「小十郎さん」
「おや殿。珍しいですな、貴女が道場にいらっしゃるとは」
「ちょっと、相談が…」

なにやら思いつめたような顔で殿が道場へ顔を見せた。あの後政宗様と何かあったのだろうか。そんなことを思っていたら殿は遠慮がちに俺の袖を引っ張る。どうかなされたか、と聞けば言葉を濁す。……本当にどうしてしまったのだろうか。

「……どうなされました」
「…武器を、見繕っていただけないかなぁ、と……」
「武器?」

「…決めたんです。政宗さんが天下を取る姿を見届けるって。だから、強くなりたい。あの人の力になってあげたいんです、だから」

「…、殿…」

知らないままでいられたら、確かに幸せでいられるかもしれない。笑っていられるかもしれない。でも、政宗さんや小十郎さんが死と隣り合わせの生活をしてるっていうのに私一人だけ護られてるのは嫌なんだ。私は女だし、力になんてなれないかもしれないけど、それでも。

「戦を知って欲しくなかったっていうのは判ってます。でも、もう何を言われても引き下がるつもりはありません。私はこの目で、政宗さんが天下を取る姿を見届けるって決めたから。そのために強くなるって、決めたから」

小十郎さんは苦しそうな顔で天井を見上げて顔を覆った。何が言いたいかは判る。駄目だと言いたいのは判りきってる。でも引かない。引けない。

「……後悔は、」
「政宗さんは生きる為に殺せと言いました。…後悔なんて、しちゃいけないんです」
「……」

「…血と臓物の臭いを知り、人を殺めればあちらへは戻れなくなる事も判っています。それでもいい。私はここにいたいんです」

殿……」
「恩返しが、したいんです。助けてくれて、衣食住を与えてくれて、私には何も出来ないのに……だから微々たる物でもいい、あの人の力になりたいんです」
「……そうですか……」

殿の目に強い光が見えた。何かを決め、腹を括ったような。凡そ、戦のない平和な世界に生きていたとは思えない程の……そう、どこか狂気的な、そんな光だった。殿がここへ来たのは偶然ではなく必然だったのかもしれない、と思わせるような。





「……そういえば……政宗さんも幸村さんも、不思議な力を使いますよね?あれって、何なんですか?」
「あぁ……あれは婆娑羅と言いまして……」
「ばさら?」
「えぇ。秀でた者は属性によって様々な術を使えるのです。私と政宗様は雷、真田殿は炎といったように」
「そうだったんですか。それであんなド派手な…」

まぁ色々と突っ込みどころ満載だけど実際に目にしてしまった以上、婆娑羅という力の存在は認める以外にないらしい。……あれ使えない私って実はけっこうな勢いで足手まといかもしれないと思った。いきなり躓きそう…

「……使いたい、と顔に出てますぞ、殿」
「……ばれました?いやでもあれって才能ない私には無理っていうか」
「いや……強ち無理でもないかも知れません」
「は?え、いやいやないですってばだって私この間まで一般人だったんですよ?無理ですってあんなの使えませんよ」

才能がないかと聞かれればきっぱりとした否定は出来ない。普段はこのように天真爛漫だが、先ほど見せたあの表情といい強い意志といい、才能がないとは言い切れぬと思うのだが……問題はそれをどう開花させるのか、という事。俺も政宗様も気付いたら使えるようになっていた訳だし、何が切欠なのかは判らない。…さて、どうしたものか。

「…あの、小十郎さん?」
「…はい?」
「敬語、ナシにしましょ。私、もう伊達の客人じゃないです。立場としてはどうか判らないけど、とにかくここで生きるって決めた以上客人じゃいられませんから」
「……ですが」
「いいんですって明らか小十郎さんのが年上だし、私ってば身分も何もないし!ね?」
「………判った。がそう言うのならそうしよう」
「はい」

と、言う訳で、私はこれから小十郎さんに剣の手ほどきを受ける事となった。決めた以上は生き抜いてやる。生き抜いて、政宗さんが天下取るその日を見届けるんだ。
















大和子とばないで



(飾られてるだけの花には、護られてるだけのお姫様にはならないんだから)










番外編からプロットが次々仕上がってしまったので本編にしました