「千年公は、探してるぅ♪」


一人の少女が歌を歌いながら傘をくるくると回している。
夜中の大通りに彼女はどこか浮いていて、周囲の人間--大半が娼婦とその客--は少女を訝しげな目で見ていた。
少女の纏うドレスはキモノを基調とした物で、黒い生地に蝶の刺繍が施され、レースがふんだんに使われている。
やや短めの--膝上10cmと言ったところだろうか--スカートは、パニエで大きく膨らんでいた。
履物は15cm程の厚底草履で、膝の裏まで長く伸びた黒髪は綺麗に結い上げられている。
周りの視線を気にすることなく、彼女は歌いながらゆっくりと大通りを歩いていた。


「大事なハート、探してるぅ♪」


目の前に見えたのは、路地裏に消えていく寸前の自分が探している人物。
それはエクソシストで、少女は口角を吊り上げると傘でその表情を消し、ゆっくりと彼に近づいた。
普通の人間と何ら変わりない彼女は、ゆっくりと背後に近づくと傘で顔を隠したまま路地裏に入り彼に声を掛けた。


「ねぇ、お兄さん。私、家族とはぐれて迷子になってしまったみたいなのだけれど、中央広場はどちらだったかしら?」

「………なんだ、お嬢ちゃん迷子かい?中央広場なら道なりに行けば見えてくるよ。
 このあたりは物騒だからね、気をつけていくんだよ」

「ふふ、ありがとう、“エクソシストのお兄さん”♪」


少女はそう言うとふっと姿を消した。
道を尋ねられた彼は慌てて周囲を見回すも少女の姿は確認できなかった。
思わずイノセンス--装備型で見た目はショットガンに近い--を発動させ、警戒しながら辺りを見た。


「後ろよ、お兄さん」


くす、と笑い声交じりの声の後、彼は体を貫く鋭い痛みに目を見開いた。
何処に隠し持っていたのか、彼の胸を大きな刀が貫いていた。
痛みを堪えて振り向けば、其処には先ほど自分に道を聞いてきた少女がいる。
傘に隠れて気付かなかったが、その肌は褐色で額には7つの傷があった。


「な……ッ」

「…お兄さんは“あたり”かしら?」


少女はそう言うと彼に刺さったままの刀を抉り、彼は口から血の泡を吐いてその場に倒れる。
少女は傍らに落ちていた彼のイノセンスを手に取り、まじまじと眺めた。


「……何、者だ……?君は……っ」

「どうでもいいことよ。貴方はもう死ぬのだから。」


くすりと笑い、彼女はショットガンを乱暴に地面に落とす。
そうして先ほどのように歌を歌いながら斧を両手を上げた。


「大事なハート あなたは当たり♪?」


そして一瞬のノイズ音の後、彼女の両手は巨大な斧となっていて。
振り下ろされた瞬間に、イノセンスは砕け散って風に舞った。
イノセンスの持ち主である男はその光景をただ呆然と見るばかり。


「あら?これもハズレなのね……もう…。疲れたわ……」


少女は袖からカプセルに入ったイノセンス--それは原石のままの状態だったが--を取り出し確認する。
もしも今壊したイノセンスがハートであれば、彼女の持つ其れも砕けるという事になる。
しかしその現象が起こらないのだから、今自分が壊したイノセンスはハートではないという結論に行き着いた。
少女は大きく溜息をつくと、男に振り返る。


「あ……ッ」

「イライラさせないでほしいわ。とんだ無駄足じゃない。」


少女はそのまま男に斧を振り落とす。
凄まじい断末魔の声が上がり、少女の肌に返り血が飛ぶ。
少女は尚も斧を振り下ろし続け、その場は血の海と化した。


「………つまんないの」


最早人間としての原型をとどめていないただの肉塊と化した男を見つめ、ぽつりと言う。
少女の手は斧から戻っていた。



「オイオイ、こりゃまた派手に殺ったなぁ、?」



、と呼ばれた少女は振り返る。
其処には彼女と同じ褐色の肌と額に7つの傷を持つ燕尾服に身を包んだ男性の姿。


「…あらティキじゃない。どうしたの?」

「いやぁー近く通ったら血の匂いがしたもんでつい」

「いやぁーこいつハズレだったもんでムカついちゃってつい」


ティキ、と呼ばれた男はシルクハットを脱ぎに近づく。
もティキの口調を真似ながら笑って言う。
その無邪気な笑顔に不釣合いなほどの返り血が彼女の頬を、服を濡らしていた。


「千年公が呼んでんぜ?」

「私?」

「以外に誰がいんだよ。ロードもジャスデビも皆来てるぞ」

「ロードがいるのね?!早く行きましょうティキ!」


ロードの名を聞いた瞬間、満面の笑みを浮かべてティキの手を引く
それは後ろに広がる凄惨な光景を作り上げたとは到底思えない程、無邪気な笑顔だった。


「判ったから、痛ぇって。」

「だってロードに会うの久し振りなんだもの!」


はくるくると回りながら上機嫌で歌を歌う。
ティキはそんなに笑みを零すと、小走りで進んでいくにあわせて歩調を速めた。


「千年公は、探してる♪大事なハート、探してる♪貴方もハズレ♪次はだぁれ?」


のその歌声は、二人が闇に消えていくと同時に掠れて消えた。
其処に残されたのは、血の海に浮かぶ肉塊だけだった。



















  君




(だってわたしのだいすきなおともだちなんだもの!)








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ちゃん、ちょっと歪んだノアの少女でした。
能力は変身能力。ハンターハンターでやってる迷走ヒロインと同じです(リサイクル。)

年齢は12、3歳くらいだといいな。
ティキぽんはお父さんなのでロードとちゃんのお迎え役によく借り出されています。
ヘタレティキってかわいいよね








2007/04/14 カルア