08:女は怖いよ

















「仕事?」

「そ。オレとと二人で仕事。」

「……何処に?」


3日後、朝早くに部屋を訪れたティキは仕事だといいながらにカードを差し出した。
はそれを受け取ると、目を通しながらティキに聞く。


「何処って……そいつら探して“削除”すんの。暫く旅になると思うぜ」

「“削除”…あぁ、暗殺か。ってかしょっぱなからそういうハードな仕事な訳?」

「そ。まぁ慣れないうちはオレがやっから」


はとりあえず慣れろ、と言って頭を撫でるティキに、は嬉しそうな笑みを浮かべた。
出発は今日中、と先ほど言われたことを思い出し、はティキを見上げて聞いた。


「旅支度したほうがいい?」

「や、伯爵から200ギニー貰ってあるからいらんでしょ」

「に……200ギニー……」


その額に、長旅になりそうだとは溜息を吐いた。
まぁ、200ギニーのうち殆どはぽんの洋服代や化粧品代に使いなさイvとティキに伝言してはいたのだが。
結局、化粧品と写真--元の世界の“家族”と写した古い物--、タバコと小腹が空いた時に食べるお菓子を持って行くことに決めた。
















***















「……だからさ、ティキもうちょっと外見に気を使おうよ」

「いやー、変装の意味ないっしょ」

「また同じこと言う……」


最初の目的地、ドイツへ向かう汽車の中。
二人は“白”のまま、向き合って先ほど駅で買った弁当を食べている。
が黒いままで行くのは嫌だとダダをこねた為だ。
ティキは最初に見せたあのボサボサ頭にビン底眼鏡。
はロードから貰った、背中の大きく開いたゴスロリ調のミニスカートワンピースの上にケープを着ている。
傍から見れば奇妙な組み合わせ、極端に言えば不審者とそれに連れ去られた女性とも見える。


「もー…なんか私が隣に並んで歩くのイヤだからちょっとこっち向いて!」


そういうとはカバンからブラシを取り出し、ティキの頭を梳かしていく。
眼鏡もこれじゃなくてこっちね!と差し出したのはシンプルなシルバーフレームの眼鏡。
髪を軽くセットし、眼鏡を変えたティキには満足げに笑みを浮かべた。


「ほら、簡単にしただけでもかっこいいんだから!」

「…なぁそれって褒めてんの貶してんのどっちなの」

「褒めてるに決まってんじゃん。一緒にいるならかっこいいティキがいいもん」


上機嫌にそういうに、ティキは嬉しくなって軽くキスをした。
唇を離しながらからかった仕返し、と囁いてティキは窓の外に視線を投げた。
は突然のティキの行動に顔を赤くして、俯いた。


「……ばか」

「んな今更照れる事でもねぇだろ。何度もしてんだから」

「突然されたらびっくりするの!」


はそう言うとタバコ吸ってくる!と車両を出た。
ティキは相変わらず慣れないの態度に笑みを零すと、また窓の外に視線を投げた。









***








「この街にいるの?ロロン」

『はぁ〜〜〜いぃ〜〜〜。確かにぃぃ〜〜〜〜〜』


ティキの持つカードには声を掛ける。
カードの中の囚人、セル・ロロンは間延びした声で返す。
ティキとは6時間ほど汽車に揺られ、大きな街--ワインが有名な街らしい--に到着していた。


「とりあえず……宿、取るか」

「うん」


ティキはそういうと大通りに向かって歩き出す。
宿は大体、大通りにあることが多いからだ。


「ここでいいかな…」

「え、けっこうでかいけど大丈夫?お金」

「ヘーキヘーキ」


結局、街で一番大きいと言う宿に部屋--何かあったときの為にツインを一部屋--を取った。
二人は部屋に荷物を置くと、必要最低限の現金を持ち、再び街へと戻る。
情報収集の為と、食事の為だ。


「……さて、情報収集なら酒場だな」

「おなか減ったからご飯食べていい?」

「おう」


二人は手を繋ぎ、大通りを歩く。
途中、タバコを買ったついでにこの街で一番大きな酒場の場所を聞き、二人はそこへ向かっていた。
この街に着いたのが夕方近かった事もあって、酒場に着く頃にはすっかり陽が暮れていた。
扉を開くと、ベルがカランカラン、と軽快な音を立てて来客を告げた。
二人はカウンターに座り、適当に注文を通した。


「……ティキ、視線が……」

「酒場だからなァ」


暫くすると、客の男たちから無粋な視線がに送られ始める。
はティキにそう言うも、さらっと返されてしまいいくらか不機嫌になって酒を飲んだ。
その間にもティキはカウンターの男性--恐らくは店主であろう--に、黒いコートの男を見なかったか、などと質問している。


「そういえば3日前くらいに見たな、そんな格好の男。確か3人組だったと思ったが」

「マジ?何処で宿取ってるかとか、判る?」

「そこまでは……あぁでもあと2週間くらいはこの街にいるって言ってたよ」

「……ってことはまだ余裕はあんな……、聞いてた?」

「うん。一応は」


もぐもぐとサンドイッチを食べながら、ティキに返事を返す。
相変わらず視線は送られ続けているようで、いくらか不機嫌になったにティキは苦笑いを零した。


「……っていうかさっきからウザいのよ、視線がぁ」

「まぁ…んな服着てこんなとこいりゃぁ当然だろ…」


ティキは着替えさせればよかったかも、と少し後悔していた。
この後のことが安易に予想できすぎたからだ。
案の定、の背後から酒に酔った男たちが絡み始める。


「なァお嬢ちゃ〜ん。オレらと飲まねぇー?」

「結構です」

「そういわずにさァ〜。ヒック。んなさえない男よかオレらのがいいって〜」

「結構です、と言ってるのが聞こえませんか」


ティキは怒りを含み始めたの声に 面白い事になりそうだ と傍観を決め込んだ。
が手を出されたら、すぐに止めるつもりではいたのだが。


「んな格好してこんなとこ来てんだからよぉ〜。誘ってんじゃネェのぉー?」

「お嬢ちゃん、おいくらぁ〜?」

「………(酒臭…)」


ティキはその言葉に若干腹を立てていたものの、の出方を伺っている。
はティキに視線を投げたが、ティキは不適な笑みを返すだけだった。


「……なぁ無視すんなって〜〜」

「お嬢ちゃんポーカーできるかい?賭けしねぇ〜?」

「……賭け?」

「そ〜。オレらが買ったら、お嬢ちゃんオレらに一晩買われてよ」


その下卑た言葉に、は思わずグラスをテーブルに叩きつける。
ティキは相変わらず何かたくらんだような笑顔を浮かべてを見ているばかりで、はそんなティキを睨みつけると席を立った。


「いい加減にしないと殺すわよ?」


は男たちを冷たい目で見据えて、言う。
その言葉の裏には突き刺さるほどの鋭い殺気が込められていた。
の肌が薄く褐色に染まっていた事に、酔った男たちは気付かなかったが。
男たちはのその言葉に逆上すると立ち上がり、ナイフや拳銃を取り出してに向けた。
はそれに怯む事もなく--能力が能力なので当然といえば当然--、笑みを浮かべて男たちを見据える。


「殺せるモンなら殺してみろよ」

「その前に犯ってやろうか?」

「ンな優男じゃ役立たずだろ?」


男たちは口々にそういうと、段々ととの距離を詰めた。
は動く事も言葉を発する事もせずに、ただ冷たい笑みを浮かべていた。


「びびってんの〜?」

「お嬢ちゃーん?」


男たちは楽しそうに笑いながらを取り囲む。
はふぅ、と溜息を吐き、ケープの中からナイフを2本取り出すと、
とりあえず目の前にいた男を、刺した。


「いってぇ?!テメェ何しやがるっ!!!!」

「離れてくれない?本当に殺しちゃうかもしれないよ?」


がナイフを引き抜きながらにっこりと言い放つと、男たちは逆上してに殴りかかる。
あら、と言いながらは落ち着いた様子でティキの後ろに隠れた。
ティキはその拳を止めると、腕をねじり上げて男を投げ飛ばした。


「先に武器出したのはそっちだろ?」

「テメ……っ」

「殺されない内に出てけよ。人の女に散々下卑た事言ってくれやがって」


ティキは声を低くし、男の襟首を掴み上げて耳元で言う。
男は息を詰まらせて、這いずるように酒場を出た。
男の仲間達も、ナイフを手に黒い笑顔を浮かべるに顔を引きつらせ、慌てて酒場を後にするのだった。


「………あーあ、逃げちゃった」

、お前なぁ……ただの人間相手にノア化してんじゃねぇよ……」


ティキは溜息混じりにそういい、頭を抱えた。
そしては肌の色を戻し元いた場所に座ると、店主に向かって謝った。


「あの、騒ぎ起こしちゃってごめんなさい」

「いやー!お嬢ちゃん強いねぇ!あいつら柄悪くて他の客来なくて困ってたんだよ!むしろこっちが助かったくらいさ!」

「………え?」


は店主のその言葉に目をぱちくりさせ、間抜けな声を上げる。
店主は相変わらず嬉しそうな笑顔でティキとを見ていた。


「助かったお礼だ!何でも好きなモン食ってってくれ!」

「マジで?!」

「あぁ!」


ティキが店主のその言葉に嬉しそうな声を上げ、目の前に次々と出されていく料理を嬉しそうに食べ始めた。
も店主に遠慮しないで食べてと言われ、料理に手を付けるのだった。











***














「人助けしちゃった……」

「ま、いいんじゃねぇの?情報くれたんだしよ」

「そだね」


とティキは酒場を出ると、夜の街を歩いていた。
先ほど酒場の店主から聞いた、エクソシストを探して。


「……せめて何処の宿かくらいわかってればよかったんだけど」

「アクマ呼べば話は早いんじゃねぇ?」

「それだ!」


アクマが街で暴れれば、エクソシストは現れるはず。
ティキとはノア化すると、ティキが何体かのアクマを呼び寄せる。
どうやらこの街にもアクマはいたようで、すぐに達の許へ5体のアクマがやってきた。


『ノア様、何かご用でしょウか』

「この街にエクソシストがいる。お前ら適当に暴れておびき出せ」

『ハイ。』

「エクソシストの始末は私たちがやるから、エクソシストが現れたら壊される前に帰りなさい」

『判りマした、ノア様』


アクマ達は返事をすると、二人の周囲の建物を壊し始めた。
次第に人が外に逃げ出してくると、人間を攻撃して。
とティキは近くのアパートの屋上からその様子を眺めていた。


「来るかな」

「来るだろー。あんだけアクマが派手に暴れてりゃ」

「あ、ティキ、あそこ!」


が指差す先に上がる爆煙と、アクマの悲鳴。
二人は顔を見合わせると、建物の屋上を伝ってそこへ向かった。


「……エクソシストだねぇ」

「だな。はどうする?」

「んー……殺ってみる」

「オーケー。じゃあお手並み拝見と行くか」


軽い足取りで飛び降りるティキと、翼を出してゆっくりと下降する
土煙が晴れるに従い、目に飛び込む黒いコート。
はティキに視線を送り、ティキが頷くのを確認するとゆっくりと歩き出した。
エクソシスト--どうやら背格好から判断するに男性のようだ--の背後に少しの距離を置いて立ち止まると、その背に声を掛けた。


「……こんばんわ、エクソシストさん」

「…ッ?!ここにいたら危な……ッぐぁ…っ!」


エクソシストは振り向き、に近づきながら警告するが、その言葉は最後まで紡がれなかった。
の手から放たれた鋭い刃が、彼の体を貫いたからだ。
辛うじて意識を保っている男の傍にしゃがみ込むと、は楽しそうな声で聞いた。


「ねぇお仲間はどこかしら?」

「……ッキミ、は…ッ」

「仲間はどこ?」


は冷たい声で言い、男の髪を掴んで顔を上げる。
男はを睨みつけ、途切れ途切れに 誰が言うか と言い、事切れた。
は溜息を吐くと男の髪を離し、ばしゃんと音を立てて男は血の海に沈んだ。


「……ティキぃー」

「ハイハイ。探す前にイノセンス壊そうなー。」


振り向きながら不機嫌な声で言うの頭をぽんと叩くと、ティキは男の銃--イノセンス--を取り、破壊する。
それはパキンと音を立てると砂になり、風に舞って消えていった。
はティキに言われたようにボタンを一つ毟り取るとティキの手を取り、惨劇の場を後にした。


「初めてにしちゃ上出来。っつーか予想以上。」

「ほんと?」

「あぁ。…ま、リストには載ってなかったけどな」


ゆっくり殺ればいいし今日は宿に戻るか、というティキの言葉に頷き、はティキと二人で宿へ戻っていった。
の着ている黒い服には、大量の返り血がこびりついていたのを宿屋の主人は知らない。














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白いちゃん=元いた世界での人格
黒いちゃん=ノアとしての人格

と、区別して書いてますが気付いてもらえてるんだろうか……





2007/04/19 カルア