「……えぇと。」

私は今、何がどうしてこんな状況に置かれていなければならないのか。確かに昨日は久し振りにチョコ…じゃなかったクラウド達と会ったものだから、ティファの店で延々と酒盛りをした挙句記憶を失くしかける程酔っ払って帰宅したはずなのだけれども。というかここは確かに私の家の私の寝室であって、差し込む日差しは間違いなく朝のそれ、ここエッジの街で漸く慣れ始めてきた平穏な日常の始まりはある日突然崩されるハメとなった。私の記憶に間違いがなければ、私の頭がおかしくなっていなければ、今現在私の隣で安らかな寝息を立てているのは半年ほど前にミッドガルに突然現れて私を姉さんと呼びクラウドを兄さんと呼び、あろう事かあの莫迦ルーファウスがどこからか拾ってきたジェノバの首を母さんと呼び、リユニオンだか何だかをしようとしたあの銀髪三兄弟のうちの一人、カダージュだ。彼はすったもんだの末クラウドにシバき倒されて星に還ったんじゃなかったのか。それとも、昨日飲みすぎた所為で私は幻覚でも見てしまっているのだろうか。頼むから誰か教えてくれ、なんでこいつがあろうことか私のベッドにいらっしゃるのでしょう?

「…ん、ぅ……?」
「(起きたー?!)」

ベッドに身体を起こしたまま、目の前の枕に顔を埋める銀髪を見ていたらそいつは眉を顰めてうめき声を上げた。開かれたその瞳は魔晄を浴びた者のその瞳、間違いなく私の記憶の中のカダージュのそれと同じ色だった。……兎に角、私は目の前でぼけーっとしているカダージュと目を合わせたまま、言葉をなくして固まっていた。

「ねえ、さん……?姉さん!」
「どぅわさ?!お、おいこらお前…ってかどけ!重い!」
「姉さん、姉さん、姉さんっ!」

…あのすいません何か性格変わってませんかこのこ。確かにマザコンシスコンブラコンと三拍子揃っていた部分はあったにせよここまで酷くはなかったというのに、何故私は今カダージュに抱きつかれあまつさえ押し倒されかけているんでしょうね?誰かほんと教えてっていうか助けて下さい。まるで子供のように抱きついてくるカダージュはいくら幼い性格をしているとはいえ体格は立派な青年のそれな訳で、対する私は成人女性にしては小柄でガリでへっぽこで、そんな私がカダージュに全力で飛び付かれれば必然的にずっこけてしまう訳で、何だかんだで私は現在カダージュの身体の下、つまりは押し倒されているような状況にあるらしかった(だって視界は銀色だった)

「ちょ、…ってか…カダー、ジュ?」
「姉さん……姉さん…」

お前それしかいえないのか。と思ったけど、カダージュが泣きながら抱きついてくるもんだから跳ね除ける事も暴言を吐く事も出来ず、ただ私を見下ろすその翠色のひとみはとても悲しそうだったから、とりあえず目の前のこの男を猫とでも思って背中を撫でてやったらカダージュは途端にその表情を明るく変えて私の名を呼び抱き締めたものだから私はまた驚いた。

姉さん!あぁ、やっぱり姉さんだ!」
「カダ……どう、したの?あなた、ううん、あなたたちは、」
「僕は、僕らはね、ほしに還ったあの日からずーっとずーっと、ライフストリームの中から姉さんを見守ってたんだよ。また、会いたいって思った。そうしたら僕は、此処に来れたんだ。ほしが僕を、此処へ遣ってくれたんだ」

カダージュはそう言いながら私を抱き締める腕に力を篭めた。私はただ目の前で今起こっているこの現実に着いて行けずに、カダージュの腕の中でただ呆然とする事しかできなかった。余りにも突然過ぎて、もしかしたらこれは夢なんじゃないかと思ってもみたけれど私を抱く腕は確かに暖かかったし懐かしいこの香りは間違いなくカダージュの物だったから、これは現実だと受け止めるしかないらしかった。

「カダージュ…?最初から説明して?私莫迦だから判んない」
「あぁ…姉さんはばかだったっけ……うん、ごめん姉さん」
「てめぇそこで納得してんなよこら」

あぁやっぱりこの銀髪はカダージュだ。私を姉さんと呼び、莫迦だという言葉を真に受けるこの純粋すぎる子は。思わず、カダージュには見せた事の無い私の素が出そうになって慌てて口を押さえたが目の前にいるカダージュはそんなことには微塵も気付いていないようだった。

「だからね姉さん、僕は…僕らはずっとライフストリームの中で姉さんのところに還りたいって思ってたんだよ。あの日から、ずーっと」
「うん、うん」
「そうしたら、ほしはその願いを聞いてくれたんだ。気付いたら僕は姉さんの傍にいた。ずっと還りたいって思ってた、姉さんの傍にさ!」
「……そ、っか。そっか、」
「…泣いてんの?姉さんらしくない」
「だ、って…っあんたいきなり、消え、る から…っ!私を…、姉貴、を、置いて 勝手に…っ」
「……うん、ごめんね、姉さん」

血の繋がりなんてなくて、何で姉さんなんて呼ばれるのかすら判らなくて、それでもこの子達は私を姉と呼び慕い懐いてくれて、短い間ではあったにせよ私がカダージュに淡い想いを寄せていたのもまた真実な訳で。確かにカダージュたちがした事は赦される事ではなかったけれど、彼らが消えてしまった時はそれはそれは悲しくて、最近になって漸く笑えるようになった私には今のこの現実がとてもとても嬉しかった。

「……っおかえり、カダージュ」
「……うん、ただいま。姉さん」

私が涙を堪えて笑ったら、カダージュもにっこりと笑った。そうしてまた私を抱く腕に力を篭めたものだから、苦しくなった私は思わずカダージュの胸板を思いっきり叩いた。カダージュはげほげほと咳き込んでいた。