「政宗様」

政宗の自室。
ぴんと張り詰める空気を裂いたのは小十郎の声だった。
政宗は畳に胡座をかき窓から空を見上げたまま、低く怒りを含んだ声で返事を返した。

「……何か判ったか」
「…此度の縁談に不穏な動きをしていた家臣が数名…が邪魔だと溢していたと」
「……Okay,探せ」
「既に黒脛巾が動いております。生け捕りにせよと伝えました」
「あぁ、上出来だ。」

政宗のその声には明らかな怒りが、地を這うように低く喉を鳴らすだけの小さな笑い声にはいくらか残虐性が含まれていた。

「…おそらくは田村の者だろうと」
「I Know、判ってる…。小十郎、支度しとけ」
「……は?」

「田村を潰す」

「政宗様…!」
「この独眼竜の逆鱗に触れた報いだ…ブッ潰してやる…」

政宗は立ち上がり、刀を取る。
小十郎は止めるでもなく、ただ溜め息を吐くと政宗を諭すようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「政宗様、黒脛巾が戻るまではご自重なさいませ。あくまで憶測にすぎませぬ」
「…あぁ…そのつもりだ…ただ、」

田村は潰す。無関係のに手ェ出した報いだ。
政宗はそう続け、小十郎に向き直る。
小十郎がその場に正座し、政宗を真正面から見据えると、刀を鞘に納めた政宗は小十郎に向き合うように腰を下ろす。

「小十郎」
「はっ」
「俺はを正妻にする。誰が何と言おうがこれだけは譲らねぇ。身分だの家柄だの、そんなのは関係ねぇ。じゃなきゃ駄目なんだ。」
「………」

『政宗さんの右目はね』
『政宗さんの命の変わりになくなったんですよ、きっと』
『だから、醜いなんて思いませんよ。政宗さんが死の病を生き抜いた証じゃないですか』


「……この右目を、生き抜いた証だと言った。俺の命の変わりに散ったと言った。他の女にそれが言えるか?」
「……政宗様……」
「俺の為に、何もかもを捨てたんだ。家族も、友人も、平穏も安息も何もかも捨てて、俺の為に闘うっつった。なら俺は何が出来る?あいつに確固たる居場所を作ってやる、そんぐらいだ」

俺のために。
俺なんかの為に穢れを知らない真っ白で綺麗な手を血に染めると言うのなら
俺はに酬いなきゃならない。
俺が何を与えてやれるか、そんな物は唯一つだけ。
伊達の氏、血脈だ。

「政宗様……」
「必ず、見つけ出してやる。話はそれからだ」
「……皆も、それを望んでおります。が政宗様の奥方になられる事を」
「…………あぁ」



***



(あーらら…竜の旦那マジだねぇ)

闇に溶ける漆黒の忍装束を纏った佐助は、政宗の自室から程近い木に身を隠していた。
忍の聴力、まして真田忍衆を束ねる佐助ともなればそれを聞き取る事など造作もない。
一頻りやり取りを聞いた佐助は苦笑い混じりに声には出さず呟いた。
と出会ったあの日以降も何度か偵察に来てはいたし、政宗がに好意を寄せている事は火を見るよりも明らかだった。
だから、をあの森で保護した時から何となく予想はしていたものの、政宗の執着心は予想以上だった。

(さてどうするか…相手方を潰す気なら10日もすれば動くか?黒脛巾もウチに負けず劣らず優秀だしねぇ)

とりあえず旦那に報告かな。
長居すれば気付かれると踏んだ佐助は音を立てぬまま木々の間を縫って闇に姿を消した。












渇望


(たった一人の君だけを)




筆頭はが大好きですよということを書きたかったはずなのに
途中からずれにずれてこれじゃ狂愛一歩手前……(死
は政宗の逆鱗、手を出したら命が散るぜぇって感じの話を書きたかったのに…!