カタタン カタタン カタタン

電車は喉かな田園風景の中を走っていく。
どうもこの空気には馴染めない。

そう思いながらは資料に目を通していた。



















灰色メランコリア 04


















「……現在わかっている事、って?」

「奇怪は古城の周囲で起きている事、その奇怪は50年ほど前から起こるようになったそうです」

「……ってことはイノセンスがあるとすればその城だね…」

「先行している探索部隊が数人、10日ほど前から調査をしています。詳しい事は現地で」

「えぇ。有難う」


一等客室の廊下で、は資料片手に探索部隊の一人---名前をライという---と話し込んでいた。
資料を全て読み、ライから補足を受けたは今回の奇怪について概ね理解したところだった。


「私はこの先のデッキで待機しております。何かあれば」

「判った」


ぺこりと一礼し踵を返すライの背中を見送りながら、も部屋へと戻っていく。
おそらく、客室の中でも最高級の物であろうその部屋へ入れば、神田が窓際で資料に目を通している最中だった。


「イノセンス、あるかな」

「さぁな。それを調べに行くんだろ」

「……それもそっか」


資料に目を落としたまま返した神田に、は肩を竦めながらベッドに座った。
そうして重いコートを脱ぐと、は結い上げた髪を解いた。


「…、つったな」

でいーよ。」

「……、お前のイノセンス見せてみろ」

「…此処で?」

「あぁ。どんなもんか把握しておきたい」


困ったなーとは頭を掻いた。
此処で発動したとすれば、回りの物を破壊してしまう恐れがある。
最悪、この列車ごと。
神田のような刀剣型ではなく、言うなれば飛び道具なのだ。


「……此処じゃ発動できないかなぁ…壊しちゃう」

「……?どういう意味だよ」

「私のイノセンスね、簡単に言うと飛び道具なのよね。だから此処で発動しちゃうとうっかり回り壊しちゃうかも」

「……そうか」

「だから、あっち着いたら見せる」


神田は幾らか腑に落ちない様子ではあったが、しぶしぶながら納得したようだ。
はその様子を認めると、バスタオルを片手に立ち上がった。


「神田、風呂先に使う?」

「いや、俺はまだいい」

「そ。じゃあお先に」


そう言いながら手を振り、はバスルームへと入った。
列車は相変わらずドイツへの道のりを心地よいレール音を響かせながら走っていた。
















***
















「……この街?」

「はい。あそこに見える城が件の城です。探索部隊が門前で待っているはず。」

「さっさと行くぞ」


汽車に揺られて2日、達3人は西ドイツのはずれにある小さな町へと着いた。
そこは町というより村と言った方がしっくり来るような、閑静で小さな町だった。
と神田はライに先導され、町の中央通りを歩く。
いくらか変わった視線を投げられるものの、何かを聞いてくる様子もないのであえて無視をした。




「……イバラ、だねぇ」

「どっから入るんだ」


中央通りを抜け、森の中の獣道を歩いて行くと、目の前に不思議な光景が飛び込んできた。
城壁から城門、城の全てをイバラが覆った城と、深い霧。

本当に眠り姫の城みたい、とは思った。


「お待ちしておりました、エクソシスト様」

「ご苦労様です。入り口はあるんですか?」

「いえ…今のところ、この近辺にそれらしき場所は見当たりません」

「……って事は、切り開くしかないって事?」

「そうなるな……丁度良い、お前のイノセンスでなんとかしてみろ」

「はいはい…やりますよー……」


はやっぱりか、とため息を吐きながらイノセンスを手に取る。
神田達から少しばかりの距離を取り、深呼吸をして。


(植物ならやっぱり火でしょう?)


「イノセンス、発動!!!!
 …地の底より生まれし灼熱の火炎よ、全てを灰と帰す矢に成りて我が杖に宿れ!!!!ファイアーヴォルト!!!!」


杖から放たれた無数の炎は矢となり、その周辺のイバラをキレイに燃やし尽くした。
神田は杖を構えるを少しばかり関心したように見つめ、探索部隊は始めて見る彼女のイノセンスの力に絶句した。


「……それがお前のイノセンスか」

「そう。【賢者の知恵(クレヴァー・ハイブロウ)】ってゆーの。能力は平たく言えば魔法、かな」

「魔法?」

「今みたいなの」


は、魔法というものが理解できない神田に対しけろっとした表情で返す。
そのの態度が気に入らないのか、神田は眉間に盛大に皺を寄せ、城の中へと入っていった。


「え、ちょっとー!せっかく入り口開いたのに感謝の言葉もない訳?!」


で、そんな神田に腹を立てながら慌てて後を追った。
探索部隊が二人に続こうとすれば、いつの間にか再生していたイバラに阻まれて進む事は出来ない。


「……か、神田…」

「あ?」

「イバラが、再生した……」


しゅるしゅる、という奇妙な音に振り向いたは、確かに今自分が燃やしたはずのイバラがキレイに再生しているのを見た。
それはまるで意思を持ったかのように互いに複雑に絡み合い、外からの進入を拒絶しているようにも思えた。


「……入れたのは俺達だけか」

「…私達もイノセンスが使えるから…?」

「可能性としてはありうるな。まぁいい。イノセンスを探すぞ」


さして気に留める様子もなく、神田はエントランスホールへと足を進めた。
もその後を着いて歩き、二人は城内へと姿を消した。




















***















「……埃塗れ」

「長い間人が入ってなかったみてーだな」


と神田は薄暗いエントランスホールの埃臭さに眉を顰めた。
埃が溜まり、黴臭い匂いで満ちた城。


「……考えるよりは、イノセンスを探そう。私は二階調べてくる」

「あぁ。何かあったら連絡しろ」

「了解」


考えるよりは行動を、と言うの考えに神田も合意し、二人は手分けをして城の中を探し始めた。
城はとても広く、二人で探すのは骨が折れそうだとは思った。


「まずはこの部屋から…」


階段を上って一番手前の部屋のドアに手を掛ける。
鍵はかかっておらず、意外にあっさりとドアは開いた。
中はやはりカビ臭く、埃をかぶった家具が散乱していた。


「此処は…衣裳部屋、かな?」


衣装ケースにクローゼット、大きな姿見という物から、は此処が衣裳部屋であると推測した。
さして怪しい場所はなかった物の、調査しておくに越した事はない。


「……できっかなー…大丈夫だと思うんだけど。
 イノセンス、イノセンス……
 …聖なる光よ、全ての小さき精霊達よ。我が求める物を示せ……レミラーマ」


杖の先が淡く光るが、反応はない。
はふぅ、とため息を吐くと、扉を閉めた。


「次だ次。」


は各部屋で同じ事をするが、二階の全ての部屋で反応はなかった。
は深くため息を吐くと、ゴーレムを使い神田に連絡を取った。


『…見つかったか?』

「二階にはないねぇ。神田、いまどこ?」

『エントランスホールから左に行った突き当りの広間だ』

「オッケ、今行く」


手短に用件だけを伝えると、は神田の許へ向かった。
階段を降りるのが面倒くさく、二階から一気に飛び降り、広間へと。


「神田」

「ずいぶん早いな。ちゃんと調べたのか?」

「失礼な。ちゃんと調べましたよーだ。証拠見せようか?」

「あぁ。やれ」


腕を組み言い放つ神田には幾らか不機嫌になったものの、何時もの事だと言い聞かせながら杖を構える。


「聖なる光よ、全ての小さき精霊達よ。我が求める物を示せ……レミラーマ」


杖の先から淡い光が暖炉へ向かう。そうして暖炉の中をくるくると回り、光はやがて消えた。
は暖炉に向かい歩きながら、神田に言う。


「こういう便利な使い道もあるのよ、私のイノセンスには」

「そうかよ」


不機嫌になった神田に気付かれないようにくすくすと小さく笑いながら、は大きな暖炉へと近づく。
薪は埃を被り、長い間使われていなかったのがよく判る。
注意深く観察していると、一つのレンガだけ微妙に色が違う事が判った。


「……此処だけ色が違うね…何かあるのかな」

「隠し通路でもあるのか?」

「…これだけ大きな城だしありうるね…。押してみる?」

「だな」


は意を決してレンガを押す。
すると小さく地響きを立て、それまでレンガで閉ざされていた暖炉の壁がゆっくりと開いていく。
その向こうは眩しい位の光に包まれた緑の庭園。
神田とは目を見合わせ、庭園へと踏み込んだ。


「……中庭?」

「天井があるし違うだろ」

「…怪しいねぇ。怪しいよここ。
 …聖なる光よ、全ての小さき精霊達よ。我が求める物を示せ……レミラーマ」


杖から放たれた光は庭園の奥へと進んでいく。
と神田は不測の事態に備えイノセンスを手に構えたまま、光の導くまま奥へ奥へと進んだ。
暫く歩くと、いつの間にか中庭に出ていたようで、目の前に苔むした塔が見える。
光は塔の最上階までふわふわと上がって行き、旋回して消えた。


「此処だね」

「らしいな。とっとと行くぞ」

「うん」


神田は塔の扉に手を掛ける。
蝶番が錆びているようで、ギギギと鈍い音を立てながら扉は開いた。
塔の中は暗く、窓がない事がわかる。


「……、なんとかしろ」

「人使い荒いなぁ…もう。
 大気に宿りし小さき精霊よ。我に力を…闇を照らす光を与えよ……レミーラ」


杖に誂えられた宝石が淡い光を放つ。それはやがて辺りを照らす程の光になり、上へと続く螺旋階段を映し出した。
灯りを持つが前を歩き、長い階段を上っていく。
二人分の足音が窓のない塔に響いていた。














***












「長かった……無駄に長かった……」

「此処が最上階みてーだな」


塔は最上階まで部屋はなく、ただ螺旋階段が続くだけの作りだった。
随分と長い間階段を上っていた気がする。
と神田は扉の前に立ち、息を合わせて扉を開いた。


「……ッうわ!!!!」


扉が開いた瞬間、弾丸のような物がを掠める。
神田は六幻を、は賢者の知恵を構えると、部屋の中へと踏み出した。


『待ってタぞエクソシスト!!!!!』

「……アクマ」

「レベル2が2体、か。ご大層なことで…私達が来るの待ち伏せてたみたいだね」


30畳をゆうに超える広さのその部屋には、2体のアクマの姿。
は杖を握り締め、初めて対峙するアクマに奇妙な高揚感を覚えていた。


「悪いけどイノセンスは私達が貰う。
 無念の響き、嘆きの風よ。全てを凍て付かせる氷と成りて我が杖に宿れ!ブリザード!!!!!」


神田がアクマに向かうよりも先に、はイノセンスの力を以って全てのアクマを凍りつかせた。
神田は一瞬の出来事に足を止め、驚いたようにを振り返る。
は笑みを浮かべ神田を見ると、その笑みを一瞬で消し、アクマに向き直る。


「…黄泉への回廊を永久に彷徨え。願わくば哀れな魂に救済のあらん事を……ホーリーライト」


小さく、呟くように唱えた。
一瞬の間を置き、アクマ達は粉々に砕け散る。
神田はただその場に立ち尽くし、を見つめた。
は暫くの沈黙の後、神田に向き直った。


「…ごめん、全部一人で壊っちゃった」

「……強いな」

「…ありがと」


は苦笑いを浮かべた。
神田は部屋の中を見渡し、ある一点に気付く。
其処にあったのはベッド。そして、の放ったレミラーマの光。


「……ベッド、だよねぇ」

「だな」


天蓋をかき上げ中を覗き込めば、ベッドの上には少女程の大きさはあろうかという人形の姿。
は人形を抱き上げ、注意深く観察し始めた。
中かもしれない、と人形の纏うドレスを脱がせると、胸のあたりに一度開いた痕がある。
確信を得たは、神田に言う。


「神田、この人形の中だと思う」

「開いて閉じた痕があるな……」

「人形さん、ごめんね」


はそう言いながら、人形の首を取り外す。
首をなくした人形を傾ければ、転がり出てくる小さな宝石。
それは鉱物には有り得ない光を宿していた。


「……イノセンスだ」

「あぁ。これで任務終了だな」

「人形さん、ありがとう。お家を荒らしてごめんなさい」


は人形の首を戻し、元通りにドレスを着せるとベッドに横たえた。
もう一度ありがとう、と言い、神田と二人ドアへと向かう。


『---時間を動かしてくれてありがとう。金色のお姉さん---』


そんな人形の声が、聞こえた気がした。















***
















外に出れば、城を覆っていたイバラはすっかりと無くなっていた。
気がつけば日が暮れていて、今日はもう汽車はなかった為、一行は町の宿を取った。
そういう訳で帰りは3日ほど後になる、とコムイへ連絡を入れた後、それぞれの部屋へと入っていった。
と神田は同じ部屋--何かあった時に二人同時に反応できるよう--だった。
ダブルの部屋とはいえ少しばかり不満はあったが、何せ自分はこれが初めての任務だから仕方がないと言い聞かせて。
は始めての任務で気疲れしたのか、ベッドに寝転がったまま六幻の手入れをする神田を見ていた。


「……なんだ」

「疲れた…なーって…」

「初めてにしちゃ上出来だ」

「ありがと。
 ……ていうか、何かもの悲しい城だねぇ・・・あそこ」

「あ?」

「さっきね、町の人に聞いたんだよ、あの城であった事」


そういえばさっきは町へ行くと言って出て行ったな、と神田は納得した。
は枕を抱えたまま、あの城であったことを話し出す。


「50年くらい前はね、あの城もきれいだったんだって。
 でもね、お姫様が死んじゃったの。流行り病で。
 もうすぐ結婚するはずだったんだって。
 それで…姫を失った事に耐え切れなかった王妃は自殺、王は段々と壊れていった。」

「童話みてーだな」

「だね……なんかやるせない……」

「俺らは俺らの仕事を果たしただけだ。」

「………そだね」


は笑い、初任務の成功を嬉しく思った。
神田も最初は合わないと思ったけど、いいやつかもしれない、とも。
















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お分かりかとは思いますがヒロインの能力は全てRPG等に登場する魔ほゲフンゲフン


2007/04/07 カルア