やってきました久々の任務!
巻き戻りの町、ベルリーニ!




















灰色メランコリア 10




















「へっくしょい!!!!」

「アレンくん!」

「…すいません」


は現在、アレン・リナリーと共にベルリーニの街の酒屋にいた。


「すいませんじゃなくって、どーして見失うかなぁ」

「凄く逃げ足速くて…この人。
 でもホラ、似顔絵!こんな人でしたよ」

「……似顔絵?」

「……ピカソに通じる物があるよね……」

「あれ…?」


(しょしょっ…少年…だわ。白い髪なんて変なの…何処の国の子かしら)


そんなやり取りをこっそりと覗き見る不審人物、ミランダ。
は彼女に気付いてはいたものの、「流れを変えない」という信念に基づきあえて気付かぬフリをしていた。


「こんなことなら別れないで一緒に調査すればよかったね…
 昨夜退治したアクマ…確かにその人にイノセンスって言ったの?」

「はい。道に迷って路地に入り込んだら偶然見つけて……
 運がよかったです。多分今回の核心の人物だと思いますよ」

「……アレンくん、今度から絶対に一緒に調査しよう」


しゃべる間も食べる手を止めないアレンには思わず苦笑いを零しながらコーヒーを飲んだ。


「リナリーとさんの方はどうでした?」

「私は特に収穫ナシ。町の人たちも巻き戻ってることに気付いてないみたいね」

「コムイ兄さんの推測はアタリみたい。この街に入った後すぐ城門に引き返して街の外に出ようとしたんだけど……
 どういうワケか、気付くと街の中に戻ってしまうの。」

「壁ぶっ壊して外出てみたけどさ、やっぱ戻されちゃうんだよねー……」


とリナリーは顔を見合わせ、深い溜息を吐く。
アレンは食事する手を止めないまま、冷や汗交じりにやっぱり?と二人に聞く。
そんなアレンを、リナリーは イノセンスの奇怪を解かない限り出られない とすっぱり切り捨てる。


「……なんかコムイさん元気なかったですよね」


任務を言い渡された時のコムイの様子を思い出したのか、アレンはフォークを顎の辺りで止め、言う。
は あのコムイさんは今にも溶けて消えそうだったな… と苦笑い交じりにカップを傾けた。


「なんか兄さん…色々心配してて働き詰めみたい」

「心配?リナリーの?」

「伯爵の!」


ぽこん、とリナリーが丸めた資料でアレンを小突く。
は そろそろかな? と思い、静かにカップをソーサーに置いた。
ふと顔を上げれば、アレンが真っ青になってたちの背後を見つめている。
一瞬の硬直の後、フォークを派手に落としたアレンにリナリーが冷静にツッコミを入れた。


「あぁあ!!!!!
 この人です、リナリー!さん!」


案の定、とリナリーの後ろの席にはショールを被ったミランダの姿。
その叫びに、条件反射とでも言うのが妥当だろう、ミランダはものすごい速さで窓から逃げようとした。
が、スカートの裾をアレンが掴み、何とか彼女を引き止めた。


「わ、私はミランダ・ロットー。嬉しいわ、この街の異常に気付いた人に会えて……
 誰に話してもバカにされるだけで、ホントもう自殺したいくらい辛かったの。
 あ、でもウンコは避けられる様になったんだけどね」

「ウンコ…?」

((このひとだいぶキテるっぽい……))

(んー…現実に見るとある意味ホラーだ…)


ウフフフフフフ、と笑うミランダ。
アレンとリナリーは冷や汗を流し、は苦笑交じりに彼女の話を聞いていた。


「ミス・ミランダ。あなあには街が異常になりはじめてからの記憶があるの?」

「ええ…街のみんなは機能の10月9日は忘れてしまうみたいだけど。
 私だけなの……」


心底参っているのであろう、頬の扱けたミランダの顔色は真っ青だ。


「ねぇ助けて 助けてよぉ!私このままじゃノイローゼになっちゃうぅ〜!
 あなた昨日私を変なのから助けてくれたでしょ?!助けたならもっと助けてよーっ!!」


ミランダが涙を流しながら必死の表情でアレンに詰め寄る。
アレンは思わず怖いと感想を素直に言葉にしてしまった挙句、リナリーに助けを求める。


「落ち着いてミス・ミランダ!助けるからみんなで原因を探しましょう」

「原因ったって気付いたらずっと10月9日になってたんだものぉ〜…」

「本当の10月9日に何かあったハズだよ?心当たり、ないの?ミランダさん」


とリナリーが必死でミランダを眺める横で、アレンはアクマの気配を察知する。
静かに席を立ち、アクマに視線を投げたまま、小さな声でアレンは言う。


「リナリー、さん、ミランダさんを連れて一瞬で店を出て。
 リナリーの黒い靴とさんの賢者の知恵なら、アクマを撒いて彼女の家までいけますよね?」

「アレンくん?」

「どうやら彼らも街の人とは違うミランダさんの様子に目を付け始めたようです」


酒場の客全員が立ち上がる。
アレンはイノセンスを発動しながらゆっくりと歩き、なおも言葉を続ける。
もイノセンスを発動し、リナリーとミランダの前に出る。


「なぜミランダさんが他の人たちと違い奇怪の影響を受けないのか。
 それはきっとミランダさんが原因のイノセンスに接触している人物だからだ!」


いきなり目の前に現れたアクマ--見るからに異形のそれら--は、ミランダを混乱させる。
リナリーはミランダを抱え、は飛んでくる窓や壁の破片を防ぎながら二人に続く。

ミランダの頭の中で、なにやら奇妙な歌が繰り返されている。
現実逃避したくなるのは、頷ける。












***













「何なのアレは?!人間が化…化け物に……昨日だって襲われたわ!何なのアレー!!
 あ、あの白髪の子だって、手が手が……!!」


ミランダはテーブルの上に座り込み、怖い怖いと連呼しながらパニックを起こしている。
リナリーとは冷や汗混じりに必死で彼女を宥める。


「落ち着いて、ミランダ」

「これが落ち着いて…っ」


カシャン
ミランダの言葉を遮るように小さな音を立て、時計のネジが床に落ちる。
ミランダは勢い良くテーブルから転げ落ちるようにそのネジを拾い、大事そうに掌に乗せてそれを見つめる。


「…それ…ぜんまい?」

「……あの時計の、じゃないかな?」


が指差す先には柱時計。
ミランダはぜんまいを握り締めたまま、顔を紅くして


「バ、バカみたいって思ってるんでしょ。こんなの大事に持ってて…」

「そんなことないわ。大事な思い出があるんでしょ?」


リナリーのその言葉にミランダはゆっくりと口を開く。


「何をやらせてもダメな奴っているでしょ。私ってそれなの……
 子供のころから同級生の背中ばかり見てた。みんな私よりなんでも出来て、スイスイ前へ行くの。
 大人になってもそんな自分は相変わらずで仕事は転職ばかり……」

「ミランダさん……」

「私ね…『ありがとう』って言われた事ないの。
 それってね、誰かの役に立てた事ないのよ。
 『ありがとう』って言われて誰かに私の存在を認めてもらいたかった………」


苦笑いを浮かべて言葉を続けるミランダ。
とリナリーは口を挟むことなく、時折頷きながら彼女の言葉に耳を傾けた。


「そんな時だったの。古道具屋で捨てられそうになってる古時計と出会ったのは…
 役立たずで捨てられる時計。なんだか自分を見てるみたいで……」


そんな時計は、ミランダがネジを巻いたら動き、鐘を鳴らしたという。
そうして時計はミランダの手元へと移り、それは彼女の宝物となった。














***













「アクマが退いた?」

「ええ。ちょっと様子が変でした…僕の事殺す気満々だったのに」


あれから暫くして、アレンはミランダのアパートへと到着した。
現在は傷をリナリーに手当てしてもらっているが、ティムキャンピーがことごとく邪魔をする。
はリナリーの横でティムキャンピーを抱き上げた。


「でもよかった。レベル2をひとりであんなに相手するのはアレンくんにはまだ危険だもの」

「…新しい銃刀器型の武器。身体に負担かかるんじゃない?長時間使えなくない?」

「……そうなんですよねー…結構体力つくってるんだけどなぁ」


二人の言葉に、アレンは力瘤を作ってみせる。
はそんなアレンの様子に苦笑いを零すが、リナリーはアレンを見上げて。


「でもちょっと身体大きくなったねェ」

「ホント?!」


(微笑ましいなぁ、この二人)

そんな二人を見ながら、はうふふと心の中で笑うのだった。


「……で……何してんですかミランダさん」


アレンが冷や汗混じりにミランダを見る。
彼女はガタガタと震えながら、古時計をひたすら磨いている。


「私達とアクマのこと説明してからずっと…あそこで動かなくなっちゃったの…」


リナリーも冷や汗まじりにアレンに返す。
ミランダはといえば、ブツブツと何かを呟きながら--要はネガティブ思考で--ひたすら時計を磨く。
そんな彼女が発する黒いオーラにアレンは思わず身震いした。


「ミ、ミランダさん」

「私…は何もできないの!
 あなたたちすごい力持った人たちなんでしょ?!だったらあなた達が早くこの街を助けてよ!!」

「はい」


アレンの優しい声色に、ミランダは涙まじりに振り向く。
アレンは座り込み、ミランダに手を合わせながら優しい声色で続ける。


「助けます。でもそのためにはミランダさんの助けがいるんです。
 あなたは街の奇怪と何かで関係してる。僕達に手を貸してください。
 明日に、戻りましょう」


そういうアレンに、ミランダの顔から僅かではあるが不安の色が消える。
は(アレンってナチュラルレディーキラーだな)などと関係のない事を思っていたが。

一瞬静まり返った部屋にコチコチと時計が時を刻む音が響く。
ひときわ大きくコチン!と針が鳴った瞬間、ミランダはすくっと立ち上がり、何の脈絡もないままベッドへもぐった。


「寝るんですか?!」


アレンのツッコミも尤もだ。


「何か様子が変ね……… !アレンくん!!」


振り向くと、時計を中心に何か妙な文様が浮かび上がっている。
ゴーン、ゴーンと時計の鐘が鳴り響く。


「な、何だコレ?!まさか……あの時計……?」


数回鐘が鳴った後、時計の針は凄まじい勢いで逆戻りを始める。
それは回りに浮かんだ妙な文様を吸い込み、アレン達ですら吸い込もうとする。
アレンは窓枠を、リナリーはアレンの腕を、はアレンとは逆の窓際を掴み、時計に視線を投げる。


「……!アレンくん、リナリー!これ。今日の出来事が…!」

「…今日の時間を吸ってるのか…」


時計のような文様には、所々今日起こった事がまるで写真のように切り取られていた。
それは螺旋を描きながら、時計へと吸い込まれていく。
そして全ての文様を吸い込んだ時計は、7時を指す。
今まで暗かったはずの部屋に急に朝日が入り込み、3人は驚きの叫びを上げた。


「…あら…?私いつの間にベッドに……」


そんな3人の背後で、ミランダが何事もなかったかのように起き上がる。
はともかくとして、アレンとリナリーは今起きた非現実的極まりない出来事に冷や汗を流した。







「スゲー今のぉ」

「ロードさま、エクソシストを放っておいてよいのですか……?」

「いいんじゃん?あいつらがイノセンスを手にいれるまではねぇ」


そんなミランダの部屋を覗き込む一人の少女。
ロード、と呼ばれた彼女の下には2匹のアクマ。
カボチャ頭のアクマには、ロードの爪により幾筋も傷跡が走っている。


「それにィ……千年公が言ってた『天秤』もいるみたいだしぃ」


そう言うとロードは怪しく笑った。










***








「…スゴイ」

「……うん、ほんとに……」

「リナリー、リナリー!見てくださいよコレ!」

「「時計人間!」」


振り返ったミランダとリナリーの目に飛び込んできたのは、時計から顔と手を出すアレンと
足と顔だけを出して楽しそうな顔をしている


「「キャーーーーーーーーー!!!!!」」


悲鳴が上がる。
そして当然、二人はパニックに。


「何やってんのアレンくん?!?!どうなってるのコレ?!」

「私の時計ーーーーーーー!!!」


半分白目をむき掛けて叫ぶリナリーとミランダ。
とアレンはするっと時計から抜け出して。


「この時計さぁ、触れないんだよねー」

「今ちょっと試しに触ろうとしたら…ホラ」


アレンの左手は時計をつき抜け、あらぬ場所から姿を現す。
の右手も同じく。


「どうやらこの時計に触れるのは持ち主のミランダさんだけみたいです」

「え?!」

「さっきの時間の巻き戻しといいこれといい……」

「十中八九、イノセンスに間違いないだろうねー」


とアレンは時計を見上げ、言う。
ミランダはすり抜けることなく時計に触れた。


「ほ、本当なの?この時計が街をおかしくしてるだなんて……」

「そうかもしれない、って推測の域はでないけどね…可能性としては十分」


あるかもよ、と言おうとしたが、のその言葉はミランダによって遮られる。
どこから、いつ出したのかは判らないが出刃包丁を3人に向かって突きつけ、ホラー映画顔負けの鬼気迫る表情で。


「ま、まさか壊すとか…?私の友を……」

「「「落ち着いて」」」


3人は冷や汗を流し顔を青くしながらミランダを制する。


「でもミランダ、あなた本当に心当たりないの?
 時計がこうなったのは何か原因があるはずだわ」

「思い出してみてよ、本当の10月9日をさ」


とリナリーにそう言われ、ミランダは頭を抱える。
しばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「あの日は……私100回目の失業をした日で……
 さすがに失業回数も3ケタになると干渉もひとしおで……」


彼女曰く、酒を煽りながら時計に向かって「明日なんて来なくていい」と言ってしまったらしい。
半ばヤケクソになって言った事ではあるが、時計は見事にそれを叶えてしまった。


「それじゃないの………?」

「イノセンスがミランダさんの願望をかなえちゃったんですよ!!」

「そ、そんな…私はただ愚痴ってただけで……大体なんで時計がそんなことするの?!」


「ミランダ、あなたまさか………この時計の適合者……?」


ハッ、と何かに気付いたリナリーがミランダに言う。
アレンはその言葉に驚き、ミランダは頭上に「?」を浮かべている。


「ミランダ、時計に奇怪を止めるよう言ってみて!」

「…時計よ時計よ、今すぐ時間を元に戻して〜」


ミランダが時計に触れながらそう言い、アレンとリナリーはポストへ走る。
大慌てで新聞を持ってきたものの、記された日付は10月9日。
4人を冷たい空気が包む。ある種、絶望にそれは近かった。


「も、もう一度最初から考え直してみようか……」





















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巻き戻しの街は個人的に好きな話だったりします。
次回、ロード登場。





2007/04/10 カルア