現実とはかくも残酷で無慈悲で
私はヘブラスカから受けた預言の“本当の意味”を知る事になる。

それは私にとって--とてもとても受け入れがたい“運命”だった。






















灰色メランコリア 22

















「みんな!アクマが来る!」


騒がしくなった外の空気に目が覚める。
ぼんやりと目を開けば耳に届くアレンの叫び。
は飛び起き、杖を持って船室を飛び出した。


「すごい数……!!」


船室を飛び出し空を見上げれば空を黒く染め上げるほどの大量のアクマ。
は一瞬息を詰まらせると、皆の待つ甲板を走り抜けた。


「みんな!」

さん!!」


もイノセンスを発動し、上空を埋め尽くすアクマを見上げた。


「……空よ鳴け、嘆きの風よ吹き荒べ。我が声に耳を傾けその怒りを此処に示せ!ロードオブヴァーミリオン!!」


の杖から巨大な光が空へ放たれる。
それは大きな雷鳴となり、大量のアクマを一度で葬り去った。


「……何だ?」

「何やってんだこいつら……船を通り越してくさ…?」


普段であれば、自分達の姿を認めた途端襲い掛かってくるアクマたちは、なぜか船を素通りし内陸へと向かっている。
達は空を見上げながら呆然としていた。


「どうして………?」

「ッ後ろッ!!!!」

「え……ッ?!きゃぁあああああッ!!!!!」


ラビの叫びに振り向けば自分に向かってくるアクマの姿。
恐らくはレベル3であろうアクマは、を巨大な腕で掴むとそのまま内陸へと向かって飛ぶ。


ーーーーーッ!!!!!!」


アクマの動きはとても早く、手足の自由も利かないほどの力で押さえつけられているは何も出来ない。
暴れてはみるものの、首から下、全身を拘束するアクマの巨大な手は緩む事はなかった。


「ッ離せ…!」

「ヒヒ。金髪の女エクソシスト…“”…こいつダ」

「っ?!」


アクマの無機質な声には身体を引きつらせた。
何故アクマが自分の名を知っていて、何故このアクマは自分を船から浚ったのか。
その真意はわからぬまま、はアクマの腕の中必死でもがく。


「ノア様がお前ヲ探していルよ……」

「ノア……?どうしてっ!」

「着けば判るヨ……傷つけナイ様に言われてイるんだ……大人しクしてることだナ……」


くくく、とアクマは笑うと速度を上げて飛んでいく。
は一瞬でも気を抜いた事を後悔した。


(ユウ………ッ)


は目をきつく閉じ、祈るようにその名を呼んだ。













***















「お久し振り、お嬢さん」

「………ッだ、れ…」


アクマは竹林の中へ効果するとを漸く開放した。
長い間拘束されていた所為なのか、身体が上手く動かせずはその場にへたり込む。
を見下ろすように声を掛けたのは、褐色の肌のティキ。
は杖を握り締めたまま、虚ろな目をティキに向ける。


「あぁ、こっちのオレじゃ判んねぇか。いつぞやは汽車の中でカモってくれてどうも」

「………ッあの時の……!」

「そ。ティキ・ミック。」

「ティ、キ……?」


ティキはの目の前に腰を降ろし、の顔を覗き込みながら笑顔で言う。
は思わず後ずさるが、力の入らぬ手足ではそれは無理だった。


「“黒白の天秤”、“金髪の日本人”、“”………まさかお嬢さんがそうだったなんてな」

「何の事よ……っ」

「お嬢さんの名前さ、だろ?イカサマ少年、そう呼んでたもんな。」

「……っ」


ティキはの顎を掴むと無理矢理自分と視線を合わさせ、尚も笑顔のまま続ける。


「ンな怯えなくても殺しゃしないよ。ただ……」


ちらりと見たのはのイノセンス。
はその真意を悟ったのか、杖をティキに向かって構え、何の前触れもなく雷撃を放った。
だがそれは易々と避けられるが、杖はティキ向いたまま、先端に真紅の炎を宿らせている。


「はは。強気なお嬢さんだ」

「……っ近づくな……!」


だがティキはひるむ事なく、の杖を掴んで力任せに奪い取る。


「あ…っ!!!!」

「こんなモン、もういらねぇだろ」


パァン、と音を立てて、のイノセンスは細かい塵となって砕け散った。
は風に乗って消えていくイノセンスを、虚ろな目で見ていた。


「あ……あぁああああああ!!!!!!」

「はは…何、そんなに大事なワケ?」

「……ッ!」


嘲笑を浮かべるティキには思わず殴りかかる。
確かに顔面に向けて叩き込んだはずの拳は、ティキの身体をすり抜けていた。


「な……ッ?!」

「これがオレの能力。触れたいと思った物以外、オレは全てを通過する。」


だからお嬢さんの拳じゃオレを傷つけられねぇよ。あぁ汽車ん時は白かったから喰らっちまったけど。
ティキはそう言うと、の両手首を押さえつけて地面にたたきつけた。
それはつまりがティキに押し倒されているような体制で、はティキを蹴り上げるがその足は虚空を切る。


「ッ何する気よ……離せ!!」

「強気な女は嫌いじゃない、って言ったよな?オレ。」

「ふざけないで……!」

「………なぁ、この指輪って男から貰ったモン?」


ふとの左手に視線を投げたティキが口元に笑みを浮かべてに言う。
はそのティキの言葉に息を詰まらせ、視線を露骨に逸らした。


「図星、か……眼帯くんか?イカサマ少年か?」

「……答える義務は、ないでしょ……」

「……ま、いっけどな。どーせ二度と会えないんだし」

「?!どういう意味よっ!!!」


ティキは口角を吊り上げを開放する。
は素早くティキから離れ、ティキを睨む。


「………何で自分が“天秤”なんて呼ばれてるか、知らねェだろ?」

「………!知ってるの?」

「オレは知ってるよ。」


ティキはゆっくりとに近づく。
は少しずつ後ずさるが、巨大な岩に背を阻まれた。


「ッ来ないで!」


バリッ、と音を立てて、の身体から電撃がティキに向かって放たれる。
ティキは一瞬目を見開いたが、ティーズを盾に電撃を散らす。
はその現象に目を見開き、驚いた。


「はは。“覚醒”前なのに…やるねぇ、

「な……?!」

「起きたら全て教えてやるよ。今はゆっくり眠ってな」


耳元で声がしたと思えば、腹部に鈍痛を感じた。
そのまま意識は遠のいていき、歪んだ笑みを浮かべるティキの顔は闇に掠れていった。


























***
























「……あのなぁロード、お前の人形じゃねーっての」

「だってもうエクソシストじゃないのにあんな服じゃ可哀想でしょぉー?」

「つーかお前こんなんどこで買って来んだマジで」

「これぇ?これはねぇ、メイドアクマに作らせたのぉ。に似合うでしょぉ?」


ぼんやりとした視界に光が入る。
耳にはノイズ交じりに女性の声と男性の声。
はゆっくりと目を開けた。


「あ、起きたぁ?久し振りぃ」

「………っ!?」


段々とクリアになる視界に映ったのはロード。
の意識は一気に現実へ引き戻され、ベッドに勢い良く半身を起こした。


「Hola、。」

「ロ、ロード…キャメロット……?」

「ロードでいいよぉ?」


ベッドに肘を預けるロード。
は漸く自分の纏う服が先ほどまで着ていた団服とは違う事に気付く。
それは黒に近い赤を基調とした着物のようなデザインのドレスだった。


「な………ッ」

は日本人だからキモノが似合うねぇー」

「………どういうつもりよ………」


はロードを睨みつける。
ロードは相変わらず飄々とした表情でを見つめている。
ティキは溜息を吐くと二人に近づいた。


「ロード、いい加減にしろ」

「えぇ〜……ティッキィー、独占欲強すぎなんじゃねぇの?」

「そういう問題じゃねーだろ。」

「………なんで殺さないの、」


私は、エクソシストはノアの敵なんでしょう?!
はそう叫ぶと、枕をティキに投げつけた。それはティキの身体をすり抜けて壁に当たった。


「だから、さっきも言っただろ?目が覚めたら全部教えてやるって。」

「何を……ッ」

「まぁいいから大人しくしとけって」


ティキはそういうとを抱え--俗に言う姫抱きというヤツだ--、ロードに声を掛けると部屋を出た。
は暴れてみるものの、男であるティキは簡単にを押さえ込む。
結局暴れても無駄と悟ったは大人しくなり、ティキは笑みを浮かべて廊下を歩いた。








***






「おやvお目覚めですカ」

「……ッ千年伯爵……っ!」


ティキに抱えられたままつれてこられた部屋には、ロッキングチェアに座る伯爵がいた。
は伯爵を睨みつけた。


「ようこそ、さンv」

「……なんで」


ころさないの?
のその声は口に当たったティキの指に制された。
伯爵は両手を広げながらに近づく。
ティキはゆっくりとを降ろした。


「……さンv全てはこれで判りまスv」


伯爵は呆然と立ち尽くすの額に手を当てる。
一瞬意識が遠のいたかと思えば、頭に走る鋭い痛み。


「ッあぁああああああああああ!!!!!!」


は頭を抱えその場にへたり込む。
激しい頭痛の向こうにノイズが聞こえる。


「思い出すのでスv遠い昔の記憶、貴方に宿った“ノアの記憶”ヲv」

「いや……ッいや、いや、いやぁぁああああああああ!!!!!!」


フラッシュバックするのは悪夢。
ゴルゴダの丘を歩く自分と、迫る死神。
目の前に見えたのは神田の姿。手を伸ばせば彼は骨となり崩れ落ちた。


「………あ………」


ぷちん、と何かが切れた音がした。


「さァ、覚醒は終わりましタvもう見えるでショウ?」

「あ………?」


両手を見る。真っ白だったはずの肌は褐色に染まっていた。


「な………え?」


その肌の色はティキやロード--自分たちがノアと認識している者--と同じ色で。
まさかと思い額に手を当てれば、先ほどまでなかった違和感が7つ。


「………ノ、ア………どう、して……?私、は、」


私はエクソシストじゃなかったの?
そんな視線を伯爵に投げれば、彼はに言った。


「“黒白の天秤”、それが貴女でスv」

「……どう、いう意味?」

「ノアの遺伝子を受け継ぎながらも偽りの神に愛されタv」


伯爵はの目を見たまま言う。
は伯爵のその言葉に、自分をこの世界へと呼んだ張本人を思い浮かべていた。


(キールは私がノアの遺伝子を引いていることをしってたの?)

(もし知ってたのなら何故彼は私にイノセンスを?)

(私がノアだと言うのなら、イノセンスを扱えたのは何故?)

(……記憶がないのは、キールのせい?それじゃ、私は……っ)



「だから貴女は“天秤”なのでスv」

「……よく、判らない……」

「偽りの神は“ノア”である貴女を愛しタvそれを隠す為にイノセンスを与え自分の使徒としたのでスv
 貴女を“ノア”にさせない為に、自分の傍に置いておきたいという偽りの神の勝手なエゴによっテv
 ですが貴女の中の“ノア”が覚醒してしまった以上、貴女はもうエクソシストには戻れませンv」

「イノセンスはオレが壊したからな……」


俯くの肩に手を置き、ティキは伯爵に言う。
の頭は混乱しきっていて、ティキの手を振り払う事が出来なかった。


「貴女の中のノアが目覚めたからでスv
 “黒白の天秤”は我々“黒”に傾いタv貴女はもう“白”には戻れませンv」

「……も、どれない……?私、は、」


の脳裏に神田と交わした約束が浮かぶ。

(絶対生きて俺の隣に帰って来い)

は褐色に染まった左手に、薬指の指輪に視線を落としたまま、日本語で呟いた。


『約束、したのに……私、もう、ユウの隣には戻れないの……?』


その声は伯爵にも、ティキにも、ロードにも届かなかった。
の流した涙が床に落ち、はもう神田の隣へは戻れないのだと漠然と悟った。










*********************************************************

ちゃん覚醒。此処からが実は一番書きたかったところなのです!
というかこの先の展開の為だけにこの連載書いてた記憶があります(ぁ






2007/04/13 カルア