「……」
屋敷に帰ってきたのは夜8時を回ってからだった。あぁ腹減ったとか今日のメシは何だろうとか考えながら歩いてたら、庭園の方から歌が聞こえてきた。それはの声で、なんとなしに庭園を覗いたら噴水に腰掛けて歌うがいた。その歌はオレの知らない言葉で何語かは判らなかったけれど、の真っ黒なドレスが闇に溶けて、金色の髪が月の光を受けてきらきら光ってて、なんだか別人みたいに見えた。
月夜に揺れる
「ティキ。おかえりなさい」
「ん、ただいま」
オレの声に振り返ったはまるで雲が晴れたみたいにぱぁっと明るく笑ってオレに近寄った。の頭を撫でてやったらはくすぐったそうに肩を竦めてオレを見上げる。
「何してんの」
「花が増えたって言うから見に来たの。ほら、あそこの花壇」
「おー……」
「ほんとはもっと早く来たかったんだけどね、さっきまでメイドさん達が手入れしてたから邪魔しちゃ悪いかなって」
はよほどこの庭園が気に入ったらしい。暇さえあれば庭園にいるとロードが言ってたし、此処には珍しい花ばかりだからの気持ちも判らなくもない。…生憎オレには花を愛でる趣味はないけどね。
「メシ食ったの?」
「まだ。ティキが帰ってきてから一緒に食べようかなーと思って」
「そっか。じゃあ戻ろうか」
「うん」
「なぁ明日街に行こうか」
「街に?なんで?」
食堂に入ったらもう食事は用意されていて、オレとは向かい合わせに座って食事を始めた。今日はロールキャベツとハンバーグだった(って事は今日のメシ作ったのは千年公か)
「服とかさ。いるだろ、色々」
「…え、いいよそんな悪いもん」
「いーんだよ。大体それ一着しかねぇんじゃダメだろ」
「……う」
「遠慮しねぇの。オレがいいって言ってんだからいいんだよ」
「…じゃ、じゃあお言葉に甘えます…」
「素直でよろしい」
は少しばかり不満そうだったけど、流石に年頃の女の子がドレス一着しか持ってねぇのは問題だろ。ロードもロードで色々用意してるみてぇだし、オレだって何かしてやりてぇのよ。オレが連れてきちまった訳だし、着飾ったは綺麗だろうから、見てみたいってのもある。それより何より、が此処でオレらの新しい家族として生活してく為に何かしてやりたかったんだ。
「…そういえばティキのお仕事って何なの?」
「……あぁ、」
参ったな。本当のことはまだ言えねーよなぁ。暗殺ですとかそんなの言ったら一般人のにはちとショックがデカすぎる。いや今日は暗殺じゃなくてブローカーんトコに報酬届けに行っただけなんだけど、なんて言えば疑問を残さず巧く言い逃れが出来るのか。オレの学のない頭じゃ巧く言い訳なんて出てこない。
「…千年公がやってる商売の手伝い、かな。」
「そうなんだ…」
オレは間違った事は言ってない。千年公は人間から悲劇を買ってアクマを作る。人間は悲劇を売って報酬を貰う。立派なギブアンドテイクの商売だ。…いつかにも話さなきゃいけない事なんだろうけど、今はまだその時期じゃねぇし、そう思っててくれるならそれに越した事はない。うん。オレは間違ってねぇよな。
「だからこんな立派なお屋敷構えられるのね」
「だ、な」
いつかに本当の事を言ったら、はオレを嫌いになるだろうか。黒いオレを知ったら、君はオレを怖がって離れて行ってしまうんだろうか。…血に塗れたこの手でに触れる資格なんてないのかもしれない。ただ今は、黒いオレを知らないままでいて欲しいと思う。の笑顔を、失いたくはないんだ。
(君の世界を極彩色で彩るまでは)