遡る事半日、奥州は青葉城。
バサラ屋から帰るなり来客を告げられ、二刻ほど部屋にいた政宗は小十郎の言葉に目を見開いた。

「……がいねぇ?」
「はい…城内くまなく探させていますが…」
「ッどういう事だ!」

の姿が、青葉城内の何処にもない。
政宗に客が来てから、つまり城に戻ってから半刻経つか経たないかの頃に小十郎の部屋を出て自室に戻ってからまもなく、女中が部屋に茶を持って行った時には居たので、居なくなったのはその後ということになる。
喜多の部屋、成実の部屋にもおらず、隠し通路や天井裏、地下牢に至るまで探し尽くしたが姿は見えぬまま。
城内には未だにを呼ぶ声があちこちから上がっていた。

「……申し訳ありません…私がを引き止めていれば…っ!」
「Don't mind…お前のせいじゃねぇ…あいつには黙ってろっつったのは俺だ」

縁談が来た、とに言えるはずもなく、使者だけを出し断りを入れた。
縁談を結んだ所で今さら伊達の力を伸ばすに値しない。
ただ相手方が名を売りたいが為に持ちかけられた縁談だと言う事は政には関わりのない女中にも判る程だったのだから。
第一に、女中や兵や家臣までもが、政宗がに好意を寄せている事、といる時に心底楽しそうに笑える事を喜ばしく思っていたのだから、この縁談は実るはずもなかったのだ。

「…ッ…」
「…黒經巾が奥州中を偵察しております。今は、」
「…判ってる……俺が取り乱してちゃザマぁねぇな…」
「…政宗様…」
「必ず探し出してやるさ…言ってねぇ事もある…このままお別れなんざごめんだぜ」

拳を握り締め踵を返した政宗の背を見送りながら、小十郎はふと微笑み政宗とは逆の方向へ足を向けた。



* * * *



「小十郎様」
「おぅ…なんか判ったか」

部屋に向かっていた小十郎に声をかけたのは黒經巾の部隊頭。
庭の石畳に片膝を付き頭を深々と下げている。

「それが…此度の縁談に不穏な動きをしていた家臣が」
「……あぁ?」

ぴり、と空気が張り詰める。

「……様が邪魔だ、と呟いていた家臣がいたと…女中の沢という娘が申しておりました」
「…女中…」
「聞いたのは昨日だったそうで、おそらくは…」
「…そいつを捕らえろ。殺すなよ。生きたまま、だ」
「御意に」

小さく返事を返し、忍は黒い霧になって姿を消した。

「……無事でいろよ…政宗様の正妻はお前しかいねぇんだ…!」

見上げた空に、真っ白な鳥が一羽舞っていた。
高らかに響く鳴き声が、大丈夫だと言っている気がした。






消えた宝珠


(鳥よ、どうか哭いておくれ)
(宝珠は無事だと、あの人に)
(高らかに、高らかに)