01:出会いは突然嵐の様に
一体何がどうしてこんな事になっているのか。
は寝起きの頭で精一杯考えた。
確か昨日は友達と遅くまで飲んでいて、酔っ払って帰ってきた記憶は残っている。
酒に呑まれるタイプではないので、どうやって帰ってきたかもきちんと覚えている。
そのはずなのに、何故自分の隣に男が寝ているのか。
しかも外見からして外国人。
は悲鳴を堪えてベッドから飛び降りた。
(〜〜〜〜〜〜〜?!?!?!?!?!?!?!)
「………?」
ベッドがきしんだ衝撃で、寝ていた男が目を覚ます。
虚ろな目でを見つめながら頭をがりがりと掻いている。
は冷や汗を流しながら壁まで逃げた。
「……Good morning.」
「(英語ー?!)」
その男はを見ながら片手を挙げ、英語で朝の挨拶をする。
は自分一体何処で何してこういう状況になってんだ!と頭の中でツッコミを入れていた。
「Hey, Miss?」
「……Who are you?! Why are you in my room?!」
「oh, can you speak English? Is what I say understood?」
よかった、私帰国子女でよかった……!!!
はそう思っていた(まず不審者が部屋に居る事に不信感を持て)。
と男は英語で会話を始めた。
「………で、あなた一体誰なんですか」
「オレ?オレ、ティキ。ティキ・ミック。お嬢さんは?」
「……。、。」
「、ね。」
男はベッドサイドに置かれた灰皿を見つけると、吸っていい?とジェスチャーで聞く。
はどうぞ、と合図すると、とりあえず気分を落ち着かせるためにタバコを取り出した。
「吸うんだ」
「っていうか、まずどうして私の部屋にいるのか聞かせて欲しいんだけど?」
「あー……あのな、話してもいいんだけどオレの事頭おかしい人とか思わないでな?」
「(不法侵入してる時点で十分怪しいし今更だわ…)うん、わかったから説明して」
ティキは大きく紫煙を吸い込むと、ゆっくりと言う。
は余りにも現実離れしたその話に、思わず持っていたタバコを落としかけた。
「………って訳で、オレはそのイノセンスってヤツを探して方舟使って此処に来た訳よ」
「はぁ……(ダメだこいつ頭おかしい誰か助けろマジで)」
「で、方舟の出口が何故かの部屋で。眠かったからついベッドに入っちまったんだけど」
はどこか放心した様子で、新しいタバコに火を付けた。
ティキはライターを不思議そうに見ているが、彼のいた時代は19世紀ごろだという。
見慣れていないから不思議なんだろうなと自己完結した。
「………質問いい?」
「どーぞ?」
は必死で頭の中を整理する。
要約すると
今目の前にいるティキは異世界の人間。
彼は“ノアの一族”という種族(と言っていいのだろうか)。
イノセンスという神の化身を探していて、そのイノセンスを武器として使うエクソシストと戦争中。
異世界--つまりは私のいるこの世界--に来たのはイノセンスを探す為で
方舟を使い世界を超えて何故か私の部屋に来た。
-----と、いう事らしい。
「えっと、まず“ノアの一族”っていうのは旧約聖書に出てくるアレよね?」
「ま、当たらずしも遠からずだな」
「で、イノセンスっていうのがティキたちが言うところの“偽りの神様”が作り出した武器?」
「そー。そんでオレらの天敵」
「うん。で、それを使うエクソシストって奴らと戦争中なのね?」
「そうそう。」
いやー、話のわかる子で助かったよ!
ティキはそう言うと満面の笑みを浮かべた。
「……ってか、いつまで此処にいるつもりなの?私一人暮らしだから男がいると結構困るんだけど」
「え、いつまでって……方舟の出口が繋がるまで?」
「……どんぐらいかかるの、それ」
「千年公が言うには一ヶ月くらいらしいけど」
ティキのその言葉に、は固まる。
それはつまり、自分の部屋に一ヶ月間、この正体不明の男が住み着くという事で。
「はぁあああああああ?!その間此処に住む訳?!」
「しょーがねーじゃん、オレこの世界の事判んねーし日本語も喋れねーし」
だから此処に置いてくれ、と手を合わせられてはも出て行けとは言えなかった。
結局、の生活に支障が無い様にいくつかの約束して、奇妙な共同生活が幕を開けるのだった。
***
「………とりあえず生活用品買いにいかないとね……」
さすがに一ヶ月の間いるのだから必要最低限の生活用品はないと困るだろう。
はティキに買い物に行くから支度して、と告げた。
も化粧と着替えの為に一回寝室を出た。
30分程して寝室に戻ってくると、ティキはばっちりタキシードを着こんでベッドに座ってタバコを吹かしていた。
「………てか、タキシードじゃおかしいよ……」
「んー…ダメか?」
「うん、ダメ」
が、脱いでいた上着を着たティキはタキシード姿。こんなの着て街中歩けばいい晒し者だ。
はそう思い、ティキのその言葉をすっぱりと切り捨てた。
が着ているのは襟ぐりの大きく開いたニットのセーターにスカート。
明らかにティキと並んで歩いていておかしい組み合わせだ。
「んー…じゃ、ちょっと後ろ向いててくんない?」
「え?」
「いーからいーから」
肩を掴まれ強制的に後ろを向かされる。
何だまさか脱ぐのかコイツ冗談じゃねーぞ此処で脱いだら股間蹴り上げて警察駆け込んでやる
はそんな(物騒な)事を考えていた。
「いいぜー」
が、30秒としない内にティキから声がかかって。
着替えるにしろ脱ぐにしろ早過ぎないか?と思いながらもは後ろを振り向いた。
そこにいたのは先ほどまでとは似ても似つかないぼろぼろの服を着てぼさぼさの頭、そしてビン底眼鏡を掛けたティキ。
誰だこいつ、と一瞬思うがそれは間違いなくティキの声で。
「えっと……ティキ?」
「そ。こんならいいだろ?」
「いやいやいや。よくないから!ちょっと座ってて!」
はそういうと洗面所へ小走りに向かい、戻ってきたその両手にはブラシとドライヤーと整髪料。
ソファに座るティキの後ろに立って、ぼさぼさの頭をブローしていく。
「ってかさ、落差激しすぎ」
「いやー、エクソシストに見つかると面倒だからなー」
「………(それにしてもひどすぎだろこれ)」
一通り髪をブローすると、はワックスを手に取る。
若干天然パーマ気味のティキの髪を器用にセットすると、は満足げにティキに鏡を差し出した。
「…ど?」
「おぉ……」
「眼鏡外そうよ」
「だから変装してんだって言ったろ?」
「此処はティキのいた世界じゃないし、私21年生きててエクソシストもアクマも見たことないから」
「………んー…ま、いっか」
ティキは少し考え込むと眼鏡を外した。
先ほどまでのティキとは肌の色が違うものの、眼鏡を外して髪をセットしただけでとてもかっこよく見えた。
まぁ贔屓目に見ても元がいいからというのもあるが。
あと問題なのは着ている服だ。
「……確かクローゼットに……。ちょっと待ってて」
は呟くようにそう言うと、クローゼットを開けて奥からダンボール箱を取り出した。
その箱を開けると中身を物色しだし、周囲に男性物の服が散乱した。
「なぁそれって誰の服?彼氏?」
「んーん、死んだ兄貴の。両親も兄貴も事故で死んじゃってねー。
遺産の事で親戚とモメて絶縁状態でねー。天涯孤独の身の上っての?
で、私は両親が遺してくれた遺産で生活してんの。」
「……あー……悪ィ事聞いたな」
「いや、いいよ。もう6年も前の事だし」
が言うには6年前--彼女が15歳の時に--家族で出かけた際交通事故に巻き込まれて以外の家族は亡くなったらしい。
若い女の一人暮らしにしては豪勢過ぎるこの部屋も、両親が遺したものだという。
ティキはなるほど、と納得し、の背中を見つめていた。
「……ちょっとコレ着てみて。多分サイズ合うと思うから」
がティキに手渡したのは、シンプルなデザインのカッターシャツとレザーのパンツ、そしてジャケット。
着替えたらリビングねー、と言い残しては寝室を出た。
「………いい女だな、アイツ」
ティキはそう呟くと、着替え始めた。
いきなり部屋に現れた--しかも同じベッドで寝ていた--オレに此処までしてくれるなんて。
元々人間が好きなティキではあったが、の心遣いに思わず微笑みが漏れた。
「着替えたぜー」
「おぉ。うん、似合う似合う。」
リビングに行くと、は本を読んでいた。
ティキの声にソファ越しに振り返ると、嬉しそうに笑って立ち上がった。
行こうかー、と声を掛け、は玄関に。
ティキも靴を持ってを追いかけた。
*****************************************************************************
逆トリップ→トリップ連載。
帰国子女だなんてなんて都合のいい設定なのかしら!(笑
2007/04/17 カルア