「さぁて、不思議ちゃんは何処かな?」 翌日、夜。日暮れを待って青葉城内に潜入した佐助は一人呟いた。 『待ちやがれー!』 『あっはははははは政宗さん似合ってますよそれー!あはははー!』 『小十郎!そいつ捕まえろ!』 『まっ政宗様?!』 『小十郎さーん見て見てすっげぇ似合ってるでしょー!あははははー!』 「……」 確かに度胸あるっつーか、怖いもの知らずっつーか…。 遠くから聞こえてくるの楽しそうな笑い声と、怒り心頭といった政宗の叫び声に佐助は呆れてため息を吐いた。 『殿!これは一体何事です?!』 『政宗さんが政務ほったらかしで居眠りぶっこいてたからデコってみたー!』 『ッShit!どうでもいいから直せ!』 『い・や・で・す・よーだ!あはははははは!』 (……竜の旦那、遊ばれてる?うわぁ俺様がぜんやる気出てきた。すっげぇ興味出てきちゃったよ) 噴出しそうになるのを堪えながら音もなく屋根に飛び乗ると、佐助は気配を消してゆっくりと声の聞こえる方へと歩を進めた。相変わらず、騒がしい青葉城に不穏な影一つ。 「……っはー、逃げ切った。」 (お、不思議ちゃん帰ってきた) の部屋の天井裏にいた佐助は、息を切らし部屋に戻ってきたをこっそりと天井裏から覗き込んだ。 (…確かに、不思議な着物だなぁ…) 城から出る用事もないし、来客に会う事もない。城内の人間はの素性を知っているから隠す必要もない。洗濯している時は仕方なく着物を着ているが、普段は洋服で過ごしている。佐助がそう思うのも無理はない。南蛮渡来の服だとて、化学繊維などこの時代にはありえないのだから。ぺたりと畳に座り込んで、がちゃがちゃと何かを片付け始めたは、ぶつぶつと愚痴を零していた。 「冗談のつもりだったのに何も刀持って追っかけてこなくてもよくない?しかもなんか雷とか飛ばさなくてもよくない?小十郎さんが庇ってくれなかったら死んでたぞ私。畜生明日はもっと酷い事してやる。頭だけじゃなくてフルメイクだ。」 (…なんか色んな意味で凄そうな…まぁでもこの調子なら大丈夫そうだな) 佐助は一呼吸置くと、音もなく天井裏から畳の上に着地した。一瞬の空気の揺れはあったものの、何かをいじっているに気付かれた様子もない。佐助はゆっくりと背後からに近づいた。 「…で、私に何か御用ですか?忍者さん」 「ッ!」 肩に手を掛けようとした瞬間、今までの声色とは全く違う、どこか威圧感のあるような低い声で振り向かぬまま言ったに、佐助は思わず飛びのいた。はゆっくりと振り返り天井に張り付く佐助を視界に収めると穏やかな笑みを浮かべた。 「…君、凄いねぇ。俺様ばっちり気配消してたんだけど?」 「空気の揺れっていうか温度っていうか…まぁそんな感じで誰かいるかなぁと」 「へー……ただの不思議ちゃんじゃないって訳ね」 「あはは。……んで、貴方だれ?てか降りて来ようよ」 殺されるとか思ってない訳?このコ。 拍子抜けしながらも佐助は天井から降りた。は相変わらず笑顔で、その心境は掴めない。読心術が使える佐助にも、の心境は読めなかった。 「俺様、猿飛佐助ってゆーの。君は?」 「さるとび…さすけ……(実在したんだ…)」 「そ。あ、別に君をどうこうしようって訳じゃないから安心してね。」 「……さるとび(つか迷彩柄に赤毛って…忍ぶ気ねぇだろお前)」 「うん。で、君は?」 「(深く考えない事にしよう…伊達政宗がアレなんだし)って言います」 さりげなく失礼な事を思いつつ自己紹介。心を読もうとするものの、靄が掛かったようにの心境は見えぬまま。 ……ただの不思議ちゃんじゃないな。 佐助は興味津々だった。 「ちゃんか。旦那が言う通り不思議なコだねー」 「旦那?」 「あ、真田幸村。」 「幸村さん?ってことは、佐助さんは甲斐の忍?」 「ってか、真田家のね」 「へー」 笑ってはいるが、心中穏やかではない。ここは奥州で、自分は伊達家の客人で、目の前にいるのは甲斐の忍。言うなれば、敵になり得る存在。武術の心得など欠片もない自分を殺す事も浚う事も、佐助には容易い事。誰か助けてと思うものの、夜になれば自室を訪ねる者などいる訳もない。時々訪れる政宗も、先ほどからかい倒してしまったから誰かの助けは期待出来そうもない。自分の身を護れるのは、自分だけだ。 「んでね?旦那がやけに嬉しそうにちゃんの事話すもんで俺様気になってね」 「…幸村さんが?嬉しそうに?」 「そ。」 「………それだけ?」 「ん?そうだけど?」 「……わ、私を殺すとか浚うとかそういうんじゃ、」 「ないない」 「…………よ、よかった………」 笑顔で否定した佐助に緊張感を崩されたはその場にぺたりと座り込んだ。佐助は少々驚いた表情で座り込んだを見下ろしていた。 「あれれ、何、もしかして殺されるとか思ってた?」 「だ、だだだって」 「んー…ま、そう思われても仕方ないか。俺様、君から見れば敵みたいなもんだし」 警戒心、忘れないのっていい事だよ。 そう付け足して、佐助はの前に腰を下ろすと、呆気に取られた顔で自分を見上げるに笑いかけた。はぽかんとした様子で佐助の顔を見つめていた。 「…さってと…見つからない内に退散しますかね」 「……そ、そうですね」 「……ちゃん、一緒に来る?」 「え?」 「旦那が美味い甘味処連れて行きたいって。甲斐はいいよ?甘味処たっくさん」 「……う」 「安倍川、餡子、みたらし、団子に大福餅。今の時期だと水羊羹も美味しいかな?」 「……うぅぅ、」 お、中々いい反応じゃないの? まるで独り言のように言う佐助の言葉(誘惑)に、は頭を抱えた。 食べたい。食べたすぎる。でも城を抜け出す訳に行かないし何より行き先は甲斐だし勝手に行けば政宗さんに殺される。でも食べたい。あぁどうしよう。 そんなの葛藤を後押しするように、佐助はなおも言葉を続ける。甘味大好きなが陥落するまであと少し。 「ど?食べたくない?」 「た、食べたいです!食べたいですけど………だめ、です」 「なんで?来ればいいじゃん」 「駄目なんです。私は、甲斐には行けません」 それまでの表情とは打って変わって、威厳すら垣間見えるような表情で自分を見据えるに、佐助は驚いた。 自分の立場、理解してるって訳ね。あーあ、残念。 「んー…でもさ、ちゃんが嫌がっても連れてく事は出来るよ?」 「そんな事したら、甲斐と奥州が戦になります。沢山血が流れます。それでも?」 「……賢いねぇ」 「それでも連れて行くと言うなら、私はこの場で自害します。」 「……」 「お帰り下さい、猿飛殿」 「…君って見た目以上に肝が据わったコだね。」 「ありがとう」 こりゃ、竜の旦那がご執心になる訳だ。 そう思いながら、佐助は天井裏に姿を消す。佐助の姿が消えると、は全身の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。 「……てかこれってちょっとまずくね?私の存在、甲斐に知られちゃまずくね?」 少し考え込んだは、慌てて部屋を飛び出した。向かう先は、政宗の部屋。 |
凛として、一輪
(旦那、あのコはどうも一筋縄じゃいかなそうだよ)
ほんと筆頭すごい酷い扱いですいません…こんなんでも筆頭本命なんですが…。
甲斐に行かせるか否かで最後まで迷ってましたが行かない方向で進めます。