
03:そんな彼との日常生活
「ティキどっかいくの?」
「あぁ、昨日言ってたイノセンス探し。、仕事だろ?」
「んーそうだけど。一人で平気?一応、弁当は作っておいたけど。」
「なんとかするよ」
二人で酒を飲み交わした翌朝。
仕事に行くため身支度をしていたは、いつの間にか着替えていたティキに声を掛ける。
昨日にあれほど強く言われた手前、きちんと髪をセットして眼鏡も掛けていない。
「仕事場、教えといた方がいいよね…合鍵まだ出来てないし…」
「おぉ、一応な」
はそういうとペンを取り、ノートに地図を書いていく。
(ティキは鍵なんか無くても扉くらい通り抜けられるのだが、それはまだ言わないでおこうと黙っていた。)
地図は判りやすく目印をつけたそれはとても判りやすかった。
の勤めている会社が駅の近くという事もあったのだが。
「電車の乗り方判るよね?」
「まぁ、昨日教えてもらったし。」
昨日出かけた際に、はこれから不自由がないようにとティキに電車の乗り方を教えていた。
切符の買い方から、乗り換えまで。
切符の販売機でも英語は表示されたし、駅や電車内でも必ず英語のアナウンスが流れていた。
英語が判るなら多分大丈夫だろうと踏んだは、地図の横に下りる駅とどちらの出口から出ればいいのかを書き足した。
「これ地図ね。この駅で降りて、西口から出れば多分判ると思うから。」
「おぉ。仕事終わるの何時ごろ?」
「残業なかったら夕方5時かな。残業ないとは思うけど…。」
「じゃあそんぐらいに行くわ」
「うん。何かあったら電話してくれればいいから。会社の隣喫茶店だからそこにいてね。」
「おう」
ティキはに背を向けて手を上げながら返事をすると弁当の入ったカバンを持って家を出た。
も身支度を整えると、ティキよりも20分ほど遅れて家を出た。
***
「ふー……」
あっという間に時間は過ぎ、時計を見上げれば時刻は午後4時45分。
はキーボードを叩いていた手を止め、コーヒーを手に取った。
ふと扉の向こうが騒がしくなり、入ってきた女子社員3人は顔を紅くして何やら騒いでいる。
は疑問を浮かべたものの、あと15分で仕事も終わりだと再びキーボードに向き直った。
「っていうかさ、すっごいかっこよかったねあのひと!」
「外人でしょー?!この辺じゃ見ないし美形だよね!」
「誰か待ってんのかなー……」
が い じ ん ?
はキーボードを叩いていた手を止め、窓から外を見下ろす。
門に凭れて立っていたのは間違いなくティキだった。
うおぁ、とは小さく呻き、頭を抱えた。
(喫茶店にいろっつっただろーがあのアホ……!!!!)
こうなる事は十分に予想出来たのでそう言っておいたのだが。
ティキはを見つけるとへらへらとした笑顔で手を振った。
(ば……ッ!!!!!)
「ちょっとさん!あの人知り合いなの?!」
あぁやっぱりな、こうなるから嫌だったんだティキのバカ。
は深く溜息を吐くと、目の色を変えている女子社員--まるで獲物を狙うハイエナだ--に向き直った。
「知り合いっていうか……」
「彼氏?!」
「違いますよ。遠い親戚なんです彼。はとこが国際結婚してて、その人の親類で。
そんで今日本に観光しに来てて、私の家にいるだけです。」
あぁ我ながら苦しい言い訳だな、とは苦笑いを浮かべる。
が、の彼氏ではなく遠い親戚という言葉に女子社員達は一層目を輝かせて。
「そうなの?!ねぇねぇ紹介してよ!」
「ねぇさぁ〜ん」
(うぜぇ………)
はどう切り抜けようかと頭を抱えていた。
そんなところに響いた終業のチャイム。
はこのタイミングを逃したら帰れない、とばかりにダッシュで部屋を出た。
「あ…もう!紹介くらいしてくれたっていいじゃないの!」
背中に掛かったその声に
英語も喋れないアンタらじゃティキと会話すら出来ねぇっつーの。
と毒を吐いては更衣室に入り私服に着替えた。
***
「ティキ!」
「お、おつk「あんた喫茶店で待ってろって言ったのに何で此処にいんの?!」
はティキの言葉を遮るように叫びながら脛を蹴った。
ティキはいてぇ、と小さく呻いて脛を押さえた。
「え、いやー店員に英語通じなくって」
「あーもう………面倒はヤだから早く行こう」
「へーい」
こいつやっぱり変わってる、とは思いながら、大通りから少し入った路地裏にあるバーに入っていった。
そういえば昼食をあまり食べていなかったので小腹もすいているし、先ほどの同僚に見つかる可能性もあったからだ。
二人はカウンターに座るとがオーダーを通した。バーテンは小さく頷くと、注文の品を作り始める。
ティキはウィスキーをロックで、はスクリュードライバーを飲みながら英語で会話を始めた。
「……で、収穫あったの?」
「いやー?それがどうもハズレっぽいんだよなー。
千年公が言うにはそれっぽいのがあるらしいんだけどどんなんかは言われてねぇしー……」
「まぁ……私もそんなの聞いた事ないからねぇ……
エクソシストだのアクマだのノアの一族だの、って普通に聞かない単語だし、私の知ってるのとは意味が違うし」
「裏の歴史だからってのもあるんだろーけどな……」
とティキの会話は恐らく店にいる誰も理解は出来ていないだろう。
その証拠に、先ほどから他の客からちらちらと驚きを含んだような視線を送られている。
「大体、ティキのいた世界の歴史の延長上に私の世界…つまり今いるこの時代があるとも限らない訳じゃない?
ふとしたことで未来はいくらでも生まれるんだから、別の未来って事もありえる」
「………ごめんちょっとわかりやすく言ってオレ学ねェんだわ」
「つまりは、ティキのいた世界と私のいる世界は違うかもしれない、ってこと」
はコースターを取ると、二つ並べた。
そうしてそれを指差しながら、言葉を続ける。
「こっちがティキのいた世界、こっちが私のいる世界。その他にもいろいろな世界があるかもしれない。
この世界の過去が必ずしもティキの生きていた時代とは限らない、ってこと」
「……あーなんとなくだけど判るわ」
ティキは苦笑い交じりにウィスキーを口に運ぶ。
は何か考え込むように俯き、グラスを眺めていた。
「……?」
「あ、何?」
「いや、何か考えてたみたいだからどうしたのかなと思って」
「んー……私なりに考えてみたんだけどさ。」
はそう前置きすると、学がないと言ったティキにも判りやすいように順序だててゆっくりと説明して行く。
「ティキは『方舟』ってヤツを使って此処へ来た。
今こうしてここにティキがいる以上、ティキのいる世界もどこかに存在してる訳よ。
でも私が知る限り、どれだけ古い文献を読んでも、アクマだのイノセンスだのって記述はないの。
私これでも考古学とか好きで良く読んでたし高校でもでも選択授業でそれを勉強してたからいえる事なんだけど………。
だからもしかしたらティキのいた世界はこことは全く違う所にあって、何らかのきっかけで世界が繋がった」
「ってことは、オレがいた19世紀の未来とは違うかもしんねぇ、ってこと?」
「うん。」
だからイノセンスってのがどんなのか私には判らないけど、ある可能性は低いと思うよ。
はそういうと酒を飲み干し、タバコに火を付けた。
「そうか………まぁでもあながち無駄骨でもなかったな」
「え?」
「に会えたから。」
さらっと言うティキには顔を紅くする。
そういえば昨日もこんな事あったよなぁ、ティキって女ったらしなのかなぁ、と考えながら、俯いた。
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ティキと並んで酒が飲みたい(黙
2007/04/18 カルア