電車に乗ってて
音楽聴いてて
トンネル抜けたらゾルディック?
異世界トリップなんて冗談じゃない
悪い夢なら覚めてくれ。
迷走ノスタルジア 01
「………ねぇ君、オレの部屋で何してるの。」
どすん、という衝撃を感じ目を開けたの目に飛び込んで来たのは
どこかで見た記憶のある、猫のような目が印象的な長髪の男性だった。
は突然の出来事に幾度も瞬きをし、まさかと記憶を辿るも記憶はトンネルに差し掛かった辺りで途切れている。
今自分の目の前にいるのは私がおかしくなっていなければイルミ=ゾルディックではないか。
それならここはゾルディック家?そして私、異世界トリップ?ありえない。夢だ。これは夢なんだ。
ぐるぐると混乱して回らない頭で懸命に考えたは、イルミの先ほどの質問から1分程経ってようやく口を開いた。
「え、と……よく、判らんッス……」
「判らないじゃないでしょ?君、どっから来たの」
「どこ、って…日本の、東京っていう……それより、ここは…」
キョロキョロと見回した部屋はとても広く(多分20畳はある)、必要最低限の物しか置かれていないシンプルな部屋だった。
そしてこの部屋の主であろうイルミは、手刀を構えたまま(しかも手を鋭く変形させて)に詰め寄る。
「…此処はククルーマウンテンにあるゾルディック家のオレの部屋。
ニホンって聞いたことないんだけど。」
「ククル……ゾル……?!」
「そう。返答次第じゃ君、殺すから」
「えぇええぇぇええぇええぇぇええぇぇぇええええ?!」
びき、とイルミの手が嫌な音を立てて更に鋭く変形していく。
はそのイルミの手を見て冷や汗をかき、逃げる様に後ずさった。
が、それも結局無駄な抵抗に終わり、両手をイルミに強く掴まれて身動きが取れなくなってしまった。
「答えて。何処から、どうやってオレの部屋に入ったの?」
「わ……わわわわ、判りませんって…てゆか手、痛い!!!」
「判らないって言われても君怪しいし。」
「お願いだから殺さないでえええええええええ!!!!!話を聞いてえぇぇぇええぇぇえええ!!!!!!」
は力の限り暴れた。
振り上げた拳がイルミの顎に綺麗に決まり、一瞬たじろいだイルミはの腕を開放する。
圧迫感のなくなった手に一瞬目をやり、次の瞬間飛びのくようにイルミから遠ざかる。
イルミは顎を押さえて立ち上がった。
「…痛いんだけど」
「……ッ不可抗力ですって!!!!!!」
は近づいてくるイルミから、叫び声を上げて逃げ回る。
は気付いていない。
一般人のでは、到底イルミからは逃げられないという事に。
そして自分はなぜか、イルミの攻撃をかわし、逃げられているという事に。
一般人ではありえない動きを見せるに、イルミは表情には出さぬまま驚いていた。
(おかしいな…このオレが捕まえられないなんて)
そんな事を思いながらも、を追いかけ捕まえようとするイルミ。
しかしその追いかけっこも、勢い良く開いた扉の音に、中断を余儀なくされた。
「イル!」
「……母さん?」
「(キキョウさん?!って事は此処ってやっぱゾル家?!)」
クローゼットの上に上がる寸前のと、床を蹴って飛び上がろうとしたイルミ。
そのままの体勢で扉に視線を向ければ、キキョウの姿。
は思い切り冷や汗を流し、あぁ私の21年の人生終わったな、と悟った。
が、キキョウはクローゼットの上で固まったを見るなり頬を手にやり、叫んだ。
「まああぁあぁああ!イル!貴方こんな可愛らしいお嬢さんとお付き合いしていたの?!」
「付き合…ッ?!」
「母さん、違う。こいつ、いきなりオレの部屋に現れたんだ」
だがしかしキキョウの口から出た言葉はどうやったらそう結びつくんだと叫びたくなるような的外れな事で。
は思いも寄らないキキョウの言葉に絶句し、硬直した。
「まぁ……」
「逃げるし怪しいし、殺しておこうと思って」
「ダメよイル!こんな可愛らしい子を殺すなんてママは許しません!」
「…母さん、思いっきり不審人物なんだけど、こいつ」
さすがゾルディック家の嫁、とでも言おうか。
マイペース極まりないキキョウの言動に、イルミは大きく溜息を吐いた。
はといえば未だクローゼットの上で硬直したまま、キキョウを凝視していた。
「ねぇ貴女、降りていらっしゃい。貴女みたいな可愛らしい子を殺したりはしないわ」
「え、あ…はぁ」
そのキキョウの言葉を信じていいものかと思ったが、とりあえず降りなければいけないと思った。
クローゼットの取っ手にうまく足を掛けて、は床に着地した。
「貴女、お名前は?」
「えっと…(ファーストネームが先だよな…)です。=。」
「ちゃんね?私、キキョウというの。」
「(知ってます。)キキョウ…さんですか」
「キキョウだなんて!ママと呼んで頂戴!」
あぁ、私やっぱりこの人が判らない。
思い切り不審人物なのに、初対面でママと呼んで頂戴、なんて。
はキキョウのマイペースさに冷や汗をかきながら生返事をした。
「母さん、オレ無視して話進めないでくれる」
「あら、ごめんなさい。」
「殺しちゃダメならどうするの、こいつ」
「そうね…とりあえず、パパとお義父様に会ってもらいましょう」
「(マジですか?!)」
「そんな顔しなくても大丈夫よ。私、息子ばかり5人だから娘が欲しかったの」
うふふふ、と笑うキキョウに、は殺されるのとは別の意味で恐怖を覚えた。
私、もしかしてとんでもない所に来てしまったんじゃ。
考えたものの、到底逃げ出せるわけもないので、観念して大人しくすることにした。
***
「えっと……」
キキョウに半ば引きずられるようにして連れてこられた部屋。
イルミの部屋よりも更に広く、よく判らないが高価であろう調度品が並んでいた。
そして今の目の前にいるのは、ゼノとシルバ。
の右隣にはキキョウ、左隣にはイルミ。
余りの威圧感にの心臓は停止寸前だった。
「と言ったな」
「はい」
「経緯は判らんが、イルの部屋にいきなり現れたらしいの」
「え、あ…はい」
「念能力者、という感じもしないな」
ふむ、と一人ごちてを見るゼノ。
はその視線に思わず体を強張らせた。
「……そんなに怯えんでもよい。何もいきなり殺したりせんよ」
「…はぁ……それで、あの…私、どうなるんですか?」
「……ふむ。どうする、シルバよ」
「別に置いてやっても構わないだろう。この娘が刺客という事もないだろうしな」
「いい…んですか?」
「念も使えんお前じゃオレ達の命は取れん。」
何もそんなきっぱり言わなくても…!
はがっくりと肩を落とし、盛大に溜息を吐いた。
「ちゃん!私と一緒にいらっしゃい!!!可愛いお洋服、沢山あるわ!」
「キ…キキョウさん?!」
そんなの背後に気配もなく近寄り、の右手を取り駆け出したのはキキョウ。
イルミは母の嬉しそうな表情に 災難だなあの子 と思い
シルバは妻の狂喜と言って差し支えない叫び声に深く溜息を吐き
ゼノは義娘に着せ替え人形のように扱われるであろうに少しばかり同情した。
「私、娘を持つのが夢だったの!!!!」
「いや…あの、ちょ…いやああぁああぁああぁああぁぁぁぁあああ!!!!!!」
のその叫びに、ククルーマウンテンに生息する野鳥は驚き一斉に飛び立った。
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ゾル家最強はキキョウママだと思う。
2006/11/29 弖虎