「ティキ」

「お。いいのか、出てきて。見つかるぞ?」

「いーよ。どうせ私もう“あっち”には戻れないんだし」

「はは。ま、返す気もねェけどな」


ラビ達がいる建物のすぐ隣の屋根の上。
ラビ達を見下ろすティキの後ろからが声を掛ける。
振り向いたティキはに笑みを浮かべたまま聞き、は自嘲気味に笑って答えを返した。


「私はティキがいればそれでいいの」

「おーおー。嬉しい事言ってくれんじゃんか」

「ティキは私の“半身”だもん。」


にっこりと笑ってそう言うはティキに近付き背後から抱きついた。
















灰色メランコリア Ver.P-Type 32
















巨大なアクマに向かって行ったクロウリーとブックマンだったが、あまりの巨大さに攻撃は届かなかった。
再び屋根へと叩きつけられ、二人は屋根を突き破って家の中へと落ちた。


「動けるか……アレイスター……!」

「あぁ…っくそ!デカブツめ!
 世界は広いな……私の牙が届かん……っ」

「まったく……硬いのぉ……」


瓦礫にぐったりとうなだれたままの二人のいる部屋に、何かが勢い良く飛び込んできた。
それはクロウリーの近くの壁を破壊し、土煙が晴れたそこにはラビがいた。


「ラビ?!」

「うっす……」

「何やっとるアホ!奴をボコボコにするんじゃないのか!お前がボコボコになってどーすんじゃい!
 しっかりせぇ、ボケ!」

「くそじじい…っそのセリフそのまま返すさ…」

「わしゃ年なんじゃ!」


ラビは槌を支えに体を起こすとバンダナを直した。


「反則みてェに強いなチクショー……ケガに浸みる……」


「エクソシスト様!!」


ラビ達の耳にあせった叫び声が聞こえる。恐らくチャオジーのものであろう。
ラビは慌てて空を見上げた。


「まずい…っあのヤロ…リナリー達のところに……っ!!」














***










「ミランダ!」

「…体力切れ?」


倒れこむミランダをリナリーが支える。その背後から、ティキの冷たい声が耳に届いた。
逃げる間を与えずにティキはリナリーの首を掴む。


「女のエクソシスト、ね……に次いで3人目だよ、見たの。」

「……意外。ティキってフェミニストだと思ってた」

にだけな」


ティキの後ろから聞こえた聞きなれた声に、リナリーは驚き視線を投げる。
ティキの背後から姿を現したのは間違いなくだった。


「っ?!」

「や。リナリー久し振り。髪の毛どしたの?イメチェン?」

「なんで……?その髪、その肌は……っ」


リナリーはの変わり果てた姿に戸惑いを隠せない。
白かった肌は褐色になり、金糸の髪は漆黒で琥珀の瞳は金色を帯びていて。
それはが“ノア”である事を示していて、けれどそれは受け入れがたい事実でもあって。


「私、ノアだったみたいなのよね。」

「……ッなんで!」

「偽りの神はね、私を傀儡にしてたんだってさ。私のイノセンスは私の“ノアの能力”だけを引き出す媒介だって。
 笑えるよね?裏切り者の遺伝子を持った私が神の使徒に選ばれてた、なんてさ」


くすくすと笑うにリナリーは絶句する。
今目の前にいるが、自分の知るとは到底結びつかなかった。


……じゃあ…あの人は…?の、恋人は…?」

「ん?あ、リナリーやっぱ気付いてないのね。」

「……どういう意味?」

「んーん。ま、私もわからなかったし無理もないかぁ」


すぐ近くにいるのにね、と言うの声はリナリーには届かなかった。
リナリーはそう呟いたに疑問の表情を投げたが、は相変わらず笑みを浮かべるばかりだった。


「…………」

「私はもう“そっち”には戻れないよ。見て判るとおり、今の私はリナリー達の敵なんだ」

「……っ」


言おうとしていた事の答えを先に返されてリナリーは言葉を詰まらせた。


「……なぁもういいか?」

「あ、うん。ごめんね。もーいいよ」


はティキにそう言うと踵を返し、ティキ達から少しばかりの距離を取った。
リナリーはティキに捕らえられたままに視線を投げるがはそれに気付かない。


「そっちの貧弱そうな彼女大丈夫か?無理しすぎちゃった?」


口から血を流しぐったりと屋根に倒れこむミランダ。
ティキは冷たい表情を浮かべ、指を鳴らした。


「女は無理しないで綺麗に死ねよ」


ドス、っとティキの左胸--正確には背中から--を腕が貫く。
それはチャオジーの拳で、その有り得ない現象に戸惑いながらもチャオジーは毅然とした態度でティキに言う。


「エクソシスト様を放せ、化物!」

「チャオジーさん…だめ……」


マオサとキエも武器をティキに向かって構える。
ティキは表情一つ変えないまま、冷たい声で言う。


「シラけんなぁ。ティーズ、喰っちまえ」


ティキの背中からティーズの羽がチャオジーに襲い掛かる。
その羽はチャオジーには届かず、ティキは足元から来る殺気を感じるとリナリーを抱えたまま飛び上がった。


「危ねっ」

「ティキ!」


その衝撃でセットしていた髪が崩れ、ティキは僅かに表情を歪ませた。
は突然ティキに襲い掛かった攻撃に素早く反応するとティキに向かって飛び上がる。


「今日は客が多いな」

「ティキ!大丈夫?」

「おぉ」


チャオジーの前に立ち武器を構えたのは神田。無表情のままティキに向かい切り込んでくる。
は神田に背を向けるようにティキの傍へ駆け寄る。
ティキはを庇うようにティーズを盾にして神田の攻撃を防ぐが、その動きは素早く片手で防ぐのは困難。


(コイツめっさ速っ!?)


ティキは何かを思いついたようで、口角を上げるだけの笑みを浮かべるとリナリーを神田に向かって突き飛ばす。
神田がリナリーを受け止めた隙を突いて攻撃を加えるもそれはラビの槌によって防がれた。


「ちっ」

「よっ大将。こんな修羅場で奇遇さね!」

「何やってんだお前ら」


のほほんとした顔で言うラビに神田は舌打ちを返すとそのまま近くの屋根に降りた。
空を見上げればティキ--と--の姿は見当たらない。


「いやなんかウチの元帥が江戸で仕事があるとかで……そっちは?」

「似たようなモンだ」


その二人の頭上に、巨大アクマの顔が迫る。
思わず見上げるも、何か様子がおかしい。ビリビリと空気を振るわせるほどの叫びを上げて、何かに捕らえられているようだ。


「何さ?どしたんこいつ」

「あ?マリの弦に捕まったんだろ。あいつの奏でる旋律はアクマには毒だぜ」


神田は動きが止まった事を確認すると、六幻を発動させて弦を伝いアクマの頭上へ飛び上がった。


「気をつけろユウ!そいつメチャクチャ硬ぇ……ぞっ?」


ラビの叫びを聞かぬまま、神田は巨大アクマに斬りかかる。
その斬撃は強固なアクマを一刀両断し、ラビはその光景に驚き語尾を濁した。


「また気持ちよく斬りよった!腕を上げたな、神田め」

「カンダ……?なんてガキだ……」


建物の外へ出たブックマンは神田のその一撃に声を上げる。
クロウリーは驚きを隠せない様子で戸惑いがちな声を上げた。


「助かる。こちとらケガ人ばかりで難儀しておったからな」


ブックマンがそう呟いたのと同時に、神田が屋根に着地する。
六幻を肩に担ぎ、ラビを見ぬまま低く怒りの篭った声でラビに言う。


「おい、貴様……」

「はっはい?!」


ラビは明らかに怒っている神田のその声に冷や汗混じりに返事を返す。
神田は視線だけでラビに振り返ると射抜くような鋭さで睨みつけ


「俺のファーストネームを口にすんじゃねェよ……っ刻むぞ!」


険しい声で釘を刺した。


(相変わらず……怖ぇえー……)


ラビは神田の表情と声に、リナリーを抱えたまま冷や汗を流し身震いした。


ドクン


と、張り詰めた空気が一瞬であたりを包み込む。
空を見上げれば黒い球体のような物に包まれて千年公が浮かんでいた。
千年公はレロを開くとそれを江戸の町並みへ向け、その先端から電撃にも似た攻撃を放つ。
それは巨大アクマをも巻き込む巨大な黒い球体となり、江戸の町を飲み込んだ。


「うわ〜…惚れるね、千年公…怖ぇ〜。江戸がスッカラカンだよ」

「…凄いね千年公……」


ティキは冷や汗を流し言う。
も強力すぎるその一撃に小さく声を漏らした。


「ハックショイv!!ふゥー……vハックショイv!!」

「あ、エクソシストめっけ」


ティキの指差す方を見れば、確かにエクソシストの影が見える。
はかつての仲間達を見てもその表情は変わらぬままだった。


「倒れっかよボケ…!!」


神田は六幻を支えに立ち上がる。
ラビやマリも立ち上がるが、その姿は弱弱しい。


「ねぇ千年公、あれ何?」

「……オヤ?おかしいですねェあのイノセンス……v」


が見つけたのはリナリーのイノセンス。
千年公は低い声で言うと、そのイノセンスに向かって下降した。





















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この先本編とだいぶ違ってきます







2007/05/05 カルア