ユウが帰ってきた。
ラビはユウが任務に行って4日目で、また任務と言って教団を離れた。
それまでの4日、行く先々でラビの質問攻めにあってた訳だけど。
ユウは5日で帰って来た。
あと1日早ければラビにお灸すえてもらえたのになー。
灰色メランコリア 08
「帰ってきたと思ったら怪我してるしー……」
「こんなんすぐ治る」
現在は医療室にいた。
任務から帰った神田はそれほど深くはないものの手傷を負っていたからだ。
それには神田が怪我のすぐ治る体と言う事を知っているので、いくらか冷静だった。
(もちろん本人にはいえない事だけども)
「まぁいいけどさぁー」
「………、手ぇ出せ」
「……?何?」
「土産。こないだの髪留めの礼だ」
投げるように手渡されたのは小さな小箱。
開けてみればシルバーのシンプルなフープピアスが一組。
は神田らしからぬ行動に思わず笑いを零す
「……テメェ…何笑ってやがんだ」
「や……まさかユウからこんなの貰えるなんて思ってなくてさ……ありがと、ユウ」
「フン」
神田はそれだけ言うとから視線を逸らした。
顔が僅かに赤くなっているのが横顔から見えた。
はそんな表情にまた嬉しそうに笑みを零した。
「大事にするね」
「失くしやがったらぶった斬るぞ」
「うん、絶対なくさない」
はそう言いながらピアスを耳に通していく。
長い間つけていたピアスはコートのポケットに仕舞って。
***
「ダメだよ部外者いれちゃぁ〜〜。何で落とさなかったの?!」
「あ、コムイ室長。それが微妙に部外者っぽくないんすよね」
は現在、指令室にいた。
科学班の面々とリナリー、そしてコムイ。
神田と一緒に医療室にいたところをリナリーに呼ばれたのだ。
侵入者かもしれないからだけでいいので来て欲しい、と。
「……(アレンだ…)」
「此処見て兄さん。この子、クロス元帥のゴーレム連れてるのよ」
リナリーが指差す先にはティムキャンピー。
はリナリーの横でその様子を見ている。
コムイがその言葉に反応すると同時に、ゴーレムを通した声が司令室に響く。
『すいませーん、クロス・マリアン神父の紹介で来たアレン・ウォーカーです。教団の幹部の方に謁見したいのですが』
「……コムイさん、どーするの?この子」
「…紹介って言ってますけど室長何か聞いてます?」
コムイはコーヒーをすすりながら困惑の表情を浮かべる。
「知らない……後ろの門番の身体検査受けて」
そのコムイの声は拡声器を通じアレンへと届く。
振り向いたアレンに飛び込んできたのはアレスティーナ。
警戒心丸出しに、アレンの顔を覗き込む。
アレスティーナのその表情にアレンは驚き、引きつった表情を浮かべている。
「(……ユウ、止めた方がいいのかなぁ……)」
これから起こる出来事を把握しているはそう思ってみたが、あの二人の掛け合いを見るのも一興、と傍観を決め込んだ。
そのうちにアレスティーナの叫びが木霊する。「こいつアウトオオオオオ!」と、それはもう盛大に。
「こいつバグだ!額のペンタクルに呪われてやがる!アウトだアウト!!」
アレスティーナの泣き叫ぶ声に、教団全体に「スパイ進入」の警報が鳴り響く。
それにいち早く反応したのはやはり神田で、その警報を聞きつけすぐに門へと駆けつけたのだ。
「一匹で来るとはいー度胸じゃねぇか……」
眼光鋭く、神田が言い放つ。アレンは飛び掛ってくる神田に必死で弁解するものの聞く耳を持つはずもない。
神田の一撃を、アレンもイノセンスを発動して止める。
神田はその左腕をいぶかしげな目で見ながらアレンに問う。
「お前…その腕は何だ?」
「……対アクマ武器ですよ。僕はエクソシストです」
「……何?」
対アクマ武器、という言葉に、神田はアレスティーナを睨みつけながら険しい声で叫ぶ。
中身がわからないからどうしようもない、というアレスティーナに詰め寄るアレンを軽くスルーして、神田は再び六幻を構える。
「中身を見れば判る事だ」
そうして勢いよくアレンに向かい駆ける神田に、アレンは慌てて弁解する。
「待って、ほんとに待って!!!僕はホントに敵じゃないですって!!!!
クロス師匠から紹介状が送られているはずです!!!!」
その言葉に神田は寸でのところで刀を止める。あと一瞬遅ければ、恐らく六幻はアレンを切り裂いていただろう距離で。
そうして「コムイって人宛に」、とアレンが続ければ、司令室の面々はいっせいにコムイへ視線を投げる。
「…そこのキミ!ボクの机調べて!」
周囲の冷ややかな視線の中、机を必死で探してみれば、へろへろになったクロスからの手紙。
読んで、というコムイの声に、科学班の一員であろう白衣の彼は手紙の内容を読み上げた。
「コムイへ。近々アレンというガキをそっちに送るのでよろしくな。BYクロス、です」
「はい!そーいう事です。リーバー班長、神田くん止めて!」
「たまには机整理してくださいよ!!!!」
リーバーの悲痛な叫びは尤もであろう。
は苦笑いを零しながらため息を吐いた。
***
『待って待って神田くん』
「……コムイか…どういう事だ」
『ごめんねー早トチリ!その子クロス元帥の弟子だった。ほら謝ってリーバー班長』
『オレのせいみたいな言い方ー!!!!!!!』
はリナリーと共にアレンの出迎えの為城門へと来ていた。
相変わらず神田はアレンに六幻の切っ先を突きつけたまま、隙あらば斬るといった険しい表情。
はそんな神田の様子に苦笑いを零し、リナリーと二人の許へ歩く。
「もー。やめなさいって言ってるでしょ!早く入らないと門閉めちゃうわよ!」
「はいはいユウも六幻仕舞って仕舞って。とっとと入るよ」
ぱこっ、と軽快な音を立ててリナリーが持っていたバインダーで神田をどつく。
はアレンと神田の間に(無理矢理)入り、仲裁をする。
神田はそんな二人に何か言いたげな様子だったが、この二人相手に口喧嘩で勝てる見込みは全くない為黙っていた。
「私は室長助手のリナリー。こちらはエクソシストのちゃん。室長の所まで案内するわね」
「よろしく、アレンくん」
「はい、よろしく」
神田は城内に入るなり踵を返し何処かへ行こうとする。
そんな神田をアレンは呼び止めた。
「あ、カンダ」
瞬間、ものすごい殺気の篭った目で神田はアレンを睨む。
アレンはよろしく、と手を差し出すが神田はそれを無視しようとした。
「呪わ「呪われてるヤツと握手なんかするかよ、なんて言ったらぶつわよ、ユウ」」
「………てめぇ」
神田の言おうとしていたことをそっくりそのまま先に言い切るを神田は不機嫌な目で睨む。
だがはひるむ事もせず、握手!という。
神田は自分の恋人であるが他の男を庇っているのが気に入らないのか、小さく舌打ちをしてその場を去った。
「あ、こら!ユウ!!!!!」
は神田を追いかけ走り出す。10歩ほど進んだ所でアレンに振り返り、ごめんなさいね、と告げて。
「……(差別…!)」
「……ごめんね、任務から戻ってきたばかりで気が立ってるの(原因はそれだけじゃないんだけどね)」
は神田が不機嫌になった理由には気付いていなかった(妙な所で鈍く天然なのだ)。
リナリーは苦笑いを零しながらアレンにそう告げ、アレンを連れて教団内部を案内しはじめた。
***
「ユウってば!!!!」
「………んだよ」
「なんでさっきあんな態度取ってたのさ。」
「………(どこまで鈍いんだこの女…)」
は早足で歩く神田に小走りで着いていく。
相変わらず神田は不機嫌なままで、なおかつその原因に気付かないに対しても多少腹を立てていた。
「もー…せっかく仲間が増えたのに」
「俺らは今戦争してんだ、馴れ合ってどうする」
「そうだけどさー……」
「大体……があいつを庇うから……」
「え?」
「なんでもねぇよ!」
小声で言う神田の声はの耳には届かなかった。
聞き返すに、神田は声を荒げて一言言うと、勢い良く走り出して何処かへ行ってしまった。
「あ、ちょっと!!!!!!ユウ!!!!!
………もう。予想はしてたけどさぁー……」
はぶつぶつと文句を垂れながら、自室へ戻った。
***
「ユウ」
「………っか……何の用だ」
「あの、昨日はごめん…無神経でした」
翌朝早く、は神田がいつも修練をしている森にいた。
目隠しをして六幻を振るう神田に声を掛ければ、神田の肩が一瞬跳ねて。
目隠しを取り向き直る神田の表情は、修練中だったからかいくらか険しかった。
「……別に気にしてねぇよ」
「……うん」
「メシ食い行くか」
「そだね」
素直に謝れば神田は溜息交じりではあるが許してくれた。
神田はシャツとコートを羽織りながらに声を掛ける。
その声にの表情は一瞬で晴れ、二人は並んで食堂へと向かうのだった。
***
「ジェリーちゃん、おはよー」
「あらんちゃん♪おはよ」
「私いつものやつねー」
「はぁーい。……あら神田、いたの」
「いたのとは何だ。冷たい蕎麦くれ」
「はいはい。すぐできるから待っててねん」
ジェリーはそれだけ言うと厨房へ姿を消す。
と神田が二人で食堂へ来るといつもこう。
には気付くが神田にはなかなか気付かないのだ。
もう慣れたとばかり神田は溜息を吐き、朝食を受け取った。
「ユウってあったかい蕎麦食べないの?」
「食うには食う。」
「いっつも冷たいヤツじゃん」
「蕎麦湯でシメたいだけだ」
「あ。それは判るかも」
日本人ならではの会話をしながら二人は朝食を取る。
の朝食はいわゆる典型的な朝定食。
焼き鮭と漬物と味噌汁と白米と納豆を食べている。
「典型的な朝メシだな、いつもいつも飽きねぇのか?」
「飽きないよーこれって決めてるもん。それ言うならユウだって同じ」
「……そーかよ」
そんな会話をしながら食事を続けていると、の正面--神田の後ろ側--に捜索部隊数人が座るのが見えた。
(……また一波乱あるのか……)
は麦茶を飲みながらそんなことを考えていた。
***
「(あ、アレン君だ)」
後ろで捜索部隊の面々がすすり泣くような声がするがはそれをスルーし、食堂に入ってきた白髪の少年を見つけた。
ジェリーが目を輝かせているのが遠目からでもすぐに判り、相変わらずジェリーちゃんって可愛い子好きだな、等と考えてみたり。
そしてアレンの注文した大量の料理に冷や汗をかいている様子に、は視線を神田に戻す。
「何だとコラァ!!!!もういっぺん言ってみやがれ!!あぁっ?!」
「(ハァ…やっぱり)」
は溜息を吐いて湯飲みを置いた。
「うるせーな。メシ食ってるときに後ろでメソメソ死んだ奴らの追悼されちゃ味がマズくなんだよ」
「ちょっとユウ、此処食堂だよ」
「は黙ってろ」
「……もう」
「テメェ…それが殉職した同志に言うセリフか!!
俺たち捜索部隊はお前らエクソシストの下で命がけでサポートしてやってるのに…
それを…それを…ッメシがまずくなるだとー!!!!!」
バズ、と呼ばれた大柄の捜索部隊が神田に殴りかかる。
はさして気に止める様子もなく、ただ麦茶を飲んで傍観していた。
神田は拳を難なく避けると、バズの喉許を掴み片手で持ち上げる。
「サポートしてやってる、だって?
ちげーだろ。サポートしかできねぇんだろ。お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ」
「(もー……)」
「死ぬのがイヤなら出てけよ。お前一人分の命くらいいくらでも代わりはいる」
はぁ、とが溜息を吐いたと同時に、アレンが神田の腕を掴む。
「ストップ。関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」
「…………離せよ、モヤシ」
「(モヤ……ッ?!)アレンです」
「はっ。一ヶ月でくたばらなかったら覚えてや「いい加減にしなさい、ユウ!」ぶっ」
見かねたがトレイ(しかも縦)で神田を殴る。
その衝撃でバズは開放され、神田はを睨みつける。
「!テメェいきなり何しやがる!」
「それは私のセリフよ。捜索部隊の人たちにもアレン君にも失礼だよ」
「………チッ」
神田は舌打ちをして露骨にから視線を逸らした。
は肩を竦めると捜索部隊の面々へ向き直る。
「あの、ごめんなさい。彼も悪気がある訳じゃないの……ただ少し言い方がキツいだけで…。
こんなところで悲しんでても、死んだ彼は帰ってこない……悲しんだら、きっと彼も悲しむよ?
彼の死を無駄にしない為にも、前を向かなきゃいけないと思うの…」
「……様……」
「バズさんも、皆さんも……私に免じて許してやって下さい」
そう言って深々と頭を下げるに、捜索部隊の面々は戸惑う。
エクソシストである彼女が、立場的に部下にあたる自分たちに頭を下げているのだから当然と言えば当然。
「ど、どうか頭を上げてください!!!我々は貴女に頭を下げて頂ける立場では…!!!!」
「……じゃあ、許してあげて?私からきつーく言っておくから」
「は、はい!!!!!」
その答えにはにっこりと微笑んだ。
神田は相変わらずアレンと睨みあったまま、を見ようともしなかった。
まぁ予想できてたけどね、とは溜息を吐き、アレンにも謝った。
「アレン君も。ごめんなさいね」
「あ…いえ……(このひとって神田の何なんだろう?やけに親しそうだけど)」
アレンの訝しげな視線には「?」を浮かべる。
神田は相変わらずアレンを睨んだままだった。
「あ、いたいた。おーい!神田!アレン!
10分でメシ食って司令室に来てくれ!任務だ!」
二人の険悪なオーラに、は内心リーバーのこの言葉を待っていた。
ナイスタイミングでリーバーの声が食堂に響き、はやっと胸をなでおろせたのだった。
「………チッ」
「ユウ、行ってらっしゃい」
「………あぁ」
相変わらず仏頂面だったが、返事を返してくれたので一応は許してくれたのだろうとは笑う。
言い合いをしながらも司令室へ向かった二人の背を見送って、も自室へと戻って行った。
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捜索部隊内で「美女と野獣」なんていわれちゃってると神田(笑
2007/04/04 カルア