「お館様ぁ!真田源二郎幸村、只今参りました!」
「うむ、入れぃ!」

日暮れ近く、漸く躑躅ヶ崎へ到着した幸村とは、今現在信玄の自室の前にいた。
幸村が名乗れば部屋の主から威厳たっぷりといった声で返事が来る
幸村はそのまま障子に両手を掛けるとスパァンと一気に開け放った。
が驚いたのは無理もない。

「お館様!」
「幸村よ。佐助から話は聞いておる。…そちらの女子が例の女子か」
「…、と申します…幸村さんから頂いた名で…本当の名かどうかは判りませんが……」
「聞けば記憶を無くしておるとか…。余程酷い目に会ったのであろう…好きなだけこの甲斐にいれば良い。躑躅ヶ崎館でも、上田城でも。お主の居たい場所にの」

信玄は、佐助からが奥州にいた事を聞いていた。
(ただし、政宗の寵愛を受けていたかもしれない、という事は、佐助自身が二人が恋仲であったかどうかの確信を得てはいなかったので伝えてはいなかったが)
その上で甲斐にいろと言ったのは記憶を無くす程の酷い目に会い幸村に拾われた目の前の娘を放ってはおけない、ただその一念あっての事。

「…有り難う御座います…信玄様、」
「そう堅苦しい呼び名は止めてもらえぬかの。お館様で構わぬよ。なんなら父と呼んでくれても良いのだがのう」
「お館様!」

お館様、と民から呼ばれ、慕わわれる信玄の事。
を放り出すことはしないだろうと考えた事は正解だったようだ。

「幸村よ、を護るは武士として、漢として当然の事。判っておるな」
「聞かれるまでもありませぬ。この真田源二郎幸村、必ずや殿をお護り致しまするぞ!」
「天晴れ幸村!天晴れぃ!」

と、段々いつものノリになってきた武田主従を見て、は苦笑いを漏らしていた。

(優しいお方…おやかたさまも、幸村さんも……此処ならきっともうつらい思いは…っ?…つらい、おもい…?)
(辛い思いって、なに?)
(…私、何を忘れてるの?)

「……殿?」
「っあ…すいません、なんでもないです…ただ、その…嬉しくて」

誤魔化す事しか出来なかった。
思い出した訳ではない
記憶を無くすに至るまできっととても辛かったんだろうという事は判った。
ただ、記憶に揺らめく蒼の青年が誰なのかは、全く判らぬままだったが。

「今日はもう遅い。部屋を用意させるから泊まってゆきなさい」
「…ありがとうございます…」
「幸村。館を案内してやれ」
「御意!」
よ、詳しい話は夕食の時に聞かせてくれぬか」
「はい。」

ぺこりと頭を下げ、幸村に続いて信玄の部屋を後にしたを見送り、信玄はぽつりと呟いた。

「……まっこと世知辛き世の中よ……あのような女子までも巻き込む乱世か…のぅ、佐助」

ため息を吐き、信玄は天井を仰いだ。

「…ちゃん、全然怪しくなかったでしょう?」
「うむ。辛い目に会ったのであろう。話せ。儂に隠せると思うでないぞ」
「あちゃ…やっぱバレてました?」

参ったねー、と漏らしながら佐助は音もなく天井から降り立つ。
信玄は当然だと言わんばかりに腕を組み佐助を見据えていた。

ちゃんが元は奥州にいた、ってのは話しましたよね。…独眼竜と恋仲ではなかったみたいですけどね」
「うむ」
「で、竜の旦那に縁談が来て…」
「ふむ…が独眼竜の傍におったのならば自身が縁談に厄介な障害。だから相手方に拐かされた、か。」
「流石大将。その通りですよ。俺が見つけた時は記憶を消す香を嗅がされてましたし…外法を使ってまで成したかったらしいですね」

だから一切合切の記憶がないのだと続け、佐助はため息を吐いた。

「…が奥州にいた事は間違いないのだな?」
「ですね。俺、実際に青葉城の彼女の部屋を確認しましたし」
「ふぅむ…厄介だの。」

が政宗の居城におり、少なからず寵愛を受けていたという事。
同盟を結んだ訳ではないにしろ最近では戦もなく、互いに不干渉を保つある意味では良い関係にある奥州と甲斐。
政宗が寵愛しているがどのような経緯があったにしろこの甲斐にいる、その事実は政宗の逆鱗に触れてしまうだろう事は明白だ。
若さ故、寵愛するが故にあの猛き竜は何をするか判らない。
信玄はそう考えたが、渦中の奥州に彼女を戻すのは得策とも言えず、むしろ余計辛い目に合わせてしまう。
どうしたものかと思案を巡らせた。

「…とにかく、今はを療養させねばならぬだろう」
「ですね…随分憔悴してましたし」
「うむ…何もなければ良いのだがの…相手はあの独眼竜、戦は避けたいものよ」

それは俺も同じ。
佐助はそう思ったが声には出さず、せめて少しでも元気になって貰いたいからと団子を片手にと幸村の姿を探し始める為立ち上がった。

ちゃんの護衛は俺と旦那でしますからね。行ってきますよ大将」
「うむ」

信玄が頷くのを見て、佐助も部屋を出てと幸村の気配を探りながら歩き始めた。








躑躅ヶ崎にて



(このまま、甲斐にいてくれりゃ)
(…哀しまなくていいんだよ、な)




→懺悔
佐助はの事を年の離れた妹のように思っていればいいと思います。
で、オカン気質な彼は何かとの世話を焼きすぎて
幸村に誤解されて殴られてればいいです←

→懺悔その2
えー、矛盾してる部分を修正しました(汗)
マジすいませんほんとorz
お館様は懐の広いお父さん、って感じがしますね。
あのモフモフにダイビングしたいです