最近神田の様子が可笑しい。
リナリーとラビも可笑しい。
なんだか私だけ一人除け者にされてる気分。

少し複雑。















灰色メランコリア 06

















ー今日オフ?オフ?」

「え、オフだけど……どうして?」

「ちょーどよかった!俺もオフなんさ!なぁなぁ、買い物付き合ってくんね?!」


黒の教団、談話室。ラビが教団に戻ってきてから10日目の朝である。
例によってリナリーとお茶をしていたの許へ訪れた赤毛の男、ラビ。
楽しそうな笑顔でを買い物に誘っている。
そしてそれを遠目に見て不機嫌な男一人。神田ユウである。
これは最早最近の日常茶飯事といった所で、もう気に止める者は皆無に等しかった。


「別にいいよ。私も化粧品そろそろ切れそうで困ってたの」

「マジで!じゃあ行こう!今すぐ行こう!気が変わらんうちに!」


リナリーは神田をちらりと見る。
案の定、額に皺を寄せラビを睨んでいる。
そんな神田にリナリーは苦笑いを零した。
はリナリーに笑顔で行ってくるねー、と告げ、ラビと共に談話室を後にするのだった。

(神田も素直にならないとラビに取られちゃうと思うんだけどなぁ)

ラビとの後姿を見送りながらそんなことを考えていたリナリーは、何かを考え付いた様子で神田に近寄る。


「ねぇ神田?」

「なんだ」


相変わらず額に寄った皺は消えないまま、神田はリナリーを睨む。
リナリーはさほど気に留めない様子で神田の前に座り、言う。


「素直にならないと、ラビに取られちゃうわよ?」

「は……?!」

「隠してもダメよ。態度でわかるんだから。」


図星と言った様子で神田の顔が赤くなる。
女の子の観察力ナメちゃだめ、とリナリーは付け加えて笑顔を浮かべた。
神田は何も言えず露骨にリナリーから視線を逸らすと緑茶を啜った。


「………チッ」

「ねぇ聞いていいかしら」

「何をだ」

「いつから好きなの?」


余りにストレートに聞いてくるリナリーのその言葉に、神田は思わず咽る。
げほごほと咳き込んだ神田を見て、リナリーはまたくすくすと笑う。


「っテメェに言う義務はねぇ」

「協力してあげようと思ったのに。」

「……余計なお世話だ」

「……素直じゃないわね」

「フン」


リナリーはこれ以上言っても無駄ね、と悟り、何も言わず席を立った。
神田は相変わらずの仏頂面で読んでいた日本語の本に目を落とすのだった。

(大体……アイツだってあのバカウサギと満更でもねーじゃねーか。)

男の嫉妬は見苦しいわよ、と言おうとしたが、やめておいた。
















***

















一方その頃、自室で私服に着替えていた
黒いキャミソールの上に白の半そでニットを羽織り、膝上15センチほどのスカートにいつものブーツ。
不測の事態に備え、イノセンスを首から下げている。


「……こんなもんかなー……イノセンス持ったし、財布もある。化粧ポーチもあるし…よし、オッケー」


姿見で確認し、カバンを手に部屋を出る。
外出許可は既にラビがコムイから貰っているはずなので、玄関ホールへ向かって。


「お?何処行くんだ?」

「ラビと買い物ー」

「そーかそーか。気ィ付けてなー」

「はーい」


道すがらすれ違う科学班の面々からそんなことを聞かれながらは歩く。
玄関ホールに着くと既にラビがそこにいた。


「ごめん、待った?」

「いーや、大丈夫さぁ(…やっぱ可愛いさぁ♪)」


ラビはの姿にいくらか上機嫌。は久し振りの外出とあって上機嫌。
二人は門番に行ってきますと告げ、歩き出す。


「……ラビ、水路から行ったほうがよかったんじゃないの?」

「へ?どしてさ?」

「や、だって……断崖絶壁だし……」

「そんなん、俺のイノセンスでひとっとびさぁ♪」


上機嫌でラビはイノセンスを発動し、に柄の先端を持てと言う。

(そっか、伸があったんだっけ)

は納得し、言われるまま先端を掴む。
ラビの手がの腰を抱き、ラビはイノセンスを構える。


「しっかり掴まってろよー……大槌小槌、伸伸伸伸ーん!」

「うわっ!!!!」


ぐ、っと重力がかかったと思いきや、次の瞬間の身体は宙に浮いた。
ラビはを軽々と抱え上げ、安定した木槌の柄に座らせる。
ラビも同じようにの隣に座った。


「ど?」

「いい眺めだねー……」

「だろ?」


ラビが余りにも得意げな顔をするので、は自分が飛べるという事は黙っている事にした。
30分程木槌で移動した頃だろうか、深い森は終わり、開けた草原が見えてきた。


「さて、そろそろ降りるさぁ。しっかり掴まってろよー」

「うん」


ゆっくりとラビの木槌は地面へ向かう。
すとんとが着地したのを確認して、ラビも木槌から飛び降りる。
そうしてイノセンスを仕舞うと、町へ向かって歩き出す。
すぐ傍には街が見える。10分ほど歩けば着くだろう。
他愛のない話をしながら、二人は町へ歩いていった。


















***















「でっかい街だねー……」

「だろー?、ここ来んの初めてか?」

「うん。リナリーと行った町はちょっと違った」

「へぇ……」


ラビとは並んで町の中央通りを歩く。
町は活気に溢れていて、そこかしこの店から声が上がる。
はきょろきょろと見回しながら、ラビを見失わないように着いていく。

(なんてゆーか、デートみたいさ♪)

ラビは内心上機嫌だった。


「……あ」

「ん?どしたさ

「雑貨屋、見たい」

「おう」


足を止めたの視線の先には小さな雑貨屋。
はラビと共に店内へと入る。
中はカントリー調というのがしっくり来る、木造バンガローの様な店だった。


「色々あるねー……あ、この髪留め……」


が足を止めたのはヘアアクセサリーが並ぶコーナー。
視線の先には縮緬(ちりめん)に似た質感の髪留めがある。

(……?ユウにか?)

ラビはそう思い、の横顔を見る。
は嬉しそうな笑みを浮かべ、髪留めを物色していた。


「……うーん……どれがいいかなぁ……」

「………なぁ、それユウに土産?」

「えぇ?!な、え?!」

「あ、図星さ」


くすくすと笑いながら言うラビ。の顔は思わぬ一言に真っ赤だ。
は恥ずかしそうに俯く。


「………なんでそう思ったの?」

「ん?髪留めの色さぁ。の金髪にはちょっと合わないし」

「……はは、さすがブックマンの後継者ね」


が手に取っていたのは白と瑠璃色(明るい青)の髪留め。
確かにの金髪とは合わない色、そして黒によく映える色だ。
は髪留めを握り締めたまま顔を赤くして、また俯いた。


「……ラビって意地悪だね」

「はは」


結局、は白の髪留めを選んだようだ。
リナリーにも、とは桜色の髪留めを選んだ。
ラビはそんなの一挙一動を微笑ましい目で見守っていた。

(なんだかんだで両思いなんさ、あの二人♪)

が、はそんなラビの考えに気付くはずもなく。
結局、は白と桜色の髪留めと、自分用に水浅葱色(水色)の髪留めを買った。
上機嫌で雑貨屋を出るの背を見ながら、ラビもまた笑顔を浮かべての後を追った。

その後はの買い物--化粧品や服--をし、ラビは本を数冊--どれも古めかしい古文書のような--を買い、町を後にした。
アクマに出会う事もなく、無事に。




















***

















「ただいまさー♪」

「おかえりなさい、ラビ、

「ただいまリナリー。はいこれ、リナリーにお土産」


上機嫌で帰った二人は一度自室へ戻り団服に着替えた(それが教団の規則だからだ)。
そしてまた二人待ち合わせをし、談話室へと向かう。
そこにはリナリーの姿はあったが、神田の姿はなかった。
はとりあえずリナリーに先ほど買った髪留めを渡す。


「わ、なぁに?あけてもいい?」

「うん、どうぞ」

「………キレイ…これどうしたの?」

「雑貨屋で見つけたの。縮緬っていってね、日本の伝統的な工芸品。リナリーに似合いそうだなーって思ったから」

「わー有難う……大事にするわ!」

「うん。………」


はきょろきょろと辺りを見回す。
ラビとリナリーは目を見合わせ、笑みを浮かべた。


「神田なら部屋に戻ったわよ?」

「え?!あ……そ、そっか」

「だから、も判りやすすぎなんさぁー」

「うぅ……二人がいじめる……」


は二人に冷やかされながら談話室を後にする。
手には大事に、神田への土産を抱えて。
小走りで談話室を出るを、ラビとリナリーは優しい目で見送った。


「……上手く行くかな?」

「行くんじゃね?ユウもが好きみたいだし♪」

「そうね」

「つーかユウのヤツ、いつからに惚れてんさ?」

ね、神田と任務行ってアクマ全部一人で壊しちゃったらしいよ」

「あーそれでかー………」


と、そんな会話はもちろんの耳には届かない。























***





















「(……落ち着け、私)」


は神田の部屋の扉の前にいる。
両手に、髪留めの入った小袋を握り締め、深呼吸をして決意を固める。
そしてゆっくりと扉をノックする。


「………誰だ」

「……あ、私…だけど……今平気?」

「……あぁ」


いくらか不機嫌な声が返ってきたが、はそれを気にしないように扉を開けた。
神田は机に向かってなにやら読書をしていたようで、しおりを挟んで椅子から立ち上がった。


「何か用か?」

「あ…これ、神田にお土産。髪留め、似合いそうだったから」

「……俺に?」

「うん……」


神田は無言でに近寄ると、俯くから小袋を受け取った。
開けていいか、と聞けば小声でどうぞ、と帰ってくる。
開けてみれば、中には白い縮緬細工の髪留め。


「………縮緬なんてよく手に入ったな」

「雑貨屋で見つけたの…神田の髪の色によく合うかなって……」

「……そうか……」


それきり、神田は髪留めに目を落としたまま黙り込んだ。
には少しばかり重苦しい沈黙。
気に入らなかったんだろうか、とか、やっぱり神田は男性だから、とか考えてしまう。


「あの、気に入らなかったら捨てても」

「いや、貰う。」

「……え?」

「俺のために選んだんだろ?」

「うん」

「ありがとな」

「………!」


神田から初めてありがとうと言われた気がする。
は思わず顔を赤くして俯いた。
神田はそんなを見てまた眉間に皺を寄せる。


「……なんだよ」

「え……神田が素直にありがとうなんて珍しいな、って……」

「……好きな女から物貰って礼言わねぇバカがどこにいる。」

「………えぇえええええええ?!」


神田は気まずそうにから視線を逸らして言う。
思いも寄らぬ神田のその言葉に、は驚きの声を上げた。
それもそのはず、今まで神田はとといるとつまらなそうだったし、何より邪険にされていたからだ。
考えてみればそれも神田の不器用な愛情の裏返しという事に、が気付かなかっただけなのだが。


「……戦っているお前の姿をキレイだと思った。俺より強い女なんて初めて会った。
 ……ラビと仲良くしてるお前を見てるとムカついた。
 ………恋愛感情だと気付いたのは最近だがな」

「か、かんだ……?」

「……お前はどうなんだ」

「わ、わたしは……あの……」


神田の有無を言わさぬ表情と声にはどもる。
返事などしなくても、この赤い顔と態度で判れと毒づいてみるものの、鈍い神田ではそれも無理。
は神田を見上げ、小さく言った。


「……す、き…です……」

「……そうか」


神田はのその答えに満足そうに笑みを浮かべ、の頭を優しく撫でた。
は俯いたまま動こうとせず、恥ずかしさの余り顔すら直視できずにいた。


「神田……?」

「ユウ」

「え?」

「ユウでいい。」


そう言った神田の目はいつもと違いとても優しく、はまた俯いた。
そして神田のコートの裾を掴みながら、小さくユウ、と名を呼んだ。


「…上出来。」


そしてまた、の髪を撫でながら神田は言う。
顔は見れなかったが、嬉しそうな声色にの頬も思わず緩んだ。


「……

「な……ん…」


優しい声色で呼ばれ顔を上げれば視界に広がる黒。
そして唇には暖かい体温。
キスされていると理解するまでに、3秒。
はただ硬直し神田からの口付けを受け入れた。


「……ユウ?」

「好きだ」

「……うん」


触れるだけの口付けを何度も交わしながら、抱き締めあった。
まだ肌寒い季節、互いの体温を感じながら。























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やっちゃった!(何がだ




2007/04/07 カルア