「……暇だぁ」

政宗さんたちが戦に出て、3週間。男達のいない城内はひっそりと静まり返っていた(いつもだったら、兵士さん達が訓練する声やら小十郎さんが政宗さんを追い掛け回す声やらが響いていたから余計に)私はこれといってすることもなくて、漸く読めるようになったこの時代の文字で書かれた草紙を読み漁っている。それにしても、さすがに3週間ともなれば読みつくしてしまいそうな勢いだ。

様!様!」
「はい?」

と、寝転んでいたらえらく慌てた様子で女中さんが部屋に飛び込んできた。悪い知らせかと一瞬思ったが彼女は笑顔だったのでそうではないらしい。彼女は息を切らしてぺたりと畳に座り込んだ

「政宗様は見事敵将を討ち取ったと!勝ち戦で御座いましたよ!」
「……ほんとに?!いつ、いつ帰って来るの?」
「3日程かかるという事です、それまでに宴の準備をと!」

様、3日後が楽しみでございますね!そう言葉を残して、彼女は慌しく部屋を出た。…無事だった。政宗さんは、生きてる。ここ3週間、心の端っこに刺さっていた棘が抜かれたような安堵感。生きてさえいればと思ってはいたが、政宗さんは独眼竜。そう簡単に手傷を負う訳もない。ましてや死ぬなんてそんな事は有り得ない。

「無事、だったんだ……よかった……」

自然と顔が綻んだ。あと3日で、日常が戻ってくる。






「政宗様がお帰りになったぞー!」

門番さんが高らかな声を上げた。その言葉を聞いた瞬間私の足は勝手に門へと進んでいた。門が開いて、遠くに見えたたくさんの馬。先頭に見えたのは三日月が掲げられた彼の兜だった。

「政宗さん」
「……
「おかえりなさい」
「見るな」
「……え?」
「後で、部屋に行く」
「え、ちょ、政宗さん?!」

政宗さんは言うだけ言って、厩へ行ってしまった。何か、気に障る事でもした?ううん、してない。おかえりなさいって言っただけ。……なんで?

殿」
「……こじゅうろうさん…」
「お気になさるな。政宗様の持っていた物、ご存知ないでしょう」
「…そういえば……」

そういえば政宗さんは何か桶みたいな物を抱えていた。声を掛けたら私の視界から露骨にそれを隠したから、多分あれは私が見てはいけない物なんだろうなとは思った。小十郎さんは眉を顰めて、少し悲しそうな顔で私を見て小さく声を漏らした。

「あれは、貴女は見ずともよい物です」
「……」
「首桶、と言いましてな…討ち取った敵将の首を入れておく物です」
「…くび、を」
「貴女は戦を知らない。知らないでいて欲しいからこそ、政宗様はあのような事を仰ったのです」
「……」

政宗さんが持っていた桶の中に、生首が?見せたくなくて、私から隠してたの?ねえ、政宗さん。私は、あなたの目に映った私は、そんなに弱く見えましたか?

「みしるし、って…いうんですよね、」
「……えぇ」
「勝ったしるし、なんでしょう?」
「……えぇ」
「……私に、見せたくないって…戦を知らないままでいいって事、ですか…」

そんなのは嫌だ。今でさえ客人扱いで肩身が狭いんだ(そんな事を言えば政宗さんが不機嫌になるから、言わないけど)。それなのにこの上戦を知らないままでいろと?戦国乱世の、この世界で?

「貴女は知ってはいけないのです。いつか在るべき場所へ還るのですから」
「…でも今は…っ」
「知らずにいて下さい、殿」
「……小十郎さん……」

小十郎さんが見たことのない悲しそうな顔で言うから、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。部屋に戻りますと小さく言って部屋に向かったけど、足は巧く動いてくれなかった。









「……まさむねさん」

部屋に戻って暫くして来た政宗さんは、いつもの見慣れた蒼い着物姿だった。私は畳に座り込んだままぼーっとしてたから、多分うまく声は出てなかったと思う。その証拠に、私の声を聴いた政宗さんは少しだけ眉を歪めて視線を逸らした。

「さっきは、悪かった」
「………」
「…見せたく、なかったんだ」
「……私が、いつか未来に帰るからですか…?」
「……そうだ。お前はいつか未来に帰る。在るべき場所に帰るんだ、お前は」

だから戦なんて、人の死なんて知らなくていい。知らずに笑っていてくれればいい。戦を、血と火薬の匂いを知ればは帰れなくなる。には、の在るべき場所に、帰りを待つ人間がいる。だから知らないままでいい。

「だからそれまで城に閉じこもってろって言うんですか」
「そうは言ってないだろ、戦を知るなと言ってるだけだ」
「私は、そんなに弱い女に見えますか」
「…?」

は俺を睨むように見て怒った声で言うと俯いた。弱い女だなんて思ってない。ただに穢れて欲しくないだけ、血と臓物の臭いを知らずにいて欲しいだけだ。

「……っ俺を否定するなと言った貴方が、私を否定するんですか……?」
「……!」

琥珀色した大きな目からぼろぼろ涙を零しては俺を見上げた。初めて見たの涙に俺は何も言えなくなった(普段から気丈で時々殺意が芽生えそうになるくらい元気だったから、余計に)は涙を拭う事もしないまま、ただ俺を見据えてた(泣いていても瞳の強い光は消えないままだった)

「……私は、政宗さんが天下を取る姿を見届けたいんです」
「……戦を知れば、帰れなくなるかもしれねぇんだぞ」
「判ってます」
「……待ってるヤツが、いるんだろ。お前は帰らなきゃいけないんだ」
「…私は、邪魔ですか?政宗さんが天下を取るのに、障害になりますか?」
「っんな訳ねぇだろ!」

障害になるなんて有り得ねぇ。むしろ隣にいて欲しいとさえ思うんだ。邪魔だと思う訳がない。そりゃあ、俺の傍にいりゃ敵に狙われる事だってあるだろう。そんな事は問題外だ。そんなヤツは叩き伏せればいいだけの事。それよりも、血と臓物の臭いを知ってが変わっちまう事の方が俺にとっちゃ心配のタネだ。戦を知れば今までみたいに笑えなくなるかもしれねぇ。から笑顔が消えちまう事が、怖いんだ。

「…私は戦を知りたい…知らなきゃいけないんです」
……」
「強く、なります。貴方の力になれるくらい、つよく」
「……帰りたくねぇのか」

「帰りません。私はこの世界で生きてこの世界に骨を埋めます」

「……それで、いいんだな」
「後悔はしません。私は、決めました。」

俺を見据えてそう言うの目は確固たる決意を宿していた。もう、俺や小十郎が何を言っても無駄だろう。こいつは一度決めたら頑としてそれを通す。たとえ回りが止めても、邪魔をしても、それを振り切ってやり通す女だ。そういう意味じゃ、この時代に相応しい女なのかもしれねぇ。

「I see……判った、もう何も言わねぇ」
「……政宗さん」
「その代わり、約束しろ。」
「はい」
「死ぬな。死にそうでも死ぬんじゃねえ」
「…随分無茶言いますね」
「無茶でも死ぬな。勝手に死んだら殺してやる」
「……言ってる事無茶苦茶ですよ」

そう言いながらは涙を拭って苦笑いを浮かべた。俺を置いて死ぬ事も、何処かに消える事も許さねぇ。帰らないと決めたなら負い目を感じる事もない。ただ俺の隣にいりゃあいい。血と臓物の臭いを知って帰れなくなるならそれでいい。居場所なら俺が作ってやる。


「何ですか?」
「Kill to live, not live to kill」
「…はい」















あなたと一緒に



(この世界の果てを、行く末を)










だから新年一発目の更新がこれってどうなの私