「…どこだ、ここ」

さてはてここは一体どこだろうか。布団に半身を起こした少女は間抜けた声を上げた。自分は確か学校へ行く為に電車に乗っていて、暖房が適度に効いている事と車輪がレールを走る一定のリズムが心地よくてうたた寝をしてしまったような事だけは、ぼんやりとではあるが覚えていた。だが此処は一体どこなのだろうか。ぐるりと部屋を見回せばやけに古めかしい印象を受ける和室。電車の中ではないということだけは確かだった。

「……えっと、」

目が覚めたらそこは不思議の和室でした、なんて何の映画だ。少女は自分自身にそうツッコミを入れたくなったが此処がどこなのか皆目検討も付かない。確かにお座敷電車といった畳敷きの旅行用電車もあるにはある。だがそれにしてはレールを走っているようでもないし、何よりこんな無駄に豪華な部屋付きのお座敷電車なんて聞いた事もない。いよいよ自分が何処にいるのだか判らなくなった少女は、全身の力を抜いてまた布団に倒れこんだ。

「夢よ夢。そう、これは夢。起きるのよ

というのが少女の名前らしかった。夢だと自分自身に言い聞かせながら布団にもぐりこんで目を閉じて、ゆっくりと3つ数えてまた目を開く。が、彼女の目に入るのは相変わらず豪華な和室だった。

「………どこだここはー!!!!!」

は自棄になって飛び起きる。途端、襖が開いたと思えば頬に傷のある、見た目はどこのチンピラ、ヤクザさんですかというような男性。はその威圧感に条件反射的に土下座をしていた。

「すっすいませんごめんなさい騒いですいません殺さないで下さいっていうかどこですかここあなただれですか」
「……落ち着け」

男はため息を一つ付くと、に入ってもよろしいかと聞く。そんな改まって何を、と思ったがはどもりつつもどうぞと返答した。男はから少しの距離をとった場所に座った。

「……俺は片倉小十郎と言う。」
「は、はぁ」
「俺の主が森で倒れていたアンタを拾って帰ってこられた」
「……森?」

さて。可笑しな事になった。電車の中にいたはずの自分が、森で倒れていたという。小十郎と名乗った男の言葉に嘘はなさそうだったし、彼はまるで時代劇で見るような着流しを着ている。いよいよ以って自分が今どこにいるのか判らなくなったは言葉を失った。

「……すいません、ここは、一体どこですか」
「…此処は奥州、伊達政宗様の居城だが」
「伊達、まさむ………えぇぇぇえええええ?!だ、だだだだだだだ?!伊達?!」
「落ち着け」

奥州、そして伊達政宗。知らない訳がない。独眼竜と呼ばれた戦国武将だという事は学校で学んだ事だ。だがそれはが生きている時代より400年以上も前の事、ありえる訳がない。もしも小十郎が言っている事が真実だとするのならば、自分は所謂タイムスリップとやらをしてしまった事になる。

「伊達、政宗……それに片倉小十郎、って……まさか、そんなぁ」
「?」
「……嘘でしょ、ありえない……」
「おい」
「ぅぇ?!えあ、はい?!」
「お前一体何者だ?その着物にしたって、南蛮の物かと思ったが見た事もない生地だしそんな格好をした南蛮人など見た事もない。それにその髪も短すぎるし農民かと思えば手も綺麗すぎる」

どんだけ観察してんですかあんた、とツッコミを入れたくなったが、此処が戦国時代の奥州で伊達政宗の居城だというのなら今の自分が異分子という事になる。小十郎は政宗の右腕とも言える家臣だったらしいから、自分を不振人物だと思うのは当然の事。は自分なりにそう考えた。

「……何者か、って…私も混乱しきっちゃっててよくは判らないんです、けど……」
「自分が把握していることだけでいい。ま、返答次第じゃ俺はアンタを斬らなきゃいけねぇが」

ちゃきり、と小十郎が刀に手を掛けながら言うものだから、は息を詰まらせた。現在のは彼にしてみれば不審人物で、を拾ったというのは此処の城主、しかし素性が知れない以上、殺されたって仕方がない。戦国時代というのはそういう時代だ。

「……っし、信じてもらえるとは思いませんし信じて頂こうとも思いません、それを念頭に置いて下さい」
「あぁ」
「…私が、400年以上先の未来から来た人間だ、って……信じませんよね……はぁ」
「未来だぁ?」
「……はい……ええもう煮るなり焼くなりご自由にしてください……うぅ」
「………ちょっと待ってろ。部屋から出るんじゃねぇぞ」

小十郎は何か考え込んだ様子で部屋を出て行った。残されたはぽかんとした顔で今しがた小十郎が出て行った襖を見つめていた。そういえば持っていたカバンがない。あの中には宿題もメイク用品も買ったばかりのipodも入っているというのに、失くしてしまったのだろうか。

「Hey,Girl!」
「のぁっ?!」

スパァン、と勢い良く襖が開かれ、突然聞こえてきた英語には間抜けな叫び声を上げた。開かれた襖を見れば右目に眼帯をした、自分とさほど年も変わらないであろう青年の姿があった。

「ガ、ガールって……せめてレディって言ってよガールなんて年じゃない…」
「Pardon?お前、異国語が判るのか」
「…少しなら…っていうか、あんただれ」
「口を慎めよ。この方が伊達政宗公だ」
「…………は?」

青年の背後からすっと現れた小十郎は、今自分の目の前にいる青い着物を着た青年が伊達政宗だと言う。はいよいよもって現実逃避を決め込みたくなった。確かに右目に眼帯をしているけども。だからといって、伊達政宗が英語を喋っていたという史実は残っていない。西洋と交流があったからといって、日常で英語を使う必要もないだろうし。

「What's Your name?」
「……わっつ…あ、、です」
「HA!上出来だ。おい小十郎」
「はい」
「こいつ、暫く此処に置くぞ」
「……はい?」

政宗のその言葉に、と小十郎は揃って言葉を失った。

「まっ政宗様?!正気ですか、このような得体の知れない娘をここに置くなどと!」
「あぁ、至って正気だ。異国語が判る女なんて珍しいだろ、それに面白そうだ」
「面白…っ」

目の前で小十郎と政宗が言い争いをしている(と言っても小十郎が一方的に政宗を諌めているだけだったが)のを見て、は私の意見は、と思った。だが、言えなかった。

、とか言ったな。小十郎から粗方の話は聞いた。未来から来たんだってな?」
「……た、たぶん?」
「Maby、か。まぁ、あんたのその服と持ってた物、あれ見りゃあそう言われたって不思議はねぇな」
「……信じて、くれるの……?」
「Ofcorse!その代わりといっちゃ何だが、あんたのいた時代の話を聞かせてくれ」
「…それくらいでいいなら、いつでも」

政宗はのその返答を聞くと小十郎の隣に腰を降ろす。そして次から次へと矢継ぎ早にに質問を投げかけ始める。小十郎は諦めたようで、ため息を一つ吐いた。












はじめまして、



戦国時代。


(来てしまった以上仕方がない、女は度胸だ)










一応二人の出会い的な……「空の欠片」へ続きます。