刻一刻と迫る再会の時
変わり果てた自分の姿を見て仲間は嘆くだろうか
悲しんでくれるだろうか。
それとも敵だったのかと怒るだろうか

今はまだわからないけれど、彼がいればどんな運命だって受け入れられる。





















灰色メランコリア Ver.P-Type 29






















「………あー…腹減った」

「ごはん食べてなかったね…そういえば」


とティキは庭園の池の畔、岩に腰掛けている。
ティキは先程から腹減ったを連呼しており、は半ば呆れ気味に言葉を返す。


「……お、この池鯉いんじゃん」

「……ティキ、まさか食べる気?」

「腹減ってんの。」

「…こういうところの鯉って食べると神罰下るらしいよ」

「はは。関係ねぇよ」


若干引き気味のに気付かずに、ティキはズボンの裾とシャツの袖を捲くり池に入る。
鯉を追いかけて掴み取ると、満足げな表情での横へ戻る。
が、はそんなティキから露骨に距離を取るように離れてしまう。


「……あれ?なんで離れんの」

「いや…なんか……うん」


露骨に視線を外して言葉を濁すにティキは冷や汗を流したが、空腹には勝てそうも無い。
結局、を横目に見ながら鯉を生で食べ始めた。
確かに鯉の刺身という食べ物もあるが、それはきちんと食用に養殖された鯉であって
こんな池に泳いでいる野性の鯉ではない。第一野生の鯉は泥臭くて食べれた物ではないはずだ。
それを平気で食べてしまうこの男に惚れていて本当にいいのかとは自問自答していた。


「……も食う?」

「いらない」


呆れた声で返事をするにティキはいくらか落ち込んだものの、再び鯉を口に運んだ。


『消〜えないぃ〜』

「は?今何つった?」


相変わらずそっぽを向いたままの
ティキの横--とは反対側--に浮いていたカードから声がした事には驚き振り向いた。


『消ぃ〜えないんでございまぁ〜す…ア〜レンウォ〜カ〜の名前がぁ〜……
 こすってもこすっても〜〜〜〜』

「いやいやいや!んな訳ねェから!!
 しっかりこすれよお前檻から出たいからってウソついてんじゃねぇぞ」


ティキは手にしていた鯉でカードをどつく。
カードのはずなのに、ゴッという鈍い音が響いた。


『ぶぅ〜
 こ〜いつは生ぃ〜きてるぅ〜』


カードの中の囚人--セル・ロロンというらしい--は鉄柵に手を掛け言う。


「……ティキ、これ、何?」

「あぁ、千年公から預かった“削除リスト”。こいつはセル・ロロンな。
 このカードに書かれた人間を“削除”すんのがオレの仕事な訳」

「ふーん……で、アレンはまだ生きてるんだ?」

『はぁ〜〜〜いぃ〜〜〜。
 名前がぁ〜消えない以上はぁ〜〜〜〜〜』

「そう」


不思議と怒りや悲しみの感情は沸いてこなかった。
ノアの感情がそうさせるのだろうか。
は感情の篭らぬ声で応えると、またそっぽを向いて頬杖を着いた。


「おいおい〜〜〜……カッコイイ服装したお兄さんが池で鯉盗み食いしてんなよなー
 特別任務中なんだって?ティキ」


声に振り向く。其処にいたのは二人の少年。
褐色の肌と額の聖痕から見るに、二人もノアなのであろう。


「よう双子か。今日も顔色悪いな」

「デビットだこのホームレス」


デビット、と名乗った黒髪の少年はティキを蹴るが、ティキは呆れた表情のまま腕でその蹴りを止めた。


「ジャスデロだ!」

「「二人合わせてジャスデビだ!!」」


黒髪の少年はティキの横にいたに気付き、銃口を突きつけた。


「よォ、。久し振り?」

「や、ジャスデビ。現世でははじめまして?」


が突きつけられた銃口に驚く事もなく言葉を返す。
ジャスデビはのその言葉に顔を見合わせると笑い合う。


「おー。ちゃんと記憶も戻ったんだな」

「ヒヒッ!」

「てかさ、ってこのホームレスの女?」

「ん。一応は」

「マジで!つーか生まれ変わってもお前らやっぱそうなんだ!」

「ヒッ!よかったね!ヒッ!」


さらっと返したにジャスデビは驚き声を上げる。
彼らにも前世の記憶が残っているらしい事がデビットの言葉から読み取れた。


「頼むからチョット黙れお前ら」


はぁ、と溜息を吐いて言うティキを、デビットとジャスデロが挟む。


「ところでアンタさ、オレの関係者殺して回ってんだろ。
 日本に来たのもそれって聞いたんですけどぉ〜?」

「ですけどっ!」

「あぁ、クロスなんとかって奴をね……あっち行けよ」

「そいつはエクソシスト元帥でオレらの獲物だ!!!
 手ぇ出したらブッ殺すぞ!!!」

「コロすっコロすっ」

「は?」


中指を立てて怒りを露に詰め寄るデビットに、ティキは思わず一歩引いて間抜けな声を返す。
は石に座ったまま、桜の舞う空を見上げていた。













***












「ああ なんだお前ら元帥殺しでクロス担当なんだ?
 てかだったらはやく殺れよいつまでかかってんの?」

「うっせーなアイツは稀に見るしぶとさなんだよ!!」

「もう3回くらい殺しに行ってんだけど失敗してんの。ニヒヒヒ」


ジャスデロが引く人力車に座った3人--デビットとティキの間にはいる--。
人力車とは思えないスピードでそれは道を走っていく。


「アンタこそひとり暗殺しそこねたそうじゃんか。聞こえたぜさっき。アレンなんとか?」

「……うるせェな」


ティキはぶすっとした表情で頬杖を着いている。
は人力車を引くジャスデロを見ながら、3人乗せてるのにこのスピードって凄いなぁ、などと思っていた。


「で、ドコ向かってんの?」

「千年公とロードも来たんだと」


「……!ジャスデロとまって!!前、前!」


がそう言うが早いか、人力車は凄まじい音を立てて何かを撥ねる。
それは綺麗な弧を描いて、人力車の後方5m程の地点に落下した。


「オイ今なんか轢いたぞ」


人力車を止め、3人は今撥ね飛ばされた物体を見た。




















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本編とは違うジャスデビとのやりとりですね。
プロトタイプの設定ではノアはみんな前世の記憶を持っているので。






2007/05/05 カルア