「ティ、キ…ッ」
「っ爪立てんなって…こら」
「だ、ってぇ…ッぁ…!」

僅かな時間の逢瀬、まっしろな貴方に抱かれて私はまた病に蝕まれる

「っは…」
「てぃき、…ッ」
「んー?どした、

貴方の熱が私を貫く度に、貴方の艶の篭った声が私の耳を侵す度に

「ティ、キ…ッ!」
「…っこら、締めんなってーの、」

骨ばった指が頬を滑る度に、濡れた舌が鎖骨をなぞる度に

「って…っあぁっ!」
「っは…やば…」

私は“あなた”に溺れて、堕ちてゆく

「ティキ、ティ キ…ッ!」
…ッ」












「ティキ…」

透き通るソプラノの綺麗な声でオレの名を呼ぶ声を聞く度に

「ん?」

その白く細く綺麗な指がオレの手に絡む度に

「 だいすき 」

君がオレに だいすき だと言う度に、

「……あぁ、オレもだよ。

オレはくるしくて、悲しくなる。

「しってる」

は鋭いから気付いているのかも知れない。オレとが、憎み合い殺し合うべき相手だという事、オレがノアの一族だって事に。それでもはオレを拒絶することはしないし、が優しい笑顔で笑うから、

「……

オレはそれに甘えている。気付かない振りをしているままでもいい。咎落ちになんてさせやしない、そうなる前にを縛る神の化身とやらをぶっ壊してやりゃあいいだけ。そんなものノアの一族であるオレには容易い事。そう、今すぐにだって。

「ねぇティキ、ティキは何も聞かないのね」
「……何を?」
「私の仕事とか、私生活とか」

だってオレはその服を知っている。エクソシスト、憎むべき偽りの神の遣い。そんな事は聞かなくたって判ってる。がエクソシストになった理由も、どんな能力でアクマを壊し、オレ達ノアの一族と闘うのかなんてことは、とうの昔から知ってるんだ、

「…探られたくないもんっしょ?女は特に」
「……そう、ね」

ああほら、君はやっぱり気付いてる。オレが君の敵だってこと、殺すべき相手だって事に。だってそうだろ?そうじゃなきゃ、はなんでそんな悲しそうな顔で笑うんだ。

「聞かなくても、はこうやってオレといてくれる。オレはそれでいいよ」
「………そ う、」

それでもオレは、敵であるはずのが好きで好きで、そうだきっとがこのせかいから消えてなくなってしまったら狂えるくらいを愛してて、でもオレらは決して結ばれはしない者同士、まるでロミオとジュリエットのような二人で、本当なら今こうして二人でいる事は赦されない事で、

「……ねぇティキ、」

だから、気付かない振りをして

「……ずっとこうしていられたら、いいのにね」

“白い”オレのままで今までずっとずっと君の隣にいたんだ。“黒い”オレを知って欲しくなかったから隠し続けて、君がエクソシストだって事にも気付かない振りをして、何その服って変わった趣味してんねぇなんて白々しい台詞も君は笑って受け流してくれたから、だから、

?」
「わたしは、ティキだけなの」
「…んなの、オレだって」
「ティキだけしか、いらないの、だからだから、」
「………?」

だからこのまま、二人でいられると思ってたんだ。がイノセンスを、神の使徒たる資格をなくせばきっと、ずっと二人で生涯を共に歩んでいけるって。

「 てぃきは、のあなの? 」

手を取り合って、二人で。は真っ白なドレスを着てオレの隣で誓いを立ててさ、

「 わたしの、てきなの? 」

オレは毎朝に行ってきますって言って仕事行って、は家で暖かい夕食を作ってオレの帰りを待ってさ、

「 ねえ、てぃき 」

子供も欲しいよな、によく似た女の子がいいな、絶対美人になるしそれに、

「 ティキ 」
「……ッ」

家族を知らないから、しあわせになりたかっただけなんだ。ただ君と、しあわせに。

「……ほんとう、なのね」
「…、」
「いいの、気付いてた…っ知らない、振り…してた、だけで…っ」
「おれ、は、」

そんな小さな幸せを願う事すら、オレ達には赦されない。憎み合い殺し合う運命のもとに生まれてしまったオレ達には、そんな事は。

「それでもよかったの、ずっと一緒にいたかった、でも、」

の頬を流れる透明な滴だけがやけに綺麗で、泪で濡れた琥珀色した大きな瞳はオレを映して揺れていた。なあ、オレだって同じだよ。お前とずっとずっと、

「私がエクソシストで、ティキがノアだって言うんなら」

ずっとずっと、二人で並んで手を繋いで

「もう一緒には、いられないのよ、ティキ」

二人だけの神に誓いを立てて、生涯共に歩んで行けたらって。

……」

叶うなら何もいらない、さえオレの隣にいればそれだけで。

「ティキ、ティキ。私はあなただけを あいしてるわ 」

それだけで、よかったんだ。他には何も望まなかった。






(オレに口付けたのその声が段々とフェードアウトしていって、オレの意識は闇に飲まれて消えていった。薬を盛られたと気付いたのはそれから何時間も後、日が昇りきった頃だった。はまるでそこに存在しなかったかのように、何の痕跡も残さずに消えていた。)






「……、」

嘘だろ?なあ、頼むから嘘だって言ってくれよ。なんでがこんなとこで倒れてんだよ。意味判んねぇよ、悪い冗談は辞めてくれ。なあ、お前は強いだろ?レベル2に負ける訳がねぇだろ?なあ、

「…… てぃ き …?」
、何してんだ、お前、なんでこんな…っ」
「…変、なの…っ 敵が ひとり、消えるのよ …喜び なさい、よ…」

なのになんでお前はそんなに血塗れで、こんな路地裏に倒れてんだ?なあ。抱き上げた身体は冷てぇし薔薇色だった唇は真っ青だし、お前ほんとに何してんだよ、

「喋るな、頼むからそれ以上喋らないでくれ、血が、」
「 ばか、ね…私は、敵 で、しょ……ティ キ 」
「何してんだよ、お前レベル2なんかに負ける程弱くねぇだろ、なあ、」

「 わたしは、かみに みすてられた、のよ 」

「……見捨てられた?、どういう…」
「イノセンスが ね、発動、できなかった…」

神様は、私が、裏切った 事を、 きちんと、見て いらしたんだわ。だから 私は、イノセンスに、見捨てられたの、

「……っ、」
「わたし、もう、エクソシストに、戻れない ね 」

あなたに、ノアに、恋をしてしまった、から。これは、罰、なのかも ね

、だめだ、しぬなよ、なあ、」
「 夏、なのに … なんで、こんなにさむいのかなあ 」
「…ッ、」

「ねえてぃき、世界ってこんなに、まっしろできれいだったのね」

、だめだ、しぬなって、なあ…ッ!」

「わらって、よ…… 最期に見た顔が、泣き顔だなんて いや、よ 」

「…っ笑え、るか…ッ、おれは…っ」

力なく伸ばされたの白い手は青白くて、まるで氷みたいに冷たくて。ああの時間は此処で終わるんだってどっか他人事みてぇにそれを見てるオレがいて、

「……最期に逢えて よかった…」
「……っ、」
「 次に、生まれてくるときは……ふつうの、恋人同士、に、なれると いいなぁ 」
「だめだ、目 開けろ、、…っ!」

「 ティキ… ありが、とう … 」

「……?」

はそれきり、何も言わなかった。どれだけ名前を呼んだって、まっしろな頬に指を滑らせたって、青白く冷たい唇にキスしたって、の琥珀色はもう見えなかった。

「……、だめだろこんなとこでねたらかぜひくぞ」

、愛しい。お前がいれば他になにもいらないんだ、だから、だから、

「…ひえきってんじゃねーか、ばか」

お願いだから、きれいな琥珀の双眸にまたオレを映して、

「……かえろう か」

オレの名を呼んで、笑ってくれ。











れ果てた





ユグドラシル



(オレの世界は君だった。君という存在が消えた今、オレの世界は、もう)









久し振りのティキ短編が救いようのない悲恋ってどうなんだ自分…!
「哀歌」と「うみねこのなく頃に」を聞きながら書いたらえらいこっちゃ