嫌な予感っていうのは当たる物で。
なんていうか、とんでもない話になっている気がしないでもなく。
っていうか、私に拒否権なんてものは存在しない訳で。
それって人権無視じゃないか?とも思ったけども、怖くてそんなこといえない訳で……
迷走ノスタルジア 17
「……まずはおかえり、かのぅ」
「た、ただいまです」
イルミと並んで座るの目の前にはゼノとシルバとキキョウがいる。
あぁなんだかいつかの光景にそっくりだ、なんて思ったが黙っておいた。
兎に角、この場から逃げ出したかった。
「…で、話というのは?」
「(早速本題ですかシルバさん?!)」
前置きしようよ、頼むから前置きくらいしようよ!
と心の中で叫んでみる物の、隣のイルミは容赦なく口を開く。
は縮こまって俯いていた(だって話の予想がつきすぎて恥ずかしいし怖いんだ!)
「あぁ、オレと、付き合いだしたから」
さらっと言うイルミに、当然3人は少しばかり驚く。
キキョウにいたっては両手を顎に当て、叫びだす始末。
は半ば自暴自棄気味だった。
「まぁあぁああ!!!!!!!」
「ほぉ」
「ふぉっふぉ。これでゾルディックも安泰かの?」
え、いや、ちょっと待ってゼノさんなんで安泰とか言い出すの?!
っていうか付き合い出したってそんな言葉がイルミの口から出るなんて!
は恥ずかしさで最早パニック状態。
「も合格したんだし、別に構わないよね?」
「えぇ!!!!!もちろんよ!!!!」
キキョウは一人で狂喜乱舞している。
は付いて行けずにただ俯くばかりだった。
「ちゃん!!!!!」
「ぅぇ?!あ、はい!!!!!」
「イルをよろしく頼むわね!」
何をよろしく頼むんですかキキョウさん!!!!!!!
「…生きてるうちに曾孫の顔が見れそうだのぅ」
「娘か…悪くないな」
ゼノさんもシルバさんもなんかすっ飛んだ考えしてませんか!?
は心の中でツッコミを入れていたが、3人が3人とも乗り気である。
なんだか嫌な予感が頭を過ぎった。
気のせいだと思いたかったが、キキョウが言った言葉でそれは打ち砕かれた訳で。
「それなら婚約っていう形にしましょう!!!!」
「こ…っ?!」
は思わず驚いた顔を上げる。
視界に入ったキキョウの顔はそれはそれは楽しそうだった。
ゼノもシルバも、(傍目から見たら判らないが)嬉しそうな顔をしていた。
あぁ、もう何を言っても無駄かもしれない。
はもうどうにでもなれや、と覚悟を決めた(投げやりになった、とも言う)
「うん、オレはそれで構わないけど。っていうか以外の女なんてイヤだし」
「まぁまぁ。ふふふふふ」
「不出来な息子だがよろしく頼むぞ、」
「ぅ…は、はい……」
「曾孫は女の子がいいのぅ。孫は男ばっかりじゃし」
「ゼノさん、考えが飛躍しすぎです……」
ともあれ、イルミとの関係は「恋人同士」から「婚約者」へと変わった。
***
「姉様とイル兄様、婚約したの?!」
「うん」
「ってことはがオレの姉貴になる訳だ」
「そういうことになるね」
「姉様が出来るんだ…」
夕食後のリビング、暖炉の前で談話するゾル家兄弟3人と。
はイルミの横に座ったまま顔をほんの少し赤くしてタバコを吸っている。
「…姉様?」
「え、あ…な、何?カルト君」
そんなに、怪訝な顔のカルトが声を掛ける。
がその声に驚き顔を向ければ、笑顔のカルトが目に入った。
「僕、嬉しいです。姉様が出来て」
「(……かわいいっ!)私みたいな姉さんでいいの?」
「姉様がいい」
「そっか。ありがと」
ふふ、と笑うに釣られてカルトも笑う。
家族という物になじみのないには、いくらか歯痒い物だったがそれはとても心地よい歯痒さだった。
「が姉貴になったらゲームできる時間も増えるな?」
「そうだねぇ。ってかあんま変わらないような気もするけどね?」
「今度こそ負けねー」
「私だって弟には負けませんよーだ」
カラカラと楽しそうに笑うを見つめるイルミの目は優しかった。
カルトは見た事がない兄の優しい表情に、少しばかり驚いたようだった
(イル兄様、本当に姉様の事好きなんだ)
少しばかりマセた10歳児である。
キルアといいカルトといい、ゾルディック家の子供は早熟な様だ。
***
「……婚約、かぁー」
夜10時を過ぎた頃、はイルミと一緒に自室へ戻った。
ハンター試験合格の報せを聞いたキキョウがメイド達に命じて用意させた専用の自室である。
場所はイルミの部屋の隣で、バルコニーからは月と星空がとても綺麗に見える部屋だった。
そんな部屋の天蓋付きのベッド(もちろんキキョウの趣味である)に横になりながら、はぼそっと呟いた。
「はイヤだった?」
「まさか。ただいきなり飛躍しすぎて驚いてるだけ」
ベッド近くのソファで鋲の手入れをしていたイルミが、そのの呟きに反応して立ち上がる。
イルミがの近くに腰を降ろせば、ぎしりとベッドが小さく音を立てた。
は起き上がり、枕を抱えて座り込む。
「そう」
「……ねぇイルミ、キルアにはいつごろ会える?」
「……今は独房に入ってるからね、しばらく先になると思うけど。…どうして?」
「キルアも私の弟になるんだよ。…挨拶したいなぁと思って」
「そうだね。でも独房に連れてく事は出来ないから」
「……うん」
は枕を抱きしめ、顔を埋める。
その表情は幾らか沈んでいて、イルミはその表情を見逃さなかった。
手を伸ばし、の頬に触れる。
冷たいイルミの手に、の体温が伝わる。
は目を細め、目線を枕へと落とした。
「……心配性だね。大丈夫だよ」
「判ってるけど……」
心配なんだ、と消え入りそうな声で言うの頬を、イルミは尚も撫で続ける。
はゆっくりと頬を撫でる手に手を重ね、目を閉じた。
「あと10日もすればキルも独房から出られるよ」
「うん」
「そうしたら挨拶すればいい」
「うん」
「だから今は我慢して」
「うん」
耳に届く心地よいアルトテナーと、頬を撫でる冷たい手の感触はいつしかを眠りへと誘った。
こっくりこっくりと船を漕ぎ出したにイルミは口角をわずかに上げるだけの笑みを漏らして
「…眠い?」
「うん……」
「そう。まぁ色々あったしね。オレ部屋に戻るから、ゆっくり寝なよ」
「ん……おやすみ、イル……」
「うん、おやすみ」
ゆっくりとをベッドに寝かせ、額に触れるだけのキスを落としイルミは自室へ戻っていった。
は扉の閉まる音を聞きながら、意識を夢の世界へと飛ばしていった。
(……まだ暫くはオアズケかな)
なんて事をイルミが思っていたなんて、には到底思いつかなかった。
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クリスマス企画でのネタバレにようやくこぎつけたりなんか。
やっぱりツンデレなさん。
2007/02/19 カルア