エクソシスト、
イノセンスを振るう姿は気高き黒衣のハイプリーステス
和やかな雰囲気漂う彼女は教団の隠れたアイドル的存在。

エクソシスト、神田ユウ。
細く切れ長の冷たい目は誰も寄せ付けない、一匹狼。
冷血漢という言葉がぴったりな彼は教団でも一目置かれ恐れられる存在。



そんな二人は恋人同士。
傍から見れば、そのものズバリ美女と野獣。

























「……でね、さっき食堂で聞いたんだけど……」

「うっわマジで?!ちょ、それ的を得すぎさぁー!!!」


談話室の隅、向かい合わせに座るラビとリナリー、そしてアレンはなにやらこそこそと話し込んでいる。
リナリーが言った言葉にラビは大爆笑し、周りの視線がラビに集まる。


「…でも確かにその通りだと思いますよ。さんもあんなパッツン侍のどこがいいんだか」

「ちょ、アレン何気にひどいさ……」

「そうよアレンくん」


そう言うラビもリナリーも、笑いを堪えている辺り説得力は皆無だ。
アレンにしてみれば、自分が姉の様に慕うがよりによって自分が一番苦手な神田の恋人というのは気に入らない。
それは二人も判ってはいるのだが。


「でも言い出したんは誰なんかな?」

「探索部隊の人たちみたいよ。ほら、アレン君と神田が食堂でもめてた時」

「あぁー……がユウの事トレイでひっぱたいたってアレさ?」

「そう。その頃からみたい」

「………(あ、思い出したらなんか腹立って来ちゃったな…)」


その時、が声を掛けた探索部隊の一人が、その場にいた仲間たちに後日そう言った事でその噂は広まったらしい。
余りにも的を得すぎた比喩である、という事も手伝って。
神田本人の耳に入っていないのはある意味奇跡に近いが、それらは全て教団の人間の努力の賜物。
彼の性格を熟知しているからこそ、怒らせれば命が危ないと言う事をよく判っているからだ。


「にしても……当の二人はどこなんさ」

「あの二人なら今任務よ。今日の夕方頃帰還って言ってたからそろそろなんじゃないかしら?」

さんって神田と任務行くこと多いですよね」

「イノセンスの相性がいいのよ、あの二人。近距離型の神田にオールマイティので」

「あぁー……なぁる…」


と、そんな会話をしていたところに聞きなれた声で聞きなれない言語の会話がラビの耳に届く。
声の方を見てみれば、其処にいたのはと神田。
二人は英語ではなくどうやら日本語で会話をしているようで、日本語が苦手なラビに二人の会話はわからなかった。


「噂をすれば影、ってやつかね?」


ほれ、と指差す先にはと神田。


「…本当だ」


リナリーとアレンも二人に気付くが、任務から帰ってきたばかりで冊子を片手に話し込む二人に声は掛けづらい。
二人は三人のいる場所とはかなり離れた場所に向かい合って座る。
どうやら、冊子に視線を落としたままだった為、三人に気付いてはいないようだ。
三人は顔を見合わせると、二人に気付かれないように--ご丁寧に気配まで消して--会話の聞こえる距離まで移動する。


『あ、これ可愛い』

『バカか。そんなん季節感も何もねぇだろ』

『だって私明るい色似合わないもん……桜柄も捨てがたいけど、もう時期過ぎたしさぁ』

『黒だの紺だのもあるだろ』

『うーん……これからの季節考えるなら朝顔か向日葵か……』


が、二人は相変わらず日本語で会話している為、その内容は殆どつかめない。
アレンとリナリーは通訳とばかりにラビを見るが、ラビは全力で無理だと否定する。
時期ブックマンのくせに使えねぇ、とアレンが毒づいたのにリナリーは苦笑いを零して。


『あ、この蝶可愛い』

『……それにすんのか?』

『うーん…気に入ったのはコレかなぁ……これ黒いから帯は赤系がいいかな…?』

『…だな』


「(何話してるんですかね?)」

「(任務じゃないはずよ?)」

「(っていうか二人とも日本語ってずるいさー…全っ然判んねぇ)」


『帯止めはこれと……かんざしはコレ、かな?』

『……いいんじゃねぇか?』

『よっし!じゃあこれにしよう』

『ったく……女の着物は面倒臭ェんだよ』

『そりゃそうでしょー?男物ってシンプルだけど女物はそうじゃないもん。ファッションじゃん』


「(キモノ、って何ですかね)」

「(確か日本の伝統的な衣装の事さ)」

「(……本当に何話してるのかしら)」


聞き取れた単語は繰り返し出てきた『キモノ』のみ。
そこから会話を推測しろ、といわれても余りにも無謀な気がする。


「………で、テメェら其処で何してやがる」


相変わらずこそこそと話し込む三人の背後から、六幻に手をかけた神田の声が響く。
ラビとアレンはまるで機械人形のようにゆっくりと振り向く。
修羅を背負わんばかりの神田の後ろには、苦笑いを浮かべるがいて。


「ゲッばれたさ!!!!!!」

「返答次第じゃ斬るぞ」


神田に詰め寄られるラビを軽くスルーし、リナリーはに声を掛ける。
ラビはリナリーの薄情者!と叫ぶが、リナリーはあえて無視した(鬼である)


「何の話してたの?

「え?あぁ、任務に行った町で見つけたのよ、着物売ってるお店のカタログ」

「キモノ、って?」

「日本の民族衣装、かな?こういうやつよ」


ほら、とはアレンに着物を見せる。
見た事のない不思議な衣装にアレンは見入る。


「へぇー……さんに似合いそうですね」

「まぁ、私も日本人だし……」


「ちょ、!!!ユウ止めて!!!俺死んじゃうさ!!!!」


そんなラビの声に振り向けば、喉許に六幻を突きつけられたラビの姿。


「ユウ、やめなさいって」

「………チッ」


神田はの制止に不機嫌極まりない表情で舌打ちすると、しぶしぶ六幻を鞘に収めた。
ラビは喉許から消えた冷たい刃の感触に安堵し、首に手をあて盛大に溜息を吐いた。


「はぁ〜怖かった……マジで命の危険感じたさー……」

「もー…なんでユウはいちいちラビに突っかかるかなぁ」

「盗み聞きなんてしてるからだろ」


俺は疲れたからもう戻るぞ、と言うと、神田は振り向きもせずに談話室を出て行ってしまう。
は一応呼び止めるものの、もちろん返事は返ってこない。
もう、と小さく文句を言い、はカタログを閉じた。


「着物、買うんですか」

「そろそろ夏だしね。着物っていうよりは浴衣かな」

「ユカタ?」

「夏場に着る生地の薄い着物の事だよ。どっちも着物なんだけど、種類があるの」

「……複雑なんですね」

「っていうかそんなもん買ってどうするんさ」

「着るに決まってるでしょ?バカ?」

「や、それは判るさ。いつ着るん?」

「いつって……夜よ。寝巻き代わり」

「へぇー………そーいやこれ脱がせやすそうさねぇ♪」

「…………」


茶化すように言うラビに、の額に青筋が浮かぶ。
の周りの空気が瞬時に氷点下にまで冷え込んだのを察知したアレンとリナリーは素早く離れる。
が、ラビはからかう事が楽しいのかそれに気付かない。


「言い出したんユウだろ?ユウってばむっつりさぁー」

「…………ラビ」

「ん?図星?」

「ッいっぺん地獄に落ちやがれっ!!!!!!!!」


ゴキャァ、と何か聞こえてはいけない音を立てて、の杖がラビの頭を直撃する。
見ていていっそ気持ちいいくらいのフルスイングで、がラビの頭をどついたのだ。
本来の使用法から大幅にずれている、とアレンは冷や汗を流すが、此処で迂闊に能力を使ってしまえば全壊は免れない。
キレていても冷静ならしいといえばらしいが、ラビはそれでも重症である。


「……ひ…酷いさ……」

「……無念の死を抱く大地よ、黒き呪ば「さん!そんなの掛けたらラビ死んじゃいます!」」


グラビデの詠唱に入ったを、アレンが必死で止める。
はゆっくりとアレンに振り返り、抑制のない冷たい声で言う。


「いいのよ、一遍三途の川見るくらいの目にあってもらわなきゃ私の気も済まないわ」

「ダメですって!」

「………はぁ。ラビ、今度やったらこれじゃ済まないわよ。地下深く沈ませてあげるから覚悟なさい」

「す、すびばせんでした……」


ラビは半泣きでに謝る。
はそんなラビに冷たい視線を落とすと、リナリーににっこり微笑みかけて談話室を後にする。
ラビはアレンに抱えられ、そのまま医療室へ直行。
リナリーは一人談話室で読みかけの本を開いた。


「(やっぱりこれくらい騒がしくないと落ち着かないわ)」


と、何時もの日常が帰ってきた事が嬉しいリナリーであった。
(じつはいちばんはらぐろいのはかのじょかもしれない)




























(美女と野獣も確かに的を得てはいるけれど、美女も野獣が実は一番しっくり来ると思うんさ)





*************************************************************

実は神田に浴衣を着せてみたいさん。
自分の買うついでに、と神田の浴衣もちゃっかり選ぶ。





2007/04/08 カルア