その身一つ それ以外に何も持たない 持ってはいけない
それがブックマンとしての、運命
それを知っていて、彼は私を好きだと言う
「なぁ。最近なんか冷たくね?」
「んな訳ないじゃん。大体優しくする理由がねぇ」
「またぁーそんな乱暴な言葉遣いじゃいけないさ」
「ほっとけ」
いつもそうだ。
任務から帰ってくると何処からとも無くラビが出てくる。
私に抱きついたまま好きだの愛してるだのくだらない言葉を投げてくる。
お前はブックマンになるんだろ?
その身一つ以外何も持っちゃいけないんだろ?
なのにどうしてお前は私を好きだなんて言うんだ
理解が出来ない そこまで私を悩ませてどうする気だ
「お前がどうして私を好きだなんていうのかがまず理解できない」
「なんでさ」
「お前はブックマンになるんだろう?」
「……そうさ?」
「その身一つ以外何も持ってはいけない、んだろ?」
ラビは驚いた顔をして私を見た
きっと私が何も知らないと思っていたんだろう
生憎、私は知っているよ お前がどういう運命を歩むのか
だから辛かった
「知ってたんか」
「あぁ。聞いたんだ。ブックマンに」
「………だからオレを避けてたんさ?」
「………そうだよ」
私がラビを受け入れてしまえば、きっといつか来る別れは辛いだろうから
だから私は避けてたんだ ずっと その日が来るのが辛いから
私もラビが好きだから
「……確かにオレはブックマンになる」
だからこの身一つ以外何も持っちゃいけないんさ。
本当の名前も、国籍も、戸籍も、何もかも捨てた人間だから。
かといって、ブックマンになる未来を捨てる事も出来ないんさ。
悲しそうな目で私を見たまま、ラビは言った。
ラビもラビなりに悩んでいたんだろうか
私が悩んでいたのと同じように
「だから私は言わなかったんだ」
「どうしてさ」
「ラビを苦しめるのだけはいやだった」
「そんな事無いさ。言ってくれたらオレは嬉しい」
「いつか別れる時が来る。だから言わなかった」
ラビの顔を見るのが辛い
きっと今の顔は見せられるようなもんじゃないだろう
泣きそうで でもラビの真剣な想いが嬉しくて
今の私は「女の顔」だから
「………言ってよ」
「何が」
「好きだって。、言って?」
「嫌だ」
「……」
「お前…っいつか私の前から消えるだろ?!その時…っ私はっ」
頬を暖かい物が伝った
あぁ、私泣いているのか。
涙なんて流すのは何年ぶりだろうな
それもラビの…好きになった男の為に流すなんてきっとこれが初めてだ。
「オレは限られた時間だからこそといたいと思うんさ」
「随分…っ身勝手な男だなお前は……っ」
「何もしてやれない男だからさ、オレって」
だからせめて、その時まで二人でいたいって思うんさ。
オレがもしブックマンの跡継ぎなんかじゃなかったら
に真っ白なドレスを着せてやる事だって
とオレの子供をこの手に抱く事だって出来たんさ。
……でもそれは叶えてやれない願いだから
せめて、せめてさ。
今だけは二人で一緒にいたいんさ
そう言ってラビは私を抱きしめた。
相変わらず涙は止まらないし、上気した顔は赤いまま。
ただ布越しに伝わる鼓動が心地よかった。
「ラビ……」
「待ってるから、さ。」
「何を」
「がオレを好きって言ってくれる日」
そう言ってラビは笑った。
耐えられますか?
いつか必ず訪れる別れの日
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そういえば悲恋しか書いてないような気がする
2006/07/23 カルア