「…異世界、か…」
そう結論付けるしかないんだろうな。現には空から降ってきた訳だし…もし仮に念能力者だったとして、オレ達の誰にも気付かれずあの場に突然現れるなんて芸当はよほどの達人でない限り無理な話。第一、当の本人は瀕死の重傷を負っていた上に見たことも無い服を着ていたのだから。…だとしたら、はいずれオレ達の前から姿を消してしまうのだろうか。…月読輝夜姫が月へ帰ってしまうように、も。
「莫迦莫迦しい。手放せるもんか…」
漸く見つけた、真珠星だ。
「……」
「クロロさん?」
「調子はどうだ?」
「大分いいですよ。痛みももう殆どありませんし」
「そうか」
はベッドに座って本を読んでいた。
ベッド脇に置かれた本棚から選んだのか、日本語で書かれたえらく分厚い本を閉じて、は皺の寄ったシーツを綺麗に整えた。
「顔色もいいみたいだな。」
「クロロさんのお蔭ですよ」
「オレは何もしていないさ。手当てをしたのはオレの知り合いの医者だしな」
「でも、お医者様を呼んで下さったのはクロロさんでしょう?」
「……ああ」
「見ず知らずの私に此処までしてもらって、なんだか申し訳ないです」
「いや、気にするな」
クロロが呼んだ医者というのは裏社会ではそれなりに名の通った名医だった。
は右手と左足、肋骨を3本骨折していた上、全身打撲の重症だったが彼は僅か数時間での手当てを終えたのだ。
勿論、治療代として5000万ジェニーという法外な額を要求されたがクロロにとっては端金だ。
ただそれをに言ってしまえば気に病むだろうというのはの態度を見れば明らかだったので言わないでおいた。
「あぁそうだ。明日、オレの仲間が2人此処へ来る」
「…仲間、ですか?」
「あぁ。買い物を頼むといい。服ならオレでも見立ててやれるが流石に化粧品は範疇外だ」
「…あ、」
「オレやシャルには言いにくい事もあるだろ?暫く居てくれるらしいから」
「……はい」
洋服や装飾品の類であればクロロやシャルナークに言っても何ら問題はないだろう。
だが下着や化粧品は女性でないと判らないだろうから、マチとパクノダを呼んだ。
女同士でないと気兼ねしてしまって言えないだろうから、というクロロなりの気遣いという訳だ。
「すいません、なんか…何から何まで」
「気にするな、と何度も言っただろう?オレがしたいからしているだけだ。が気にする事じゃない」
「……はぁ」
と出会ってから2日という短い期間ではあったが、はとても遠慮がちで控えめな性格だという事が判った。
(厳密に言えば1週間程経っていたのだが、が5日間眠っていたのでその間は数えないでおくとして)
「今は怪我を治す事だけを考えればいい」
「はい…」
遠慮しがちで何処か儚い印象を受けるがその裏には凛とした雰囲気を持った女性。
それがクロロがに抱いた第一印象だった。
「…退屈なら日本語で書かれた本もある。後で食事と一緒に持って来よう」
「あ…はい。有難う御座います」
「あぁ。ゆっくり休め」
「はい」
ぱたん、と静かな音を立ててドアが閉まる。
クロロは廊下を歩きながら、何の本を持って行ってやろうかと考えていた。
(凛として咲き誇る大和撫子のような君)