
「護るよ。もう二度とあんな想いはしたくねぇ……」
私は世界を弔する天秤と成ろう。
“戦女神”の名を冠し戦場を駆けた前世の様に。
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の中のノアが目覚めた事で、天秤は傾く。
かつて仲間だった者達へ残ったのは、ノアとしての憎悪のみ。
ティキとの前世の話は番外編で書く予定。
2007/05/05 カルア